私はお兄ちゃんが好き。昨日どさくさ紛れでキスを願ったが、お兄ちゃんは私にだけキスしてくれなかった……当然って言えばそうなんだけど、あの流れでは私にもキスするのが普通なんじゃないの?
「でも、それがお兄ちゃんっぽいんだよね」
「何ですいきなり?」
「何でも無い」
隣に座ってお兄ちゃんの部屋を一緒に盗聴している須佐乃男が私のつぶやきに反応した。今私たちは隣の部屋に居るお兄ちゃんの会話を何とかして聞こうと頑張っているのだ。
「一夏様にバレたら怒られるだけじゃ済みませんよ……」
「須佐乃男だってノリノリだったでしょ」
「そうですけど……」
お兄ちゃんは今誰かと電話中なんだけど、その相手が気になってるのだ。須佐乃男なら知ってるかと思って呼んだんだけど、知らないそうなので一緒に探ってるのだ。
「一夏様の事ですから問題あるような方とお付き合いしてるはずは無いと思いますが……」
「お兄ちゃんが誰と話してるかが気になるんじゃなくって、どんな内容なのかが気になるんじゃない!」
「目的変わってません?」
おかしな事を言うわね……私は最初っからお兄ちゃんの会話内容を探るためにこうやって壁に耳を押し当てて盗聴紛いな事をしてるのよ。
「……一夏様の声が聞こえなくなりましたね」
「如何やら電話は終わったようね」
良く聞き取れなかったが、特に問題あるような内容では無かったので、一先ずは安心出来る。もしあの女とか大天災相手だったら携帯を奪い取ってでも文句を言ってやろうと思ってたが、相手はその2人では無かったっぽいし、お兄ちゃんがあの2人相手に会話するとも思えないしね。
「それじゃあ私は部屋に戻りますね」
「うん、お疲れ~」
「お疲れじゃないだろ……」
「い、一夏様……」
「お兄ちゃん!?如何して此処に?」
須佐乃男が部屋を出ようと扉を開けたらお兄ちゃんが頭を抑えながらそこに立っていた。扉でぶつけた訳じゃ無いんだけど、何でお兄ちゃんは頭を抑えてるんだろう?
「お前たちが盗み聞きをしてるのを説教するために決まってるだろ」
「あ、あはは……」
「ですからバレたら大変だと申し上げましたのに……」
「須佐乃男だって最初はノリノリだったでしょ!」
「一夏様の前でそんな事言わないでください!」
「どっちも同罪だ!この馬鹿共が!!」
「「ヒィ!!」」
この後1時間お兄ちゃんの説教は続いた……私と須佐乃男は正座でそれを聞かされて既に足の感覚は無かった。
「ま、今回はこのくらいで許してやる」
「お、終わった~……」
「長かったです……」
「次同じ事したら今回の倍だからな」
「「ヒィ!!」」
今回の倍……つまり2時間は説教をすると言うのか……そんなことされたら二度と立って歩けなくなってしまう……
「大体何で壁に耳を当てて盗聴なんてしてたんだ?」
「お兄ちゃんの電話の相手が気になって……」
「そんな事で?」
「そのようです……」
お兄ちゃんは理由を聞いて盛大にため息を吐いた。
「な、何よ」
「マドカの行動理由に呆れてるんだよ」
「お兄ちゃんにつく悪い虫は私が……」
「虫って何だよ」
軽く頭を殴られて私は途中で言葉を切った……軽くとは言え、お兄ちゃんに殴られたのは記憶に無い……
「電話の相手は更識の人間だ。仕事内容の確認と軽く相談を受けていただけだ」
「それだけ?」
「それだけだ」
お兄ちゃんはそれだけ言って部屋に戻って行く。私は引きとめようとしたけど、足が痺れていて上手く歩く事が出来なかった……
「一夏様、あれは嘘ですよね?」
「何だ藪から棒に」
翌日、一夏様に昨日のマドカさんに説明した内容が嘘では無いかと聞いた。一夏様は特に慌てた様子も無く私に向き直った。
「昨日のマドカさんにした電話の内容、あれは嘘ですよねとお聞きしています」
「何故嘘だと思う?」
この問いかけの時点で一夏様は嘘だと認めているのですが、此処から発言を間違えると本当の事を教えてくれない事が多いのです……誰か、セーブの仕方を教えてください。
「一夏さんに仕事を頼むのは大抵虚様です。少ないとは言え更識の方も一夏様に仕事を頼む事はありますが、それは直接であって電話では無いからです」
「別に電話で頼まれる事が皆無って訳では無いぞ?」
「ですが電話相談は受けた事無いですよね?」
仕事を頼むだけなら電話でもあったかも知れませんが、相談となると話は別です。一夏様に相談する人は結構居ますが、これは全員直接一夏様と会って相談しています。電話相談なんて相手の心理が分かり辛い事を、一夏様がする訳無いのです!
