「一夏様と一緒に居ると、本当に色々な事がありますね。退屈しないのは良いのですが、ありすぎて少し胸焼けしてきましたよ…」
「俺が巻き起こしてるのなら文句も聞くが、俺だって巻き込まれてる立場なんだぞ」
「大変ですねー」
「棒読みで慰められても嬉しく無いんだが…」
話し合いでマドカをこの場所から遠ざける事が出来たが、あれはただの昔話だった気がするんだよな……マドカが言ってる事が本当なら、千冬姉は完全に危ない人だもんな、世間に解き放ってはいけないんだろうな…
「とりあえずは今日聞いた事は誰にも言うなよ」
「何故ですか?」
「確証がある話じゃ無いんだ。余計な心配をさせる必要も無いだろ」
「相変わらず一夏様は他人優先ですね」
「それが結果的に自分の疲労軽減に繋がるんだから他人優先って言えるか如何か…」
周りに言いふらす事はしなくても、誰かの耳に入れば説明やら言い訳やらで結局大変な思いをするのは俺だからな…とりあえずはマドカの言う事が正しいのか確認が取れるまで黙っていよう。
「そう言えば一夏様、さっき渡していたものは何だったですか?」
「寮長室から回収した千冬姉の髪の毛と俺の髪の毛だ」
「如何やって回収したのかはさておき、何故髪の毛を?」
「本当は血液の方が確実なんだろうが、DNA鑑定のためだ」
「それって本人の了承が無ければ出来ないんじゃないんですか?」
「正規の鑑定なら必要だが、今回はマドカが1人で鑑定するようだし平気だろうな」
「そんな事が出来るんですか……」
「一応こっちでも検査はするが、それでどっちが信じられるかが分かるだろうな……」
「こっち……でも?」
「検査結果が改竄されてない保障は無いからな。自分でも検査するのは当然だろ?」
俺がこう言うと、須佐乃男が信じられないものでも見るような目でこっちを見ている…いったい何があったと言うんだ?
「如何した、須佐乃男。何かあったのか?」
「いえ……さすがは一夏様だなって思いまして…」
「何が?」
「鑑定結果を改竄されてるかも何て普通思いませんよ…」
そうか……?正式な場所に頼んで信じられる相手が鑑定してくれたなら兎も角、相手が顔を見せてくれない自称妹なんだ。これくらいの用心はしてもおかしくないと思うんだが、如何やら須佐乃男にとっては驚くべき事だったらしい…
「こっちはこっちでやるんだ。それでマドカが持ってきた結果が同じなら、アイツは信じられる相手って事だろ……一応だがな」
「妹なのに、そんなに警戒するんですか?」
「妹って言っても義妹だからな…血の繋がりが信じられなくなったからと言ってそう簡単に信用するのは危険だ」
「信じていたんですか?」
「いや…本当に血が繋がってるのかと思う事はあっても完全に疑っていた訳でも無い」
「似てる部分はそっくりですが、それ以外はビックリするほど似てませんものね。一夏様と千冬様って」
「それは本当の姉弟でも同じだと思うんだが…」
弾と蘭だって見た目や好みは似ているが、性格なんかは全然似てないし頭の良さだって比べるのも蘭が可哀想なくらい違っている。駄目兄貴を見て蘭が努力したんだろうが、元々のデキの違いもあったんだろうな…
「兎に角、他言無用だからな」
「大丈夫ですよ一夏様!…私は影が薄いですから、聞かれない限り話しませんので……」
「安心して良いのか微妙なんだが…」
須佐乃男の微妙な太鼓判を信じて良いものだろうか……本当なら須佐乃男にも知られたくなかったんだが、ISに乗っていた以上仕方ないと思うしか無いんだろうな…
「それにしても午後の訓練を中止にするなんて、何があったのかしらね?」
「おりむ~に聞けば分かるんじゃないかな~?」
「一夏が教えてくれるとは決ってないけどね」
「学園側が隠している事を、一夏さんが簡単に話してくれるとは思いませんが…」
部屋で荷物の整理をしながら何があったのかを考えてたが、やっぱり肝心な事は当事者に聞くのが手っ取り早いわね。
虚ちゃんの言う通り一夏君が教えてくれるかは兎も角、あれこれ考えてもやっぱり私たちには事情なんて分かりっこないのだ…
「お姉ちゃん、それ私のだよ?」
「え?……本当だ、ゴメンね」
