施設が反転し、地上を目指して突き進んでいく。
エネルギーを貯めていくごとに、施設が光に包まれていく。
今、職員たちは皆、思い思いに最期の時を過ごしている。
愛する人と一緒に過ごす者、友人と最期まで語らい合う者、最期に趣味に没頭しようとする者、最期の時まで職務に全うしようとする者……
そんな中で私は、今一人で過ごしている。
誰もいないメインルームを探して、一人膝を抱えながら床に座る。
溢れ出す光を眺めながら、今までのことを思い出す。
この施設に来ることができて、本当に幸せだった。
今まで灰色の、無味乾燥な時間を過ごしてきた。
そんな自分に、色鮮やかな世界を見せてくれたのは、ここにいる人たちだった。
……思えば、一番最初に彼女に会えたことが、最大の幸運だったのかもしれない。
彼女と出会って、色々なことを教えてくれた。
嬉しいこと、つらいこと、苦しいこと、悲しいこと……
大切なもの、守るべきもの、たくさんのことを、いっぱい。
愛とか恋とかはわからなかったけど、本当に、大切な、素敵な贈り物ばかり。
貴女は笑顔を教えてくれるって約束してくれて、その約束を守れなかったって言ってたけど、そんなことは全然なかったよ。
私の知らない色々なことを教えてくれて、頑張って笑わせようとしてくれて、私の友だちになってくれて、それだけで十分だったんだ。
あれから、私の生活は一変した。
貴女が約束してくれたおかげで、私はあのままだと知ることができないことをいっぱい知れたんだよ。
友だちと遊ぶこと、色々な話を思いっきり楽しむこと、おいしい食べ物を食べること、仲間と一緒に戦うこと、みんなで勝利を分かち合うこと、それだけじゃない、もっともっと、いっぱい……
貴女の為に恋を頑張ってみたり、逆にされたり、びっくりして照れくさかったけど、意外と悪い気持ちにはならなかった。
結局最後まで笑うことはできなかったけど、それでも貴女が与えてくれたこの時間は、かけがえのないものだった。
もうすぐ光がここを包み込んだら、みんな一緒に光に溶けて消えてしまうだろう。
その前に、少しでも彼女に恩返しをしたかったな……
楽しかった日々を過ごした仲間たちとももうお別れ。
最期の時は、一人で過ごしたかった。
だって、私は彼らと同じところには行けなさそうだから……
私がアブノーマリティだってことは、誰も知らない。
違和感を持ってる人はいたけど、それだけ。
もう一人特異な体質の人がいてよかった。そのおかげで少しでも視線を散らせたんだから。
はぁ、もう光が満ちてきた。
結局笑顔は分からなかったけど、もう一つの約束は守れそうでよかった。
いや、守れたのかな? でも一応生きてるし、結果オーライってことでいいかな?
うん、大丈夫。ちゃんと最期まで守りきれた。そうしとこ。
……はぁ、楽しい時間ももう終わりか。
やっぱり、最期くらいは、あの人と会っておきたかったかも。
「おっ、こんなところにいたのか」
「……えっ?」
最後に未練を残した報いか、今一番会いたくて、会いたくない人に出会ってしまった。
なんで、こんなところに……
「今全員に別れの挨拶をしてたんだ、お前で最後だよ」
彼は私の隣に座って光を見る。
このまま何も言わずに光を見つめているのもいいかなって思っていると、彼が口を開いてしまった。
「実はさ、今外に出たい奴を出してやってるんだ」
「……はぁ!? 何言ってるんですか!?」
この施設からは出られないはずでは!? 私だってあの扉の力でやっと入ってこれたのに!?
「いやぁ、実は特別な力を持っててさ。最近それとは別の力にも目覚めて余計にやりやすくなったんだよ」
詳しくは時間がないから言えないけど、とつぶやく彼に、呆れた視線を送ってしまう。
まったく、この人はいつもこうだ。
いつもは頼りになるのに、たまにわけのわからないことをしたりするし、かと思えば突然すごいことをしてしまう。
彼女といた時とちょっと性格は変わったけど、それでも根本は変わらない。
「まっ、そんな感じだから、良かったらお前も外に行くか?」
「ははっ、私はいいですよ…… いや、でも…… どうやって脱出するんですか? この体と本体は違うんですよね?」
そこでふと思いつく。脱出の仕方次第では、受けてもいいかもしれない。
「あぁ、実は本体をこっちに無理やり引き戻せるんだよ。それで、無理やり外に放り出す」
……それなら、もしかしたらいけるかもしれない。
けど、あれからずっと彼女は表に出てこないし、どうすれば……
「……彼女のことを考えているのか?」
「えっ」
「ついさっき思い出した、というか、たまたま見つけたんだ。なくした記憶を」
「だから、お前のことも、大体見当がついている」
「そ、そうですか……」
そっか、この人にだけは知られたくなかったな。
私の正体が、醜い化け物だったなんて……
「大丈夫、彼女なら脱出できる」
「その代わり、お前はどうなるかわからないけど……」
そういって申し訳なさそうにする彼を見て、思わず笑ってしまう。
私の答えなんて、決まってるから。
「ふふっ、それならお願いします。彼女が大丈夫なら、それだけで十分ですから」
「……そうか、わかった」
そういって彼は微笑むと、前を向いて再び口を開いた。
「それにしても、お前が笑ったところなんて初めて見たよ」
「……えっ?」
私、笑ってましたか? 今、私が?
「お前結構コミカルな表情してるのに、頑なに笑うことだけはしなかったからな」
「っておい!? どうしたんだよいきなり泣き出して……」
「い、いえ、なんでもありません…… 嬉しかっただけです!」
そっか、私笑えたんだ。
パンドラ、私笑えたよ。
貴女との約束、ちゃんと守れたよ。
「……そうか、良かったな」
「はいっ!!」
「……そういえばさ、最後に聞きたいことがあるんだけど?」
「……はい? なんですか?」
「お前の本当の名前を教えてくれないか?」
「私の名前ですか?」
「あぁ、彼女の名前じゃなくて、お前の名前」
「そうですね、私の名前はエミです! パンドラにつけてもらった、大切な名前……」
「そうか、それはいい名前だな」
光の種 100%