「最近、上層のセフィラ達に異変を感じないか?」
ある日、またこっそりと食堂にやって来た管理人は、席について早々にそう切り出した。正直に言えば、よくわからん。元々彼女たちは苦手だったから、あまり関わらないようにしてきたからな。正直箱状態で抑制前とかあまり萌えない。
「いや、あまり気にしたことは無いけど、どうしたんだ?」
「もしかしたら、近い内に彼女たちに異常が起こるかもしれない。その時は、君と一緒に乗り越えていきたいと考えている」
なるほど、どうやらこの管理人はうまくセフィラたちと関わって、もうじきセフィラコア抑制が始まると言うことだろう。そういうことなら俺たちだけよりも彼と一緒に頑張った方が生存率は高そうだな。
「なるほど、そういうことなら任せてくれ」
「本当か!? やっぱり君は頼りになるな」
「あぁ、精一杯頑張るさ」
それが、昨日管理人と一緒に話した内容だ。正直、その状況がこんなにも早く来るとは思わなかった。正直もう少ししてから何か来ると踏んでいた。だからこそ俺個人は別として他の職員たちの育成は、全然間に合わせることが出来なかった。
「これ、明らかにおかしいですよ」
「そうだな」
「いやだって、これがあのホドなんですよね? もうロボットというか、それこそアブ」
「メッケンナ、それ以上はやめておけ」
「……そうですね、僕たちは今日も出来る事を始めましょうか」
「あぁ、それが良い」
今日、教育部門に所属していた職員たちは、全員はじき飛ばされてしまった。そのため教育部門にいた新人たちは、それぞれ別の部門に派遣されることとなったのだ。
その理由こそが、この教育部門で踊るように動き続けるたこのような存在。大きな触手を伸ばし下部に大きな歯車を回し続ける橙色の目をした怪物、いや、彼女こそがホドと呼ばれたセフィラの一員なのだ。
『ほらほら皆さん、一緒に職員教育ビデオを撮りましょう!』
彼女は狂ったように何かをつぶやき続ける。それに耳を傾けることは無駄なのだろう。
「さて、それじゃあ今日も仕事をするか」
「はい、でもなんだか少し体がだるいですね」
「あー、たぶん身体補助系がうまく機能していないのかもしれないな。俺も本調子じゃないしな」
「そうですか、それじゃああまり普段のような行動は出来そうもありませんね」
『皆が私を必要として欲しいんです』
そういって少し落胆したようなメッケンナに、少し良いアイディアが浮かんできたので伝える事にする。
「そうだな、それじゃあ少しだけ楽に出来る方法を教えてやろう」
「えっ、何ですか?」
『何で皆、私の優しさに気付いてくれないんですか?』
「あぁ、それはな……」
「さて、これで大分負担が軽くなったな」
「これ、本当にすごいですね」
今、俺たちは『T-09-i96』*1の収容室の中にいる。目的は、この酒だ。
『T-09-i96』を摂取することで、能力を向上させることが出来る事は以前から判明していた。そのことから、もしもホドのコア抑制が起こった際に使うことが出来ないかと以前から考えていたのだ。
「さて、それじゃあさっさとこんな事終わらせるぞ!」
「はい!」
『私だけが彼らのことを心配してあげてるのに、なんで私を嫌うの?』
この情報を管理人に頼んで他の職員たちにも伝え、彼らにも摂取してもらうようにしておく。それでも時間がかかるので、先に摂取した俺たちがその時間を使って作業を進めていくことにした。
「さて、今後身体補助系の影響が大きくなることも考えて、とりあえずWAWあたりから作業をしていく」
「わかりました」
とりあえず、メッケンナと一緒にE-BOX数の多い奴から当たっていく。こんな状況でも、ノルマを達成しなければならないのはいつもと同じなのだ。
「……くそっ、体の動きが鈍い!」
「これ、本当に大丈夫ですか!?」
『ちゃんとしてくださいよ! あとでこの映像を見て参考にするんですから』
「あーもううるせえな!」
「ジョシュアさん、聞いても意味ないって自分で言ったんですから気にしないでください!」
「それでもこれはうっとうしすぎるだろう!」
『もしかして怒ってます? そんな、だめですよ! 私は良いセフィラなんですから!』
青空の黎明が現れて、いつもより鈍い体でなんとか殲滅していく。作業を終えてクリフォト暴走が起これば起こるほど、どんどん俺たちの体の調子は悪くなっていく。どうやらどんどん身体補助の影響が無くなってきたようだ。
「よし、これでなんとかなったな」
「そうですね、早くこんなこと終わらせちゃいましょう」
再び作業に戻ってエネルギーをためていくが、それでもどんどん体が重くなっていく。そしてどんどん作業をこなしていると、それは起こった。
「ぐっ……」
「メッケンナ!」
『ほら、職員たちが苦しそう。やっぱり私がいないといけないんですよ!』
「ジョシュアさん、僕のことは良いので、早くこいつらを……」
「……わかった、絶対に死ぬなよ」
『職員の皆も笑って~』
どんどん体の重くなっていくこの状況での青空の白昼だ。いつもならそう苦戦しない相手だが、今回は状況も相まってその数の暴力を受けることとなった。
「くそっ、早くぶっ壊れろ!」
メッケンナをかばいながら青空の白昼を破壊していく。幸いたいした知能も無いことで、死にかけのメッケンナより大暴れする俺のほうに集まってくる。俺としてもそっちの方がありがたい。
「おらっ、せいや!」
腕の刃による切り付けをよけながら、横を通り抜けるように切りつけていく。立ち位置を調整して相手をぶつけ合わせたり、足下を攻撃して体勢を崩し、自重で崩壊させていく。
「さて、これで終わりだ!」
最後の一体を切りつける。それと同時に体から先ほどまでの重圧が消え、いつものような感覚が戻ってくる。
『最初から私はいい人じゃ無かったのかもしれない……』
「……終わったか」
俺は倒れているメッケンナを肩に担いで、出口へと向かう。もうすぐ純化が始まり、ここにいては巻き込まれてしまう。
そしてようやく、俺たちにとって初めてとなるコア抑制が終了するのであった。