「ジョッシュン先輩、メケメケ先輩がひどいんですよ! 私のことを馬鹿にするんですよ!」
「ジョシュアさん、この子の言うことを信じてはいけません! 恩を仇で返そうとするんですよ!」
「……はぁ」
今日はなぜかメッケンナとミラベルとのけんかの仲裁をすることになった。
事の起こりは、ミラベルがナルリョンニャンの最期にショックを受けて落ち込んでおり、メッケンナが慰めようとしたことだった。何でも慰めの言葉をかけるときに余計な一言を入れたせいで、ミラベルが怒ったらしい。それをメッケンナはなぜ怒られているのかわからずにけんかが勃発。なぜかそこに居た俺が仲介役になる羽目になった。
「大体メケメケ先輩は女心がわかって居なさすぎです!」
「そんな事言ったってどうしようも無いじゃ無いですか!」
「あれあれ~、もしかしてメケメケ先輩って女の子と付き合ったこと無いんですかぁ~?」
「……なんですか?」
あっ、これは触れてはいけないことに触れてしまったな。あの温厚なメッケンナが、今までに見たことの無い形相でミラベルをにらみつけている。これはやっかいなことになる前に退散すべきかな?
「いえいえ、それならデリカシーがない事もしかたないですよねぇ~?」
「……」
「あれあれ、何も言い返せない感じですか先輩? 何なら私が乙女心がわかるように手取り足取り教えてあげましょうか?」
「……わかりました」
「えっ?」
おおっと、どうやら風向きが変わってきたようだ。メッケンナがミラベルの手をつかんで立ち上がったぞ。この後どうなるかちょっと気になりますね、わくわく。
「そこまで言うなら手取り足取り教えてもらいましょうか、ボクもあなたも仕事まではまだ時間がありますからね。よろしくお願いしますね?」
「あっ、ちょっと待ってくださいよメッケンナ先輩…… その、私もそんなに…… お、お手柔らかに……」
結局メッケンナに手を引かれて、ミラベルは顔を赤くしながらどこかへ連れて行かれた。……何を見せられているんだ俺は? けっ、なんだかんだで良い感じになりやがって、あとでイェソドに告げ口しとこ。
「さて、それじゃあ俺は仕事に行くかな?」
どうせ俺には新しく入ってきたアブノーマリティーへの初めての作業という重労働が待っている。大体一番はじめにこの作業が来るって事は、たぶんそういうことなんだろうな。一体俺は何回目なんだろうな……
「あっ、ジョシュア先輩!」
今日収容されたアブノーマリティーの収容室に向かっていると、途中でタチアナに出会った。どうやら彼女も今から仕事らしい。すでに装備もつけて準備万端だ。
「ようタチアナ、どうしたんだ?」
「いえ、せっかく見かけたのでお話ししようかと。最近はちょっとタイミングが悪かったので……」
確かに、最近はよくシロが話に割り込んでくる。だが今は彼女は作業中だ、そして何よりパンドラが居ない。これほど話を中断される可能性が少なくなることも無いだろう、あいつはそこに居るだけでやっかいごとを呼び寄せるのだ。だから何か話をしたいなら今が絶好のチャンスだろう。とは言っても、そんなに重要な話でも無いのだろうが……
「それで、何の話だ?」
「とりあえず、この前のお礼をお渡ししようかと」
そう言って彼女は弁当箱を手渡してきた。料理はこの施設において、手作り出来る数少ない物だ。どうやらこの前『O-01-i43』*1の脱走から助けたことを言っているようだ、そんなお返しをされるほどの事はしていないのだが、正直気持ちは嬉しい。
「ありがとう、結構助かるよ」
「良かったです、それで、もし良ければ今日のお昼に一緒にお食事をしませんか? 味の感想を聞きたいのですけど ……出来れば二人で」
「あぁ、それくらいなら大丈夫だ。それならあんまり人の来ない場所を知っているし、そこで食べるか?」
「はい! ……やった」
小声で小さなガッツポーズを取っているが、丸わかりだぞ? いちいち行動が可愛いなこの子、荒んだ心が癒される。
