ちっちゃくなったおりむ~に夢中で、誰も私の事を手伝ってくれなかった、こうなったら私にだって考えがあるんだからね!
「はい、おりむ~」
「わ~い、ふわふわの玉子だ~!」
「沢山たべてね~」
「あれ本音、私たちのは?」
「あっちにあるよ~」
「持ってきてくれなかったの?」
「皆だけちっちゃいおりむ~と遊んでたから、今度は私が一緒に遊ぶ番だよ~!」
「みんないっしょがいいな~」
「じゃあ、持ってきて一緒に食べましょう」
そう言っておね~ちゃんたちはキッチンに向かったのだ。
そして……
「まったく、本音も子供っぽいことするわね」
「それだけちっちゃくなったお兄ちゃんと一緒に居たかったって事なんでしょう」
「それで、私たちの朝食は……」
「あれじゃないでしょうか?」
「……トーストと目玉焼きだけね」
「子供っぽい仕返しをしてくれたわね……」
「ですが、作り直す時間はありませんよ」
「仕方ない、これで我慢しようか」
キッチンに置いてあったのは、それでけでした……よっぽど一夏様と遊びたかったんですね、本音様……
「でも、本音の分も無いよ?」
「忘れたわね、あの子……」
「本音なら、やりかねませんから……」
「お馬鹿だもんね……」
「まあ、それが本音様ですから……」
向こうに持ってかれた朝食は一夏様の分のみ、つまりは私たちの考えは当たっているのでしょう。
「さっさと食べて、一夏君を如何するか考えましょう」
「このまま授業に出す訳にも行かないですからね」
「教室に行ったら、それだけでパニックになりそうだもんね」
「あの馬鹿も授業どころでは無くなるでしょうね」
「ですが、一夏様1人で留守番させる訳にもいきませんよ?」
「みんな~、まだ~?」
可愛らしい声で一夏様に呼ばれ、私たちは今まで考えていた事をほっぽりなげて一夏様の所に急ぎます……あの声で呼ばれて無視出来る猛者は、私たちの中には居ないのです。
「いただきま~す!」
美味しそうにご飯を食べている一夏様を見ながら、私たちはトーストを齧り本音様を睨みます。本音様も同じようにトーストを齧りながら一夏様を見ながら、私たちの視線から逃げようとしていました。
「なんで僕だけちがうの?」
「ほえ?」
「僕、みんなといっしょがよかったのに……」
「でも、ちっちゃいおりむ~のご飯の方が美味しそうでしょ?」
「おいしそうだけど……」
「如何したのかな?」
「みんなといっしょじゃないから、あんまりうれしくない……」
一夏様は若干涙目で虚様の質問に答えました。……本音様、ご自分の作戦で一夏様を泣かせてしまったんですから、その責任はとってもらいますからね。
「よしよし、一夏さんは男の子だから、簡単に泣いちゃ駄目ですよ?」
「泣いてないもん!」
「そうですね」
「……虚ちゃんて、保育士とか向いてる気がしてきた」
「私もそう思う……」
「一夏様限定かもしれませんが、あやすの上手いですよね~」
「泣かせたのが妹の本音じゃ無かったらもっと良かったのにね」
「何だよ~!」
私たちから非難の目を向けられ、今度は本音様が涙目になってしまいました。ですが、それを慰める人は、この部屋には居ませんでした。
「現状、一夏君が一番懐いてるのは虚ちゃんのようね」
「落ち着くのかもしれないね」
「でも、このまま3年の教室に連れて行く訳にもいきませんし……」
「山田先生に事情を話して1組に連れて行くしか無いんじゃないですか?」
「でも、1組にはアイツが居るし……それに、お兄ちゃんを狙う娘も出てくるかも知れないし」
「でも~私たちがちっちゃいおりむ~を守ってあげれば平気じゃないかな~?」
「それが一番良いかな?……こんな事になるのなら、碧さんを昨日呼んどけば良かった」
「碧さんが来るのは、夕方以降ですからね」
話し合いの結果、ちっちゃいお兄ちゃんは私たちのクラス――元々お兄ちゃんも在籍している1年1組の教室に連れて行く事になった。
「それじゃあ本音、須佐乃男、マドカちゃん、一夏君の事よろしくね」
「休み時間には私も1組に行くから」
「私たちもなるべく手伝いますね」
クラスの違う3人はこう言ってるけど、本心ではちっちゃなお兄ちゃんと離れたく無かったのかもしれない……
「それじゃあ一夏様、教室に向かいましょうか」
「ん~?」
「「「「「「///」」」」」」
一夏様が首を傾げる度に、私の雑念でついた猫耳も一緒に動きます。その都度私たちは一夏様の可愛さに悶える事となってしまいました。
「さあさあおりむ~、私たちと一緒に教室までの旅に出るのだ~!」
「本音、大げさだよ……」
「でもその前に、一夏君」
「な~に?」
「これから暫くは須佐乃男とマドカちゃんの言う事をしっかり聞いてね?」
「あれ~楯無様、私は~?」
「本音は一夏君と一緒になって遊びだしそうだから心配」
「その時は私とマドカさんで全力を持って止めるのでご安心を」
「その前にあの人が止めるでしょ」
「私、そこまでお馬鹿じゃないよ~!」
本音様のセリフに、私たちは思わず笑ってしまいました。
「ねえねえ、いまなんでわらったの?」
「本音があまりにも可愛かったからよ」
「本音おねえちゃんはいっつもかわいいよ?」
「もう、おりむ~ったら!///」
「うわっぷ!」
本音様に抱きしめられ、ちっちゃくなった一夏様は本音様の胸に押しつぶされそうになっていました……助けなくては!
