「ねえねえ織斑君、向こうのグループで何かあったの?」
さっきからちょこちょこと向こうに行ってるので、何かあったのは間違いないはず。
いくらエネルギー回復のために時間が掛かってるとは言え、これから模擬戦なんだから作戦立てたりなんかしなきゃ駄目だと思うんだけどな。
「なに、大した事じゃ無い。イラついたセシリアがレーザーを乱射して、その一発が織斑先生目掛けて飛んでっただけだから」
「それって大した事だよね!?」
「そうかな?」
首を傾げる織斑君。
これは本音が言ってた通り可愛い……ではなく!
生身の織斑先生にレーザーが当たったらさすがに危ないと思うんだけど。
「まあセシリアは怪我してないから別に心配する必要は無いぞ」
「何でセシリアの心配してるの!?普通織斑先生の心配でしょ?!」
「織斑先生の心配?……何で心配する必要があるんだ?」
「何でって……織斑先生は生身だったんだよね?」
「ああ」
「それでセシリアのレーザーが織斑先生目掛けて跳んで行ったんだよね?」
「そうだが…」
「それなら心配するでしょ!?」
「そう…か?」
再び首を傾げる織斑君。
少しズレているのは知ってたが、まさか此処までとは……
「もしレーザーが当たってたら死んじゃうかもしれないんだよ!?それでも心配じゃないの!!?」
「あの人にセシリアレベルの攻撃が当たるとも思えないしな」
「そう言う問題じゃ無いでしょ!?」
「何をそんなに興奮してるんだ?」
「だって!織斑君にとっては唯一の家族なんでしょ!?何でそんなに冷静で居られるの!?!私だったら絶対に心配する!」
「あれで怪我するんなら、あの人はとっくに死んでてもおかしくないからな。あれくらいで心配したら面倒な事態になりかねないから」
「前半の事実も気になるけど、後半もすっごい気になるんだけど…」
「気にしないでくれると助かる」
「で、でも……」
「気にしないでくれると本当に助かる」
「う、うん…」
威圧感。
この言葉の意味を身をもって体験した気分だ。
普段の織斑君の雰囲気ではなく、これは怒った時の織斑先生の雰囲気に似ている気がする。
それでいて織斑先生みたいに恐怖心を植え付けるでもなく、純粋に相手を威圧するのだ。
「俺は織斑先生みたいに怖がらせたい訳じゃないからな」
「ええ!?」
まさか心を……
「違う違う、顔に出てたから」
「ああ!……ん?」
あれ?私何も言ってないのに会話が成立してる!?
やっぱり織斑君は読心術を使えるのだろうか?
「そんな事出来る訳ないだろ。俺は相手の顔色を見て何考えてるのか推察してるだけだ」
「やっぱり読まれてる!?」
「人の事ジッーと見てそんな顔されたら誰でも分かるぞ」
「私、そんなに見てた!?」
「思いっきり」
うわー!!恥ずかしい……
織斑君の事を無意識に見つめてたなんて……
「相川さん?おーい!」
でもでも織斑君を見つめても恥ずかしくなかったって事は、少しは耐性がついてきたって事かな?
それじゃあ2学期にはもっと仲良くなれたり?
「聞いてる?」
でもでも、本音の不機嫌オーラを如何にかしないと仲良くなんてなれないかな?
いや!本音も普通に仲良くする分には認めてくれるよね、きっと!
「もしもーし!」
そうと決まればどうやって今以上に仲良くなるかよね……
お昼や放課後は織斑君は忙しそうだし、かと言って授業中は無理だし……
授業間休みに話すしか無いのかな?
「相川清香!」
「は、はい!?」
突如名前を呼ばれて私は背筋を伸ばした。
えーと……?
「織斑君?如何かしたの…?」
「如何かしたかはコッチの台詞だ!いきなり考え込んで…何かあったのか?」
「何でも無い!うん、何でも無いよ!!」
「本当に?」
「うん、本当にこれっぽっちも何にも無いの!」
「……まあ、そう言うなら信じるが…」
よし!何とか誤魔化せたのかな?
まさか織斑君と仲良くなるための方法を考えてたなんて言えないしなー……
「準備出来たみたいだし、そろそろ覚悟しろよ」
「え?準備って?」
「……模擬戦の準備。エネルギー回復したみたいだから」
「ああ!」
そうか!今は訓練の真っ最中だったっけ。
すっかり忘れてたよ。
「それで?ラウラ、お前が連戦するのか?それともシャル?」
「本当なら私が兄上とすぐに戦いたかったのですが、静寂が兄上の動きを見てからの方が良いと言うので……」
「なら、シャルか」
「そう言う事みたいだね」
「谷本さんもよろしく」
「う、うん、頑張る!」
「よろしく!癒子もデュノアさんも!」
織斑君が援護してくれるんだし、思いっきり自由に動き回ってやるんだから!
