生徒の殆どと織斑先生、山田先生が小さくなった一夏君に悶えてけど、正直私も気持ち的には皆に近いものがあった。
私が冷静で居られたのは、他の人があまりにも興奮していたのでそれで落ち着きを取り戻したという感じだ。
「(それにしても、本当に小さくなってるわ……話半分で聞いてたけど、これは確かに可愛いわね)」
職員室でも、一夏君が小さくなった事は話題になっていたが、まさか本当に小さくなってるとは思って無かったのだ。
「(普段の一夏君からは想像出来ないくらい素直な子よね~)」
「よいしょ、よいしょ……ん?」
準備運動をしていた一夏君が、私の視線に気付いて首を傾げた。
「どうして僕をみてたの?」
「一生懸命だな~って思ってね」
「だって、けがしたらみんながしんぱいしちゃうから」
「そうだね。怪我したら大変だもんね」
「うん!だからしっかりとじゅんびうんどうをしてるんだ!」
「そっか、えらいね~」
「えへへ~」
捻くれてない分、とても素直な一夏君に戸惑いながらも悶えそうになるのを必死に隠しながら、私は一夏君の頭を撫でた。
「おねえちゃんもせんせいなの?」
「そうだよ」
「なんてよべばいい~?」
「私はナターシャよ」
「ナターシャせんせい?」
「それで良いよ」
「じゃあナターシャせんせい!」
「~~~///」
名前を呼ばれ、ついに我慢出来なくなってしまい思いっきり悶える。チャンスがあれば録音して着信音にしたいくらいね……
「何時まで悶えてる馬鹿者!」
「痛っ!……お、織斑先生」
「そろそろ始める、準備をしろ」
「はい!」
さっきまで悶えていた他の人は、既に準備出来ているようで、後は私が戻れば始められる態勢が整っていた。
「それでは、今回はより実戦に近い形での訓練を行う。ナターシャ先生、山田先生、見本をお願いします」
「はい」
「分かりました~」
実戦に近いと言っても、本当に怪我などをさせると後々面倒なので、そこだけは注意しながら攻撃する事になる。山田先生は実戦経験はそれほど無いが、元代表候補生なだけあって実力は教師陣の中でも指折りだ。
「緊張しますね~」
「お互い、怪我だけは気をつけましょう」
「そうですね~」
ISを纏い、空中でのおしゃべりだが、山田先生はリラックスしてる感じがする。
「そう言えばナターシャ先生」
「何ですか?」
「さっき織斑君を見て悶えてましたね」
「あ、あれは……」
「誤魔化さなくっても良いですよ~。私も悶えてましたから」
いや、そこで同類判断されても困るのだが……
「可愛いは正義ですよ!」
「はぁ……」
イマイチ山田先生の性格が掴めない。内気なのかと思えば、今回のように積極的に話しかけてく時もあるので、どちらが素なのか判断に困るのだ。
「そろそろ始める。準備は良いですか?」
「ええ」
「何時でもどうぞ」
「ではカウントを始める」
オープンチャネルから織斑先生の声、私と山田先生は一気に気を引き締めてカウントを待つ。
生徒の中にも実戦経験がある人は居るが、それは極少数なので『見せる』戦闘をしてもそこまで違和感を持たれる事も無いだろうな……
「3……2……1……」
おっと、考え事をしていたらカウントが始まってしまった。山田先生の表情は、カウントが減るにつれて引きつっていくが、あの顔に騙されると私が痛い目を見る事になるからな……自信の無さを除けば、国家代表になってもおかしく無い実力を有しているのだ……そうは見えないけど。
「0、開始!」
織斑先生の開始の合図で、私たちは互いに距離を取る。私も山田先生のどちらかと言えば遠距離主体の戦い方を得意としている。
私の専用機、銀の福音は遠距離主体の機体だし、山田先生の使っているラファールも遠距離武器の多い機体だ。
ある程度打ち合った後、モニターでグラウンドを見ると、大半の生徒はその迫力に圧倒されていた。そう、ある程度の生徒はだ……
上空の戦闘を見ながら、私は生徒の観察をしていたが、実戦経験のあるボーデヴィッヒ、オルコット、凰、デュノア、布仏妹、そしてマドカは驚いた様子も無く落ち着いた表情で教師2人の模擬戦を見ている。実戦をモニター越しで見た篠ノ乃も、6人に比べればそうでも無いが、他の生徒よりは落ち着いている。やはり実戦と実戦風では迫力が違うのだろうな。
集団の中に一際はしゃいでいる生徒が居る、いったい誰だ……
「すごいすごい~!」
「一夏様、少しお静かに」
「須佐乃男おねえちゃんもあんなことできるの?」
「私個人では無理ですが、一夏様となら出来ますよ」
「そうなの?」
一夏か……小さくなった一夏だが、実戦風の模擬戦を見ても脅える事も無く、むしろ楽しんでいる感じすらする。
「織斑兄、はしゃぐのも良いが、しっかりと見ておけよ」
「僕?」
「そうだ」
「は~い……」
自分が兄だと呼ばれ不思議そうに首を傾げながらも頷く一夏、ああもう!可愛い、可愛いぞ一夏~!!
