【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-23-1 O-01-i33『簒奪の風が吹く』

 教育部門のセフィラコア抑制が終わり、俺たちはその強力な恩恵を得ることが出来た。具体的に言うと、これから新しく採用される職員たちは、皆新しい新人研修を受けることが出来るのだ。裏を返せば今まで新人研修なんてなかったようなものなんだけどな。

 

 ちなみに、この研修は俺たち先輩は受けることが出来ない。それはつまり、こんな悲劇が起こると言うことだ。

 

「相変わらずぅ、ジョシュアさんのギフトはぁ、とっても素敵ですねぇ」

 

「ははっ、そうか……」

 

 俺の胸についているギフト『墓標』を愛でるようになでながら、サラは熱っぽい声で俺に語りかけてくる。正直に言えば距離が近いのでやめて欲しいところではある。

 

「そうは言うが、サラだってギフトを持ってるじゃ無いか。『F-04-i27』*1からどうやってギフトを得たんだ?」

 

「あぁ、これですかぁ?」

 

 そう、サラの頭には『F-04-i27』のギフト、『ガラスの靴』が乗っかっている。『F-04-i27』は女性に対して即死の効果を持っており、今までどれだけ男性が作業を行ってもギフトを得られることは無かった。今までギフトを得られたのはデボーナだけであり、彼女はもう故人だ。それなのに、どうして彼女がギフトをもらっているのだろうか?

 

「これはですねぇ、へたくそなダンスを踊って何回も収容室に通ったんですよぉ」

 

「何回もって、そんなに作業して大丈夫だったのか?」

 

「えぇ、どうやら『F-04-i27』はぁ、お気に入りの子だけを取り込むみたいなのでぇ」

 

「つまり、気に入られなければ何度でも収容室には入れると言うことか」

 

「そういうことですねぇ。これをあげるからぁ、もっと頑張ってって事かもしれませんねぇ」

 

「よくそんな事がわかるなぁ」

 

「だって趣味なものですからぁ」

 

 彼女はそう言って朗らかな笑みを浮かべる。これから彼女が成長していけば、未だに性質のわかっていないアブノーマリティーの調査について、本格的に協力してもらうのも良いかもしれない。そう考えていると、ふと先ほどの会話で気になることを見つけてしまった。

 

「あれ、そのはなしだと、ギフトをもらったデボーナはあまり気に入られなかったと言うことか?」

 

「あぁ、それはですねぇ……」

 

 サラは少し言いづらそうにしていたが、少し目をそらしながら話をいてくれた。

 

「実はぁ、彼女ってダンスが致命的に下手だったんですよぉ」

 

「あぁ、それで」

 

「まぁ、それが報われちゃったのってぇ、なんだか変な感じですよねぇ」

 

「そればっかりは、仕方の無いことだ」

 

 むしろ、苦しまずにすんだのは幸運だったのかもしれないな。そんな事より、少し気になることがある。こいつはいつまでこんなところでだべっているつもりなんだ?

 

「それで、そろそろ新人たちと話してきたらどうだ?」

 

「えぇっとぉ、それはぁ」

 

 ここで、再び彼女は目線をそらす。この子は意外と隠し事が苦手そうだ。

 

「だって、あの子たちのほうがぁ、私よりもすごいじゃ無いですかぁ」

 

「そう言うな、お前だって頑張ればちゃんと出来るようになるって」

 

「それでもぉ、先輩なのにぜんぜんできないなんてぇ、かっこわるいじゃ無いですかぁ」

 

 まぁ、正直その気持ちもわかる。だがそういじけていても始まらないので、先輩として助言くらいはしておこう。

 

「今日の実験の予定は?」

 

「えっ? そのぉ、今日は無いですねぇ」

 

「じゃあ今日は『T-05-i22』*2を中心に作業を行うと良いと思うぞ。あいつならある程度鍛えるのには向いているはずだ」

 

「ホントですかぁ!? それなら先輩の言うとおりに頑張ってみますねぇ!」

 

 そう言うと、彼女は元気よく『T-05-i22』の収容室に向かっていった。どうやらやる気になってみたいだし、これで良かったのだろう。それにしても、ギフトのことばっかり考えていると思っていたが、意外と繊細なんだな。これからは気をかけていくことにしよう。

 

「さて、それじゃあそろそろ俺も新しいアブノーマリティーのところに行くとするか」

 

 俺も気持ちを切り替えて作業を行いに行く。今日新しく収容されたのは、『O-01-i33』と『T-01-i21』だ。両方人型のようだが、気を引き締めて作業に取りかかろうと思う。

 

 とりあえず、はじめは『O-01-i33』のほうから作業を始めていこうと思う。どうせどちらも初めて相手する奴なんだ。どっちからでも違いは無いはずだ。

 

「さて、それじゃあ今日も頑張るか」

 

 

 

 ようやく『O-01-i33』の収容室の前にたどり着く。今日もうまく行けるように天に祈りながら、収容室の扉に手をかける。そして気合いを入れて扉を開く、ここまではいつも通りだった。

 

「うっ」

 

 収容室の扉を開くと、背筋に悪寒が走る。それと同時に収容室内の空気が俺のほほをなでるように流れてきた。冷たい、乾いたそよ風が俺を収容室の中へと招いてきてるようにも感じる。この時点ですでに感じている嫌な予感を押し殺し、気張って収容室の中に入る。しかし、収容室の中に一歩踏み入れれば、今までに感じたことの無いほどの重圧が俺にのしかかってきた。

 

「おいおい、なんだよこれ」

 

 感じるのは純粋な恐怖、未知のものへの、自身よりも遙かに強大な相手への畏れ。例えるなら、どうしようも無い自然現象、天災への畏怖とでも言うべき感情。それほどの存在が俺の目の前にいる。

 

 それは、枯れきった人間のようなものであった。乾燥しきり、カラカラになったそれは、何も存在していない眼孔だけをこちらに向けている。生きているようにも見えないのに、なぜかこちらを見られている様な錯覚すら覚える。これは一体、どういうことなのだろうか?

