ゲームセンターでいっぱい遊んだ次は何処に行こうかしら、一夏君が取ってくれたウサギの入った袋を持ってズンズンと歩いていく。
「ご機嫌ですね」
「だってデートなんだも~ん」
「それだけですか?」
「ん~?」
一夏君が言っている事は私にも分かってる。ゲームセンターを出てからの私は明らかにテンションが高くなっている。
「そんなに気に入ったんですか?」
「だって可愛いじゃない」
「まぁ確かに可愛いですが」
「学園で流行ったりして」
「もう取りませんからね」
「分かってるわよ~」
一夏君は1羽のウサギを掴みながらため息を吐いている……そこまで疲れるような事じゃ無いじゃないのよ。
「今度は何処に行きます?」
「一夏君が決めるんじゃないの?」
「じゃあ何処か休める場所で……」
運動とかなら無尽蔵の体力があるのに、こう言った遊びになるとすぐに疲れちゃうんだから、一夏君は……人ごみがあまり得意じゃ無いって言うのも関係してるのかな?
「それじゃあカラオケでも行きましょうか!」
「……刀奈さんもそんな場所に行きたがるんですね」
「私だって女子高生だよ?」
「そうでした……」
「何よ、忘れてたの?」
「あの学園は特殊ですからね……普通に高校生と表現して良いのか」
「年齢的には問題無し♪」
「はぁ……」
イマイチ乗り気じゃ無い一夏君の手を引っ張ってカラオケ屋に向かう……
「気をつけなさいよ!」
「すみません」
途中で自分からぶつかってきたのに偉そうにしてる女性を見て不快な思いをしたが、これが今の世界なのだと改めて実感した……ISを使えるのは限られた女性だけなのだが、それを勘違いして自分たちは偉いと思い込んでいる女性が大勢居るんだ……また、男性も女性に対して卑屈になってしまっていて、現状に甘んじている人が多いのだ。
「甘んじてるんじゃ無いですよ」
「え?」
「抵抗しようにも、国家権力もマスコミも女性の味方。これじゃあ抵抗しても悪者は男性ですからね」
一夏君は問題の女性に目もくれずにただ真っ直ぐを向いて淡々と話している……私の気持ちが分かってるような話し方だが、多分一夏君ならそれくらい出来るのだろうな。
「世の中おかしいわね……」
「そんな事、今に始まった訳じゃ無いですよ」
「そうだけどさ~」
「嘆いても世界は変わりません。それこそ、束さんみたいに劇薬でも使えば変わるんでしょうが、そんなものが早々ある訳無いですからね」
「でも、納得出来ない」
私は女だけど、あんな風に男の人を軽んじる事はしたく無いしするつもりも無い。だって全員がISを使える訳では無いし、専用機を持ってるとは言えこれは借り物、時が来れば返さなければいけないのだから……
「別に無理に納得する必要は無いと思いますけど」
「そう?」
「考え方なんて人それぞれ、刀奈さんのような考え方をしてる女性だって居るんですから。少なくとも屋敷の皆さんとIS業界のトップ2人は刀奈さんと同じ考えですよ」
「そっか……そうだよね」
簪ちゃんも虚ちゃんも本音も碧さんも……両手の指では足りないくらいの人が私と同じ考えなのだから、何時かきっと変えられるかもしれない。一夏君の言う通り無理に今の世の中を納得する必要は何処にも無い、そんなものは幻想なのだから。
「さぁ!」
「ん?」
気合の入った私の声に一夏君が振り向く、この世界を変えられるかもしれない男性は此処に居るのだ。
「思いっきり歌うわよ~!」
「本当に行くんですか?」
「当然でしょ!」
「……あまり期待しないでくださいね」
「だ~め」
一夏君が歌う所なんて滅多に見られないし、一夏君の歌声だって初めて聞くかもしれないんだから、期待するなって言う方が無理よね!