「おこられちゃった」
「ですからお静かにって言ったんですよ」
「えへへ~、はんせい~」
「ほら、しっかり見てないと、また怒られますよ」
「わかってるよ~」
今だけ須佐乃男になりたい……私も一夏にあんな風に頼られたい、接したい、優しく怒りたい。
いかんいかん、私は教師なんだ。1人の生徒にばかり構っていては教師失格だな。
気持ちを切り替えて再び上空に目をやると、ナターシャ先生が山田先生を撃ち落すところだった。やはり候補生止まりだった山田先生と、実戦経験のあるナターシャ先生ではまともに相手出来なかったか。
「では次は、実戦経験のある者同士で模擬戦をしてもらう。誰かやりたい者は居ないか?」
実戦経験のある生徒、ボーデヴィッヒ、オルコット、凰、布仏妹、デュノア、マドカはそれぞれに顔を見合わせ、やりたくない感を出している。
「誰も居ないなら此方で指名するが?」
積極性の無い6人に教師権限で無理矢理やらせても、あまり良い結果には繋がらないだろう。だが、それでも指名しなきゃ進まないのも事実、私は誰か立候補してくれないかと淡い期待を抱いていたのだが、それでもやりたく無さそうな雰囲気だった……仕方ない、マドカとボーデヴィッヒにでもやらせるか。
私がそう考えたその時――
「僕やるよ~!」
「は?」
――この雰囲気に不釣合いな明るい声で一夏がそう言った。
確かに一夏も実戦経験はあるが、それは本来の姿の時の一夏であって、今の一夏はまだまだ子供だ。
危険だから止めさせようとしだが、一夏の顔を見たらそれを言い出せなくなってしまった。
あまりにもきらきらと目を輝かせ、まるで私が許可するのを信じているような目で見られてしまったのだ。あの目には逆らえない……
「それでは織斑兄に頼もう……」
「やった~!」
「では、もう1人誰か居ないか?」
右手で頭を抑えながら対戦相手を考える。実力的に考えると凰かオルコットが安全だが、今の一夏の実力が分からない以上、誰が相手でも危険なのに変わりは無いか……
「私が相手をしますわ!」
「いや、僕が一夏の相手をするよ!」
「いやいや、アンタたちよりはアタシの方が一夏の相手に相応しいと思うけど?」
「小さくなった兄上の実力を見たい。私は此処で見ているとしよう」
「私も~今のおりむ~とは戦えないかな~」
「私も、小さいお兄ちゃんとは全力で戦えないよ」
「と言う事は、候補はオルコット、デュノア、凰の3人か……それならお前たちで決めろ」
決して面倒だからではなく、此方で決めるよりも自分たちで決めた方が納得するだろうと考えたからだ。
「それじゃあ、此処は公平にジャンケンで決めましょうか」
「そうだね」
「誰が勝っても恨みっこ無しよ!」
「「「最初はグー、ジャンケンポン!」」」
凰、オルコットがグー、デュノアがチョキだ。この結果一夏の相手候補からデュノアが脱落した。
「鈴さん、貴女とは何時か決着をつけたいと思っていましたの」
「偶然ね、アタシもアンタとは何時か白黒はっきりさせたいと思ってたのよ」
あの2人、何があったんだ……私の知る限り、凰とオルコットの関係はそんなに酷くないのだが、互いに何かあるのだろうか?
