【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

43 / 335
Days-19 O-09-i94『親愛なる我が息子へ』

「最近へんな奴らがきすぎじゃないか?」

 

「そうか? あいつらのおかげで海産物の良さを知ることができたぞ」

 

「なんでか知らないけど、ようやく食堂に海産物が出されるようになったよな」

 

 リッチと一緒に最近のアブノーマリティーの話をしながら歩いていたはずなのに、気が付けば食堂の話になっていた。なんでだっけ?

 

「まぁいいか、今日はツールの日だな」

 

「あぁ、今日は一体どんな奴が来るんだろうな」

 

 今日収容されたツールは『O-09-i94』、ツール型の中では初めてのO(オリジナル)だ。どんな奴かはわからないが、変なものでさえなければそれでいい。頼むからこの前みたいな変なのは来ないでくれよ?

 

「さて、ついたな」

 

 話に夢中になっていたせいか、気が付いたら『O-09-i94』の収容室の前に立っていた。とりあえずいつも通りに適当に扉を開ける、俺が入ると続いてリッチも入ってきた。

 

「……なんだこれ、手紙か?」

 

「うーん、見た感じ継続使用型でも単発使用型でもなさそうだな。今までのやつと違って、装着型かもしれない」

 

「装着型?」

 

「あぁ、簡単に言うと装備できるツールだよ。とりあえず俺が付けてみてもいいか?」

 

「あぁ、頼む」

 

 とりあえず手紙を手に持ってみる。何の変哲もない、古びた手紙だ。どうやら中身は英語で書かれているようだ。

 

「なになに、『親愛なる我が息子へ、私は』……」

 

「おいジョシュア、それは置いておいたほうがいいんじゃないか?」

 

「えっ、なんでだよ?」

 

「いや、明らかにおかしい奴がいるじゃないか」

 

「おかしい奴って…… なにこれ?」

 

 鬼退治を構えるリッチを不審に思いながら周囲を確認すると、俺の背後に半透明のおっさんが浮かんでいた。俺はとっさに手紙を置いて幸福を構えると、そのおっさんはすぅーっと消えてしまった。

 

「なっ、もしかしてこれが手紙の効果なのか?」

 

「あの幽霊がか? 幽霊に取りつかれるだけの使えんツールだな」

 

「いや、たぶん違う。あれに害意や悪意はなかっただろう?」

 

「……まぁ、確かに」

 

「とりあえず、俺に異変があれば遠慮なくぶっ叩け。そのあとにでも『T-09-i97』*1にでもつけてもらえればいい」

 

「おい、別にそんな無茶しなくても……」

 

「いや、いいんだ。どうせ誰かが使わなくちゃいけないんだ」

 

 俺はもう一度手紙を手に持つと、その手紙を懐に入れて収容室から出る。おっさんの幽霊は収容室から出ても俺の後をついてきていた。なんというかス〇ンドみたいで興奮する。

 

「さて、とりあえずこのままアブノーマリティーに作業でもしてみようかな?」

 

「本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫かはわからないから試してみるんだろ?」

 

「……まぁ、そうだが」

 

「大丈夫だって、とりあえず『T-01-i12』*2で試してみるから」

 

「本当に気をつけろよ?」

 

「お前って意外と心配性だよな」

 

 思わず思ったことを伝えると、リッチは恥ずかしそうに顔をそむけた。さて、それではいっちょやってみようか。

 

 

 

「意外と大丈夫だったな」

 

「そうだな、少なくとも使ってみた感じでは悪くなさそうだ」

 

 あれからいろいろ試してみたが、とりあえず害になることはなかった。むしろ、たまに俺が受けるダメージを肩代わりしてくれるくらいだ。もしかしたら肩代わりさせすぎたらダメな感じかもしれない。

 

「とりあえず、そろそろ返却してみるか」

 

「あぁ、結構な時間使っていたからな」

 

「はぁ、返す瞬間が一番緊張する」

 

「どういう意味だ?」

 

「特定の行動してないと返した瞬間死ぬことがあるんだよ」

 

