2回目の採点をしている間チラッと一夏を見ると本音相手に奮闘してたのだろうか、滅多に疲れを表に出さない一夏が疲れてるように見えた。
「更識さん、こっち終わったけど?」
「え?……あぁ、こっちももう終わる」
珍しい光景を見た影響で、鷹月さんに話しかけられた内容が一瞬理解出来なかった。一夏の事見てたのバレて無いよね?
「(別に見てたのがバレたからと言って何でも無いんだけどね……)」
心の中で言い訳をして、私は残ってる採点を済ませるために手を動かした。
「やっぱり半分くらいは一夏君の思惑に引っかかってるわね」
「一夏も此処まで引っかかるとは思って無かったと思うよ」
一夏としては答え丸暗記ではなく、特記事項を丸暗記してほしかったのだろうが、やはり同じものと聞いて楽をしたかった人が何人も居たようだ……前の問題用紙の選択肢を丸暗記した人も居るようで、その人の点数は2回目の方が低いのだ。
「ちゃんと問題を見ろって事なのかな?」
「それもあるだろうけど、楽して点数は取れないって事もあるのかも……」
「布仏さんが良い例だね……」
一夏も疲れてる感じがするが、それ以上に本音がバテているのだ。マンツーマンで一夏に勉強を見てもらってるのに、全然羨ましく無いのは気のせいでは無いはずだ……それくらい一夏の力の入れ具合が凄いのだ。
「とりあえず、これを返そうか」
「そうだね」
採点の終わった答案を返却し、何故点数が下がったのかを分からせるために1回目の答案と見比べさせた。
「あっ!」
「同じじゃ無い!?」
「嵌められた……」
答案を丸暗記した子は選択肢を覚えていたのでその選択肢が変わってても気が付かなかったのだろう……ちゃんと文字で覚えてた子は選択肢を見て疑問に思ってたけど、ズルしようとするだろう事を一夏はちゃんと分かってたみたいで、その思惑にまんまと嵌った子たちは恨めしげな視線を一夏に向けていた。
「ん?」
その視線に気付いた一夏が、その視線を向けている子たちに向けて首を傾げた。一夏には怨まれるような事に心当たりが無いのだろう。
「織斑君、更識さんは『同じもの』って言ってたのに、これ違うよ!」
「一緒だろ。選択肢が違うだけでテストの内容は一緒なんだから」
「だって答えを覚えろって言ってたじゃない!」
「答えを覚えろとは言ったが、選択肢で覚えろとは誰も言ってない」
「でもさ!」
「このテストが本番のものとまったく同じなら選択肢で覚えるのも1つの手だろう。だが、本番はこれとは違うものだ。選択肢で覚えても本番では意味が無い。だから半分は選択肢ではなく書かせたんだ。そうすれば嫌でも覚えなきゃいけないからな」
「「「………」」」
一夏の正論過ぎる正論に文句を言っていた子たちは何も言い返せなくなっていた。一夏としては勉強する気のある子だけを集めたつもりだったのだろうから、これくらいの引っ掛けには誰も引っかからないと思ってたのかもしれない。
「おりむ~、少し休憩を……」
「まだ30分も経ってないだろうが」
「詰め込み教育の時代は終わったんだよ~……」
「ゆとり教育でも30分で休憩は与えないだろうが」
「ほえ~……」
これまた正論で本音の訴えを一蹴した一夏が私と鷹月さんに向けて手招きをしてきた。
「何?」
「如何かしたの?」
「2回目の方が酷かったのか?」
今回は採点していない一夏は、2回目の出来がどれくらいなのかを知らないのだ。
「人によるけど、平均したら同じくらいかな」
「ちゃんと文章で覚えてた人は上がったけど、選択肢で覚えてた人はほぼ下がってたよ」
「なるほど……」
一夏は少し考えるように間を空け、私に次のテスト問題を手渡してきた。
「今度はさっきまで選択肢だった方を文字で、文字だった方を選択肢にしたものだ。これならさっきよりは簡単だと思う」
「書けなかったものが選択肢になってるし、選択肢だったから分かってたものは多分書けると思うからね」
「一夏君、これって何時作ったの?」
一夏が生徒会室でテストを作ってたのを知らない鷹月さんは、一夏が何時の間にこんなものを作ったのかが疑問のようだ。
「問題自体は一緒だからな。後は選択肢を変えたりするだけで何通りにでもなる」
「コピー代だってタダじゃ無いでしょ?」
「職員室のコピー機を使ったからタダだ」
「よく使わせてもらえたね」
「理由がちゃんとしてれば使わせてもらえるさ」
「一夏、本音が逃げようとしてるけど?」
「さっきからだから気にしてない。逃げた分大変な思いをするのは本音だからな」
「なるほど」
忍び足で逃げようとしてた本音の足が止まった。今回のテストには本音の今後のおやつが懸かってるのだから、逃げようが逃げまいが一夏には関係無いのだ。むしろ本音から頼んだ事なので本音が嫌になれば逃げても良いと言う事なのだろうか。