「ちょっと本音!」
「一夏が窒息しちゃうよ!」
「早く離れなさい!」
「え~!」
「うにゅ~……」
「一夏様、大丈夫ですか!?」
「お兄ちゃん、平気!?」
「……あれ?僕今、どこかの川にいたんだけど……」
「「「「「………」」」」」
一夏様の発言に、私たちは無言で本音様を睨みました。一夏様の言う川は、恐らく三途の川の事なのでしょう、つまりはそれだけ危なかった事なのです。
「え、えへへ~……ゴメンねおりむ~?」
「?なんで本音おねえちゃんがあやまるの~?」
「一夏君が居た川って言うのはね、死んじゃった人が渉る川なのよ」
「そうなんだ~……僕、しんじゃうの?」
「もう平気ですよ」
「本音に窒息死させられそうになったんだよ」
「でも、もうへいきなんだよね?」
「そうですね、一夏様の意識もしっかりしてますし」
「なら、本音おねえちゃんをおこらないであげてね」
「おりむ~……」
小さな身体で本音様を守るように立ちはだかる一夏様を見て、私たちはため息1つでこの場の空気を変える事にしました……泣きそうな子供には、結局勝てないのです。
「よし、それじゃあ教室に行きましょうか!」
「それでは一夏さん、また後で会いましょう」
「どこかいくの~?」
「一夏様も教室に行くんですよ?」
「ほらお兄ちゃん、ちゃんと手を握ってないとはぐれちゃうよ?」
「そこまでこどもじゃないよ!」
一夏様がマドカさんに向かって大人ぶりますが、猫尻尾が不安げに揺れているのを見ていると、やっぱり子供なんだな~っと思ってしまいました。
「でも、1組って今日2組と合同でIS訓練があるんじゃ……」
「「「「「あっ!」」」」」
「?」
一夏様以外がその事に声を上げました。授業なら何とかなるかも知れませんが、実習となると状況が変わってしまいます……ただ座ってるだけで何とかなる座学と、動き回る実習では、一夏様の危険度具合も違ってしまいますし。
「今の一夏君は、ISを動かせるのかしら?」
「如何なんでしょう……ちょっと実験してみます」
「如何やって?」
「(一夏様、聞こえますか?)」
「あれ~?須佐乃男おねえちゃんのこえがきこえるよ?」
「大丈夫そうですね」
テレパスが使えるのなら、今の一夏様でも私を使う事は出来そうですね。もし聞こえなかったら別の考えもあったんですが、使えるなら実習でも平気そうですね。
「ちっちゃくなっても、一夏君は一夏君なのね」
「ですが、今の一夏さんに実習を受けさせるのは危険なのでは?」
「記憶が無くっても、一夏なら身体で覚えてるよ。……きっと」
「私と本音でしっかりとフォローするから」
「任されたのだ~!」
実習には参加させる方向で話しが進んでいます。一夏様なら何とかなる、と言う考えと、さすがに小さくなった一夏様ではどうしようもない、と言う考えが同居している私とは違い、皆さん少し楽観的すぎません?