「それじゃあジョシュア先輩、また後でお願いしますね!」
「おう、それじゃあまたな!」
タチアナと別れて今日の作業に向かう。今日作業を行うのは『T-05-i11』だ。T(トラウマ)のアブノーマリティーは久しぶりな気がする。そう言いながらも最近に出会っているのだが、あいつのことは思い出したくない。
「さて、今回は変な奴じゃない事を祈ろうかな?」
そんな事を考えているうちに、ついに『T-05-i11』の収容室の前にたどり着いた。俺はいつも通りに扉にてをかけ、お祈りをしてから扉を開けた。
「うわっ」
収容室の中には、指輪がおいてあった。しかし、ただの指輪では無い。赤黒い肉塊が脈動しながらリングを形成し、本来宝石のある部分には、一つの目がぎょろぎょろとせわしなく視線を動かしていた。
その目玉はこちらを確認すると、先ほどまでとは打って変わってこちらを凝視してきた。試しに動いてみると、目線が俺のほうに動く。本当にずっとこちらをみているので、正直に言うと、気味が悪い。
とりあえず指輪であると言うことから、洞察作業を行ってみることにする。少なくとも外れでは無いだろう。
「さて、取り合えず掃除をしてみるか…… いてっ!?」
掃除の途中で些細なミスをした瞬間、腕に痛みを感じた。思わず痛みを感じた部分を見てみるとなんと赤黒いとげが突き刺さっていた。
そのとげの元を視線でたどってみると、やはりというか予想通りに『T-05-i11』から来ていることがわかった。どうやら俺がミスする度に攻撃をしてくるようだ、あまりミスは出来そうに無いな。
「くそっ、面倒だな」
いつも以上に気をつけて作業を行う。常に視線を感じるので、何だか監視されているような気持ちになる。
「さて、それじゃあそろそろ仕事も終わりとするか……いたっ!」
作業を終えると、『T-05-i11』が目を閉じ俺は左手の薬指に痛みを感じた。驚いて痛みを感じた指をみると、そこには『T-05-i11』と同じような指輪が嵌まっていた。
「……うわぁ、これ面倒なやつだ」
この手の輩は、他の作業を行ったら即死とかが普通だ。相手は善意で渡してくるが、こっちはたまったもんじゃない。浮気防止のつもりだろうか?
外そうと試みるが、とげが返しのようになっており激痛が走って失敗した。これが強制婚約作業か。
後で『T-09-i97』*2にでも浸かりにいこう。
「ふぅ、なんか疲れたな」
作業を終えて収容室から出ると、安堵からため息をついてしまう。自身の体を見てみると、全身傷だらけだ。作業でここまでダメージを負ったのは久しぶりかもしれない。
それに、気を抜くのはまだ早い。さっき『T-05-i11』に付けられた指輪の問題が残っている。これを早くどうにかしなければ……
「まぁ、あいつにだけ作業しておけばなんとかなるだろう」
今日の作業が変更されるのは大変だが、こうすれば面倒事は減るはずだ。
「あっ、ジョシュア先輩!」
疲れた体を引き摺りながらメインルームへと向かっていると、後ろから声をかけられた。この声はタチアナだな。
「よう、どう……ぎゃあぁぁぁ!!!!」
「その体の傷、どうしたんですか!? って、大丈夫ですか!?」
声をかけられたので後ろに振り向くと、タチアナを視界に入れようとすると同時に、目に激痛が走った。
視界が真っ赤に染まり、前後不覚になる。周囲から悲鳴が聞こえてくるが、どこか遠くのことのように感じる。
「ア゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!!」
扉が無理やりこじ開けられる音と共に、おぞましい叫び声が響き渡る。体のバランスが崩れそうになるほどの地響きが連続で起こり、誰かが行動に移すよりも早く
グシャ
Engage! Engage! Engage! Engage! Engage!
Risk Level ALEPH
T-05-i11 『盲目の愛』