「自力で勉強出来ないから俺に頼んだんだろうが。それが嫌なら止めても俺は一向に構わない。本音がこれからおやつ要らないって言う事なんだろうからな」
「少し水でも飲みに行こうとしただけだよ~……」
「なら、さっさと飲んでくれば良いだろうが」
「や、やっぱ止めとこうかと思って~……」
「じゃあ続きを始めるぞ」
「は~い……」
一夏はまったくの無表情で本音を見ている……あの表情をされたら私でもきっと一夏には逆らえないだろうな……まぁ、普段から逆らえないんだけど。
「私たちもこれ、配ろうか?」
「そうだね」
答え合わせをしている間に話していたので、もう十分答え合わせは出来た頃だろう。今度は問題は一緒だが選択肢は違うと教えてから問題を配ったので、それまで必死になって覚えたものを忘れないようにしてた子がちょっと残念そうだったのが印象的だった。
一夏君も本音も生徒会室に居ないので、今は久しぶりに虚ちゃんと2人きりだ。
「終わらないね~」
「お嬢様が最初から来てくれていたらもう少し終わってたはずなんですがね」
「ちゃんと来たんだからそれはもう良いじゃない。今はこれを終わらせるために頑張ってるんだからさ」
一夏君からのメールを見て生徒会室に来たので、もしメールが来なかったらサボってたんだけどね。
「もしあのまま来てくれなかったら、さすがに私も本気で怒ってたところでしたよ」
「そう……」
あ、危なかった~……虚ちゃんが本気で怒ると、一夏君ほどでは無いにしろ結構怖いのだ。普段は一夏君が居るからそこまで怒らないけど、やっぱりこれだけの量を虚ちゃん1人でやるのは無理だったのね……反省反省。
「しかし、如何言う風の吹き回しで来たんです?」
「まるで私がサボる気満々だったみたいな言い方ね?」
「だってサボる気だったんですよね」
「うわ、断定口調……主の事が信じられないの?」
仮にも私は虚ちゃんの主であり、この部屋の主なんだけどな……少しくらい信じてほしいものだよ。
「信じられるだけの実績がありませんので」
「ひっど~い!」
真顔で言われると結構傷つくのよ?せめて笑い飛ばせるくらいのテンションで言ってくれないと、さすがの私も如何反応して良いか分からないじゃないのよ。
「普段から私と一夏さんに押し付けて遊び呆けてる主の事を信頼出来るはずも無いでしょうが」
「私は、学園の見回りも兼ねてるのよ?」
「何者かが侵入してきたとしても、警備会社のセンサーがありますし、何より一夏さんが不審な気配を掴んだらすぐに確認しに行ってくれますので見回りの必要性はあまりありませんが」
「ふ、雰囲気は直接見て回らないと分からないでしょ!?」
「それは会長の仕事ではありませんが」
「……これからはもう少し頑張ります」
「そうしてください」
「うぅ~……」
あれこれ考えた言い訳も、今の虚ちゃんにはまったく意味をなさなかった……一夏君が居ないと少し不機嫌になるのよね、虚ちゃんって。
「本音たちはちゃんと勉強してるのかな~?」
「一夏さん相手にまともにサボる勇気は無いでしょう」
「そうだね~」
一夏君を本気で怒らせる勇気など、多分織斑先生にも無いだろう……だって本気じゃ無いのにすっごい怖いんだもん、怒った一夏君って。
「それに、簪お嬢様も一緒ですから多分大丈夫でしょう」
「実の妹なんだから、せめて多分は付けないであげたら?」
「実の妹だから多分なんですよ……」
「あぁ、なるほど」
付き合いが長い分言い切れなくなっちゃってるんだ……本音だってやれば出来るはずなんだけど、そのやる気を引き出すのが大変なんだよね~。
「一夏君の事だし、本音相手でも簡単にやっちゃうでしょ」
「そうだと良いのですが……」
大丈夫だと思うよ?だってこの私のやる気を引き出したんだから、本音相手でも一夏君なら平気だよ。
私は虚ちゃんから見えない角度でコッソリと携帯のメールを見た。
『あんまりサボってると相手しませんよ?』
抑揚の無いメールだからこその怖さがある……おどけてるのか本気なのか分からない分、私はやる気を出さざるを得ない状況に陥ったのだ。
一夏様が後ろで一生懸命本音様相手に教えてるので、私やマドカさんもそれに釣られて一生懸命になっています。だってこれ以上一夏様に負担を掛けるのは得策では無いと私もマドカさんも分かってるから……
「これ覚えてもまだ他のもあるんだよね……」
「特記事項は覚えましたが、条約はあれ以上ですからね……」
全部が全部テストに出る訳では無いのだが、何処が出ないかなんて分かりませんし、結局全部覚えた方が良いのは分かります。分かりますが、大変だと思うくらいは良いですよね?
