「ふぅ、これで終わりだな!」
目の前に居る『T-09-i96-1』に最後の一撃を入れて、ようやく鎮圧が終了する。今回どこかの誰かが『T-09-i96』*1の作業を怠り、それに誰も気がつかなかったせいでこいつが中央第1のメインルームまで侵入してきたのだ。そこをたまたま近くに居た俺とパンドラで鎮圧し、なんとか犠牲を出さずに終わらせることが出来たのだ。
「いやぁ、なんとかなりましたねー」
「あぁ、そうだな」
「それにしても誰が『T-09-i96』の作業を忘れてたんでしょうね?」
「ああ」
「全く、大事な仕事を忘れるなんてダメダメですよね! そんな事で皆を危険にさらすなんてとんでもないですよ!」
「ああ」
「ジョシュア先輩、こうなったらびしっとしかってあげましょう! その方がその子のためになると思うんですよ!」
「ああ」
「……あれ、ジョシュア先輩どうしたんですか? なんだか生返事ばっかりじゃないですか」
「すまない、俺の記憶が正しければ……」
パンドラが生返事ばかりする俺を不審がり、心配してくる。だが、俺は今考え事をしていてそれどころではなかった。それよりも、これからどうしてくれようかで頭がいっぱいだ。
「確か今日の『T-09-i96』当番は、お前だったよな?」
「……えっ?」
俺の指摘に、パンドラは石のように固まった。俺はそんな彼女を無視して話を続ける。
「間違っていたらすまないが、昨日が俺だったから今日はお前だよな? 順番はローテーションだから間違いようが無いはずだ。違うか、パンドラ?」
「えっ、えーっと…… そのぅ……」
「さっきは随分と威勢の良いことを言っていたじゃ無いか、いつもの自分のことは棚に上げて随分調子が良いな?」
「そ、それは…… そのぉ……」
「そういえばさっき良いことを言っていたな? たしかびしっとしかってやれだったかな? その方がその子のためになると」
「ちょちょちょっと、話をしませんか!?」
「ダ★メ♪」
「三十六計逃げるにしかず! ぐえっ」
言い訳なんてするかと言わんばかりに勢いよくこの場から逃げ出そうとするパンドラの首根っこをつかむ。一体何回お前の相手をしてきたと思っているんだ。
適当にアゴを揺らして動けなくし、首根っこを持ったまま引きずって目的地へと向かう。こいつの扱いはこんな物で良い。
「うぅ…… い、一体どこへ……」
「今日来たツールへの作業がまだだったからな、今からいこうと思ってな」
「そっ、それに私が行く理由は……」
「……」
弱っているパンドラに満面の笑みを浮かべてやると、なぜか顔が青ざめてしまった。可哀想に……
「せめて何か言ってくださいよ! これってアレですよね!? 私を生け贄にしようと考えてますよね!?」
「やだな、生け贄なんて生ぬるいぞ♪」
「ひどい、死んだらどうするんですか!」
「お前は死なんだろ」
「死にますよ! こんなでもちゃんと死にますってたぶん!」
「おいおい、嘘は良くないぞ」
「何でそこでそんな反応なんですか! 先輩は私をどういう目で見てるんですか!」
「はいはい、わかったわかった」
「うぅぅ、先輩が冷たい……」
わーわー騒ぐパンドラを無視して、懲戒部門へと向かう。今日収容されたツールは『T-09-i84』だ、変なので無ければ良いがパンドラが居るから大丈夫だろう。そんな事を考えていたら、気がつけば『T-09-i84』の収容室の前についていた。
「さてついたぞ
「ねぇ! 今なんて書いてパンドラって言いました!? ひどいこと考えていませんよね!?」
「良いからとっとと行け」
「ぎゃあぁぁぁ!!!!」
駄々をこねるパンドラを無理矢理『T-09-i84』の収容室の前に投げ捨てる。どうせツールだし、これくらいの扱いで十分だ。
「いったー、何するんですか!」
「良いからさっさと手伝え」
「ひっ、ひどい! 私を実験台に使うつもりですか!?」
「それともお仕置きの方が良かったか?」
「いえ、精一杯やらせていただきます!」
パンドラがやる気になったところで収容室の中を見渡す。収容室の中には大きな角笛がおいてあった。
その角笛からは一対の羽根が生えており、なんだか荘厳な雰囲気を醸し出している。俺はその角笛を手に取り、パンドラに投げ渡す。
「わっ、これなんですか?」
「これが今回収容されたツールだろう、たぶんそれを吹いたら効果が発揮すると思う」
「……これを吹いたら良いんですか?」
「あぁ、頼んだぞ」
「その、何か注意した方が良いこととかはありますか?」
「そうだな、使いすぎても使わなさすぎても危ないかもしれないくらいだな」
「危ないって、怪我とかですよね?」
「はっはっはっ、この施設でそれですんだことがあったか?」
「ですよねー、どれくらいの時間なら大丈夫そうですか?」
「俺にもわからん」
「……えっ?」
正直に答えると、パンドラは固まってしまった。俺だって始めてみるんだからわかるわけないだろう?