「えげつないな、それよりなんでそんなこと知っているんだ?」

 

「そりゃあ、資料を読み漁ってるからな」

 

「勉強熱心だな」

 

「生き残るのに必死なのさ」

 

 資料を読み漁っているのも本当だが、実際は前世のゲームの記憶だがな。これで何度も助けられているんだから、意外と馬鹿にはできないな。

 

「さて、それじゃあ返すか」

 

「あぁ、慎重にな」

 

 『O-09-i94』の収容室に戻り、手紙を返却する。すると、おっさんの幽霊が消える瞬間に手を振ってきた。その顔は、心なしか微笑んでいたような気がした。

 

「……よし、特に異常はないな」

 

「もうすぐ業務終了だ、そろそろ俺たちも終わろうか」

 

「そうだな、最後に『T-09-i97』にでも入ろうぜ」

 

「……それなんだが、マイケルが『T-09-i97』で自殺未遂をしたから、今日は利用停止らしい」

 

「そんなぁ! 楽しみにしてたのに……」

 

「仕方がないから『T-09-i96』*3でも飲みに行こう、この時間ならだれも文句は言わないだろう」

 

「そうだな、せっかくだしお前も飲んでみるか?」

 

「いいのか? ……せっかくだし一口だけなら」

 

「おっ、リッチも大人の階段を上る時が来たか」

 

 そんなことを語りながら、俺たちは『T-09-i96』の収容室に向かって歩いていく。何か危険はあれど、『O-09-i94』にはそこまでの脅威がないと考えていた。俺たちはまだ、『O-09-i94』がどんなものであるかも知らないというのに……

 

 ちなみに、この日以降リッチがお酒を飲むことは禁じられることとなる。

 

 

 

 

 

「畜生、どうなってやがる!?」

 

「くそ、こんな事態だというのに、今牙をむくのか『O-09-i94』!」

 

 苺の黎明を見逃していたせいで起こってしまった大規模収容違反。その対処に追われている最中に、『F-01-i05』*4の一撃を受けた新人の職員であるデリラが突然狂暴化した。体から青白いオーラを出しながら肥大化した肉体を駆使して『F-01-i05』に攻撃を加えていく。いきなりこうなった原因はわかっている、今日デリラは『O-09-i94』を装着していた。いつものように背後に幽霊を従えていたが、現在その幽霊はいない。

 

「ギャアァァァァ」

 

 デリアの悲痛の叫びが聞こえる、きっとこれは彼の叫び声でもあるのだろう。

 

「畜生、結局こうするしかないのかよ」

 

 『F-01-i05』を狙いながら周囲を考えない暴虐の嵐を起こすデリアに対して、俺たちも覚悟を決めなければならなかった。

 

 結局、この日俺たちは一人の職員と、多数のオフィサーを失うこととなった。

 

 

 

 

 

 父の訃報が届き、数十年ぶりに故郷へと帰ってきた

 

 父とはあまり良い思い出は無いが、母がどうしてもというので帰ってきた

 

 父は頑固な人だった

 

 俺がやりたいことを認めてくれず、結局家を出て行くことになってしまった

 

 家に着けば泣きはらす母と兄弟、そして父の仕事仲間

 

 父の最後を聞き、自然と昔話に花が咲く

 

 あれほど嫌っていた父との思い出は、さかのぼれば意外と多くあった

 

 一緒に遊んだこと、危ない事をして怒られたこと、そしていつも必ず俺を守ると約束したあの日

 

 あの頃、父は俺のヒーローだった

 

 自然と涙が溢れる

 

 溢れた感情は堰を切ったように流れ出し、道を作っていく

 

 そんなとき、母が父からの最期の手紙を渡してきた

 

 震える手で封を切り、ぼやけた目で手紙を見ると、こんな一文から始まっていた

 

 

 

 

 

 親愛なる我が息子へ、私はいつだって君を見守っているよ

 

 

 

 

 

O-09-i94 『父からの手紙』

*1
『極楽への湯』

*2
『蕩ける恋』

*3
『黄金の蜂蜜酒』

*4
『彷徨い逝く桃』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。