あと、グロ注意です。
Days-26 O-01-i37『その旋律は、我々には刺激的すぎた』
今日はなんだか気持ちの良い目覚めであった。目が覚めるととてもすっきりしていて体の疲れが吹き飛んでいた。ついでに良い夢も見ていた気がするから気分も爽快だ。なんというか、今日は良いことが起こる気がする。
「そういうわけで、今日の俺は非常に気分が良いんだ」
「……そう、良かったね」
「あぁ、なんだか良いことが起こる気がするよ」
「……でも、あまり油断しないでね」
「もちろんだ、ここまで来たらいけるところまでは生き抜いてみせるさ」
日替わり定食のエビフライに舌鼓をうちつつ、シロと今日の話をする。本当に最近シロと一緒に食事をする機会が増えた。
「……そういえば、この前綺麗なものを見た」
「へぇ、どんなものだ?」
「……それはね」
最近はシロが話をすることも増えてきた。今まで一方的に俺が話していたから知らなかったが、意外と彼女はおしゃべりが好きらしい。
食事が終わる頃には、食堂も混み始めてきた。俺たちは仕方なく席を立つと、今日の作業に向けて準備に取りかかる。
「……今日も、新しいの?」
「あぁ、今日から懲戒部門だしな。ちょっと気を引き締めていくさ」
「……そう、準備は出来た?」
「これで終わりだな、それじゃあまたな」
「……うん、またね」
準備を終えて業務を開始する。今日やってきたのは『O-01-i37』だ。最近よく人型のアブノーマリティーが収容されている気がする。ついでに言うとろくでもない奴ばっかりだ。出来れば今日はましな奴であることを祈ろう。
「あれ、ジョシュア先輩じゃ無いですか」
「げっ、パンドラ」
「何ですかその反応、ひどくありませんか!?」
懲戒部門も目の前というところで、やっかいな奴に出会ってしまった。今日の予感は残念ながら不発に終わったらしい。
「別に良いですけど、今から新しいアブノーマリティーへの作業ですか?」
「あぁ、今日は余計なことをするなよ?」
「もちろんですよ!」
そう元気に返事をするが、本当かどうかは怪しいところである。出来ればこれ以上俺の心労を増やしてくれるなよ。
「それじゃあ俺はもう行くからな」
「あっ、ちょっと待ってください」
パンドラの横を通って懲戒部門へ向かおうとすると、なぜかパンドラに裾を掴まれた。驚いて振り向くと、今まで見たことの無いほどの真剣な表情をした彼女がいた。
「……本当に、行くんですか?」
「どうした、何かあったのか?」
「いえ、なんだかとっても嫌な予感がするんです」
パンドラがこんなことを言うなんて珍しい、というかそんな事を言っているのは初めて見た。基本的に本能の赴くままに生きているのが彼女だ、こんな風に特に根拠も無く人を心配するのは見たことが無い。
「ジョシュア先輩、そのアブノーマリティーへの作業、やらない事って出来ますか?」
「いやいや、さすがにそんな事は出来ないって」
「なら私が変わることは……!!」
本当にこいつはどうしてしまったんだろうか。だが、パンドラが本気で心配してくれているのはわかった。やめたり変わったりは出来ないが、せめて安心だけはさせておきたい。
「パンドラ」
「ひっ、なんで怒るんですか!?」
「怒ってねぇよ。ただ、そんなに心配するなって」
「でも、本当に……」
「今まで、やばいときは何度もあったけど、いつだって生き残ってきただろ? だったら今回も同じさ、俺は生き残ることだけは得意なんだ」
「そうだな、それでも心配なんだったら、やばくなったらお前が助けに来てくれよ」
「そんな…… でも……」
「それなら俺も安心だからさ、頼むよ」
パンドラは随分と悩んだ末に、振り絞るような声で返事をした。
「わかりました、先輩を信じますね。約束ですよ!」
「おう、約束だ。それじゃあまたな」
「はい、また……」
少し様子がおかしいのは気になったが、別に悪い方向の変化では無いので大丈夫だろうと判断する。少し不安そうな彼女をおいて、『O-01-i37』の収容室へ向かう。本当に俺のことが心配らしく、こっそり後ろからつけてきているのが感じ取れた。そんな事をするよりも仕事をしろ、仕事を。