「それじゃあ、私と虚ちゃんは此処からは別行動ね」
「本音、くれぐれも一夏さんに悪戯しないように」
「しないよ~」
此処から先は1年のエリアなので、2年生の楯無様と、3年生の虚様は別行動になってしまいます。楯無様は兎も角、虚様が居ないと一夏様をあやす人が居なくなってしまうので、若干不安なのですが……
「それじゃあ私も此処だから……一夏、また後でね」
「うん、バイバ~イ」
「///」
簪様も、一夏様の精一杯振っている手と、それにつられて揺れる猫耳、猫尻尾に悶えながら教室に入って行きました。これで残るは私とマドカさんのみ……あっ、本音様も居ました。
「よし、教室に入るよ」
「皆さんがどの様な反応するのか」
「おはよ~」
「ちょっ!」
「本音様!?」
私とマドカさんが、せっかく緊張感を出したのにも関わらず、本音様はお構いなしに教室のドアを開け放ちました。
「僕もここにはいるの?」
「そうですね。一夏様もこのクラスに在籍してますから」
「お兄ちゃんの席はあそこだよ」
マドカさんに手を引かれ、一夏様はご自身の席に着きます……いや、着こうとしました。
が……
「とどかない~!」
普段の一夏様なら悠々届く高さでも、今の一夏様にはまったく届かない高さでした。
「あれ、この子は誰?」
「何処と無く一夏さんに似ているような……」
「貴様、何故兄上の席に座ろうとしている!」
「ひぃ!」
周りの女子――シャルさんとセシリアさんとラウラさんに見つかり、ラウラさんに至っては尋問を始めようとしています……そんな迫ったら一夏様が泣いてしまいますよ!
「い、一夏!?」
「ん~?」
「何故一夏が子供に戻ってるんだ!」
「この方が、一夏さん?」
「猫耳と尻尾がついてる~!」
「ちっちゃくなった織斑君ですって!?」
「可愛いね~」
「うにゃ~」
篠ノ乃さんが、一夏様が小さくなった事を大声で言ったので、クラス中の女子が一夏様に群がってしまいました。
「マドカさん、これはマズイです!」
「そうだね、お兄ちゃんを助け出さなきゃ!」
混乱に乗じて、一夏様によからぬ事を仕出かす輩も居るかもしれません。私とマドカさんは一夏様を守るために人ごみを掻き分けて一夏様の下に急ぎました。
「一夏様!」
「お兄ちゃん!」
「うにゅ~……」
助け出した一夏様は目を回し倒れそうになっていました。
「皆さん、一夏様は今大変な状況なので、なるべく一夏様に関わらないようにお願いします」
「原因は何となく分かってるけど、確証がないから戻せないの」
「もしおりむ~に何かあったら、生徒会長と書記が黙ってないよ~?」
本音様のあんまり怖く無い口調で、もの凄い怖い事を言われ、クラスメイトは渋々一夏様から離れてくれましたが、それでもあきらめきれない人と言うのは何処にだって居るのです。
「小さい一夏か……」
「これが一夏さんの子供時代の姿……」
「普段の凛々しい兄上も良いが、可愛い兄上も良いな!」
「この頃の一夏は、まだ私と会う前だな……印象を変えるチャンスだな」
「貴様ら、既にチャイムは鳴ってるぞ」
「「「お、織斑先生!?」」」
「教官、おはようございます!」
「挨拶はいい、すぐに席に着け!」
「「「「はい!」」」」
私とマドカさんは、一夏様を席に座らせてさっさと自分の席に着いてたのですが、何時もの4人はチャイムに気付かないくらい小さな一夏様に夢中だったようです。
「あれ?織斑君の席に子供が……」
「ん?……気にするな、また何処かの馬鹿の仕業だろう」
「ですが、織斑君は……」
「あれが織斑兄だ」
「え……ええ!?」
山田先生が驚くのも無理はありません。普通人間がいきなり小さくなったら驚きます。ですが、千冬様は何かを納得したように一瞥しただけで山田先生にHRを始めるように促します。やはり千冬様は何か知っているようですね……
教室に来てすぐ、何か異変があったのは分かった。そして一夏が小さくなってるのを見て、私は束があの作戦に成功した事を知った。なるべく表には出さないように真耶を使って冷静を保ったが、内心それど頃ではない。
「(本当に一夏の小さい頃にそっくり、てかそのままだな。ああ一夏、撫で撫でしたい!ギュってしたい!一緒に遊びたい!お姉ちゃんって呼ばれたい!むしろこのまま持ち帰りたい!)」
