おそらく『O-01-i33』の仕業だと思われる、枯れた人間との戦闘。なんとか無傷で乗り切るも、危機は去っていなかった。
『O-01-i33』、枯れきった人型の怪物。そいつが右手をこちらに向けると同時に、この施設全体に突風が吹き荒れた。
「くっ!」
風に煽られてうまく体勢を保つことが出来ない。しかし、そんな事はお構いなしと言わんばかりに『O-01-i33』はさらにこちらに手を向けた。
「まずい、逃げろ!」
嫌な予感を感じ、右によける。するとさっきまで俺が立っていたところに一迅の風が吹き、その進路上にあったものを全て切り裂いていった。
「くそっ、風が強すぎてまともに動けねぇ!」
「焦るな、落ち着いて行動しろ!」
全身に纏わり付くような風をふりほどこうにも、結局は無駄な抵抗で終わる。うまく動かない体を無理矢理動かし、必死に『O-01-i33』に近づく。
「こんなに近いのに、あまりにも遠い!」
「一体どうなっているんだ!?」
『O-01-i33』からの攻撃をなんとかかわしつつ、ようやく懐に潜り込む。幸い『O-01-i33』は動きが遅く、こんな状態でもなんとか攻撃をかわすことは出来た。
「ぐっ、堅い!」
「くそっ、どういうことだ!?」
墓標で攻撃すると、あまりの堅さに手がしびれてしまう。さらに、リッチの鬼退治での攻撃は弾かれてしまった。これは堅すぎてと言うよりも、そもそも攻撃が効いていないようにも見えた。
「まずいぞジョシュア、俺の攻撃が全然効いていない。全く手応え無く弾かれてしまった」
「俺のほうは、手応え自体はあったぞ。まさかこいつ……」
「まずい、離れろ!」
会話している暇も無く、『O-01-i33』の周りに風が集まる。危険を察知した俺たちは『O-01-i33』から距離を取って様子をうかがう。
しばらくすると、『O-01-i33』の周辺に風の斬撃が発生し、周囲のものを切り刻んだ。あのままあそこに居座っていたら、俺たちがああなっていただろうな。
「くそっ、一体どうしたら…… うおっ!?」
再び風の斬撃が飛んでくる、俺は間一髪それをよけて、なんとか体勢を立て直す。すると、少し離れたところにいるリッチが俺に声をかけてきた。
「このままだとまずいな…… ジョシュア、少しこらえきれるか?」
「少しだけなら一人でも大丈夫だ、なるべく早く助けて欲しいけどな」
「それなら少し待っていろ、すぐにどうにかしてくる!」
そう言ってリッチは廊下から離脱した。何か策があるらしい、どのみちこのままではじり貧になっていた、彼に委ねるとしよう。
「さて、それじゃあ一緒に踊ろうじゃ無いか」
俺の独り言に答えるように、『O-01-i33』が手をこちらに向ける。飛んでくる風の斬撃を全てよけながら、もう一度接近し墓標を突き立てる。
「ぐっ」
堅いとは言っても、なにも効いていないというわけでは無い。少しずつであるが、墓標の死の力が『O-01-i33』をむしばんでいるようにも見える。『O-01-i33』の攻撃をよけながら攻撃し、少しずつ傷が増えていく。それだというのに、『O-01-i33』は声を発するどころか、身じろぎ1つしない。こいつが本当に生きているのかもわからない。……いや、こいつもアブノーマリティーだ、元から死んでいるのかもしれない。
なんとか動かない体にも慣れてきて、攻撃から逃げることがうまくなってきた。しかし、いつまでも風を飛ばしたり、纏っていたりした『O-01-i33』の雰囲気が突然変わった。そして、『O-01-i33』は手のひらに風を集め出し、こちらに向けた。そこに込められている力は今までの比では無く、強い感情のようなものが込められていた。
「嘘だろ!」
「r^@w9bp」
必死になって距離を取る、しかしそんな事は関係無いとばかりに『O-01-i33』がそれを地面にたたきつける。すると俺の体が浮き上がり、そのまま壁にたたきつけられた。
「くはっ!?」
今までとは比べものにならない、あまりにも強力な一撃。肉体的なダメージは一切無いのに、一瞬で意識を持っていかれそうになった。
