Days-16 O-02-i24『俺たち海の荒れくれもんだ』
「はぁ、海産物が食いたい」
「いきなりどうしたんだ?」
リッチと朝食を取りながら、最近あまり食べられていないものに想いを馳せる。元が日本人だからか、たまに無性に海産物を食べたくなる。ここの食事に出てくる魚は川魚ばかりで悲しくなってくる。
「良いじゃ無いか、貝やらウニやら、カニにエビ、何でも良いからうまい海産物が食べたいよ」
「そうか、俺には理解できないよ」
「まったく、これだから肉食獣は」
「そうかい、回遊魚」
互いに軽口を言い合いながら、朝食を食べ終えトレイを片付ける。そして席を立つとお互いに今日の作業へと移っていく。
「今日も新しいやつの相手か?」
「あぁ、今日は『O-02-i24』だ、お前は?」
「俺は『T-04-i09』*1の作業だよ、面倒くさい」
「そういうな、互いに頑張ろうな」
互いに拳を突き出して健闘を祈る。今日から教育部門の開設と言うこともあって、またしばらくリッチと出会う機会も少なくなってくるかもしれない。
「さて、その前に今回の新人たちに顔を見せないとな」
前回がやばいやつばかりであったため、今回はまともな新人だと良いのだが。
そんな事を考えながら、廊下を歩いて行くのであった……
「ふぅ、今回は良い感じの新人で良かった」
教育部門の新人たちと対面し、話した感じはしっかりしているまじめな奴らといった感じであった。そもそも安全部門の奴らが全然安全で無かったからな。教育部門と交換しろ! ……やっぱ良いです、もうあいつらの相手したくない。
「さて、今回の相手はどうだろうか」
今回収容されたアブノーマリティーは、『O-02-i24』だ。いつものように収容室の扉に手をかけてお祈りをし、一息つく。そして気合いを入れてから手に力を入れて、扉を開く。扉の隙間から、懐かしき磯の香りが溢れてきた。
「うん? なんか変なのが来たなぁ」
「……おいおい、その見た目でしゃべるのかよ」
収容室の中にいたのは、しゃべる巨大な蟹であった。その蟹は巨大な鋏を開閉して音を鳴らし、威嚇しているようにもいらついているようにも見える。
「なんて言うか、お前からは嫌な予感がするぜ」
「そうか、それなら俺も同じだよ」
意外にも気さくに話しかけてくる『O-02-i24』に警戒しつつ、返答をしていく。何というか、この手のやつは話せるだけで会話できない可能性があるからな。
「本当か? ならお前、カニは好きか?」
「……えっ?」
「もちろん、食う方だぞ」
いきなりの『O-02-i24』からの問いに、思わず思考が一瞬停止してしまう。そんな俺を見かねてか、『O-02-i24』はあきれた声を出しながら話しかけてきた。
「別に、俺に遠慮する必要は無いぞ? 気軽に答えてくれよ」
「あー、それじゃあ、結構好きかな」
「そうか、俺も似たようなもんだから気にすんな。やっぱり俺たちは似ているのかもしれないな」
警戒しながら本心で言うと、『O-02-i24』は満足そうに頷いた。いったい何なんだこいつは?
「とりあえず、お前にプレゼントだよ」
とりあえず本能作業を行うべく、『O-02-i24』に食料を渡す。それを見て、『O-02-i24』は目を輝かせて喜んだ。
「おいおい、お前良いやつじゃ無いか!」
「そうかい、それは良かった」
「おう、俺はお前を気に入っちまったよ」
『O-02-i24』はその大きな鋏を器用に扱い、食料を食べ始めた。何というか、よく見るとかわいい気がする。
「お前さん、困ったことがあれば俺に言えよ。助けてやるからさ」
「困った事って言っても、お前は何が出来るんだ?」
「そりゃあ、俺たち海の荒れくれもんだ。出来る事は戦うことくらいさ」
「なるほど……」
もしかしたら、こいつは赤頭巾の傭兵みたいな感じなのかもしれない。エネルギーを代償にアブノーマリティーとの戦闘を行ってくれるのだろうか。いや、今はそれよりも……
「俺たち? 他にも仲間がいるのか?」
「あっ、それは聞かなかったことにしてくれ。兄者に怒られてしまう……」
とりあえず、こいつの他に兄がいることが確定した。さすがに可哀想なので聞かなかったことにするが、良い情報を聞いた。
「それじゃあ質問だが、あんたに戦うことを依頼するには、エネルギーが必要か?」
「エネルギー? そんなものいらねぇよ、単純に腹一杯食べられればそれで十分さ」
「そうか……」
うまい話には必ず裏がある。とりあえずこいつに依頼を出すのは考えた方が良いな。こいつは単純そうだから、だますつもりは無いだろう。だが、どうせ俺たち人間とは価値観が違うんだ。どこかで致命的なずれが生じているはずだ。気をつけなければならない。
「今日はいい話が出来た、また会おう」
「おう、またな!」
『O-02-i24』は最後まで元気に、爽やかに挨拶をしていた。こいつがどれほどやばいやつかはわからないが、つきあい方は気をつけた方が良いかもしれない。
「よう、ジョシュア。今作業が終わったところか?」
「マイケルか、どうした」
収容室から出ると、マイケルとばったり出くわしてしまった。こいつは何をしているのだろうか?
「実は、お前に謝らなければならないことがあってな」
「謝ること?」
「あぁ、この前『T-09-i97』*2を馬鹿にしていたが、あれは間違えだった。温泉というものがあれほど癒やされるものとは思ってもいなかった。入浴前に身を清め湯に浸かって全身を魂までも洗浄する命の洗濯とはよく言ったものだあれは素晴らしいな体中の疲れが吹っ飛んだしずっと悩まされていた切れ痔と口内炎が一気に解決したあれは神の作り出した奇跡だよ今まで偏見で入ろうとしなかった過去の自分を殴ってやりたいくらいさ君が進めてくれなければ俺は一生この体験をすることの無い無味乾燥の人生を送っていたことだろうそもそも……」
「わかったわかった、いったん落ち着け」
「あぁすまない、つまりは温泉とは最高だなって事だ!」
いきなり温泉についてまくし立てるように語り始めたマイケルに、思わずドン引きする。しかし少年のような目の輝きを取り戻したマイケルに、そんな事を言うのはさすがにはばかられた。
「……本当にドはまりしちゃったよ」
温泉の魅力を延々と語り続けるマイケルに、俺は力なくうなずくしか無かった。
O-02-i24 『おいしそうなカニ』