「さて、ついに来たな」
ようやく『O-01-i37』の収容室の前に来る。正直パンドラの反応が気になるが、十分気をつけるしか出来ることは無いだろう。
いつも以上に気を引き締めながら、収容室の扉に手をかける。そしていつものお祈りをしてから手に力を込めて、収容室の扉を開く。どこからか、聴いたことの無い音楽が流れてきた。
♪~
収容室の中に入ってまず耳に入ってきたのが、弦楽器による美しい音色だった。俺は音楽に明るくないので、あまりよくわからなかったが、今まで聴いたことの無いような音色だった。
「すげぇ……」
そして視線を音のする方に向けると、俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
それはとても美しい少女だった。美しく整った顔はまるで彫刻のようで、体もすらりとしていて主張しすぎない美しいラインを描いていた。
そして何よりも目を惹くのは、その髪の毛だ。美しい銀色の髪は光の加減により七色に輝き、立っていても地面に付きそうなほど長かった。髪質は一切の癖が無く、見ているだけでもさらさらしていることがわかった。
そして彼女は自身の美しい髪を地面に突き刺し、ハープのように曲を奏でていた。その音色は俺の魂を振るわせるほどの、心に響くものであった。
「綺麗な音色だな」
俺が話しかけたことにより、彼女はこちらに気がついたようだ。彼女は俺を見ると微笑み、突き刺していた髪を抜き取ると、こちらに向かい合うように体勢を変えた。
「おっ、どうしたんだ?」
そして、彼女はもう一度髪を地面に突き刺した。しかし、今度は先ほどとは違って右手で上部を持ち、左手で髪で出来た弦をかき鳴らした。それはまるでギターのようで、先ほどの優しい音色とは打って変わって激しい曲調であった。
「おっ、おっ」
その曲のなんて素晴らしいことか! 本当の意味で魂が揺さぶられるとはこういうことだったのか。脳が揺らされ、世界が振動する。体は沸騰したかのように全身が沸き立ち、気分はあり得ないほどに高揚していた。
俺は、この素晴らしい演奏に熱狂していた。
その旋律以外の音なんて認識すら出来なかった。事実、喉の痛みを感じるまで自分が絶叫していることにすら気がついていなかった。
だが、このままでは足りない。彼女がこれほどまでに素晴らしい演奏をしているというのに、俺は何も出来ていないじゃないか!
そんなとき、何かが裂ける音がした。それが自分の胸を自らの爪で傷つけた音だと言うことに、他人事のように気がついた。そして、自分のすべきことにようやく気がついたのだ。
体中の皮という皮を引き裂いてかき鳴らし、骨を折って盛り上げる
目玉が飛び出し跳ねる音がコミカルさを演出し、血の沸騰する音がより高いステージへと至らせる
はらわたを掻き出し、引き摺りながらハーモニーを奏で
髪をむしり、爪を剥ぎ、歯が折れるまで鳴らす
全てが、俺の体の全てが楽器だったんだ
そして曲が終盤へと向かい、会場のボルテージも最高潮に達する
ついに演奏は終わりを迎え、それと同時に……
俺の頭は破裂した
ここに、最高の曲が完成したのだ
『『O-01-i37』が脱走しました、エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』
「うそだぁ! 一体どうなってやがる!」
「いやぁ! 頭が割れる!」
「うそ、嘘ですよね先輩…… またねって言ったじゃないですか!」
「ぎゃああああ!」
「なんでこんなことに!」
「エージェントたちは何をやっているんだ!」
「くそっ、強すぎる!」
「サラさん、サラさん!」
「まずい、メッケンナ!」
「嫌だ、助けてよ!」
「こんなところで、いやだ」
「すまない、俺もここまでのようだ……」
「先輩の、うそつき……」
今日はなんだか気持ちの良い目覚めであった。目が覚めるととてもすっきりしていて体の疲れが吹き飛んでいた。ついでに良い夢も見ていた気がするから気分も爽快だ。なんというか、今日は良いことが起こる気がする。……いや、本当にそうだろうか?
