「最近へんな奴らがきすぎじゃないか?」
「そうか? あいつらのおかげで海産物の良さを知ることができたぞ」
「なんでか知らないけど、ようやく食堂に海産物が出されるようになったよな」
リッチと一緒に最近のアブノーマリティーの話をしながら歩いていたはずなのに、気が付けば食堂の話になっていた。なんでだっけ?
「まぁいいか、今日はツールの日だな」
「あぁ、今日は一体どんな奴が来るんだろうな」
今日収容されたツールは『O-09-i94』、ツール型の中では初めてのO(オリジナル)だ。どんな奴かはわからないが、変なものでさえなければそれでいい。頼むからこの前みたいな変なのは来ないでくれよ?
「さて、ついたな」
話に夢中になっていたせいか、気が付いたら『O-09-i94』の収容室の前に立っていた。とりあえずいつも通りに適当に扉を開ける、俺が入ると続いてリッチも入ってきた。
「……なんだこれ、手紙か?」
「うーん、見た感じ継続使用型でも単発使用型でもなさそうだな。今までのやつと違って、装着型かもしれない」
「装着型?」
「あぁ、簡単に言うと装備できるツールだよ。とりあえず俺が付けてみてもいいか?」
「あぁ、頼む」
とりあえず手紙を手に持ってみる。何の変哲もない、古びた手紙だ。どうやら中身は英語で書かれているようだ。
「なになに、『親愛なる我が息子へ、私は』……」
「おいジョシュア、それは置いておいたほうがいいんじゃないか?」
「えっ、なんでだよ?」
「いや、明らかにおかしい奴がいるじゃないか」
「おかしい奴って…… なにこれ?」
鬼退治を構えるリッチを不審に思いながら周囲を確認すると、俺の背後に半透明のおっさんが浮かんでいた。俺はとっさに手紙を置いて幸福を構えると、そのおっさんはすぅーっと消えてしまった。
「なっ、もしかしてこれが手紙の効果なのか?」
「あの幽霊がか? 幽霊に取りつかれるだけの使えんツールだな」
「いや、たぶん違う。あれに害意や悪意はなかっただろう?」
「……まぁ、確かに」
「とりあえず、俺に異変があれば遠慮なくぶっ叩け。そのあとにでも『T-09-i97』*1にでもつけてもらえればいい」
「おい、別にそんな無茶しなくても……」
「いや、いいんだ。どうせ誰かが使わなくちゃいけないんだ」
俺はもう一度手紙を手に持つと、その手紙を懐に入れて収容室から出る。おっさんの幽霊は収容室から出ても俺の後をついてきていた。なんというかス〇ンドみたいで興奮する。
「さて、とりあえずこのままアブノーマリティーに作業でもしてみようかな?」
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫かはわからないから試してみるんだろ?」
「……まぁ、そうだが」
「大丈夫だって、とりあえず『T-01-i12』*2で試してみるから」
「本当に気をつけろよ?」
「お前って意外と心配性だよな」
思わず思ったことを伝えると、リッチは恥ずかしそうに顔をそむけた。さて、それではいっちょやってみようか。
「意外と大丈夫だったな」
「そうだな、少なくとも使ってみた感じでは悪くなさそうだ」
あれからいろいろ試してみたが、とりあえず害になることはなかった。むしろ、たまに俺が受けるダメージを肩代わりしてくれるくらいだ。もしかしたら肩代わりさせすぎたらダメな感じかもしれない。
「とりあえず、そろそろ返却してみるか」
「あぁ、結構な時間使っていたからな」
「はぁ、返す瞬間が一番緊張する」
「どういう意味だ?」
「特定の行動してないと返した瞬間死ぬことがあるんだよ」
「えげつないな、それよりなんでそんなこと知っているんだ?」
「そりゃあ、資料を読み漁ってるからな」
「勉強熱心だな」
「生き残るのに必死なのさ」
資料を読み漁っているのも本当だが、実際は前世のゲームの記憶だがな。これで何度も助けられているんだから、意外と馬鹿にはできないな。
「さて、それじゃあ返すか」
「あぁ、慎重にな」
『O-09-i94』の収容室に戻り、手紙を返却する。すると、おっさんの幽霊が消える瞬間に手を振ってきた。その顔は、心なしか微笑んでいたような気がした。
「……よし、特に異常はないな」
「もうすぐ業務終了だ、そろそろ俺たちも終わろうか」
「そうだな、最後に『T-09-i97』にでも入ろうぜ」
「……それなんだが、マイケルが『T-09-i97』で自殺未遂をしたから、今日は利用停止らしい」
「そんなぁ! 楽しみにしてたのに……」
「仕方がないから『T-09-i96』*3でも飲みに行こう、この時間ならだれも文句は言わないだろう」
「そうだな、せっかくだしお前も飲んでみるか?」
「いいのか? ……せっかくだし一口だけなら」
「おっ、リッチも大人の階段を上る時が来たか」
そんなことを語りながら、俺たちは『T-09-i96』の収容室に向かって歩いていく。何か危険はあれど、『O-09-i94』にはそこまでの脅威がないと考えていた。俺たちはまだ、『O-09-i94』がどんなものであるかも知らないというのに……
ちなみに、この日以降リッチがお酒を飲むことは禁じられることとなる。
「畜生、どうなってやがる!?」
「くそ、こんな事態だというのに、今牙をむくのか『O-09-i94』!」
苺の黎明を見逃していたせいで起こってしまった大規模収容違反。その対処に追われている最中に、『F-01-i05』*4の一撃を受けた新人の職員であるデリラが突然狂暴化した。体から青白いオーラを出しながら肥大化した肉体を駆使して『F-01-i05』に攻撃を加えていく。いきなりこうなった原因はわかっている、今日デリラは『O-09-i94』を装着していた。いつものように背後に幽霊を従えていたが、現在その幽霊はいない。
「ギャアァァァァ」
デリアの悲痛の叫びが聞こえる、きっとこれは彼の叫び声でもあるのだろう。
「畜生、結局こうするしかないのかよ」
『F-01-i05』を狙いながら周囲を考えない暴虐の嵐を起こすデリアに対して、俺たちも覚悟を決めなければならなかった。
結局、この日俺たちは一人の職員と、多数のオフィサーを失うこととなった。
父の訃報が届き、数十年ぶりに故郷へと帰ってきた
父とはあまり良い思い出は無いが、母がどうしてもというので帰ってきた
父は頑固な人だった
俺がやりたいことを認めてくれず、結局家を出て行くことになってしまった
家に着けば泣きはらす母と兄弟、そして父の仕事仲間
父の最後を聞き、自然と昔話に花が咲く
あれほど嫌っていた父との思い出は、さかのぼれば意外と多くあった
一緒に遊んだこと、危ない事をして怒られたこと、そしていつも必ず俺を守ると約束したあの日
あの頃、父は俺のヒーローだった
自然と涙が溢れる
溢れた感情は堰を切ったように流れ出し、道を作っていく
そんなとき、母が父からの最期の手紙を渡してきた
震える手で封を切り、ぼやけた目で手紙を見ると、こんな一文から始まっていた
親愛なる我が息子へ、私はいつだって君を見守っているよ
O-09-i94 『父からの手紙』