「まあ、嘘だからな」
「やっぱり……」
「で?」
「はい?」
「お前はそれを聞いて何したいんだ?」
「いえ、特に何かをしたいと言う訳では……」
一夏様の鋭い視線を受け、私は思わず一夏様から視線を外しました……
「まあ、大した事話してた訳じゃ無いし、気にするな」
「教えてくれないんですか」
「お前に覚悟が無いからな」
「一夏様に睨まれたら誰だって視線を外しますよ」
「そろそろ授業だ。いい加減教室に行かなきゃ怒られるぞ」
一夏様ははぐらかすようにそう言って教室に向かって行きました……やっぱり最後の最後でミスをしました……
「今日は文化祭で何をするか決めたいと思いま~す」
織斑先生は出張で居ませんが、私がしっかりとクラスの意見を纏めて見せます!
「まややが意見をとるの~?」
「織斑君の方が纏まると思うよ~」
「クラス代表だしね~」
「おりむ~前に出て意見を聞いてよ~」
「山田先生がやるって言ってるのにか?」
「「「「「うん!」」」」」
「ハァ……」
ため息と共に織斑君は立ち上がり教壇に立ちます……どうせ私には無理だって分かってましたよ、シクシク……
「それじゃあ改めて、文化祭にクラスとして何をするかを決めたいと思います」
「は~い!織斑君と一緒に写真を撮れる権利を掛けたゲーム屋は?」
「ポッキーゲームならやるー!」
「織斑君の執事喫茶は?」
「燕尾服の織斑君か~」
「……山田先生、収集つけてくださいよ」
「ええ!?何で私が……」
「貴女教師ですよね」
「こんな時だけ教師だって言われても……」
「俺が収集つけるとなると教室が無事で済むか如何か分かりませんよ?」
「わ、分かりました!」
織斑君の事だから冗談なんでしょうが、万が一と言う事が無いとは良い切れませんし……
「皆さん!少し落ち着いてくださ~い!」
「やまちゃんだって織斑君の燕尾服姿、見たいでしょ?」
「織斑君の?……ああ!」
一夏君、なんてカッコいいんだろう……想像で燕尾服姿の織斑君に『真耶』と呼ばれて私は興奮した。これは実際に言ってもらえたら如何なるんだろう……
「兎に角、俺が何かをするにも他の人は如何するんだ」
「一緒に織斑君と遊ぶ~」
「寧ろお嬢様扱いしてもらう」
「「「それだ!」」」
「ハァ……お前ら、いい加減にしたら如何だ?」
「お、織斑君……」
織斑君から織斑先生以上のプレッシャーが放たれています……さすが姉弟と言う事でしょうか、その雰囲気や与える恐怖感はとても良く似ています。
「今なら特別扱いしてやるぞ?」
「「「本当!!」」」
「ああ……特別に俺が模擬戦の相手をしてやろう」
「「「え?」」」
「真面目にやる気の無いやつはアリーナで根性を叩きなおしてやるって言ってるんだ」
「「「ええ!?」」」
「あ~あ、おりむ~が本気で怒っちゃった」
「一夏様を切れさせるなんて大したもんですね~」
「須佐乃男、それ古いよ……」
織斑君はさっきまで言いたい放題だったクラスメイトに対して容赦なく威圧感を与えています。本当なら教師である私が止めなきゃいけないんでしょうが、織斑君を止めるなんて私には無理ですよ……
「ねえねえおりむ~喫茶店なら良いんじゃない?」
「喫茶店?」
「うん。私たちはメイド服でおりむ~が執事服でさ~」
「お菓子などは一夏様が作れば良いですし」
「お茶の知識もお兄ちゃんはあるからな」
「……それで良いのなら俺は構わんが」
「皆もそれで良いよね~?」
「「「「「賛成!!」」」」」
「だってさ~」
「じゃあこのクラスは喫茶店って事で申請するから」
布仏さんと須佐乃男さんとマドカさんで織斑君の怒りを鎮めてくれました。もしあのまま織斑君が怒ってアリーナに向かったらクラスの半分は明日教室に来れなくなってたかも知れません……本当にありがとうございます。
「一夏君のクラスは喫茶店なんだ~」
「おりむ~がお菓子とお茶を用意して、クラスの女子とおりむ~でおもてなしをするんだよ~!」
「一夏さんがお菓子を作るの?」
