『F-01-i05』*1が脱走し、その戦闘の最中でデリアが、おそらく『O-09-i94』*2の影響で凶暴化してしまう。
「ちくしょう、デリアがやられた!」
「それよりもまず、苺の黎明にやられた奴を止めないと!」
一度にいくつもの事が重なって、混乱が起こる。そんななか、俺たちを更に絶望に叩き落とす放送が聞こえてくる。
『教育部門にて、『O-02-i24』が脱走しました。エージェントの皆様は、至急鎮圧に向かってください』
「くそっ、こんな時にか!」
思わず悪態をつくが、そんな事をしても状況は好転しない。とにかく『F-01-i05』と凶暴化したデリアの対処をしなければならない。
「オォォォ、マ、マモル……」
「ギュオアァァァァ」
『F-01-i05』と凶暴化したデリアが争っている、今はデリアに加勢した方が良いと判断してリッチとルビーに声をかける。
「今は『F-01-i05』の鎮圧を優先するぞ! デリアは後回しだ!」
「ふざけるな、デリアをこのままにしておくというのか!?」
「それで被害を拡大させたら元も子もないだろう!」
「リッチちゃん、ここはジョシュアちゃんの言うとおりにした方が良いわ。だって『O-02-i24』も脱走したのよ」
「……くっ」
リッチは苦痛の表情を浮かべ、渋々俺の命令に従いE.G.O.を構えた。俺も幸福を構えて戦闘態勢に入る。おそらくデリアはもう助からない、ならせめて早くこいつを片付けて楽にさせてやらなくては。
「ほら来るぞ!」
『F-01-i05』が俺たちに向かって襲いかかってくる。ルビーが種子で牽制をしながら俺とリッチで攻撃する、片方に意識が向いている間にもう片方がE.G.O.で切りつけて攻撃する。リッチと連携してうまく立ち回って戦っていると、だんだん悲鳴が聞こえ始めどんどん近づいてきた。
「おいおい、今度は何だ?」
「ジョシュア、意識をよそに向けるな」
「わかっている!」
『F-01-i05』の攻撃をしゃがんでよけながら返事をして反撃をしようとしたその時、通路の奥の扉が開いて何かが入ってきた。
それは大きく、とてもおいしそうなカニであった。大きな鋏をかちかちと鳴らし、口を動かしながらこちらに近づいてくる。そして、その鋏と口には赤い液体と肉片が付着していた。
「よう、こんなところで会うなんて、奇遇だな!」
「なっ、『O-02-i24』!?」
俺たちの目の前に現れた『O-02-i24』は、片方の鋏を上げて気さくに挨拶をしてきた。しかし、その鋏に着いているものを見れば、そんな感想は吹き飛んでしまう。
「お前、何をした?」
「そんな事より、困ってるんだろ?」
「くっ!」
「何をしているジョシュア!?」
『O-02-i24』に話しかけていると『F-01-i05』が攻撃してきたので、幸福で攻撃を防御する。そしてそのまま攻撃しようとしたその時、『F-01-i05』が何かに吹き飛ばされた。後ろを振り向くと、『O-02-i24』がその鋏を振り下ろしていた。 ……その鋏で切らないのか?
「大丈夫だ、ちゃんと約束通り助けてやるよ、ちょうど対価はもらってきたからな」
「……対価だと?」
「おうともさ、それにもうすぐ俺の兄弟たちが来るぜ?」
「なっ、何を言って……」
『情報部門にて『O-05-i18』*3が脱走しました、エージェントの皆様は、至急鎮圧に向かってください』
「……!? まずい、よけろ!!」
新たな脱走を知らせる放送と共に、嫌な予感を感じて横によける。すると、先ほどまで俺たちがたっていたところを水球が恐ろしい早さで通り過ぎていき、『F-01-i05』に当たった。その一撃で『F-01-i05』がよろけると、続いて二発、三発と水球が飛んでくる。
「ど、どうなっている」
「君たちが困っているようだったから、僕たちが助けてあげようと思ったんだ」
「うおっ!?」
気がつくと、俺の傍らには『O-02-i25』がたっていた。『O-02-i25』は水球から俺を守るように居座り、殻にこもっている。そして水球が『F-01-i05』に計五回当たると、そこで『O-02-i24』が動きだし、『F-01-i05』を攻撃し始めた。
「それにしても、そこにいる人たちはおいしそうだね。まだ僕は対価をもらってないし、彼らでも良いかな」
「まずい、リッチ、ルビー! 今すぐ『O-05-i18』が脱走した場所に向かえ!」