いっくん観察用衛星で追跡していたら、また自分が偉いって勘違いしてるバカを発見した。お前が偉いんじゃなくってこの束さんが偉いんだよ。
「本当にバカばっかで嫌になるよ」
『何がだ?』
「ちーちゃんだって知ってるでしょ。自分はISに乗れないのに偉ぶってるバカ共の事だよ」
『お前がそんな世界にしたんだろ』
「束さんはこんな世の中にしたかったんじゃ無いよ~」
『お前は自分が楽しければそれで良かったんだろ?』
「あったりまえだよ~!」
でも、それが原因でいっくんには苦労ばっか掛けてるけど……まさか此処まで女尊男卑になるなんて思って無かったよ~。
「今朝もいっくんに逆らったバカを屠ったばっかだし」
『一夏に?』
「その映像を送るね~」
今朝の騒動ももちろん映像保存してるのだ。いっくんが潰されそうになってるのは気に食わなかったけど、その相手を束さんに変えるとあら不思議、いっくんに守られてる感じが疑似体験出来るのだ。
『このバカ、当然社会的に抹殺したんだろうな?』
「あったり前じゃない!」
『フッ、さすが束だ。仕事が速い』
「ある事無い事全部世間にぶちまけてやったのさ!」
『せめてある事だけにしとけ』
「それじゃあつまんないよ」
いっくんに逆らってこの束さん相手にタメ口で話してきたんだ、まだ仕置きが足りないくらいだよ。
『しかし更識姉のヤツ、嬉しそうな顔してるな……』
「本当、この巨乳のヤツいっくんに守ってもらえるなんて羨ましい……」
『まぁ、彼女だからな……』
「束さんたちは何処まで行っても、何時まで行ってもお姉さん止まり……」
最近ではいっくんに相手してもらえる時間が減ってきている……
『さて、私は仕事があるからな。そろそろ切るぞ』
「しょうがないね、またね」
『ああ』
ちーちゃんとの電話が終わり、束さんは引き続きいっくんの観察に戻る事にした。いっくんの歌ってる顔……これはレアだね~!
カラオケにはそんなに来た事は無かった……来たとしても殆ど歌う事は無い。鈴や数馬が歌ってるのを聴いていたくらいだし、弾の音程外しまくりの歌を聴いて笑ってたくらいしか覚えが無い……それくらい俺は歌っていないのだ。
「一夏君、上手!」
「そうですか?刀奈さんの方が上手いですよ」
「そう?」
「ええ」
刀奈さんの声は聞いていて非常に心地良い。普段から綺麗な声だが、歌声になるとまた違った感じだな。
「簪ちゃんも上手なのよ?」
「簪が?」
簪の歌ってる所を想像してみる……普段はオドオドとした雰囲気だが、歌ってる姿を想像すると何故かしっくりきた。
「確かに、上手そうですね」
「虚ちゃんや本音は普通だけど、聴いてると眠くなってくるのよね~」
「それって聴いてるんですか?」
「多分……」
いや、多分って……あの2人の歌声には催眠波でも混じってるのだろうか。
「お弁当、此処で食べようか」
「持込可の店なんですね、此処って」
「バレなきゃ何処でもOKだと思うけどね~」
「……それはダメだろ」
「てへ」
店側の利益だってあるだろうし、持込可だから良いがダメな所は本当にダメですからね。
「それにしても一夏君がインタビューなんて受けるとは」
「断るのにも労力が必要そうでしたし、刀奈さんとデートだと言っても引き下がらなかったんですよ」
「そ、そうなんだ……」
「ん?」
そう言えば刀奈さんは黛先輩に何か言われてから言い包められたような気が……黛先輩が必死だったのは大体の予想が付いている、だが刀奈さんは何を言われて引き受けたんだろうか。
「あっ、これ美味しい」
「……何か誤魔化してません?」
「そ、そんな事無いよ~?」
「本当ですか?」
「あ、あぅ~……」
真っ直ぐ見つめると刀奈さんは困ったように俯いた……やはり何かあるのだろう。
「薫子ちゃんに言われたのよ、『プロの人に一夏君の色々な衣装の写真を撮ってもらえる』って」
「は?」
写真だと?そんな話は聞いていない……ただインタビューさせてほしいとしか聞いてないぞ俺は。
「それに、そのデータも貰えるって話だし、私たちを横に合成すれば他の彼女も納得すると思って……」
「合成?」
「だって一夏君、タキシード着るんでしょ?」
「……はい?」
「それにスーツも着るって薫子ちゃんが言ってたし、その横に私たちがウエディングドレスを着て立てば……」
「結婚式の気分を味わえると……」
なんて餌で釣ってくれてるんですか、まったく……完全にうっとりとしてしまってる刀奈さんを見て、今更そんな話聞いてないとは言えなくなってしまった。
「一夏君と結婚か~……」
「………」
夢想の世界に旅立ってしまった刀奈さんをよそに、俺は盛大にため息を吐きたくなってしまった……黛先輩、今度会ったら容赦しませんからね。
一夏君と結婚する事を想像してたらいつの間にか時間が経っていた。もうすぐ約束の2時になっちゃうじゃないの。一夏君、何で教えてくれなかったのよ!