「まぁ、お兄ちゃんの作ったテストのおかげで覚えられてるのは確かだけどね」
「闇雲に覚えるよりは効率良いですからね」
同じ問題を違う方法でやってる間に、嫌でも頭に入ってくるのだ。それを本音様は一夏様直々にしてもらってるのだろう……ご愁傷様です。
「条約のテストも結構やったけど、やっぱり数が多い分覚えるのも大変だよね」
「でも、着実に正解数は増えてますね」
既に5回は同じ問題を違う出題方法で解いているのだ。これで点数が上がらなかったらそれはそれで問題だろう……
「選択肢がある内に答えを覚えて、筆記になったらそれを書いて手で覚える……面倒だけど覚えられるんだよね~」
「実戦に勝る経験は無いって事でしょうか」
唯単に教科書や生徒手帳を眺めてるだけでは覚えられなかったでしょうね……
「はい、次のテストを配ります」
「おっと」
「次が来ましたね」
テストが返却される度にこうやって覚える時間をくれるので、開始から結構な時間が経っているのですが、誰1人文句を言わずにやってるのは、間違い無く結果が出てるのを実感してるからでしょう。
「今回は制限時間は10分。選択肢一切無しのテストだから、どれだけ覚えてるかが分かると思います」
「うわぁ……」
「これはキツイですね……」
さっきまであった選択肢のスペースが無く、今までの用紙より小さかった。一夏様もこれだけ作るのに苦労したのでしょうね……そして現在進行で苦労してるのですがね。
「はい、始めてください」
簪様の合図で、私たちは一斉にペンを動かし始めた。何回も繰り返し解いてきたので、選択肢が無くともそれなりに解けるのだ。
「(普段の授業を聞いてる人にとっては、最初から簡単なテストなんでしょうね)」
私やマドカさんは1学期の授業をまともに受けてませんし、他の方々も授業だけでは覚えるのは困難な方ばかりですのでこれほど回答に詰まらないのは一夏様のこのテストのおかげだと言い切れるでしょう。
「(本音様も成長してるのでしょうか?)」
最初のテストの時に、全部空白で提出した本音様は一夏様に付きっ切りで教えてもらってるのですが、羨ましさよりも一夏様に対する同情の気持ちが大きいのは何故でしょう?
「うにゅ~……」
「やっと見られる答案になってきたな」
「さすがに覚えるよ~……」
「だが、まだまだ目標には届いてないぞ」
「ほえ~……」
あっ、一応は成長してるみたいですね。
「はい、10分経ちました。ペンを置いてください」
「ふぅ」
簪様の合図で一斉にペンを置き、私はたまらず一息吐いた。今回は完全に自分の記憶のみに頼るので今まで以上に緊張した。
「須佐乃男、如何だった?」
「まあまあだとは思います。マドカさんは?」
「私もまあまあかな。完璧とは言えない」
「完璧を目指すのは、最初から諦めてますから」
「7割だっけ?」
「6割5分ですね」
お菓子が懸かってるとは言え、これほど必死になれるとは思ってもみませんでしたよ……勉強会って言ってたので一夏様が教えてくれるものだとばかり思ってましたが、ふたを開けてみたら一夏様は一切何も教えてはくれてません。その代わりにこうやって繰り返しテストをする事によって徐々に覚えられていますがね。
「考えてみれば、ただ教えるだけなら授業と変わりませんね」
「授業で駄目なんだから、普通に教えても意味は無いって思ったのかもね」
一夏様は色々と考えているのですね~。完全に一夏様の頭の中を覗けないのが悔しいですが、何を考えてるのかが分からない方が面白い方なのかもしれませんね。
「お兄ちゃんも自分の勉強があるだろうに、こんな事に付き合ってる余裕あるのかな?」
「一夏様は授業である程度理解してますし、復習も兼ねてると言ってましたよ?」
「何時?」
「先ほど」
テスト中に本音様の様子を気にしていた私に注意してきたついでに私が聞いたのですがね。
「特記事項に条約、後は何かあったっけ?」
「今回のテストはそれくらいですかね。後はISに関する注意事項くらいですから」
ISを扱ってる皆さんなら改めて言われるまでも無く知っている事でしょうし、私はISそのものですからね。何が危険かくらいは知ってます。
「今回の答案を返します」
「さすがに採点も大変だったみたいですね」
「全部文字だもんね。選択肢だけを見て半分採点すれば良かったさっきまでとは違うよ」
「解く側だけでは無く、採点する側も大変なんですね~」