「2人とも、変に雰囲気出さなくて良いから……」
「あら、今はそんな感じな雰囲気を出す場面ではなくて?」
「アタシもつい乗ったけど、多分違うわよ」
「遊んでないで、さっさと決めろ、この馬鹿共が!」
「「イタッ!」」
ふざけてただけならそう言え、本当に何かあったのかと勘ぐったじゃないか。以外とノリが良いんだな……
「「最初はグー、ジャンケンポン!」」
今度は凰がパー、オルコットがチョキ、つまり一夏の相手がオルコットに決まったのだ。
「さぁ一夏さん、私が相手ですわ!」
「わかった~、よろしくね~」
「軽ッ!」
「ん~?」
「いや、何でもありませんわ」
教室では若干怖がられてたオルコットだが、今は戦う事で頭がいっぱいなのだろうか、一夏は特に気にした様子もなく対戦相手を受け入れた。
「では、1分後に合図をする。各自準備を始めろ」
「分かりましたわ!」
「は~い」
「~~~」
「?」
あまりの可愛さについ悶えてしまった。昔の一夏もこれくらい可愛かったが、私も若かったからな。今の方が一夏の可愛さが分かる。
「何でも無い」
「そうなの?」
「ああ……」
「そっか。じゃあ須佐乃男おねえちゃん、行こっ!」
「分かりました」
パタパタと効果音をつけたくなる走り方で私の傍から去っていく一夏、本当は後ろから抱きしめたいのだがグッと我慢した……誰かこの気持ちを共有出来るヤツは居ないのか!
一夏様が立候補したのには驚きましたが、まさかそれを千冬様が許可するとは思いませんでした。千冬様のお立場なら、危ないから止めさせる事も出来たでしょうに……
「須佐乃男おねえちゃん、僕がんばるね!」
「そうですね、一緒に頑張りましょう」
あっ、この目で見られたら駄目って言えませんね……きらきらと輝く一夏様の目を見て、私は千冬様の気持ちが分かったような気になりました。
「では一夏様、展開してください」
「どうすればいいの?」
「そうですね……ISを呼ぶ感じで」
「?よくわからないけど、やってみるね!」
そう言って一夏様は目を瞑って集中し始めました。何だか可愛らしいと思ってしまうのは仕方の無い事だと思います。
「うにゅにゅにゅ」
「少し力みすぎですね。もう少しリラックスしてください」
「う~ん……むずかしいね~」
「頭の中でイメージしてください」
「イメージ?……あっ、できた!」
一夏様は今度はあっさりと展開する事が出来ました。先ほどと何が違ったのか私には分かりませんが、一夏様なりに変えたのでしょう。
「(一夏様、それでは空を飛んでみてください)」
「わかった~」
一夏様は私を展開するのには手こずりましたが、IS操縦自体はそれほど問題無く出来るようでした。
「わ~い!」
「(楽しそうですね)」
「うん!」
一夏様は無邪気に喜んでますが、これからセシリアさんと模擬戦をするのを忘れてるんじゃないでしょうね。
「(一夏様、一応確認しますが……)」
「な~に?」
「(武器の特性などは分かってますよね?)」
「だいじょ~ぶだよ」
「(本当ですか?)」
「うん。ビューンてちかづいてバーンってきればいいんでしょ~?」
「(う~ん……大まかには合ってますが、本当に大丈夫なのですか?)」
凄く不安なのですが……
「準備は良いか」
「大丈夫ですわ!」
「僕もへいきだよ~!」
一夏様は平気かもしれませんが、私はまだ心の準備が出来てませんよ!
「では3つ数えたら始める」
今の私の声は千冬様には聞こえないので当然、当事者の2人が平気と言ったらそれで千冬様は平気と判断するのだ。少しは私の気持ちも考えてくださいよ!
「一夏さん、手加減は出来ませんよ?」
何言ってるんですか!今の一夏様相手に手加減しなかったら、もしかして大怪我に繋がるかもしれないんですよ!!
「僕もがんばるよ~!」
ああもう!こっちはこっちでマイペースなんですから……でも、そんな一夏様も可愛いんですよね~……じゃなくて!!
「3……2……1……」
って!もうカウント始まってるじゃないですか!!もう、こうなったら一夏様を信じるしか無いですね。
私は覚悟を決めて、一夏様が怪我だけはしないように頑張ろうと思いました。まさかあのような結果になるとは、今の私は思ってもいませんでした……
一夏さんには悪いですが、せっかく一夏さんに勝てるチャンスですので、私本気で行かせてもらいますわ!
