身体中が痛む……おそらくは成長痛だろう。縮んだ時には何も感じなかったが戻る時には痛みを伴うのか……どうせなら戻る時も何も感じないようにしてくれれば良かったのにな……まあ、痛もうがそうじゃなくても説教するのには変わらないのだがな。
「(今回は小さくなった時の記憶は残ってるし、色々と顔を合わせずらい事をしてたな……小さい時の俺にもう少し仲良くしろと言われてるが、これは難しいぞ……)」
皆との付き合い方も問題だが、何よりも最初にしなきゃいけないのは、首謀者と思しき奴らへの説教を制裁だな……
「(問題は、2人なのかそれともまだ協力者が居るのかだな……)」
束さんと千冬姉は確定だろう……だが、2人だけで計画を実行したとも思えない、もう1人くらい居るのか?
「(聞き出すにしても如何やって聞き出すかだよな……脅せば何とかなるか?)」
千冬姉は脅しても快感を覚えるだけの変態だから、もし脅すなら束さんだろうな。所在はクロエさんに聞けば何とかなるだろうし、此方の動きを悟られないようにしなければ逃げられる可能性は十分あるからな……慎重に行動しなくては。
俺は痛みも和らいだ事なので行動を開始しようとして目を開ける。
「(キツい……須佐乃男のヤツ、サイズ間違えたな)」
身体中が痛んでいた原因の何割かはこれの所為だろう……須佐乃男が用意した服は俺の普段着ているサイズの1周り小さいものだった。
「(とりあえず着替えるか……)」
俺は自分の着替えを収納してあるクローゼットに向かい、とりあえず外出用の服を引っ張り出した……束さんの居所を探るのは面倒だし、もし遠かったら授業をサボる事になるだろうな……
「(ん?)」
ズボンのポケットに何か入っている……前に確認した時には何も無かったので、恐らくは小さくなった時に何か入れたのだろうが……最後の方は記憶があやふやで、一々何をしたのかは覚えて無い……小さい時の俺もそれが分かってたからこんな事をしたのだろうな。
「(えーっと何々……これはしなくてはいけないのだろうか……)」
紙に書かれていた事は、小さい時の俺が考えた皆と仲良くなる方法なのだが、あまりにもそれを実行するには勇気がいるのだ。
「(子供の発想って怖いな……)」
今の俺なら絶対にこんな事思いつかないし、思いついたとしても実行しようとは思えないだろうな……しかし、戻る時にあんな泣き顔で言われたら考えない訳にもいかないし……
「(ああもう!これもすべてアイツらの所為だな)」
すべての原因を首謀者2人になすりつけ、俺はとりあえず束さんの所在を確認するためにクロエさんの番号を呼び出す……こんな時間だが、クロエさんは何時でも大丈夫だと言っていたので(多分社交辞令だが)、今はその言葉を信じる事にした。
「(メールだと気付かない場合もあるからな……)」
携帯を弄っていると、なにやら不可解な事を見つけた……発信履歴に束さんの番号がやたらと残っているのだ……誰が使ったんだ?
「(少なくとも、小さい俺が束さんに電話を掛けたと言う事は無いだろう。そうするといったい誰が……携帯を貸した記憶は無いし、寝ている時に使ってたのだろうな……可能性としては、束さんと面識のある人間だが……そんな事をして利益のある人に心当たりは無いんだよな……)」
考えても分からない事は一先ず置いておくとして、クロエさんに電話で所在確認をする事にした。
「はい」
「スミマセン、クロエさん、一夏です」
「分かってます……その様子ですと元のお姿に戻られたのですね」
「やはり知ってましたか……それなら何故俺がこんな時間にクロエさんに電話を掛けたのかも分かりますか?」
「大よその見当は……今はIS学園の傍の上空に居ます」
「詳しい座標を携帯に送ってくれませんか?」
「分かりました……ですが、程ほどで勘弁してあげると私としても助かるのですが……」
「それは反省の色次第ですね」
クロエさんは、束さんに仕えているようなものなので、その主に危機が迫ってる事を分かってなお俺に居場所を教えてくれた。だが、一応の心配はしてるようで、やりすぎたら何をされるか分からない感じはした……クロエさんの料理を食べさせられたりしたら、それだけで胃痛で死にそうだ……
「(加減は苦手だが、精々気にしておこう)」
せっかく元に戻れたのに、初日からダウンしたら皆に迷惑を掛ける事になるからな……あの計画を実行に移さないためにも、なるべく気をつけようと心に決めた。
如何やら一夏様は、小さくなった原因が束様だと言う事は気付いている様子でした……まあ、あんな事を実行できる天才は1人しか居ませんし、そもそもそんな事をする天災も1人しか居ませんしね……
「ですが、こんな朝早くから一夏様のお声が聞けるなんて……」
今日はきっと良い日になるでしょうね。
「しかし、座標を教えたからと言って、如何やって此処まで来るのでしょうか……前回来た時は束様がこの研究所を地上に下ろしていたから平気だったのですが、今は宙に浮かんでいるのですよね……」
いくら一夏様が人間離れした身体能力の持ち主であっても、宙に浮いた視認する事の出来ないこの建物に来るのは不可能では無いのでしょうか?
