「かん…… ろ?」
目の前で甘露が機械に、『T-05-i08』に飲み込まれていく。
アブノーマリティとは、何度殺されようと復活する不死身の怪物だ。
だから、こうして死んでも復活するはずだ。
……だが、今回は違う気がする。
これは、何かおかしい。
……そして、答え合わせはすぐにやってきた。
「ふっ、ほっ! よし、ようやく出れた」
本来料理が出るはずの小さな取り出し口から、人が這い出てくる。
……いや、それは人ではない。
銀色の髪に透き通るような白い肌。鮮やかな赤色のチャイナ服を身に纏い、コック帽をかぶっている。
そしてその瞳は、鮮血のように真っ赤であった。
「……おや? どうやらさっそくお客さんがおられるようで!」
それは、彼女の、甘露の姿で、下品な笑みを浮かべている。
勝手に彼女の体を使って、我が物顔で両手を広げる。
「お前、は……」
「あぁ、これは失礼しました。私の名前は……」
「これからよろしくお願いいたします」
そういって優雅にお辞儀をするフレディ。
それに、とても邪悪なものを見ているような気がしてくる。
……いや、それよりも
「フレディ? ……甘露は、どうした?」
「甘露? 甘いお菓子がご所望でしょうか?」
「いや、お前の体の持ち主だ」
「……あぁ、あれですか」
俺の質問に、フレディは心底つまらなさそうな顔をする。
その態度が、妙に癪に障る。
「あれは料理には余計なものなので、すでに処分しております」
「あんなものは何の味もしない無駄なものです、異物混入の心配はありませんのでご安心ください」
「無駄、だと……?」
あの子の存在が、余計なものだと?
こいつ、いきなり出てきて、あいつの体を乗っ取って、それなのに……
「ふむ、もしやお客様、お怒りですか?」
「……えっ?」
「あれは、怪物ですよ?」
その言葉に、俺は冷や水を浴びせられたかのように感じた。
……確かに、甘露はアブノーマリティだ。
そんな彼女がこいつに体を乗っ取られ、まるで眼中にないかのような態度を取られて、まるで仲間がやられたときのように、俺は怒ったのか?
フレディは意外そうに俺のことを見ている。
「あれらは我々と違って怪物、同じ人型だからと言って心を許してはいけませんよ?」
「ふざけるな! お前も同じアブノーマリティだろうが!?」
思わず声を荒げてしまう。
するとフレディは考え込むようなしぐさをすると、再び俺に向き直った。
「なるほど、すでに私は奴らと同じ怪物、アブノーマリティになっていると」
「しかしお客様、少し冷静さを欠いているように感じます」
「ここはひとつ、心を落ち着けるように料理を振る舞わせてください」
「こう見えても私、料理の腕にだけは自身があるのです」
ついてきてください、と告げて歩き出すフレディ。
胸の中で様々な感情が渦巻くが、いったん冷静になるためにもおとなしくついていく。
「とりあえず、私にできることを確認しておきましょうか」
廊下を歩きながら、フレディは語り始める。
「とりあえず私は貴方たちに『食事』を提供できます!」
「私の料理を食べればたちまち傷は癒え、力が沸き上がることでしょう」
それに関してはある程度予想できていた。
しかし、あまりこいつの料理を食べたいとは思わないな……
「次に、生きている人間を用意していただければ、しっかりと『調理』し貴方たちの役に立つ料理を提供いたしましょう!」
「今まで私の料理たちに出会ったことはあるでしょうか? 彼らと同じように動き、怪物…… アブノーマリティたちと戦い、もちろん食べられる! 素晴らしい料理にございます」
……こいつ、何を言っているんだ?
人を犠牲に、眷属を作り出せると?
たとえ、それがどれだけ有用であろうと、そんな悍ましいことを許すことはできない。
「後は、適度に材料を『調達』させていただけたら嬉しいです!」
「なに、そこらへんに落ちている死体を拾わせていただくだけですよ」
「是非ともあの怪物たち、アブノーマリティたちを料理してみたいのです!」
そういって大袈裟な身振りをするフレディ。
アブノーマリティの死体を処理してくれるのであれば嬉しいが、さっきの発言的にそれ以外の死体ももっていきそうだな……
「……さて、ようやくつきましたね」
たどり着いた場所は、甘露が使っていた収容室だった。
「さぁさぁお入りください! 何もない場所ではありますが!」
お前の場所じゃないだろう、と心の中で悪態をつきながら収容室に入る。
しかし、収容室の中の様子はすでに様変わりしていた。
調理場だけでなく、食堂のようにテーブルと椅子が用意されている。
いったい、いつの間にこんなことになっていたのだろうか?
「ささっ、どうぞおかけください」
そうフレディに促され、椅子に座る。
座り心地は悪くなかった。
「それでは、何かリクエストはありますか?」
「お勧めで、人間は使うなよ」
「わかりました、人肉抜きですね!」
そう元気に返事をしたフレディは、さっそく料理を始めた。
……なんで俺は素直に料理を食べようとしているんだろうな。
もしかしたら、甘露を失ってしまった喪失感から少しヤケになっているのかもしれない。
「……」
甘露は、俺にとって何だったんだろうな?
ほとんど人間と変わらなくて、いつも勝手に脱走して、普通に談笑して、笑いあって、ふざけて……
やっぱり、俺はあいつのことを人間みたいに扱っていたのかもな。
「さぁ、できましたよ。海鮮チャーハンでございます」
甘露のことを考えていたら、フレディが料理を配膳してきた。
香ばしく、食欲をそそる香りが鼻を刺激する。
「……いただきます」
食欲に抗えず、料理を口につける。
「……うまい」
「ありがとうございます」
一口食べただけでわかる。今までの人生の中で、一番の味だと。
以前死ぬ前に食べた『T-05-i08』の料理よりも、ダントツでうまかった。
……でも
「お客様、まだ気持ちの整理が付きませんか?」
「……」
「あれらは怪物、愛着など持つべきではありません」
「しかし、すぐに整理を付けるのも難しいのかもしれませんね」
そういって悲しそうな顔をするフレディに、胡散臭いものを感じてしまう。
「……ごちそうさま」
料理をすべて平らげて、席を立つ。
確かに今までで一番おいしい料理ではあった。
しかし、どこか満足感のあるものではなかった。
「またのご来店をお待ちしております」
収容室を出る俺に向けてフレディがお辞儀をする。
俺はそれを無視して、メインルームに戻ることにした。
F-01-i63『フレディのキラキラパーフェクトスペシャリテ』