「ジョシュアパイセンの目ってかっこいいよなー。装備もかっこいいし、俺も早くあんな風になりたいなぁ~」
「クロイーさん、そんなことを言ってどうするんですか。ギフトだって危険な物だという話は聞いたでしょう?」
「そうはいってもさぁ、やっぱりかっこよさって大切だと思うよ? だってやる気が変わるしさ! やる気って大事だろ?」
「それはそうですが、ちょっと動機が不純ですよ」
「そんな堅いこと言うなよ~」
今日は少し遅れて食堂に入ると、ナルリョンニャンとクロイーが言い争い、といって良いのかわからないが会話をしていた、クロイーはナルリョンニャンやミラベルと同期で入ってきた職員だ。彼らは性格が合わないのかよく言い争いをしている。なんというか以前も似たような光景を見た気がする。
「おはよう、二人とも何をしてるんだ?」
「おはようです!ジョシュアパイセンがかっこいいなって褒めてたところですよ!」
「おはようございます。いえ、少し話をしていただけです」
俺が話しかけると、二人は話をやめて俺のほうに向き直った。なんか最近新人の奴らと話すときに妙にかしこまられるのが、なんとも言えない感じになる。
「そうか、二人はもう仕事には慣れたか?」
「そうっすね! 俺は結構適応力あるんで、これくらい大丈夫ですよ!」
「僕は、あまり慣れないですね。やっぱりいつ死んでもおかしくないって環境は、結構辛いです」
「そうか、なるべく早くなれた方が良いのは確かだけど、その感情も大切だと思うぞ」
「そうですかね、ありがとうございます」
「そうだぞナルナル~、きっとそれくらい怖がってないと危ない目に遭うからな~」
「別に怖がってません!」
「冗談だって冗談! 悪かったよ~」
「もう、気をつけてくださいね!」
「はははっ」
何というか、意外とクロイーも相手のことを気遣えるんだな。ナルリョンニャンも繊細なところはありそうだけど、彼と一緒ならまだましかもしれないな。
「さて、僕らはそろそろ行きましょうか」
「え~、もっとパイセンと話してから行こうよ~」
「だめです、ジョシュア先輩だってまだお食事をされていないんですから」
「ちぇ~」
「別に気にしなくても良いけどな、それじゃあ頑張ってこいよ!」
「はい!」
「もちろんです!」
どうやら俺を気遣ってくれたらしいが、こうして話をしているのも嫌いでは無い。少しさみしいが頑張ろうとしているのだから、応援しよう。
「さて、それじゃあ今日はこれにしようかな」
今日は久しぶりにがっつり食べていきたい。そう思って焼き肉定食を頼んで席に戻る。遅かったせいですでに周囲はまばらになっていた。
「あっ、ジョシュア先輩!」
「よう、タチアナじゃないか、どうしたんだ?」
席について食事を始めようとすると、最近入ってきた新人のタチアナが声をかけてきた。
「もし今からお食事になさるのでしたら、ご一緒してもよろしいかと思いまして」
「おう、そう言うことなら別に良いぞ」
最近は入ってくるやつも多くて中々新人と話せていなかった。こういうのは大歓迎だ。
せっかくなのでタチアナと一緒に食事をとる。彼女は話すことが好きなのか、中々話がつきなくて仕事に遅れそうになったのは内緒だ。
「さて、それじゃあ今日の仕事といきますか」
タチアナとの食事を終えて、今日来たアブノーマリティーの収容室に向かう。今日新しく収容されたアブノーマリティーは、『O-01-i43』だ。また人型であるが、どうか変な奴ではない事を祈るとしよう。
「さて、ついたな」
『O-01-i43』の収容室の前に付き、気持ちを切り替える。いつものように収容室の扉に手をかけて、お祈りをしてから扉を開ける。
その瞬間、少し冷たい風が通り過ぎた。
「これは……」
収容室の中にいたのは黒い、いや玄い女性であった。玄い着物を着こなし、少し背が高くすらっとしている。背中には亀の甲羅のような物を背負っており、長い玄髪からは二本の白い髪の束が大蛇のように流れている。
何より目が行くのは、その顔である。美しい玄い瞳はこちらにおびえている様に感じる、そのとなりの瞳は黄色く、蛇のように瞳孔が縦に割れている。顔の右側、それも目の周辺だけは美しい女性の面影を感じるが、それ以外は白い鱗に覆われていることもあり、瞳のこともあって蛇ににらまれているような錯覚を受ける。
口元は袖で隠し、見られまいとしているようにも感じる。体は小刻みに震えており、随分とおびえているように感じる。
「おいおい、大丈夫か?」
俺が話しかけると、『O-01-i43』は肩をびくっと震わせた。その様子は人間を恐れている、というよりは人間に見られることを恐れているようだ。