私は本音を隠すのに苦労しながらも、決してバレないように平静を保った。
「(あの顔は……)」
私はあの女が本性を出さないか観察していたが、緩みきった顔を何とか隠そうとしているあの女を見て、無償に殴りたくなった。あの顔は私とお兄ちゃんを引き裂いた時にしていた顔にそっくりなのだ。
「(でも、いま此処で殴れば、お兄ちゃんを怖がらしちゃうし我慢しなきゃ)」
せっかく懐いてくれたのに、あの女のせいで私まで嫌われたら元も子もない。あの女とお兄ちゃんを比べるなんて、それこそ時間の無駄なのだから。
一夏様が一番前の席で、下に届かない足をぶらぶらしてるのを観察していたら、思わず興奮してしまいました。だって足が揺れる度に一緒に尻尾が揺れてるんですよ!これで興奮しない人が居るのなら今すぐ私の前に出てきなさい!……私は誰に言い訳してるのでしょうか。
HRは特に問題なく終わり(山田先生が鼻血を噴出したが)、そのままの流れで授業に入っていく。今の一夏様に分かるのでしょうか……
「それじゃあ織斑君」
「な~に?」
「ブッ……何か質問は無いですか?」
「大丈夫だよ!」
「そうですか……何か分からない事があったら何でも聞いてね?」
「うん!」
「ブッ!」
今日で山田先生は出血死するのでは無いでしょうか……
一夏様が元気良く答える度にあれだけ鼻血を出していたら、すぐに限界を迎えてしまいますよ。
「ねえねえ」
「何ですか?」
「おねえちゃんの名前は?」
「お姉ちゃんって……私ですか!?」
「うん!」
「私は山田真耶と言います」
「やまだまや……じゃあまやおねえちゃんだね!」
「ブッ……私は先生なので、お姉ちゃんじゃ無くって先生って呼んでください」
「分かった!まや先生!」
「………」
「あれ~?」
反応しない山田先生を不思議そうに覗き込む一夏様……あれは破壊力ハンパ無いですよ。
「叩けば治る」
「そうなの?」
「そうだ。このように……な!」
「痛い!?」
「ほんとだ~!」
無邪気に喜んでいる一夏様ですが、マドカさんの顔が見せられない感じになってしまっています。よっぽど千冬様が一夏様に近づくのが許せないのでしょう。
「山田先生、今は授業中ですので、特定の生徒と仲良くするのは止めてください」
「スミマセン!」
「では、授業を再開してください」
千冬様はあくまでも教師としての立場を貫くようです……普段の一夏様なら顔色から内心を窺う事も出来たのでしょうが、今の一夏様にはそのような事を望むのは無理そうですね。
真耶が一夏に名前で呼ばれ、しかもお姉ちゃんと言われた……
「(ズルイ!ズルイズルイズルイズルイ!!私だって一夏にお姉ちゃんって呼ばれたい!)」
しかし今は授業中だ。教師である私が公私混同しては他の生徒に示しがつかない。
「(だが、何とかして一夏に『千冬お姉ちゃん』と言わせたい……何とかならないかな?)」
私は真耶のように座学を担当してる時も、生徒に質問が無いか確認する事も無く、授業が終わったら分からない所は周りのヤツに聞くように言っている……こんな事なら普段から生徒に質問が無いか確認してれば良かった。
後悔したところで、時既に遅し……こうなったら別の手段で一夏にお姉ちゃんと呼ばせてみせる!
授業は、所々山田先生が鼻血を出す以外は順調に進み、一夏様の特に問題無くISの事を理解している様子だった。
「(やはり、小さくなっても一夏様の記憶はあるようですね)」
一夏様本人なので、普段の記憶が残ってても何もおかしくは無いのですが、普段の行動とかけ離れてる今の一夏様を見ると、ISの知識だけが残ってるのは何かおかしな気分なのです。
「(束様は狙ったのでしょうか?それとも、これは偶然の産物なのでしょうか?)」
最早この現象の原因が束様である事を疑ってない私ですが、束様が今何処に居るのか分からない以上、今の一夏様を精一杯守らなければいけないのです。
「(それにしても……)」
教科書を精一杯理解しようとしている一夏様の姿は、なんて愛らしいのでしょうか。
計画は台無しになってしまいましたが、これはこれで良かったのかもしれませんね……一夏様本人は堪ったものじゃ無いでしょうが……
何か、山田先生がキャラ崩壊してる気が……無邪気に周りを引っ掻き回すいちか君、次回もまだまだ引っ掻き回します。