「別に良いけど…」
「楯無様じゃかんちゃんのブラじゃ入りませんよ~」
「本音!!」
「ほえ?」
また本音が地雷を踏んだ……あの子、狙って踏んでるのかしら……
「でも、お嬢様が荷物を詰め間違いそうになるなんて珍しいですね。普段はそんな事ありえないのに…」
「チョッとボーっとしちゃってただけよ」
「そうですよね。織斑先生みたいな変態的思考から簪お嬢様の下着を盗もうとした訳ではありませんよね」
「当たり前だけど、改めて聞くと本当に変態ね……」
「そうですね……」
前々からおかしな思考の持ち主だとは思っていたけど、一夏君の話を聞いてからその思いがより一層強くなった。よくあんな思考の持ち主と一緒に住んでて平気だったわよね…一夏君はそう言った思考は持ってないし、私だったらきっとおかしくなっちゃうかもしれないのに、そこはやっぱり一夏君なんだろうな……
「あまりあの人で遊ばないでくれません?あれでも一応姉なんで…」
「あっ、一夏君」
「スミマセン…」
「別に謝らなくても良いんですが…」
部屋に入ってきてすぐに自分の姉が話題のネタにされてたら嫌だろうな…私だってネタにされてたらなんか嫌だし…
「おりむ~、助けて~!」
「待ちなさい、本音!」
「……今度は何したんだ……」
「何時もの如く、本音が地雷を踏みつけただけよ」
「…学習しないヤツ……」
一夏君のつぶやきに、私と虚ちゃんは大きく頷いた。人間は失敗から何かを学ぶはずなのに、本音は一向に学ばないのよね……
「ほら簪、少し落ち着いたら如何だ?」
「だって!!」
「泣くような事言われたのか?」
簪ちゃんは瞳を涙で潤ませて一夏君に迫る。何てうらやま……ではなく!可愛らしい仕草なんだろうか。私が一夏君だったらきっと簪ちゃんを抱きしめちゃうんだろうな……
「私は~本当の事しか言ってないよ~」
「何を言ったのかはしらんが、本当の事を言うのが必ずしもその人のためになる訳じゃ無いんだ。少しは考えてものを言うんだな……ん?如何した簪…そんな頬を膨らまして…」
「別に……どうせ私は小さいですよだ……」
「?」
簪ちゃんが拗ねた原因に心当たりの無い一夏君は首を傾げて私たちの方を見る。事情を知っている私たちに助けを求めてるんだろうが、その仕草は反則よ!
「一夏様、何故楯無様や虚様の顔が真っ赤なのでしょう?」
「俺に聞くなよ……」
「一夏様が原因なんでしょ?」
「恐らく……」
私たちの顔が急激に赤くなったのを見て、再び首をかしげキョトンとしている一夏君…正直堪りません……
「それで、いったい何を言って簪を怒らせたんだ?」
「駄目!本音、それ言ったら絶対に許さないからね!!」
「かんちゃんがああ言ってるから言えな~い」
「本当に何を言ったんだ……」
一夏にあんな事聞かれたら恥ずかしくて死んでしまう……何で私の周りには私より大きい人ばっかなんだろう……エイミィだって身長は私とそんなに変わらないのに、あの大きさはズルイよ…
「ん?……何だ簪、そんな睨んで。俺の顔に何か付いてるか?」
「う、ううん!何でも無い!!」
「そ、そうか…」
「うん!何でも無いよ、あはは~……」
私の周りって言うよりは一夏の周りって言った方が正しいかもしれないわね…セシリアだってシャルだって箒だって私って言うよりは一夏に付き纏ってるんだし、織斑先生だって山田先生だってナターシャ先生だって一夏の関係者だろう…まあ学園の教師だから私の関係者でもあるんだけど、織斑先生は一夏のお姉さんなんだから、やっぱり一夏の関係者なんだろう…
「そう言えばおりむ~、何で午後の訓練が中止になったのか知ってる~?」
「知ってるが、それを言う訳にはいかないんだ」
「何で~?知ってるなら教えてよ~!」
「駄目よ本音、これ以上一夏君に迷惑を掛けたら…」
「お嬢様?」
「これ以上一夏君に迷惑掛けたら……下手すれば捨てられちゃうかもしれないのよ!」
「な、何だって~!!」
「……何ですか、この茶番臭漂う2人は……」
「私にも分かりません…」
お姉ちゃんと本音の演技に呆れている一夏と虚さん。正直私も呆れてるんだけど、お姉ちゃんの言った通り、一夏に捨てられる可能性はゼロじゃ無いんだ……