 

「いや、ここで立ち止まっても仕方が無い。やるぞ」

 

 とにかく今やれることをしていくしか無い。俺は掃除用具を持って洞察作業を行っていくことにする。すると、なにやらおかしな事に気がついた。

 

「あれ、もしかして若干風が吹いているのか?」

 

 集めたゴミが風に吹かれてどこかへ飛んでいく。もちろんこの収容室に空調なんて存在しない。そもそも、この地下に立てられた施設において、風なんて吹きようが無い。ということは、風を吹かせるのがこいつの能力なんだろう。それが、一体どのような意味があるのかは、俺にはわからない。だが、なにやら嫌な予感がする。

 

「……いや、こんな作業早く終わらせてしまおう」

 

 こんなところにいつまでもいて良いはずは無い。とにかく掃除を早く終わらせて、収容室からおさらばするしかない。うまく掃除の出来ないストレスはあるが、なんとか仕事を終わらせて収容室から退出することが出来た。

 

 

 

「結局、あいつは何者だったんだろうか」

 

 あれからしばらくして、俺はリッチと一緒に食事を取りながら『O-01-i33』について話をしていた。何というか、あれほどの存在が何もしないと言うことが信じられない。だからその不安感をリッチに聞いてもらっていた。

 

「だが、何も無いのであればそれでいいじゃ無いか?」

 

「そうなんだけどな……」

 

「そういえば、今日『O-01-i33』の作業を行うのは誰だ?」

 

「それが新人の奴でな、なんだか嫌な予感がして……」

 

 その漠然とした不安は、このとき最悪の形となって実現する。俺たちが食事を終えてそろそろ仕事に戻ろうと考えていると、管理人から緊急の連絡が来た。

 

『ジョシュア、リッチ! 今『O-01-i33』の収容室で作業をしようとした職員が、謎の変貌を遂げた! 職員たちを無差別に攻撃し始めている、彼を鎮圧して欲しい!』

 

「……了解だ、今すぐ行く!」

 

 新しく装備しているE.G.O.墓標を担いで鎮圧に向かう。嫌な予感がするとは思っていたが、まさかこういうタイプだったか。

 

「ジョシュア、お前の予感は悪い方に当たったみたいだな」

 

「全く、当たって欲しくは無かったんだがな!」

 

 全速力で『O-01-i33』の収容室のある廊下に向かうと、そこには変わり果てた職員だったものが暴れ回っていた。

 

 その姿は見る影も無く、面影も無かった。まるで何もかもが奪われたかのようにカラカラに乾いた肉体、何も映さぬ瞳、それでも人の形は保っている。その姿はまるで、『O-01-i33』にそっくりだった。

 

「くそっ、今楽にしてやるからな」

 

 それぞれ墓標と鬼退治を構えて戦闘を始める。相手は俺たちを見て攻撃を仕掛けてくるが、知能は退化しているのか攻撃は単調であった。

 

 E.G.O.こそ持っているが、その動きは全て大ぶりで、注意していればダメージを受けることは無いだろう。動きも遅く、1対1であれば、さほど苦労はしないで倒せそうだ。さらに、今は俺だけじゃ無くリッチもいる。このままなら大丈夫かもしれない。

 

「くっ、結構な力だな!」

 

「受けずに避けろ!」

 

 避けきれずに墓標で攻撃を受けると、その衝撃で少し後退してしまう。腕が少ししびれたが、すぐに体勢を整える。

 

「よし、決めるぞ」

 

「任せろ」

 

 リッチが引きつけている間に、俺が彼の胸元に墓標を突き立てる。腐ってもPダメージの武器だ、こいつにもしっかりダメージは通るだろう。

 

「……よし、これで終わりだな」

 

 突き刺さった墓標をひねって抜くと、死の攻撃に耐えられなかったのか職員だったものは粉々に砕けてしまった。

 

「……このままだとやばいな、明らかに『O-01-i33』の仕業だ」

 

「そうだな、作業する職員には十分に注意して作業に当たるように言っておこう」

 

「それと、なるべくベテランがいった方がいいだろうな。管理人に伝えておこう」

 

 

 

 

 

 そして、そのことを管理人に伝えようと無線に手を伸ばしたその時、我々はついにそれと相対する事となる。

 

「くっ、なんだ!?」

 

「なぜ、こんなところで突風が……」

 

 一迅の風と共に、そいつは現れた。

 

 枯れきった肉体、何も存在しない眼孔、音、動き、匂い、一切の生を感じないそれは、ついに動き出した。

 

 それはゆったりとした動きで右手をあげて、こちらに向けた。

 

 そしてその瞬間に、決して風の吹くはずの無いこの地下施設で……

 

 

 

 

 

 簒奪の風が吹く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Emergency! Emergency! Emergency!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Risk Level ALEPH

 

 

 

 

 

 

 

 O-01-i33 『木枯らしの唄』

 

*1
『零時迷子』

*2
『慈愛の形』

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