「えっ、なんでよジョシュアちゃん……」
「了解した、頼むぞジョシュア!」
「ちょっとリッチちゃん、そんなに強く引っ張らないで!」
『O-02-i25』の危ない視線に危機感を覚え、すぐにこの場から脱出する様に伝える。リッチはこちらの意図をすぐに理解し、困惑するルビーをつれてこの通路から逃れていった。
「ひどいなぁ、これじゃあ僕の対価が無いじゃ無いか」
「がっはっはっ、お前は不器用だからなぁ!」
「うるさいなぁ、それじゃあこのまずそうなので我慢するよ」
「グエッ、ヤ、メ…… マ、モ、ッ……」
『O-02-i24』に煽られた『O-02-i25』は、近くで『F-01-i05』と戦っていたデリアを鋏で捕まえると、そのまま口まで運んで捕食してしまった。変異したデリアは最後まで抵抗していたが、『O-02-i25』の堅牢な甲殻になすすべ無く事切れてしまった。
「デリアっ……!?」
「うーん、あんまりおいしくないや、でも君は守ると言ったし食べないでおいてあげるよ。それが僕の信条だしね」
目の前で捕食されるデリアを見て、思わず感情的になりそうになる。しかしこの場で暴れても3対1になるだけなので、さすがに気持ちを落ち着かせる。そしてE.G.O.を構えて再度『F-01-i05』に向き合う、一刻も早くこの場を納めなければ。
「あんたらが本当に手伝ってくれるんだったら、一緒に戦ってくれるか」
「おうよ、それが俺の役目だからな」
「そうだね、でも僕のすることは守ることだけだけどね」
そう言うと『O-02-i24』は『F-01-i05』に突撃し、『O-02-i25』は『F-01-i05』の攻撃から俺を守ってくれる。俺は『O-02-i25』に守られながらも『O-02-i24』と一緒に攻撃をする。そして、『F-01-i05』は二人、いや一人と一匹の攻撃に耐えきれず、ついに倒れてしまった。
「……ふぅ、ようやく終わった」
「そうだね、それじゃあ僕はもう帰るね。もうくたくただよ……」
「……そうか」
「なんだよ、お礼もなしかい? まぁ、それでも良いけどさ」
『O-02-i25』はふてくされたようにそう言うと、どこかへ消えていった。
もうここに残っているのは『O-02-i24』だけだ。『O-02-i24』と目と目が合い、幾ばくかの時間がたつ。先ほどまでは一緒に戦っていたが、おそらくはこのままですむわけは無いだろう。
E.G.O.を構えながら、目をそらさず武器を向ける。にらみ合いはしばらく続き、ついに『O-02-i24』が動き始めた。
「……よし、たくさん暴れたし腹一杯だし、そろそろ帰ろうかな」
「……はぁ!?」
『O-02-i24』は俺に背を向けて、自分の収容室に向かって歩き始めた。その光景にあっけにとられたが、すぐに意識を戻して走り出す。
「それじゃあ、またな」
「ふざけるな! お前たちが暴れたせいで、余計に被害が大きくなっただろうが!」
「んぁ? そんな事言ったってよぉ、お前たちが困ってそうだったから助けてやったんだろうが。助けてやったんだから、そんな事を言われる筋合いはねぇぜ!」
「誰が助けてなどと……」
「だからよ、このままだったらそれ以上に被害出てたんじゃ無いのか? お前が逃がした奴らのどっちかが死んでたかもしれないだろう」
「くっ……」
俺の言葉に立ち止まり、一通り話すと、『O-02-i24』は俺に背を向けその大きな鋏を振って歩いて行く。
「それじゃあ、また困ったら言えよ? その時は対価をもらって助けてやるからよ」
それだけ言うと、『O-02-i24』はこの通路から離れていった。
俺は仲間を失ったこの無念の感情を、奴らにぶつけることも出来ずに呆然とするしか無かった……
あれから暫くたち、再び『O-02-i23』の収容室に向かう
その理由は、あの日の水球が『O-02-i23』が出したものであるかを確認するためだ
また、あの日何人ものオフィサーがこの収容室に入っていく姿が見られたという情報の真偽を確かめるためでもある
収容室に入ると、どこか懐かしい磯の香りが漂う
『O-02-i23』に話しかけようとして、かすかに音が聞こえる事に気がついた
話しかける前に、その音に耳を傾ける
どこか懐かしい、聞いた事があるようなその音に……
どこからか、崩海の潮騒が聞こえる
O-02-i23 『老殻』
O-02-i24 『鋏殻』
O-02-i25 『宿殻』