恐らくは顔を見られたくはないのだろう。ならばそんな彼女を尊重して、なるべく顔は見ないようにしよう。
「そう警戒するなよ、見られたくないならなるべく見ないからさ」
一応言葉で伝えてみたが、ちゃんと『O-01-i43』に伝わっているかはわからない。だから少し距離を開けてとなりにしゃがみ込み、そのまま話を続ける。
「この施設にはとてつもなく恐ろしく、醜い化け物たちがうようよ居る」
俺が話し始めると興味を持ったのか、『O-01-i43』は少し警戒心を解いて同じようにしゃがみ込む。どうやら俺の話を聞いてくれるようだ。
「だからあんたの顔を見て、恐ろしいって思う奴はいないんじゃないかな」
その言葉を口にすると、『O-01-i43』のほうからはっと息を呑む声が聞こえた。もしかしたら、こいつは元々綺麗な人間型で、何らかの理由でこんな姿に変わっていったのかもしれない。そう思い気にするなって言ってみたが、悪くはなさそうだ。
言葉は通じるようだし、このまま友好関係を築いていこう。しかし築きすぎてもやっかいなことになるのでそこは気をつけておこう。
「そうだな、これはここの話では無いのだが……」
そこで、どうやら俺の話に興味を持ったようなので話を続けることにした。この施設における別のアブノーマリティーの存在を他のアブノーマリティーに伝える事は禁止されているので、こことは違う別の世界の彼らの話をする。
サンタの役割をぐちゃぐちゃにかき混ぜたような存在や、気味の悪い人食い蜂、自分を殺した相手を同じように変える醜い獣に、人の体で構成されており人の皮を被って化ける悪趣味な存在。それらの話をしていると、彼女は驚き、悲しみ、恐がり、話を聞き続けた。
そして話題は世間話に変わり、彼女はその話を興味深そうに聞き入っていた。最近食べたおいしい食事に、友人と集まって一緒に遊んだ話、おろかな後輩のやらかしたことに新人たちの頑張り。彼女はそれらの話の一つ一つに様々な反応を見せた。どうやらこの子は話を聞くのが好きらしい。
俺も話をするのが好きなので、思わず話し込んでしまった。ふと彼女を見ると、笑っているのが見えた。
その口元は大きく裂け、口からちらりと見える二股の細長い舌とあわせて蛇のようにも見えるが、本当に楽しそうな表情を見ていると愛嬌があるように見えた。
「ようやく笑ったな」
「!!」
俺の言葉に口元が見えていることに気がついたのか、彼女は悲しそうな顔をして口元を隠した。別にそんな事をし無くても良いように感じるが、彼女にとっては隠したいことなのだろう。だが、俺は思わず口を滑らせてしまった。
「別に可愛いんだから、隠さなくても良いのに」
「!?」
思わずしまったと口を隠すが、別に聞かれても良いことだと思い直して『O-01-i43』のほうを見る。彼女は驚いたように目を見開いていたが、おそるおそるといった風に口元を少しずつ曝し始めた。
「あぁ、やっぱり別に隠さなくても良いな」
その言葉を聞いて、彼女はどう思ったのかはわからない。ただ、その瞳に映る感情は様々な物で埋め尽くされているように感じた。
「さて、それじゃあ俺はそろそろ行くか」
作業時間も終わり、収容室から退出することにした。すると、さっきまでしゃがんでいた『O-01-i43』は急に立ち上がり、その口を開いた。
「マタッ、キテクレル?」
それは今にも消えそうで、お世辞にも綺麗とは言えないようながらがらの声だった。だが、せっかく心を開いてくれたのだ、ちゃんと返事はしなくては。
「あぁ、また今度な」
その言葉を聞いて、彼女は嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、俺は収容室を後にするのだった。
「はぁ、激務過ぎるだろ」
コア抑制とはいえ、これほど仕事が大変になるとは思わなかった。あれからしばらくたってついにネツァクのコア抑制だ。急いでエネルギーを集めて終わらせなければいけない。
とにかくなかなか『O-01-i43』にかまってやることが出来なくなっていて頭の中から抜け落ちていたときに、それはおこった。
「なっ、何だ!?」
懲戒部門のメインルームに、突然そいつは現れた。
玄い体の巨大な亀に、白い二体の蛇。そいつは玄い霧を放って、風が吹き荒れた。
この世界はどうしてこんなにも冷たいのだろうか
私の世界は常に冷たく、悲しい場所だ
どうして私は失うことしか出来ないのだろうか
どうして誰もここに居ないのだろうか
今日も誰かがやってくる
私は貴方から奪うことしか出来ない
冷たさで包むことしか出来ない
だからどうか、もう少しだけ頑張って
この季節が終わるその時まで
せめて、終わりは少しの温もりを
O-01-i43 『玄い北颪の冬姫』