誰も知らないアブノーマリティー【二周目開始】   作:名無しの権兵衛

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Days-22-1 O-03-i07『おれさまにいけにえをよこすのです』

「うぅぅぅっ、聞いてくれよパンドラがさぁ!」

 

 『T-01-i12』*1は俺に抱きつかれながら、笑顔で頭をなでながら愚痴を聞いてくれる。彼女にとって話の内容などわからず、じゃれてもらっているだけだと思われていても、愚痴なのだから聞いてくれるだけで良いのだ。

 

「あいつ皆にあること無いこと吹き込みまくりやがったんだ! いつも俺に説教されてるからって、仕返しのつもりかよ!」

 

 『T-01-i12』は俺の頭をなでながら楽しそうにしている。そこには邪気なんて一切なく、すさんだ心が洗われるようであった。

 

「うぅっ、ありがとう。これで少し元気が出たよ」

 

 俺の言葉に『T-01-i12』はサムズアップで返してきた。なんだかんだで励ましてくれてはいたようだ。

 

 そして、最後に体の一部を俺に渡してきてくれた。俺はありがたく受け取ると、懐に入れて立ち上がった。

 

「それじゃあまたな!」

 

 笑顔で別れを告げて『T-01-i12』の収容室から出ると、収容室の前にメッケンナが立っていた。彼は俺のことを非難するかのような目線を送ってきた。

 

「なっ、何だよ?」

 

「いえ、いつもアブノーマリティーに依存するなって言っている貴方が、随分と『T-01-i12』には入れ込んでいるように感じたので……」

 

「い、いやそれは良いだろう? 確かに危ないかもしれないけどさ、それでも癒やしが欲しいんだよ!」

 

「それならパンドラさんにいやしてもらえば良いじゃ無いですか」

 

「だからそれは誤解だって言ってるだろうが!」

 

 俺の必死の叫びはメッケンナには届かず、冷めた目線だけが帰ってきた。 ……あの女、本当に許さないからな。

 

「それじゃあ僕はこれからここで作業するんで、先輩も本来の作業に戻ってくださいね」

 

 それだけ言うと、メッケンナは『T-01-i12』の収容室の中に入っていった。畜生、あいつがあんなこと言ったせいで……

 

「まぁ、そんな事を言っていても仕方が無い、次の作業に向かうとするか……」

 

 ここで何を言っていても仕方が無いので、仕方なく今日新しく来たアブノーマリティーの収容室へ向かう。

 

 今日収容されたのは、『O-03-i07』と『T-09-i85』だ。片方はツールだから、すぐに行く必要は無いだろう。俺が今から行くのはもう片方の『O-03-i07』の方だ。

 

 収容室まで歩いて行く。その途中で何人かとすれ違うが、全員今までと反応が違って結構悲しい、俺の人望ってこんなに無かったんだな……

 

 

 

「はぁ、さっさと終わらせてしまいたい……」

 

 コントロール部門から中央本部までという長い道のりを乗り越え、ようやく『O-03-i07』の収容室の前まで来ることが出来た。少し心を落ち着かせてから、収容室の扉に手をかける。そして覚悟を決めてから手に力を込めて、収容室の扉を開けた。

 

「……なんだこりゃ」

 

 収容室の内部は、意外と快適な空間だった。よく効いた空調は普通に過ごすには快適すぎるくらいだし、収容室の中は少し甘い良い香りが漂っていた。そして、収容室の中央にはこの部屋の主がこちらに目線を向けていた。

 

 それは、デフォルメされた悪魔のような見た目の存在であった。何というか、どこか愛らしい、出来損ないのゆるキャラみたいなそいつは、俺を見るなり腰に手を当てて話しかけてきた。

 

「なんだおまえは、おれさまのぶかになりにきたのか?」

 

「いや、そんなわけが無いだろう」

 

 いきなり、あまりにも偉そうな物言いをされたので、思わず素で返してしまった。すると『O-03-i07』はショックを受けたように後ずさった。

 

「ち、ちがうのか? おれさまのいだいさにおそれおののいて、ぶかになりたくならないのか?」

 

「なるわけ無いだろう……」

 

 これまた変なやつが来てしまった。こいつはどうやら自分が一番偉いとでも思っているのだろう、何というか変なやつと本当に縁がある。そんな事を思っていると、『O-03-i07』が突然驚くような発言をしてきた。

 

「わかったぞ、それじゃあおまえはおれさまへのいけにえだな?」

 

「……なんだって?」

 

 生け贄、それはつまりゲームで言う生け贄作業のことだろうか。あれはくそ胎児を泣き止ませるために必須な作業で、ルーレットで選ばれた職員は生け贄として捕食されてしまう。ちなみに盲愛様は除外だ、あいつに生け贄作業するやつなんているのか?

 

 とにかく、もしもこいつの言うことが本当であるなら、こいつは俺のことを捕食するつもりと言うことだろう。

 

 いくら間抜けそうな見た目だからと言って、ロボトミーにおいて見た目だけで判断するのは非常に危険だ。気がつけば『O-03-i07』は舌なめずりをしながらこちらに近づいてきていた。よく見ると、『O-03-i07』の口からは鋭い牙が覗いていた。

 

「ふっふっふっ、それじゃあおまえをいただきますしちゃうのだ!」

 

「くっ、」

 

 とっさにE.G.O.を構えて防御の姿勢をとる。するとその時、どこからかものすごいおなかの鳴る音が聞こえてきた。

 

「……もしかして、腹減ってるのか?」

 

「……うむ、もしもなにかけんじょうしたいというのなら、おれさまはもんくなんていわないぞ!」

 

 やっぱり、なんだかこいつポンコツっぽいぞ。本当に大丈夫か?