「ISに乗ってくるのなら平気でしょうが、須佐乃男さんが起きてるとも思えませんし……」
あれこれ可能性を考えては見たものの、どれもこれも可能性は低いとしか考えられないものばかりで、私は困った。如何やって一夏様が此処に来るのかが気になって他の事が手につかなくなってしまったのだ。
「一夏様はいったい如何やって……誰です!」
廊下に気配を感じ、私は大声でその気配の持ち主に呼びかけた。気配は分かっても、私にはその気配が誰のものかを判別出来るだけの能力は無いのです。
「廊下までブツブツとクロエさんの声が聞こえてましたよ」
「一夏様!」
「お邪魔します、クロエさん」
「何時の間に……」
つい先ほど電話で此処の場所を教えたばかりなのに、一夏様は既に忍び込んでいました……もしかしてワザと気付かせたのでしょうか?
「束さんは何処に居ます?」
「恐らく研究室に篭りっきりかと……」
「そうですか、それなら分かりやすい」
「先ほども言いましたが、くれぐれもやり過ぎないようにお願いします」
「善処はしますが、確約は出来ません」
一夏様は申し訳無さそうに手を合わせ束様が居るであろう研究室に向かいました。それにしてもやはり実際に会うのと映像では一夏様の魅力は桁違いですね。
「束様はお気の毒ですが、これはこれで良かったです」
これから説教されるであろう主には申し訳ないですが、そのおかげで私は本当に幸せな気分を味わえましたよ。
いっくんの映像を整理していたら、いつの間にか寝てしまっていたようだ……整理しながら少なくとも10回は絶頂を味わってしまって疲れたのもあるだろう……それにしても、やっぱいっくんは良いな~。
「う~ん……いっくん……」
いっくんの事を考えてたからだろうか、何だかいっくんが近くに居るみたいな感覚がするんだよね~……まあ、そんな事はありえないから、これは気のせいだろうが。
「むにゃむにゃ……いっくん、そこはダメだよ~」
「何がですか?」
「そこは束さんの……えっ!?」
まさか返事があるとは思って無かったつぶやきに、勘違いだと思っていた相手の声で戻ってきた。何でいっくんが此処に居るんだ!?
「束さんの何なんですか?」
「それよりもいっくん、何で此処に居るの!?」
「それは束さんが一番良く分かってるんじゃないですか?」
「え~っと……束さん、良く分からないな~……」
「そうですか……なら分かるまで説教してあげましょうか?」
いっくんの声のトーンが下がった、これは本当にマズイんじゃないかな~……何で此処にいっくんが居るのかとか、如何してこの場所が分かったのかとか色々と疑問はあるけれど、とりあえず1つだけ確実に分かってるのは、このままでは非常にマズイと言う事だ。
「え~っと、もしかしていっくんは昨日の事を覚えてるのかな~?」
「全部では無いですが、ある程度なら覚えてます……何か言う事はありますか?」
笑顔で迫ってくるいっくん……昨日の天使の笑顔とは対象に、今日のいっくんの笑顔は悪魔の笑顔だった……ちーちゃんはこれで興奮出来るんだよね、それって本当の変態さんだね。
「じゃなくって!」
「ん?」
「あっいや……」
思考が現実逃避に走ろうとして、結果的にいっくんに不快な思いをさせてしまったようだ……これもちーちゃんの所為だからね!