さらに、心なしかさっきよりも『O-01-i33』の動きが速くなっているような気がする。まるで、さっきまでは遊びだとでも言うかのように。
「くそっ、ふざけるなよ!」
なんとか気合いで立ち上がり、再び『O-01-i33』に対峙する。『O-01-i33』はこちらに手を向けると、もう一度こちらに対して攻撃を仕掛けてくる。
「やられてたまるかよ!」
なんとか重い体を動かして逃げようとする。しかし、こんな時に限って体がよろけてしまう。
まずい、そう思ったがもう遅かった。思わず『O-01-i33』のほうを見ると、もう攻撃が飛んできそうになっていた。そこで来るであろう一撃を考え、目をつぶってしまう。
……だが、いつまでたってもその一撃が来ることは無かった。
「すまんジョシュア、遅れてしまった!」
「あら、私たちもいるわよん」
『O-01-i33』は砲撃によって攻撃を中止していた。そしてこの廊下にリッチ、ルビー、メッケンナ、マオ、ついでにパンドラがやってきた。さらに、リッチとメッケンナの持つE.G.O.鬼退治と、パンドラのE.G.O.信仰からは黒いオーラが漏れている。おそらく『T-09-i91』*1を使用して属性を変更したのだろう。これならいけるかもしれない、なんとか立ち上がって皆に声をかける。これで負けるわけにはいかない。
「助かった! このまま前衛は張り付いて、後衛はいつでも逃げられるように出口付近から撃て!」
「了解した!」
「わかったわ!」
前衛で『O-01-i33』に攻撃していき、後衛が支援していく。Bダメージはあまり効いているようには見えないが、先ほどよりかはましそうだ。
なるべく俺にターゲットが向かうように位置を調整し戦っていく。ついでに、背後に後衛の二人が来ないように考えながら戦う。体に纏わり付くようなうっとうしい風が気になるが、人数が増えたことで先ほどよりも随分戦いやすい。
「くっ、まずい」
「なにやってんだてめぇは!」
攻撃が当たりそうになったが、マオが『O-01-i33』の腕をカニヅメで殴って攻撃をそらしてくれた。後衛のふたりが狙われそうになれば、一斉に攻撃に入って攻撃を中断させる。俺たちは攻撃に集中して、怪しい動きがあれば後衛が忠告してなるべく早く動けるようにする。
全員が動きが鈍っているというのに、今まで以上に連携しているおかげでこいつにだって負けそうに無い。だが、少し手数が足りないように感じる。このままじり貧にならなければ良いのだが……
このままではだめだ、そう頭の中ではわかっているのにあと一歩が踏み出せない
今向こうでは皆が命をかけて『O-01-i33』の鎮圧に向かっている
だというのに、ボクがこんなところで立ち止まっていて良いのだろうか?
『T-09-i91』を手に持って立ち尽くす
ボクの特異性はきっと、これを飲めば消えて無くなってしまう
元からこの施設に来た時点で、完全では無くなってしまった
だが、それでも高い精神汚染への耐性があった
それも、ここに来てからというもの、随分と弱まってきてしまっていた
理由はわかる、彼と一緒に過ごしてきたからだ
今まで自分の殻に閉じこもっていれば良かった
だから、外からの干渉をはねのけることが出来た
だけど、彼と出会って、お話を聞いて、一緒にご飯を食べて
そうしていく内に、ボクのアイデンティティーが失われていった
このままだとボクが私で無くなってしまう、それが怖かった
そして、これを飲んでしまえば、きっとボクの力は完全に無くなってしまうだろう
白い私は黒く染まって、広い世界へ放り投げられてしまう
それでいいのか、自分に問い直す
すると、彼との思い出が溢れてくる
一緒に笑い合い、彼が誰かといると不思議な気持ちになり、彼を見てると温かな気持ちになる
自分がどうなっても良いのだろうか
それでも、私は彼を助けたい。
彼と一緒に笑っていた。
彼が大変なのに、何もしないなんて耐えられない。
ボクの気持ちが溢れてきて、止まらなくなる。
そうか、ボクは今まで、自分の気持ちにすら蓋をしていたんだね。