返却された答案を見て、私もマドカさんもビックリした。
「これ、7割以上当たってるよね?」
「ええ……私も7割はゆうに超えてますよ」
条約だけのテストですが、今回は選択肢無しの完全実力の結果ですので、これは喜んでも良いでしょう。
「やったね!」
「はい!」
マドカさんと思わずハイタッチをして、これなら明日のテストも大丈夫だろうと思ってしまいました。
「それじゃあ最後に条約と特記事項を両方あわせた選択肢無しのテストをやってもらいます。開始まで少し時間をあげるので、しっかりと覚え直してください」
「ありゃ、まだテストがあったか」
「ある意味これが本当のテストなんでしょうね」
今までのはこのテストまでの前座に過ぎないって事でしょう。一夏様は最初にこれをやらせないだけの優しさはあったようです。
「これで出来れば明日も大丈夫かな?」
「油断しなければ大丈夫じゃないですかね」
そう、油断しなければだ。今日は良い点取れたからと言って、本番で結果を出さなければ意味は無いのだ……お菓子もですが、一夏様の好意を無駄にしたく無いですしね。
おりむ~に付きっ切りで教えてもらったおかげで、最初よりは断然勉強が出来るようになった……はず。
「それじゃあ本音もこれやってみろ」
「ほえ!?」
選択肢が一切無いテストを渡され、私は今まで以上に緊張してきた……だって選択肢があったから覚えられたのに、それが無くなったらどれくらい正解出来るのか分からないから。
「覚えるだけの時間はやる。それは皆も同じだからな」
「頑張る……」
おりむ~はそれだけ言ってかんちゃんたちの場所に行ってしまった……つまり私は解放されたのだ。
「でも!」
せっかくおりむ~が教えてくれたんだし、どうせなら結果を出したい。6割超えは難しくても、せめて5割以上は当てたい。私は気合を入れて今までやってきたテストを見直して覚える事にした……問題もらってるのでそれを見て覚えれば良いと言う考えは、ビックリするほど思いつかなかった。
本音に付きっ切りだったので、他の人がどんな結果なのか知らないので、簪は静寂に聞いた。そうしたら思った以上に結果が出てるようで驚いた。
「(まさか此処まで頑張るとは……他の人も何か懸かってるのか?)」
まさか自分の作ったものに此処まで必死になってくれるとは思って無かったので、俺はそんな事を考えていた。
「一夏、採点付き合って」
「ああ」
最後のテストを回収し終わった簪に渡され、俺は採点し始める……須佐乃男のやマドカのも此処にあるな……エイミィや日下部さんのもある……本音のは無いな。
「(結構当たってるな)」
泣きついて来た時は如何なるものかと思ってたが、結構平気じゃないか……
此処に至るまでの過程を知らない俺は、最初から出来るのなら俺に頼る必要は無かったんじゃないかと心の中で愚痴った。
「終わったぞ」
「私も」
「こっちも終わったよ」
簪も静寂も採点が終わったようで、俺は全部の答案を見た。結構出来てるな……おっ、これは本音のか。
静寂が採点した本音の答案を見つけ、俺は点数を見る前にその手を止めた……さて、俺のこの数時間は身を結んだのか?
「………」
まぁ、こんなもんか。
「それじゃあ返すぞ」
1人1人に答案を返し、その結果に大体の人は喜び、中にはあまりの嬉しさに泣き出す人が……そこまでの事なのか?
「須佐乃男」
「はい!」
「ほれ」
回答の8割に丸のついた答案を須佐乃男に渡す。
「!」
「マドカ」
「ハイ」
マドカの答案用紙には、須佐乃男よりも丸の数が多い……2人ともやれば出来るんだから普段からやれよな……
「本音」
「ほえ!?」
「何だその返事は……」
緊張してるのか、本音はおかしな返事をしてきた……本番じゃないんだがな。
「頑張ったな」
「?」
俺の言葉の意味が分からなかったのか、手渡された答案を見る前に首を傾げた。
「ほえ!?」
「やれば出来るじゃないか」
本音の答案用紙には目標の6割5分以上の丸が付いている。これなら明日のテストも平気だろうな。
「やったよおりむ~!」
「こら、抱きつくな!」
「だって~!」
「泣くな!」
一番の問題児の成長に泣きたいのはこっちだぞ……とりあえず目標達成したので今は喜ばせておくか……部屋に戻ったら復習させるからまだ終わってないのだからな。
繰り返し勉強するだけで、結構身に付くんですよね。自分もテスト前には繰り返しやった記憶があります。