放課後の生徒会室。文化祭に関する申請書を見て刀奈さんが興味を持ち、本音が大げさに説明して、虚さんがそれに食い付く。ある意味何時も通りなのだが、その何時も通りは果して良い事なのかと聞かれれば、否だろうな……
「おりむ~が本気で怒っちゃったから私が発案したんだ~」
「如何やったら一夏君を本気で怒らせられるのよ……」
「え~っとね……」
その後本音の事情説明をBGMに俺は残ってる作業を終わらせる事に成功した。これ以上溜め込むのは良くないからな……
「刀奈さん、各部活からかなり申請が来てますが、これはいったい?」
「え?……ああ、それは一夏君を部活に入れろって申請書だよ」
「俺を?」
「せっかくの男子だから殆どの部活が入ってほしいのよ」
「面倒なので拒否したんですがね……」
1学期の初めの方に部活に勧誘されたのだが、面倒だしそれ所では無いって事で断ったんだがな……まだ諦めてなかったのか。
「それじゃあ文化祭で部活対抗おりむ~争奪戦でもする~?」
「本音?」
「じょ、冗談だから。おりむ~そんな怖い顔しないでよ~」
面倒事を起こそうとした本音にキツイ視線を送る。こうすれば少しは反省すると思ったからだ。
案の定本音は慌てだし前言を撤回した。
「でも、これ以上申請書を処理するのは面倒なのよね~」
「処理してるのは私か一夏さんですけどね」
「私だってしてるよ!?」
今度は刀奈さんが虚さんにキツイ視線を向けられて慌てている。普段どれだけ仕事をしてないのかが分かる力関係だ、まったく……
「俺は生徒会もやってますし、そもそも此処の部活はすべて女子部のはずです。俺が入るのは不可能でしょ」
「此処の学園自体、女子高だからね~」
「でも文化部なら入れるんじゃないかな~?」
「料理部とか茶道部なら一夏さんにピッタリかもしれませんね」
「料理は兎も角、何故茶道……」
虚さんが何故茶道部をピックアップしたのかは知らないが、俺は部活などやる気は無いんだ。
「でも、これ以上突っぱねると部活同士で手を組んで暴動を起こしかねないしな~」
「そんな物騒な事をするはず無いでしょうが……」
「普通ならね~。でも、一夏君が絡むとありえるのよ……」
「おりむ~はそれだけ魅力的なんだよ~」
「一夏さんが何処かの部活に所属してれば問題無いんですがね……」
「面倒だから断ってるのに、更に面倒……」
文化祭の前にこの問題を片付けないといけないのか……大体申請書が多いのは剣道部、テニス部、料理部に茶道部、後はラクロス部か……あいつらが原因か?
「兎も角、俺は部活なんてしませんよ」
「それじゃあ薫子ちゃんに新聞に書いてもらいましょうか」
「一夏さんの決意表目ですもんね」
「そこまで大層な事では無いんですが……」
新聞部の黛先輩を虚さんが携帯で呼び寄せ、瞬く間に黛先輩が生徒会室にやって来た……いったいどんな脅しをしたんですか。
「それじゃあ薫子ちゃん、よろしくね~」
「くれぐれも間違いの無いようにお願いします。もし間違えがあれば如何なるか……」
「分かってます!」
「虚ちゃん、少し脅しが過ぎると思うよ」
「そうですかね?」
「あんまり脅し過ぎると耐性が出来ますから、適度に緩めるのが人身掌握のコツです」
「なるほど、さすが一夏さんです」
「この2人怖い!!」
その後黛先輩によって発行されたIS学園新聞によって俺を部活に入れようとする申請書はぱったりと無くなった。
「文化祭の後は一夏の誕生日だね」
「そんなものあったな……」
部屋でくつろいでいたら簪がポツリと言った。文化祭後の1週間も経たない内に俺の誕生日だった。正直この歳で誕生日とかあまり嬉しく無い。
「お兄ちゃんの誕生日には盛大にお祝いしなきゃ!」
「当たり前よ、マドカちゃん!」
「当日はおりむ~にサテライトを仕掛けるからね~」
「本音……多分サプライズだと思うぞ」
サテライトは衛星だ、そんなものを仕掛けられても困る……後サプライズを仕掛ける側に教えるのも如何なんだ?