いくら一夏が優しいからって、あれほど迷惑掛けられて傍に居てくれるお人よしかって聞かれれば答えにつまってしまう……現に一夏に怒られた事のある2人は―しかもお姉ちゃんは自分で言っておいて―その言葉に恐怖して震えている。
「別に捨てはしませんが、迷惑を掛ける回数が減るのなら1回捨ててみても良いかもしれないですね…」
「嫌!ゴメン一夏君!!これからはちゃんとするから捨てないで!!!」
「私ももっとしっかりするから、お願い!おりむ~許して!!」
「本当ですか?」
「「本当!!」」
一夏の思いつきの発言に震え上がり、一夏の足にすがりつくお姉ちゃんと本音…アレは2人じゃ無くってもすがりつくよ…
一夏の顔を見れば冗談だって分かるんだけど、本当に捨てられたらきっと立ち直れないだろうし、一夏にだって我慢の限界ってものがあるから、冗談じゃ済まないかもしれない可能性が2人の心の中にあるんだろうな…
「まあ冗談はさておき、これからはしっかり働いてくれるようですし、虚さんも少しは楽出来ると思いますよ?」
「そうですね。もし仕事しなかったら一夏さんに捨てられちゃいますからね」
「「えっ、冗談だったの!?」」
「とりあえずは冗談ですが、これ以上迷惑掛けるのなら考えますよ?」
「私、頑張る!」
「私も~!」
一夏は2人のこの宣言に笑顔を浮かべて懐から何かを取り出した……あれは…ボイスレコーダかな?
「一連のやり取りは録音してありますから、惚けようとしても無駄ですからね」
「や、やだな~一夏君。私が惚ける訳無いじゃないの……」
「私だって惚けないよ~……」
「ですよね。それならこれを使う時が無いのを祈ってますよ」
「「は~い……」」
ニッコリと一夏からのドS発言を受けてトボトボと片付けの戻るお姉ちゃんと本音…でも、本当に録音してあるんだるか?
「ねぇ一夏、それって本当に録音してあるの?」
「もちろん冗談だが、あの2人は良い薬だろ」
小声で確認すると、案の定ブラフだった。だが、一夏は少しでも虚さんの苦労を減らそうと考えてこのような手段を取ったのだとも小声で教えてくれた。
自分のためじゃ無くって虚さんのためってところが一夏らしい…それにお姉ちゃんと本音にたいして良い薬なのも本当だしね。
「さて、準備出来たんなら帰りますか」
「そうだね」
「一夏さんの荷物は?」
「着替えだけですし、どうせ1週間後にはまた此処で生活するんですから置いていっても問題ないですよ。それに姉と違ってちゃんと洗濯してますから」
「そうだね…」
「一夏さんですものね…」
一夏が織斑先生が居るであろう方向に向けて鋭い視線を飛ばしながらしみじみと言った事に、私も虚さんもただただ頷く事しか出来なかった…
「それで一夏様、DNA鑑定なんて何処でするんですか?」
「機械だけあれば自分で出来る。機械については心当たりがあるから心配するな」
「……ご自分でするんですか?」
「それが一番確実だろ?それに、このもらった髪の毛の鑑定もしなきゃいけないからな」
「それは?」
「マドカの髪の毛だそうだ」
「なるほど」
更識の屋敷に戻ってすぐ、須佐乃男が俺の部屋を訪ねてきた。別にそれ自体は珍しい事では無いんだが、今回は内容があれなので小声での会話になった。
「それで、心当たりとは?」
「この前お前も行っただろ?束さんの研究所だ」
「でも、何処にあるのかは分からないんじゃ?」
「問題無い」
そう言って懐から携帯を取り出す。相手はもちろん束さんなんだが、その前に研究所に行く理由を作っておく事にしよう。
「よし、これで怪しまれずに束さんに電話が出来るな」
「何をしたんですか?」
「すぐ分かる」
須佐乃男の疑問には答えず、俺は数少ない電話帳に登録されている人から束さんの番号を選び電話を掛ける。
「もしも~し!いっくんから電話なんて珍しいね~。それで、束さんに何の用かな~?」
「クロエさんに料理を教えに行きたいんですが、束さんの研究所って今何処にあります?」
「クーちゃんに?待ってて、今確認するから!」
「ええ」
電話が保留にされ、須佐乃男に話しかける。
「これが理由だ」
「なるほど……相変わらず策士ですね」