「さて、恐らく何も考えてない相川さんのために言っておくが、訓練だからな。しっかりと評価されてると言う事を忘れないように」
「は、はい……」
1学期の成績は決して良かった訳では無い。
だからこうやって自主参加までしてIS操縦の腕を磨こうと思ってたのに……
織斑君と組めた事でその事を忘れてしまっていた。
「ねえ、織斑君って本当に読心術使えないの?」
「何だいきなり?」
「だってさぁ!」
「俺は釘を刺しただけだろ」
「そのタイミングがあまりにも良すぎるんだよ!」
「何考えてたのかは知らないが、はしゃぐ気満々に見えたから」
「嘘!?そんなに態度に出てたの!?!」
「顔が緩んでたし、コッチみてニヤニヤしてれば何となく想像つくだろ。大方俺の援護を期待して自由気ままに動き回るつもりだったんだろ」
「あ、当たりです…」
そこまでピンポイントに言い当てられるくらいに、私は態度に出てたのか…
は、恥ずかしい!!
織斑君に私の恥ずかしい行動見られた!
これは責任取ってもらうしか……
「あれ?もしもし、またですかー!」
でもでも、織斑君には彼女いるし……
あっ!でも織斑君は1人だけと付き合ってる訳でも無いし、私にも可能性はあるよね!
「大丈夫なのか…?」
それなら責任取ってもらって付き合ってもらえるかな?もらえるよね!
なんて言ったって乙女の恥ずかしい場面を見たんだから、男なら当然だよね!
「いい加減にしろ!」
「ひゃ!?」
「模擬戦直前に良い度胸だな…」
「お、織斑君?」
さっき以上の威圧感を感じる。
そして今度は恐怖もしっかりと感じられる。
これは……織斑先生以上かもしれない!?
「その度胸なら俺の援護など必要なく戦えるな?」
「え?チョッとそれは無理だよ!!」
「緊張感無く余計な事を考えていられる神経の持ち主なんだから、模擬戦なんて余裕なんだろ?なら良いじゃないか。さっさと準備して始めてもらおう。俺は下で見てる」
「ご、ゴメンなさい!だから1人で模擬戦だけは勘弁してください!!」
織斑先生みたいに鉄拳制裁ではなく、織斑君はメンタル面を攻めてくる。
肉体にダメージを与えるのではなく精神的ダメージを与えるのだ。
1人で専用機持ちの居るペアと戦えなんて無理!
撃ち落される前に緊張で胃がやられる……
「嫌なのか?」
「はい嫌です!だからお願い!!一緒に戦ってください!!!」
「……今度余計な事を考えてたら、俺とラウラとシャル対相川さん1人で模擬戦させるからな」
「それってイジメだよね!?」
「文句があるなら、ナターシャ先生と山田先生もつけるが?」
「ど、どっちに…?」
「当然コッチだ」
「もっとイジメ感が出てるよ!?」
「なら織斑先生も参加させるぞ?」
「スミマセン、ゴメンなさい、私が悪かったです、ですのでそれだけは勘弁してください、お願いします」
「そうか……そんなに嫌か……」
「はい!」
「つまんないな」
「ええ!?」
織斑君の放った一言に愕然としてしまった。
今、つまらないって言った!?