「そういうわけで、今日の俺はたぶん気分が良いんだと思う」
「……? そう、良かったね」
「あぁ、なんだか良いことが起こる気がするよ」
「……でも、あまり油断しないでね」
「もちろんだ、ここまで来たらいけるところまでは生き抜いてみせるさ」
日替わり定食のエビフライに舌鼓をうちつつ、シロと今日の話をする。本当に最近シロと一緒に食事をする機会が増えた。
「……そういえば、この前綺麗なものを見た」
「へぇ、どんなものだ?」
「……それはね」
最近はシロが話をすることも増えてきた。今まで一方的に俺が話していたから知らなかったが、意外と彼女はおしゃべりが好きらしい。
だが、ここでも違和感を感じる。なんだかもうすでに聞いたことがあるような……
食事が終わる頃には、食堂も混み始めてきた。俺たちは仕方なく席を立つと、今日の作業に向けて準備に取りかかる。
「……今日も、新しいの?」
「あぁ、今日から懲戒部門だしな。ちょっと気を引き締めていくさ」
「……そう、準備は出来た?」
「おう、もうちょっとだな」
「……何それ?」
「何でも管理人がつけて行けって言うからな、命令だから仕方が無い」
「……ふふっ、なんだか変なの」
「何で笑うんだよ」
「……だって、似合わない」
「ひどいな」
「……よし、これで終わりだな、それじゃあまたな」
「……うん、またね」
準備を終えて業務を開始する。今日やってきたのは『O-01-i37』だ。最近よく人型のアブノーマリティーが収容されている気がする。ついでに言うとろくでもない奴ばっかりだ。出来れば今日はましな奴であることを祈ろう。
「あれ、ジョシュア先輩じゃ無いですか」
「げっ、パンドラ」
「何ですかその反応、ひどくありませんか!?」
懲戒部門も目の前というところで、やっかいな奴に出会ってしまった。今日の予感は残念ながら不発に終わったらしい。
「別に良いですけど、今から新しいアブノーマリティーへの作業ですか?」
「あぁ、今日は余計なことをするなよ?」
「もちろんですよ!」
そう元気に返事をするが、本当かどうかは怪しいところである。出来ればこれ以上俺の心労を増やしてくれるなよ。
「それじゃあ俺はもう行くからな」
「あっ、ちょっと待ってください」
懲戒部門へと向かおうとすると、パンドラに呼び止められた。一体何事かと思っていると、彼女はじっと俺を見つめてきた。
「なんだよ、何かあるなら早くしてくれ」
「いえ、なんだか似合わないなって思いまして」
「うるさい、そんな事はわかっているんだよ!」
「痛い! 本当のことを言っただけじゃ無いですか!」
余計なこと言ったパンドラを放置して、懲戒部門に向かう。さっさと仕事を始めるとしよう。
「さて、ついたな」
『O-01-i37』の収容室の前に付き、管理人に言われていたものを身につけて収容室の扉に手をかける。いつも通りのお祈りをしてから手に力を込め、収容室の扉を開けた。
「なんて言うか、見た目は美しいな」
目の前にいたのは、美しい銀色の髪をした少女であった。白くきめ細やかな美しい肌と整った顔立ちは、昔美術館で見た女神の彫刻のようであった。体は主張しすぎない綺麗なラインを描いており、とても儚い印象を抱かせる。
そして彼女は髪の毛を地面に突き刺し、ハープのように指で演奏しているようだ。その姿は容姿も合わさって、本当に女神のようであった。
「さて、どうしたものか」
演奏が終わったようで、『O-01-i37』が一息つくと、ようやく俺の存在に気がついたようだ。
俺がいたことに驚いたのだろう、体をびくっとさせて俺を見ると、唐突に身だしなみを整えだした。そして、俺に向き直ると手を握ってきた。
正直、とっさの事というのもあるが、全く害意が無かったことでとっさに反応できなかった。
彼女は俺の手を握ってブンブンと上下に振っている。なんだか子どもの相手をしているような気分になる。
「なんだか可愛いな」
前世の妹を思い出し、思わず『O-01-i37』の頭をなでてしまう。彼女は最初は驚いたようだが、やがて頭なでなでを受けいれ、俺に頭をこすりつけてきた。何というか、犬みたいだなと、思わず考えてしまった。
「さて、そろそろ終わりの時間だな」
あれからじゃれてくる『O-01-i37』になすがままにされていたが、そろそろ作業も終わりだ。
悲しそうにする『O-01-i37』を無理矢理引きはがし、収容室から出ようとする。
「それじゃあ、またな」
もっと遊びたいと駄々をこねる『O-01-i37』に別れの挨拶をする。すると彼女も自身の髪で何かを奏で始めた。おそらくこれが彼女のコミュニケーションの取り方なのだろう。
そんな彼女に背を向けて、収容室から出て行く。これからも作業を頑張っていこう。
一見彼女は普通の人間と変わりは無いように感じる
だが、我々とは決定的に違う部分があるのだ
彼女は言葉を発することが出来ない
我々とコミュニケーションを取ることが出来ないのだ
彼女にとってのコミュニケーションとは、演奏である
その穏やかな、艶やかな、荘厳な、お淑やかな、熱狂的な音楽は、とても素晴らしいもののようだ
だが、我々は彼女と共存することは不可能だという結論をだした
なぜか、それは単純な理由だ……
その旋律は、我々には刺激的すぎた
Emergency! Emergency! Emergency!
Risk Level ALEPH
O-01-i37 『儚きハーモニクス』