Days-31 O-03-i20『随分とお世話になったようで』
アブノーマリティーという存在は、我々人間に対して、何らかの悪意や害意を向けてくる物だ。たとえそれらが無く全てが善意であっても、我々とは価値観が根本から違うのだ。
アブノーマリティーは、基本的に我々とは意思疎通は出来ない。意思疎通が出来るような存在は、警戒すべきだろう。今までこの施設に来ている意思疎通できるアブノーマリティーは、あまり害が無いように感じるが、そもそも我々に害を与える存在が意思疎通を図ってくると言うことがおかしいのだ。
意思疎通がとれると言うことは、それほど賢いと言うことだ。そういう奴は大体最初はいい顔をしてくるが、腹の底ではこちらをだまそうとしてくる。
そう、目の前のこいつのように。
「ふむ、良い香りだな。君も一杯どうかね?」
「いや、遠慮しておくよ」
見るだけで上等な物だとわかる燕尾服を着用した威厳のある髭を蓄えた老紳士。しかしその頭部には、随分と立派な角が生えている。人でないことは一目でわかる。どこから持ってきたのかテーブルと椅子を用意している彼は自身で入れた紅茶に口をつけると、満足げにうなずいて笑みを浮かべた。
この存在、『O-03-i20』は随分と特異な存在だ。この施設に来て一日目だというのに、すでに何体かこの施設にいるアブノーマリティーについて知っているような発言をしている。見た目は角以外は人間とそうは変わらないが、穏やかな表情をしつつ一切目は笑っていない。会話の所々に冷淡さが感じられて、こちらを虫けらでも見ているかのような目線だ。そして何より、彼からは濃厚な死の気配を感じる。
正直に言えば、こうやって正面に立っているだけでも震えが止まらない。しかし相手に悟られないように精一杯気力を保つ。
だが、こちらのことなど気にも留めずに、『O-03-i20』は会話を続ける。
「さて、ここのトップと話がしたいのだが、可能かね?」
「さあな、俺だって会ったことがないんだ。たぶん無理だろ」
「嘘はいかんよ、嘘は」
その瞬間、俺は心臓を鷲掴みされたかのような錯覚に襲われた。
まずいな、こいつ人の心を読めるか、嘘を見分けることができるのか。
それに、もしかしたら機嫌を損ねてしまったかもしれない。このまま戦闘に入るかもしれない可能性を視野にいれながら、警戒する。
すると、『O-03-i20』はこちらの態度を見て、鼻で笑った。
「失礼、君の行動も理解できる。今は争うつもりはない」
「そうか……」
緊張が張り詰めていたが、向こうから解いてくれた。とりあえず今は大丈夫なようだ。とはいえまだ油断できない、目的位は聞き出しておきたい。
「そもそも、あんたはここのトップと会って、どうするつもりなんだ?」
「なんだ、そんなことかね」
その質問をした瞬間、先程までの温厚そうな笑みは消え、獰猛で攻撃的な笑みに変化した。
「殺したい相手がいるのさ、場合によってはここの人間すべて」
それは、明確な殺意。今すぐにでも殺してやりたいと言う感情がひしひしと伝わってくる。
あまりにも強い殺気を受けて、怯みそうになる。だが気合いで立っていると、『O-03-i20』は思い出したかのように口を開いた。
「あぁそうだ、伝え忘れていたみたいですね……」
「随分とお世話になったようで」
O-03-i20 『シャイターン伯爵』