「如何言う事かな~?なんて」
「もしまだ反省してないようなら更識、布仏姉妹も追加しようと思ってたのに…」
「本当にスミマセンでした!!!」
「ねぇー一夏、まだ準備出来ないのー?」
「もう出来た。な?」
「うん!もう大丈夫だよー!!」
「それじゃあ始めようよー!」
「そうだな」
デュノアさんに分からないように、織斑君は私に鋭い視線を向けた。
刃物と表現するにも生温い感じのする視線だった。
「さて、今回俺は評価する立場な訳だが、こうして戦う以上手は抜かないからな」
「少しくらい手加減してくれても良いんじゃない?」
「当たり前だ。手加減しなかったら……お前たち明日からIS乗れなくなるかもしれないんだぞ?」
「手加減してくれるなんて、一夏は優しいなー!ねぇ、谷本さん?」
「う、うんそうだね。織斑君が手加減してくれるおかげで明日もISに乗れるんだよね?」
「冗談を言う事も許されないのか、俺は……」
「え?」
「冗談なの?」
「信じたのかよ!?」
一夏は自分の冗談を真に受けられてへこんでいるが、あの雰囲気は本気だと思えた。
それくらい一夏の纏ってた雰囲気は恐ろしいものだったのだ。
「まあ、冗談はさておいても、手加減しなかったら怪我するからな。本当にISに乗れなくなられても困る」
「やっぱ冗談じゃないの!?」
「ん?怪我でもされたら暫く治療のためISには乗れないだろ?」
「あ、ああーそう言う事ね……」
「シャルは俺の事何だと思ってるんだよ……」
一夏は呆れてるが、もし一夏が本気を出したら僕なんてあっさりやられてしまうだろう。
そして僕以上に危険なのが谷本さんだ。
訓練機で、技術もお世辞にも上手いとは言えないレベルだ。
そんな谷本さんが一夏の本気の攻撃を受けたら、精神的ショックからISに乗れなくなってしまうかもしれない。
「ん?デュノアさん?如何かした?」
「う、ううん!何でも無いよ!」
「そう?」
「うん!何でも無い、何でも無い!!」
「シャル、さっさと開始位置に移動しろ」
「分かった!」
一夏に怒られたおかげで、谷本さんの疑いの目から逃げ出す事が出来た。
いくらペア戦とは言え、一夏が相手な以上気を抜く事は出来ない。
僕は雑念を追いやるために首を横に思いっきり振った。
「何してるの?」
「集中するために雑念を追いやったんだ」
「ふ~ん……」
谷本さんがまた僕を見つめるが、今度は気にする事無く受け流せた。
「さて、相川さんが前衛な訳だが、コッチの動きは気にせず自由に、だが油断せずに戦ってくれ」
「でも連携は?」
「須佐乃男の動きについてこれるならあるんだが?」
「ゴメン、無理です」
「だろ?だから相川さんは戦闘技術だけを見る」
「それも自信無いんだけどなー」
「別に誰かを基準にして見る訳じゃ無いんだし、相川さんは自分の力を十分に発揮すれば良いんだ」
「そう言ってもらえると助かるな~」
織斑君の援護があって、連携を気にする必要も無い。
これなら他の人より気楽に戦う事が出来そう。
「無理せず、キツイと思ったら引く事。無理しても良い事なんて無いんだから」
「分かった!」
「良い返事だ」
織斑君はそれだけ言うと集中するために目を瞑った。
確か織斑君が目を瞑ってる時に話しかけると大変な事になるって本音が言ってた気がするし、此処は黙っておこう……
「それではカウントを始める。3……2……1……0!模擬戦開始!!」
ボーデヴィッヒさんの合図で模擬戦が始まった。
私は自分の仕事をするために癒子に向けて突進する。
「行くよ、癒子!」
「清香こそ!」
互いに打鉄に乗り、接近戦をするんだから、同じ武器なのは仕方ないが……
「きりが無いわね!」
「なら、そろそろ終わらせてあげるわ!」
「何よ!?」
癒子が不敵な笑みを浮かべ視界から消える。
そして、私の視界に飛び込んできたのは……
「デュノアさん!?」
「この距離なら絶対にはずさないよ!」
ラピッド・スイッチでシールド・ピアースを展開して私に突っ込んで来る。
「(ああ、これは終わりね……)」
私の諦めとは裏腹に、私の機体のエネルギーは無くならなかった。
「簡単に諦めるとは、如何やら評価は最低で良いらしいな」
「お、織斑君!?」
シールド・ピアースを受け止め、さらにはデュノアさんの機体を放り投げる織斑君が居た。
何時の間に現れたのかは知らないが、ちゃんと援護してくれたらしい。
「さっさと体制を整えろ!また来るぞ!」
「う、うん!分かった!!」
私は移動して再び癒子と対峙する。
「あれで終わったと思ったよ!」
「私も!でもこうしてまだ動けるんだし、簡単にはやられないんだからね!!」
「それは…如何か……な!」
今度は突っ込んで来ると見せかけて背後に居るデュノアさんを隠す作戦だったらしい。
まんまとその作戦に引っかかった私は、今度こそ終わったと思ったのだが……
「気配を殺しきれてない。それにあまりにも単純すぎる作戦だ。これじゃあ良い評価は出来ないな…」
「一夏!?何で…」
「何でって…一応パートナーだから?」
「そこ、疑問系なんだ……」
織斑君に再び助けられて私は生き延びた。
この隙に癒子に攻撃を仕掛けなきゃ!