「今回はお前を連れて行く訳には行かないからな。安全を確保するためにはこれくらいはするさ」
「別に危険な場所に行くわけでも無いでしょうね…」
須佐乃男は呆れているが、束さんは俺の記憶を消した人かもしれないんだ。それくらいの用心はして当たり前だと思うんだが。
「もしもしいっくん?」
「何です?」
「クーちゃんもいっくんに習うって言ってたし、明日来てくれる~?」
「明日…ですか?」
「うん!束さんは明日からまた忙しくなるから一緒には居れないけど、いっくんの料理を食べて頑張りたいからね~」
「まぁ、それなら明日行きますが…それで場所は?」
「前と一緒だよ~!まだ世の中の屑共にはバレて無いからね~」
「分かりました。それと少し研究所の機械を借りたいんですが、それも良いですか?」
「良いよ~!いっくんの頼みだもんね~」
「ありがとうございます。明日のデザート、期待しておいてください」
「わ~い!いっくん愛してる!」
「では、明日」
「うん、ばいば~い!」
束さんから許可も取ったし、何の機械を使うかは言ってないので千冬姉に情報が漏れる心配も無いだろう。
「一夏様って本当に悪い人ですね~」
「別に善人だとは思って無いが、そこまで悪人でもないだろ?」
「束様の告白をあっさり流してたじゃ無いですか」
「……問題そこか?」
須佐乃男がズレているのか、俺がズレているのか、その事を判定する人間は居ないのでその事は放っておくとしても、俺はそこまで悪人じゃ無いと思ってたんだがな…
「それじゃあ束さん、キッチン借りますね」
「どうぞ~!その後何使うのかしらないけど、いっくんなら壊さないよね?」
「千冬姉じゃ無いんですから、動かないからって殴ったりはしませんよ」
「だよね~!ちーちゃんて何であんなにすぐ手が出るんだろう?」
「さあ?それは俺にも分かりません」
翌日、束さんの研究所に来た俺は、本来の目的の前にクロエさんに料理を教える事にした。あくまでも本来の目的がおまけだと思わせるために……
「それでは一夏様、お願いします」
「こちらこそ……それで、その『一夏様』って言うの止めてもらえますかね?」
「ですが、須佐乃男もそう呼んでると束様からお聞きしました」
「アイツは言っても直さなかったんですよ」
「なら、私も直しません!」
「クロエさんって意外と頑固なんですか?」
「一夏様が『クロエ』と呼び捨てにしてくださるのなら考えますが」
「……なら良いです」
俺に年上女性を呼び捨てにする習慣は無い。彼女である碧さんや虚さん、刀奈さんだってさん付けなんだし、クロエさんを呼び捨てにする訳にもいかないだろうな。
「では、ご指導お願いします」
「そんな気合入れてやる事じゃ無いんですがね…」
この後みっちり指導して、クロエさんは疲れ果ててしまった。俺は作った料理と、約束のデザートを束さんに持って行って本来の目的であるDNA検査をするために使っていない研究室に向かった。
「相変わらず何に使うのか分からないものばかりだな…」
束さんは基本的に作るだけで自分で試す事はしない。その所為で千冬姉が白騎士に乗って大立ち回りする羽目になったんだが…
「その千冬姉も、本当の家族じゃ無いかもしれないんだよな…」
別に家族なんてものに憧れなど持ってないが、自分が本当の家族だと思ってた人がまったくの他人だったら、すこしへこむ……
「この機械だな…」
束さんが何のためか分からないものを作ってくれておいて、今回は助かった。DNA検査なんてそう簡単に出来るものじゃ無いからな…
「まずは俺と千冬姉の髪の毛を調べてっと…」
機械にセットして鑑定を始める……普通の鑑定が如何言うものか知らないが、この機械はセットするだけで鑑定してくれるから便利だ。
セットして30秒、結果がモニターに出た。その結果は――
「やはり血縁関係は認められなかったか…」
――マドカが言っていた通りの結果だった。
その後マドカと千冬姉の鑑定もしたが、やっぱり血縁関係にあった。つまりマドカの言っていた事は事実だと言う事になる……千冬姉…あの人は俺の姉では無かったのだ。
次回で夏休みは終了。学園の生活に戻ります