 

「うーん、そうだな。これ、いるか?」

 

 何というのか、このままだと可哀想なので、何か食べさせられるものが無いか探してみると、さっきもらった『T-01-i12』のチョコがあった。アブノーマリティーにアブノーマリティーの一部を与えても良いのだろうかと一瞬思ったが、まぁ大丈夫だろうと判断して渡してみる。すると、『O-03-i07』は目を輝かせて俺の手元に釘付けになっていた。

 

「そっ、それをくれるのか?」

 

「あぁ、なんか腹減ってたみたいだからな」

 

「ふ、ふんっ、まぁどうしてもというならもらってやってもいいぞ?」

 

「じゃあいいや」

 

「ふえっ!? ……た、たのむからおれさまによこすのです、いけにえのかわりでいいから」

 

 なんというか、こいつの生け贄って軽すぎないか? もしかして甘いものなら何でも言い可能性が出てきたな。

 

 チョコを渡すと、『O-03-i07』はとても幸せそうにほおばっていた。その様子は、なんだか前世に飼っていたペットを思い出させる。なんだか幸せそうに食べている様子を見ていると、こっちまで気分が良くなってくる。

 

「どうだ、おいしいか?」

 

「うんっ!!」

 

 普段は虚勢を張っているのか、お菓子に気をとられているのかすごい素直な反応が返ってきた。なんだこいつ可愛いな。

 

 思わず頭をなでてしまう。すると、最初はびっくりしたようだが、しばらくすると自分から頭を俺の手のひらになすりつけてきた。 ……なんだか本当に犬みたいな奴だな、こいつ。

 

 そんな感じでしばらくじゃれ合っていると、『O-03-i07』が俺の方を見て話をし始めた。

 

「なんだかおまえ、いいやつだな! おれさまのはいかいちごうにしてやろう」

 

「なんだそりゃ、別にいらないよ」

 

「うーむ、それじゃあこれあげる!」

 

 そういって『O-03-i07』の手から光の球体が飛び出してくると、ふわふわと俺の方に近づいてきて胸のところに当たった。そしてその光が俺に当たると、光がはじけて手作り感満載の『O-03-i07』を模したバッジがひっついていた。

 

「これはおれさまの『すごいぱわー』だ、ありがたくおもえよ!」

 

 ぎゃー! これってあのやっかいなタイプのやつだよな!? こんなものつけられて落ち着いて作業が出来るか!?

 

「これはおれさまのちょうぜつすごいぱわーなのだ、ありがたくうけとるといい!」

 

「おい、これってどんな力があるんだ?」

 

「うむ、おれさまのいやしぱわーで、おまえがしににくくするようにしてやったぞ!」

 

「うむうむ、それ以外は?」

 

「……? ほかにはないぞ?」

 

「あれ、他の収容室に言ったら殺されるとかは?」

 

「あるわけないぞ!」

 

「これで爆発とか、変なものが出てきたりとか……」

 

「なにいっているんだ? ひとがいやがることをするのはだめなんだぞ?」

 

「……そうだな」

 

 なんというか、おかしなことを言っているのは相手のはずなのに、なぜか俺がおかしいみたいになっている。それに正論なのが質が悪い。

 

「まぁ、いいか。それじゃあ俺はこの部屋から出て行くよ」

 

「うむ、こんどもおれさまにおかしのいけにえをわすれるなよ!」

 

「そうだな、それじゃあまたな」

 

「またな!」

 

 『O-03-i07』に別れを告げて、収容室から出て行く。どうやら結構長い時間収容室の中にいたらしい。

 

「……まあいいか、それじゃあ次の作業に向かおうかな」

 

 『O-03-i07』のすごいパワーの詳細は知りたかったが、それは今度でも良いだろう。

 

 その後いくつか作業をやってみて、とりあえずわかったことは、本当に『O-03-i07』のすごいパワーは特にデメリットが無かった事だ。他のアブノーマリティーのところへ作業をしに行っても、特に何かが起こるわけでは無かった。それどころが、微量ではあるが、傷の治りも早いような気がする。

 

「あっ、ジョシュアさん!!」

 

「あぁ、Π029か。どうしたんだ?」

 

「いえ、なんか変な噂話が聞こえてきましたが、私はジョシュアさんの事を信じてますから!」

 

「Π029、ありがとうな」

 

「いえいえ、今の私ではこれくらいしか出来ませんから。それに、ジョシュアさんがあんな事をするなんて思えませんし!」

 

 Π029のおかげで、なんだか心が軽くなったような気がした。その後も彼女と一緒にしばらく話をして過ごした。この後俺はΠ029と一緒に食事をし、パンドラに折檻を与えに行くことにした。

 

 結局、パンドラが自白したおかげで俺への風評被害は最小限に抑えることに成功した。

 

 

 

 

 

 おれさまはせかいさいきょうのまおうさまだ

 

 だれもがおれさまをおそれおののき、きょうふするのだ

 

 むっふっふっ、このせかいはなんでもおれさまのおもいどおりだ

 

 ほら、おなかがへったぞ、あばれちゃうぞ

 

 

 

 

 

 はやくおれさまにいけにえをよこすのです!

 

 

 

 

 

O-03-i07 『でびるしゃま』

 

*1
『蕩ける恋』


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