【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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 気がつけばこの小説も、投稿を始めてから昨日で一ヶ月が過ぎました。

 ここまで続けてこれたのも、読者の皆様の感想が励みとなったからです。

 これからも、『誰も知らないアブノーマリティー』をよろしくお願いします。


EX-Story-2 『種子』

 いくら長い間何も起こらなかったからと言って、安全なものなど存在しない。それがアブノーマリティーというものである。

 

「いててて……」

 

「どうしたキンスリー、随分と派手にやられたみたいだが」

 

 今日もアブノーマリティーの作業を行うために廊下を歩いていると、キンスリーが傷だらけになっていた。ずいぶんとひどい有様なので、思わず話しかけてしまった。

 

「あっ、ジョシュアさん。実はさっき『T-04-i09』の作業をしてたんですけど、結構へまをしてしまいまして」

 

「それにしてはやられすぎじゃ無いか?」

 

「いやー、実はその前にも『O-02-i23』*1の作業をしてまして。実はその時受けた傷もすこしおかしいんで『T-09-i97』*2を使用してみようかと……」

 

「そうか…… うん? キンスリー、お前その手をよく見せてくれ」

 

「へっ? 良いですけど……」

 

 キンスリーの手の甲に着いている傷を見てみると、何か違和感を感じた。この職場ではこういった予感がよく当たる、悪い方にだがな。

 

 キンスリーの手の甲は、少し盛り上がっているように感じる。そこは、先ほど『O-02-i23』に傷つけられたと言っていた場所であった。

 

「何ですかいったい、俺にそんな趣味は…… いつっ!」

 

「なっ!?」

 

 盛り上がっていた傷からいきなり新芽が飛び出してきたかと思うと、急速に成長し始めた。見たことも無い植物はある程度の大きさになると、不気味な花を咲かせ始めた。あまりに異様な光景に言葉を失うキンスリーだが、事態を飲み込むと急に暴れ始めた。

 

「なっ、なんで!? 俺は何も!!」

 

「落ち着け! 少し動くなよ」

 

 暴れるキンスリーを数人で押さえつけ、植物の生えている手を幸福で切り落とす。危険ではあるが、死ぬよりはましだろう。

 

「う、うわぁぁ!? 俺の手が、手がぁ!?」

 

「落ち着いて止血しろ! そしてすぐに…… おい、大丈夫か!?」

 

 キンスリーの様子がおかしいのでその場から離れる。すると、今度は切り落とした表面から植物が芽を出し、急速に成長していく。今度はツタのような植物が伸び、キンスリーの体に巻き付いていく。さらに、切り落とした手の断面からも謎の植物が芽を出していた。

 

「い、いやだ、こんなの嫌だぁぁぁぁ!!!!」

 

「キンスリー! 誰か燃やせるものを持ってこい!!」

 

 そうしている間にも植物は成長していく。気がつけば体中に付いていた傷から植物が生えだしていた。俺は必死に伸びる植物を切り捨てていくが、そのたびに植物は成長していき、攻撃の手が間に合わない。そうしている間にも、キンスリーは植物まみれになって、どんどんやせ細っていく。

 

「たっ、たすけてくれよ。ジョ、シュア、さ……」

 

「キンスリー!!」

 

 そして、俺の奮闘もむなしく、キンスリーは植物に埋もれ、物言わぬ人型の植物となってしまった。

 

「うっ、うわぁぁぁぁ!?!?」

 

「くっ、慌てるな! 落ち着いて避難しろ!」

 

「うわぁぁぁぁ! いてっ」

 

 恐慌状態のオフィサーたちが、一斉に避難を始める。そして、不運なオフィサーが一人、何かにつまずいてこけてしまった。見ると膝を怪我して血が出てしまったらしい。

 

「あっ、あぁぁぁぁ!? 嫌だ嫌だ嫌だっ、あんな風にはなりたくない!」

 

 そしてその傷から瞬く間に植物が生え始め、彼のすべてを奪いとろうと成長を始める。体の表面から皮を裂いていくつも根が飛び出し、出来た傷からさらに植物が生えてくる。その悪循環で、あっという間にそのオフィサーは植物だらけになってしまった。

 

「くそっ!!」

 

 俺はキンスリーだったものに斬りかかり、急いで攻撃していく。そして、攻撃しながらオフィサーたちに指示を出す。

 

「おい、誰か無傷のやつに燃やすものを持ってくるように頼んでくれ! 一刻も早く!」

 

「は、はい!!」

 

 近くにいたオフィサーがうなずくと、一目散に逃げていく。気がつけば何人もこれの餌食になっていたようで、辺り一面に人間だったものが散乱していた。

 

 キンスリーだったものの心臓部分に幸福を突き刺すと、勢いよく伸びていた植物たちはその勢いを減らしていった。そしていくつか植物を切り払うと、植物たちはどんどんしぼんでいき枯れ果ててしまった。

 

「くそ、こんな胸糞悪い事をあと何回もやらなきゃいけないのかよ!!」

 

 そして俺が彼らへの介錯を終えた後に、火炎放射器を持ったリッチがやってきた。俺たちは彼らの残骸ごと、植物たちを焼き払うこととなった。

 

 

 

 

 

「……あれは、お前の仕業だな?」

 

 俺の問いかけに目の前の存在は何も答えない。それがわかっているとしても、俺はこいつに話しかけなければ気が済まなかった。

 

 『T-04-i09』、それは物言わぬ巨木であり、恐ろしいアブノーマリティーであった。

 

「くっ、またか……」

 

 作業を始めるよりも早く、以前と同じような不思議な感覚が俺を襲う。また、頭の中に見慣れない風景が映し出される。

 

 

 

 森からは自然が失われた

 

 何者かによって、森が破壊されてしまった

 

 虫が、鳥が、動物が、そして植物が……

 

 かつて森のあったこの地には、もう何も無い

 

 あるのは、ここにある最後の希望だけだ

 

 目の前には、小さな一粒の種がある

 

 俺は、それを

 

 

 

 手に取った

 

 

 

 手に取り握りしめた瞬間、種は根を張り、俺の手を浸食した。そして表面は古びた木目の様になり、青い光を放つラインが走る。俺はこいつを受け入れることにした。この日に起こったことを忘れないため、この身に刻みつける。それが、せめてもの償いだ。

 

 手を握ったり、開いたりして調子を確かめる。……うん、特に違和感は無い。特に問題が無いのならばもう用事は無い。俺は『T-04-i09』の収容室を後にする。『T-04-i09』、俺はこいつを絶対に許すことは無いだろう。

 

 彼らの犠牲を忘れないために、こいつへの憎悪を忘れないために、こいつのギフトを受け入れたのだから……

 

 

 

 

 

 森から植物が無くなれば、そこに住む生物は皆どこかへ消えてしまう

 

 そして、その地には何も残らない

 

 枯れた大地が広がるだけだ

 

 長い眠りから目を覚ませば、灰色の枯れた大地が広がっていた

 

 そこにはかつての自然は存在しない

 

 ならば、この大地を再び綺麗な自然に溢れた大地に返そう

 

 幸いここには良質な土壌がたくさんいる

 

 そこに種を撒き、かつての大地を取り戻そう

 

 そして再び、素敵な森を取り戻そう

 

 虫が、鳥が、動物が溢れる、かつての森に……

 

 

 

 

 

 さぁ、この枯れた大地に、種を撒こう

 

 

 

 

 

T-04-i09 『森の守人』

*1
現状では未判明

*2
『極楽への湯』

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