「なら、聞き方を変えましょう。何か言い残したい事は無いですか?」
「それって如何言う……」
聞き方によっては遺言は無いかって聞いてるみたいだけど……まさかいっくんは束さんを殺そうとする訳無いよね~……本当に無いよね!?
「無いのなら良いですが……ん?」
「な、何かな……」
いっくんが何かに気付いたように視線を動かし、束さんも釣られてその視線を追った。そこにあったのは……
「!?」
「CD-R?」
「それはとても大切なモノだから触っちゃだめ~!!!」
「はぁ……」
束さんの剣幕に驚いたのか、いっくんはCD-Rに伸ばしていた手を引っ込めた……一先ずこれで大丈夫かな。
「そんなに大事ならちゃんと保管したほうが良いですよ?」
「そうだね!」
まさかいっくんの秘蔵映像が保存してるなんて思わないよね~……いっくんは勘は鋭いけど踏み込みは甘いからね。
「さて、それでは説教タイムです」
「しまった!」
逃げるための時間稼ぎをするつもりだったのに、いっくんの秘蔵映像を保存してあるCDーRに気を取られてしまっていっくんのお説教から逃げられなかった……束さんのドジッ娘さんめ~……
束さんを説教して、俺も束さんも疲れ果てた頃、俺はもう1つ聞きたかった事も聞くことにした。
「2人でやったんですか?それとも他に誰かが?」
「協力者の名前は絶対に言わない約束だもんね~」
「ほぅ、まだ怒られ足りないですか?」
「いっくん、何だかちーちゃんみたいだね~」
束さんは笑って誤魔化そうとしたが、こめかみ辺りに冷や汗が流れているのを確認したので、俺は更に圧力を掛ける事にした。
「さっきのCD-Rですが、クロエさんに確認しても良いですか?」
「えっ……」
冷や汗が束さんの全身を流れていく……よほど俺に見られると困るものが入ってるらしいな。
「大事なモノなら、それを処分されたら困りますよね?」
「それは……」
「ですが、見られるくらいなら問題は無いはずですよね。俺は束さんの研究の邪魔をする他の開発者でも、束さんを躍起になって探している各国の人間でも無いのですから」
俺が何処かに情報を渡す事はありえないし、そんな事をしても俺に何の利益も無い事くらい束さんにも分かってるはずだ。だからこれはあくまでも見ても問題は無いですよねと言っているだけなのだ。それなのに束さんは冷や汗だけでは無く顔色まで悪くなってきている……そこまでして俺に見られたく無いモノって、いったい何なのだろう……凄く気になってきたぞ。
「いっくんは見ても分からないと思うよ~……」
「それは俺の方で判断しますよ。……おや?」
「何かな?……!?!?!」
先ほどとは比べ物にならないくらい束さんが動揺した。ただの預金通帳なのに、何でそんなに慌てるんだ?
「束さん、通帳持ってたんですね……ん?」
中を開いて軽く目を通すだけのつもりだったのだが、何やら見覚えのある口座からの振込みが何度もある……しかも昨日も振り込んでるし……
「何か脅しのネタでもあるんですか?」
「な、何の事かな~……」
「だってこの振込み、千冬姉からですよね」
「いっくんの気のせいじゃ無いかな~?」
「まさか、何年管理してきたと思ってるんですか?」
ここ数日で結構な回数振り込まれてるし、それ以前も俺の目を盗んで振り込んでいたのだろう……どうも収入と支出が合わない月があるはずだ……
「いったい何をネタにこれだけの額を振り込ませたのです?」
「別に脅しては無いよ~」
「それじゃあ、この振込みは何なんですか?」
「それは……ちーちゃんが束さんの研究費用を出してくれてるんだよ~」
「あの人が何の見返りも要求せずにですか?」
「それは~……」
やはり何かあるのか……千冬姉が何の見返りも無く、100%善意で束さんの研究費用を出す訳無いからな。いったいあの人は束さんに何を要求してるんだか……
「その見返りを言うか、今回の協力者の名前を言うか、どっちが良いですか?」
「どっちも言えないよ~!」
「そうですか……ならもう容赦しねぇぞ」
「えっ……」
俺は抑えていた苛立ちを爆発させた。
「もう容赦しねぇぞ」
いっくんの口調が急に変わり、それに伴って与えてくる威圧感も強くなった。これは本当にマズイ事になってしまった……
「待って!言う、言うから!!」
「何を言うってんだよ」
「協力者の名前を!」
「だから自分は助けろって?」
「そんな都合の良い事は言わないけど……」
少し前に同じような状況でいっくんの逆鱗に触れたアホ女が居た事は監視してたので知ってるし、そうじゃなくても今のいっくんが怒りを鎮めてくれる事は無い事くらい理解している。
「なら、何でいきなり言う気になったんだ?」
「いっくんに本気で怒られたら、束さんは死んでしまうからです」
「何だそれ……」
いっくんは呆れたような目で束さんを見てるが、いっくんが本気で怒ったら人1人くらい簡単に殺せちゃうんだよ?