自分の気持ちがわかれば、もう躊躇なんてしなかった。
ボクは思い切って『T-09-i91』の蓋を開いて、それを一気に飲み干した。
「風が集まってるわよ!」
「了解!」
殴りかかっていた全員で一斉に距離を取る。そして『O-01-i33』の纏う風による攻撃が終われば、もう一度攻撃するために接近する。
「くそっ、なんて動きづらいんだよ!」
「そうはいっても仕方が無いだろうが! このまま殴るしか無い!」
「うるせぇ、そんな事はわかってんだよ!」
マオのかんしゃくに付き合いながら『O-01-i33』へと攻撃をしていく。大分攻撃を加えてきたが、それでもまだまだ元気なようだ。リッチもメッケンナも必死になって攻撃をしているが、なかなかにきつい。
「きゃあ、こっちに飛んできたわよ!」
「すまない!」
「ジョシュア先輩、まずいですよ!」
「なっ!?」
集中力が途切れてきたせいか、後衛のほうへ攻撃が飛んで行き動揺してしまった。そして、その隙を『O-01-i33』は逃さず、手のひらに風を集めていた。
「まずい……!?」
「b;w@6dj…… ui!?」
動揺してうまく動かない体を引っ張りながら、なんとか逃げようと必死にもがくが、うまく逃げれなかった。そして今にも放たれそうなその一撃に対して、せめて一太刀でも浴びせようと考えていると、横から黒い一撃が飛んできた。
「なっ、シロ!」
「…………みんな、遅れてごめん」
黒く染まった信仰を構えて、シロが助太刀に来てくれた。その正確な一撃で『O-01-i33』の腕を撃ち、さらに眼孔にも二発をお見舞いしていた。そして、今まで微動だにしてなかった『O-01-i33』が、初めて攻撃に反応を示した。
「助かったぞ、シロ!」
「…………今は集中」
「そ、そうだな、すまない」
「ジョシュア、今のうちに叩くぞ!」
シロに気を取られていた『O-01-i33』の背後から、墓標を突き立てる。何度も攻撃してきたためた、無数の傷の1つに突き刺さり、ついに体に突き刺さった。
「よし、このままいくぞ!」
「おう!」
そのまま墓標をねじって抜き、なぎ払う。ついに動揺した『O-01-i33』に対して、今こそが攻め時だと判断して全員で殴りかかる。
抵抗しようと必死な『O-01-i33』にシロの的確なスナイプが突き刺さる。行動しようにもシロの攻撃に邪魔をされ、ろくに動けない『O-01-i33』を、他の全員で攻撃していく。
「b byufr@w@f……」
そして、ついには『O-01-i33』は力尽き、その膝を折った。
その光景をしばらく眺めていると、先ほどまでうっとうしくてたまらなかったあの風が、ついに止んだ。
「やっ……」
「「「やったあぁぁぁぁ!!!!」」」
『O-01-i33』に対して、誰一人かけること無く勝利した。その事実に、俺たちは互いを抱きしめ合って喜び合った。
「シロ、ありがとう」
「…………どういたしました」
シロを抱きしめながらお礼を言うと、彼女は恥ずかしそうに顔を背けた。
これで、俺たちの長い戦いは、ひとまず終わったのであった……
再び『O-01-i33』の収容室に向かう。
あのようなことがあり、再び同じ事が起こらないように早急に情報を集めなければならなかった。
「よう、またあったな」
『O-01-i33』の収容室に入り、挨拶したにも関わらす『O-01-i33』は返事をしなかった。
こいつは、脱走しなければ話す気すらないらしい。
そんな事を考えていると、『O-01-i33』はこちらに手を向けた。
何も無いのであれば奪えば良い、そんな事をしていれば周りから全てが消えてしまった
この力が与えるものはない
この力は奪うものだ
だが、私はひとりぼっちだ
この手から、そよ風を君に運ぼう
俺は、この風を……
受け入れる
「3lt@s4」
その時、俺の顔になにか熱いものを感じた。しかし、それも一瞬でひき、俺の顔に文様が浮かび上がる。
彼は、最後になにを言ったのかわからない。
だが、少なくとも悪意は無かった……
O-01-i33 『木枯らしの唄』 鎮圧完了