「早く一夏君の誕生日にならないかな~」
「その前に文化祭があるの忘れてません?」
生徒会は文化祭に来る来賓の案内や招待された客をチェックする仕事があるのだ。それに加えてクラスの出し物を手伝わなければいけないので、当日は大忙しなのだ。
「大丈夫よ~。当日は警備の人も増えるし、更識からも人を出すから」
「人が増えても油断はいけませんよ」
「一夏さんの言う通りです」
「おりむ~とおね~ちゃんは心配性なんだから~」
「でも、一夏様と虚様が心配性だから本音様や楯無様が能天気で居られるんですよ?」
「ちょっと!須佐乃男、それは酷いよ」
「お嬢様は能天気では無く無関心ですものね」
「それも酷い!」
「お姉ちゃん……」
「ヤメテ!お姉ちゃんをそんな哀れむ目で見ないで!!」
簪に哀れまれて、刀奈さんは取り乱した。普段どれだけ虚さんや俺が注意しても聞かないから簪にまでそんな目で見られるんですよ。それに懲りたら少しは真面目に仕事をしてくださいね、刀奈さん。
「ねえねえおりむ~」
「何だ?」
「今度どんなお菓子を作るのか見せてよ~」
「あっ、それ良いかも」
「あわよくば試食……なんて考えて無いだろうな」
「「ギクッ!」」
「図星か……」
本音とマドカが声を出して表現した……今時ギクッって声に出す人なんて居るんだな……
「でも、私も一夏のお菓子食べてみたいな」
「私も~!」
「一夏様のお菓子は滅多に食べれませんからね」
「そもそも一夏さんはお菓子作りませんからね」
「ほらほら~皆もおりむ~のお菓子、食べたいって」
「お願い、お兄ちゃん」
「そんな目で見られてもな……」
材料や道具は揃えれば良いが、文化祭までに練習する時間がとれるかどうか……
「屋敷になら材料も道具も揃ってるよね!」
「一夏君が普段使ってる道具があるよ!」
「それなら今度の週末はおりむ~の作ったお菓子でお茶会だ~!」
「それなら碧さんも居ますし、一夏様が心配する事も無いですね!」
「お兄ちゃんのお菓子!」
「………」
「一夏さん、これはもう収集つかないですね……」
俺が呆れていると、虚さんだけが同情してくれた。ただ、同情してくれるだけで、この事態を如何にかしてくれる気は無いようだ。
「それじゃあ一夏君、今週末は更識の屋敷でお菓子作りの練習ね」
「……練習するまでも無く作れるんですが」
「お茶にあわせてお菓子を作らなきゃ駄目だよ?」
「お茶の葉も取り寄せなきゃね!」
「おりむ~のお菓子!おりむ~のお菓子!!」
「お兄ちゃんのお菓子!お兄ちゃんのお菓子!!」
「一夏様、さすがにこれは私も同情します……」
「須佐乃男に同情される日が来るとはな……」
最早作らないと言っても無駄だし、週末は特に予定は……無いな、うん。弾に何か言われてたがろくな用件じゃなかったから忘れた。
「そう言えば一夏君は誰を招待したの?」
「友達の妹を。来年此処を受験するそうなので下見を兼ねて来たいって言われたので」
「そうなんだ~」
「お兄ちゃんにも友達が居たんだね」
「失礼だなおい」
マドカに軽く睨みを入れ、本音が眠そうになったのでこの話題はお開きになった。
「なあ蘭、それって俺が行っても良いのか?」
「駄目に決まってるでしょ、馬鹿お兄ぃ!」
「だって一夏の招待なんだろ?それなら俺が行っても良いじゃないか!」
「一夏さんは私を招待してくれたの!お兄ぃじゃ無いのよ!!」
「ならもう1枚一夏からもらえないか聞いてくれ!」
「嫌よ。お兄ぃが自分で聞けば良いじゃない」
「俺が頼んでも一夏はくれないんだよ」
「なら諦めれば?」
「そこを何とか!」
「……お兄ぃ、私アイスが食べたいな~」
「分かった、買ってくる!」
「ハー○ンダッツだからね」
一夏さんにもらった招待状でお兄ぃが学園に行けるってよろこんでたけど、同封されていた手紙で私宛だと知るとお兄ぃはガックリと落ち込んでいた。一夏さんは生徒会役員枠で後1人誘えるって言ってたし、アイスもらったら一夏さんに頼んでみよっと。
「買ってきたぞ!」
「ありがと」
「それじゃあ……」
「一応一夏さんに聞いてみるよ」
「頼んだぞ!」
「はいはい」
アイスを食べ終えて一夏さんに事情を話すと、もう1枚送ってくれるとの事。お兄ぃ同伴で行くのは嫌だけど、一夏さんに会えるから我慢してあげよう。
一夏の電話の相手は弾でした。文化祭の招待券をくれと言う内容の電話だったので、一夏も特に隠す必要は無いと思ってたのですが、あえて言う事でも無いのではぐらかしました。