「それで?」
「ん?」
「協力者は誰だ?」
「それは……」
いっくんの恐怖を目の当たりにして、他の人との約束を優先出来る人間が居るのなら、その人は人間じゃ無いと思うんだよね……結局束さんはいっくんの恐怖に負けて協力者の名前をいっくんに教えたのだ。
「アイツか……」
「束さんから聞いたって言わないでよ!」
「言わねぇから安心しろ。そして、束はこれで勘弁してや……る!」
「ふぎゃ!」
いっくんに呼び捨てにされて一瞬喜んだが、その後に来た容赦の無い一撃にもんどりうった。一応は加減してくれたみたいだけど、それでもいっくんの拳骨は頭が割れるくらいの衝撃が襲ってくるのだ。
「さて、次は千冬か……」
「ね、ねえいっくん……」
「何だ?」
「もう1回名前を呼んでほしいな」
「あぁ!?」
「ヒッ……」
普段の優しいいっくんは此処には居ない……今此処に居るのはちーちゃん以上の鬼だ。
「ガタガタぬかすともう1発お見舞いするぞ!」
「ゴメンなさい、もうしません、許してください」
「いや、そこまで謝らなくても良いんじゃねぇか?」
あまりの恐怖にいっくんに向かって土下座をする。その姿をみたいっくんが若干引いてるが、これで助かるのならいくらでもするよ~。
「変なヤツだな……」
「ゴメンなさい……」
「だから謝らなくても良いってのに……束は変なところで律儀だな」
「そうだね~」
いっくんに呼び捨てにされて一気に気持ちが昂った……もしかして束さんって単純なのだろうか?
「今度何か仕出かしたらその記憶媒体の中身を見るからな」
「それだけは本当に勘弁してください!」
いっくんに見られたらすべてが終わってしまう……束さんだけでは無くクーちゃんもちーちゃんもだけど……
「そんなに俺に見られたく無いのか……そこまで拒否られると興味が失せるな」
「本当!?」
「何でそんなに嬉しそうなんだ?」
「嫌だな~、いっくんには束さんが嬉しそうに見えるの~?」
「いや、満面の笑みで言われても……誰が如何見ても嬉しそうだろうが」
「そんなの事無いんだけどな~」
「嘘吐け……」
「えへへ~」
いっくんがこのCD-Rに興味を持ったままだと大変だったので、興味が無くなってくれて良かった。これでちーちゃんもクーちゃんも『行為』をするための映像に困る事は無くなるし、束さんも収入源を失わずに済んだのだ。
「あっ、それともう1つ」
「な、何かな?」
「またおかしな計画なんて企んでないよな?」
「ギクッ!」
「………」
「あ、あはは~そんな訳無いよ?」
「やっぱその中身見せろ」
「実行しなければ殺意を抱いても罪にはならないんだよ!」
「だから如何した?」
「だから、計画しても実行しなければ束さんも罪には……」
「計画してる段階で危険人物だ!」
「お願いだからこれだけは勘弁してよ~!」
いっくんの丸秘映像てんこ盛りなのだ、このCDーRの中身は……そう言ったシーンだけを選りすぐんだ束さん渾身の作品になっているので、これだけは絶対に見せられない……見せた時点で束さんの人生に終止符が打たれてしまうのだ。
「なら、今後迷惑な事は起こすなよ」
「はい、約束します」
「もし起こしたりしたら……分かってるよな?」
「も、もちろんだよ!」
いっくんに視線で語られ、束さんはたまらず敬礼をした。いっくんの視線には、次に何か問題を起こしたら殺すと書いてあったのだ……
協力者は次々回くらいに出てきます