「えい!」
「きゃ!」
「……子供のチャンバラかよ…」
「女の子はそんな事しないよ、一夏!」
「動きが単純……隙だらけだと勘違いして突っ込む……代表候補生ってのはこんなもんなのか?」
「馬鹿にしないでよね!代表候補生になるためにはすっごく苦労しなきゃいけないんだから!」
「なら、シャルが候補生になれるほどフランスは人材不足って事か…」
「一夏!!!」
織斑君がデュノアさんを挑発している。
駄目だよデュノアさん、これは織斑君が評価するための作戦なんだから……
「戦闘中に冷静さを失ったら終わりだぞ?」
「一夏が僕の事を馬鹿にしたからだろ!」
「見え見えの挑発に乗る……こりゃ何処の訓練に行っても良い評価はもらえそうに無いな」
「え?」
「あんな事本気で言ってると思ったのか?」
「そ、それは……」
「訓練中に動きを停める…これも減点だな」
織斑君はデュノアさんを採点しながら攻撃を止めない。
さっきからマシンガンでデュノアさんを打ち続けている。
「だって!一夏が色々と話しかけるから…」
「一応俺は教官らしいからな。相手の動きや心理をかき乱すのも仕事の内だ」
「絶対違うよね!?」
「だから隙だらけだぞ?」
「!?」
マシンガンをから雪月に持ちかえる。
ラピッド・スイッチ顔負けのスピードだ。
「懐に飛び込まれて無抵抗にやられる……シャル、本当に評価出来ないぞ?」
「ば、僕は……僕は負けない!!」
デュノアさんはシールド・ピアースを須佐乃男に向けて展開した。
所謂最後の足掻きと言うやつだろうか?
「相川さんも余所見してると減点だぞ?」
「へ?…真面目にやります!」
さっきからデュノアさんだけを見ている感じだったのに、しっかりと此方も評価していたのか……
織斑君、恐ろしい人!
「さて癒子、織斑君はコッチの評価してるみたいだし、真面目に行きましょうか!」
「それはコッチの台詞よ!」
パートナーがやられそうな癒子は、早いところデュノアさんの下に行きたいのだろう。
だが、私だって簡単に負けられないんだよ!
「はぁー!」
「やぁー!」
「はい、そこまで!」
「「へ?」」
今まさに衝突する!って時に頭上から声が降ってきた。
間が抜けた声を出す私と癒子だったが、織斑君が癒子の機体のエネルギーをゼロにしたため、この模擬戦は終了した。
たった一撃でエネルギーをゼロにしたのか?
「シャルも下で伸びてるし、谷本さんもボーとしてるし、とりあえず安全な場所に運ぶか」
「え、ええそうね……」
私は織斑君の動きを認知出来なかった。
声だけは確認したが、その次には癒子のエネルギーはゼロになっていた。
もしかして新武装の黒雷を使ったのかとも思ったが、あれは今調整中らしく織斑君の手元には無い。
それじゃあ零落白夜を使ったのかな?
でも、織斑君の持っている剣は鉄だ。
あれじゃあ零落白夜は使えない……
「何?」
「いや、如何やって癒子の機体のエネルギーをゼロにしたのかなーって」
「普通に斬り捨てただけだが?」
「一発で?」
「いや、何度も」
「へ、へぇ~……」
つまりは視認出来る速度以上のスピードで癒子を何度も斬りつけたって事?
「……やっぱり織斑君は普通じゃない」
「何を今更…男でISを動かせる時点で俺は普通じゃないだろ」
「いや!それもそうだけど、戦闘能力も状況判断も相手をかく乱させる腕も!どれもこれも普通じゃないよ!」
「そうかな?」
「そうだよ!」
織斑君は自覚してるのかしてないのか分からない顔で2人をボーデヴィッヒさんたちの居る場所まで運んでいった。
「さすがです兄上!あのようにシャルロットをかく乱するとは…お見事としか言えませんね!」
「ラウラでも出来ただろ?」
「私ではあそこまで真に迫る演技など出来ませんよ」
「相手を騙すには、まず自分自身を騙せなきゃ駄目だぞ」
「なるほど……」
模擬戦が終わったばかりなのに元気な織斑君を見てもう一度思った。
彼は普通じゃ無いんだな~。
精神攻撃は効きますからね~。
シャルで無くともああなると思います。