織斑先生の合図を待つ間、私は一夏さんの様子を観察してました。
楽しそうに空を飛んでいる一夏さんを見て、これなら簡単に勝てそうだと思いました。本当の一夏さんには如何頑張っても勝てそうに無いので、せめて今の一夏さんには勝っておきたいですわね……この際プライドとかは気にしない事にしましたわ。
「3……2……1……」
織斑先生のカウントが減るにつれて、私は集中したのですが、一夏さんの方は先ほどと何も変わらない雰囲気で笑っておられました。何だか申し訳無い気持ちと、これなら勝てると言う気持ちが合わさって、何だか複雑な気持ちになりました。
「0、開始!」
「行きますわよ!……あら?」
カウントが終わり、私はブルー・ティアーズを展開して牽制をしようとしたのですが、一夏さんの姿は何処にもありませんでした。何処に行ったのでしょか?
「!?」
気付いたのは、ただの勘でした。後方に危険を感じ、私は咄嗟に回避行動を取りました。そのすぐ後、私が居た場所にもの凄い威力の風が襲い掛かってきました。
「よけられちゃった~」
「一夏さん!?」
「ん~?」
「今のは危なかったですわよ!」
「だってたたかうんでしょ~?」
「そうですけど、手加減ってモノを知りませんの!?」
「だってそっちもてかげんしないっていってたよ~」
「………」
確かに、確かに言いましたけど、私の手加減無しと一夏さんの手加減無しでは、危険度が違い過ぎますわ!
「わ~い!わ~い!」
「ちょっ、危ないですわよ!」
「こうげきしてるんだから、あぶなくてもしかたないよ~?」
確かにそうですけども!
無邪気に笑いながら攻撃してくる一夏さんは、普段の一夏さんより危険かもしれませんわね。何故今なら勝てるなんて考えたのでしょう……
展開したブルー・ティアーズも、早々に破壊され、私は防戦一方……いえ、惨めに逃げ惑う事しか出来ませんでした。
「いけいけ~!」
「助けてくださいませ!」
「だめだよ~。どっちかがうごけなくなるまでやるんでしょ~」
「降参、降参ですわ!」
「え~、つまんないよ~」
「織斑兄、オルコットは戦意を喪失している。それ以上の攻撃は止めるんだ!」
「つまんないな~……うん、わかった」
「「?」」
一夏さんは少し間を空けた後、誰かに説得されたような反応を示しました。いったい誰に諭されたのでしょう……
あまりにも無邪気に攻撃する一夏様を前に、セシリアさんは降参を申し出て千冬様がそれを受理したのにも関わらず、一夏様は攻撃を止めようとはしませんでした。それなのでついつい口調が強くなってしまったのですが、一夏様はすんなりと攻撃を止めてくださいました。やはり、根はいい子なのでしょうね。
「(それにしても一夏様、展開には手こずったのに、もの凄い鮮やかに操縦しましたね)」
「そらとんでたらうごかしかたもわかったんだ~」
「(そうなんですか~)」
「うん!」
簡単に言ってますが、今の一夏様の頭の中って如何なってるんでしょうか。あまりにもチグハグな記憶、それでも問題無く動かせるIS……束様、やはり何か弄くったんじゃないでしょうね!?
「織斑兄、オルコット、地上に降りて来い」
「わ、分かりましたわ……」
「は~い」
色々気になりますが、可愛いので善しとしましょうか。
「おりむ~、凄かったね~」
「何時も以上に容赦無かったね、お兄ちゃん」
「もうちょっとやりたかったな~」
「ですが、しっかりと勝ったんですから、今はそれで十分ですよ」
「そっか。おねえちゃんがそういうならいいや」
「いい子ですね~」
「えへへ~」
一夏様の頭を撫でると、気持ち良さそうに尻尾が揺れています。本音様とマドカさんの自分も撫でたいと言う感じの視線には、あえて気付かないフリをします……
「それではグループを作り各自戦闘訓練を始めろ。リーダーは専用機持ちがする事、ただし織斑兄は布仏妹か織斑妹と同じグループになるように。ではグループを作れ!」
千冬様の合図で、生徒が一斉に専用機持ちの周りに移動を始めます。この後、いったい如何なるんでしょうか……とても不安ですが、一夏様なら大丈夫な気がします。
子供の無邪気さは、時に恐怖心を覚えますよ……笑いながら蟻を殺したりして……自分も昔はそんな子供だったのかと思うと、年齢を感じます……まだ20代なのに……