「ええっと、それじゃあどんなものかわからない物を私に試そうと言うんですか?」
「いつも俺がやっていることだ、手伝ってくれるよな?」
「そ、そんなの横暴だぁ!」
「わかったわかった、そこまで言うなら俺がやるよ」
「……いえ、せっかくなんで私がやりますね」
「どっちだよ……」
よくわからないパンドラに呆れていると、意を決したのかパンドラが『T-09-i84』に口をつけた。そして鼻から大きく息を吸い込んで、思いっきり角笛を鳴らす。
「うおっ!?」
『T-09-i84』から流れる音は、予想以上に大きかった。この分だとこの懲戒部門の中だったら全体に響き渡っているかもしれない。
「ん? なんだか力が……」
しばらく『T-09-i84』の音色を聞いていると、なにやら体の奥底から力がわいてくるような気がしてきた。試しに“墓標”を振ってみると、いつもよりも体が軽くて動きやすいように感じた。もしかしたらこれが『T-09-i84』の力なのかもしれない。
「なんかのアブノーマリティーで試してみたいけど、さすがに近場には居ないな」
脱走する奴で言えば、『T-05-i18』*2あたりが一番楽かもしれない。『F-02-i06』*3や『F-01-i05』*4あたりも良いが、個人的には苦手な部類だ。
そもそも懲戒部門からだったら結構距離があるため、あまりいい手とは言えない。近場だと『O-01-i33』*5や『T-06-i30』*6がいるが、あいつらをわざわざ脱走させようとは思わない。そんな事をしたら一体どれだけ被害が出るかわからない。
「パンドラ、もう良いぞ」
「えっ、もう大丈夫ですか? 爆発とかしませんよね?」
「もう口を離して何もおこってないから大丈夫だよ」
「はっ!」
俺が指摘してようやく気がついたらしい。慌てて『T-09-i84』を元々おいてあった場所に戻していたが、そんな事をしなくても大丈夫だろう。だから俺に隠れて『T-09-i84』をにらみつけながら威嚇するな。
それにしても、こいつの行動にいらだっていたとは言え、この様子を見ていると少しやり過ぎたのかもしれない。さすがに何かしてやるか。
「悪いパンドラ、少しやり過ぎたかもしれない」
「えっ、別に気にしてないですよ」
「お前のメンタルどうなってるんだよ……」
悪いと思っていたが肩透かしを食らってしまった。もしかしたらこいつは3歩歩いたら直前の出来事を忘れてしまうのかもしれない。
「うーん、でも何かしてくれるというのであれば、次回のお仕置きは見逃して……」
「それはだめだ」
「ですよねー、それじゃあもう少し優しくしてただければうれしいなーなんて」
パンドラの要望に少し考え込んでしまう。こいつに優しくってどうしたら良いんだ? 変なことをしたら調子に乗るだろうし、面倒だ。
「あーもうめんどくさい」
「わー!! いきなり何するんですか!?」
めんどくさくなったので、パンドラの頭を乱雑になでる。パンドラはいきなりでびっくりしたのかうまくていこうが出来ていないようだ。
「お前にはそれくらいで十分だよ」
「ひどいじゃないですかもう一度してください!」
「お前はこれでいいのか……」
もう一回頭をなでてやると、彼女は満足そうにしていた。なんだか最近誰かの頭をなでてばっかりな気がする。
「なんか手慣れてますね、誰にでもこんなことやってるんですか?」
「うるさい」
「ぎゃあぁぁぁ!! 頭を握りつぶそうとするのはやめてください!!」
ほれすぐに調子に乗る。俺はパンドラの頭を握りつぶしながら、収容室から出るのであった。
この笛を吹けば、たちまち勝利を得られると言う
己を奮い立たせ、正義の力が沸いてくる
やがてその力は伝播し、新たなる勝利を求めて……
終わりが始まる
T-09-i84 『終幕の笛』