「えっと、薫子ちゃんの話じゃこの辺なんだけど……」
「こっちですね」
さすが男の子、地図をしっかりと理解してるのね。
「日曜だって言うのに、働いてる人は働いてるのね~」
「刀奈さんだって本当なら仕事だったでしょうが」
「ピュ~♪」
口笛で誤魔化そうとしたけど、私って上手く口笛吹けないのよね……結局口で言って誤魔化した、誤魔化しきれて無いようだったけどね。
「これ……ですか」
「おっきいビルね~」
「こんなに立派な会社だったんですね、黛先輩のお姉さんの勤めてる所って」
「自社ビルみたいだしね」
インフィニット・ストライプスって雑誌は見たことあったけど、まさか此処までしっかりとしたビルを持っている会社だとは思って無かったわね。
「あら、お客さん?」
「えっと、黛さんって居ますか?」
「私が黛渚子だけど……ひょっとして織斑一夏君と更識楯無さん?」
「はい」
「思ってた以上に絵になる2人ね」
「はぁ……」
薫子ちゃんのお姉さんだけあって似てるわね……見た目だけじゃ無くって雰囲気も。
「とりあえず、これ名刺ね」
受け取った名刺には副編集長とある……若そうなのに立派に仕事してるのね、薫子ちゃんとは違うのかしら。
「さて、薫子から何処まで聞いてる?」
「インタビューしたいとしか……でも、この場所って事はそれだけでは終わらないんですよね」
「察しが良い子は好きよ」
「嬉しく無いですね」
「あら、偽らざる本音なのに」
「良く言いますよ、妹さんを使ってまんまと乗せたくせに」
「ふふ、思ってた以上に面白い男の子ね」
「それで、妹さんへの報酬は何です?」
薫子ちゃんへの報酬?そんなものがあるなんて言ってなかったよね?
「疑ってばっかりじゃ疲れない?」
「妹さんが俺を餌に楯無さんを釣ったんだ、貴女が餌無しに妹さんを釣ったとは思えない」
「あら、姉妹の絆って事もあるんじゃないかしら?」
「いや、あの黛先輩が無償で動くとは思えない。それが姉の頼みだったとしても」
うん、それは私も思うわね……薫子ちゃんが無償で動くとすれば、きっと虚ちゃんに怒られた時くらいでしょうね。
「多分彼女と同じ報酬だと思うけど?」
「は?」
私と一緒って事は一夏君のいろんな衣装の写真のデータって事よね……薫子ちゃんがそんなものほしがるかな~?
「だから、彼女と一緒だと思うけど?」
「……あの人、まだ懲りてないのか」
「懲りる?」
今度はお姉さんが首を傾げた。学園で一夏君と虚ちゃんに怒られてる事は聞いてないようね。
「まぁ仕方ないですね。転売だけはしないように釘を刺しておきますか……」
「あの子、そんな事してるの?」
「個人的に売りさばいてるのを注意したんですがね……また性懲りも無くしそうなので先手を打つだけです」
「さすが私の妹、1回くらい怒られてもへこたれないのね!」
「……そこは同意しないでくださいよ」
お姉さんもそう言った経験があるのだろう……薫子ちゃんの行動に浮かれた感じになっているお姉さんを見て一夏君が項垂れた……うん、その気持ちは分かるわよ。
「それじゃあまずはインタビューからね」
「……今更断れないですからね、さっさと終わらせましょう」
一夏君はなげやり感満載の態度でお姉さんに向き合った……多分、いや絶対怒ってるんだろうな。
「じゃあまず、女の園に入った感想でも聞きましょうか?」
「……思考が俺の悪友と一緒ですね」
「その子、きっと良い記者になれるわね」
「やれやれ……」
最初の質問に一夏君が呆れている……皆聞きたい事は一緒のようね。
「質問の答えですが、別に何も感じてません」
「あら、それは如何してかしら?」
「自分の意思で入ったんでは無く、俺には他に選択肢が無かったから」
「政府の言いなりになったって事かしら?」
「そんな事じゃ無いですよ。彼女たちと一緒に居られるから入っただけです」
「……そうなの///」
「……意外と初心なんですね、お姉さんは」
一夏君のドストレートの答えに私はもちろんお姉さんまで顔を赤くしてる……一夏君はいたって普通だ。
「それに、政府に命令されたからって逆らえない訳でも無いですし」
「政府に逆らうなんて、国民として認めてもらえなくなるかもしれないわよ?」
「……既に俺は日本国籍を奪われてますからね、逆らっても罰せ無い」
「あっ……」
「大体あんな奴ら簡単に捻り潰せるんだから、言う事を聞く訳無いでしょ」
「一夏君、相当ストレス溜まってるわね」
「フン、偉そうにしてる女が気に入らないだけですよ」
「……これは記事に出来ないわね」
今の発言は相当大きな波紋を呼ぶかもしれないからね……今の政府はほぼ女性で構成されている。その政府に男性である一夏君があのような発言をすれば、良くも悪くも世間は揺らぐ事になるだろうから。
「しても良いですよ。文句があるなら直接言いに来れば良い、そんな勇気があるのならですがね」
「「………」」
私とお姉さんは互いに肩を震わせながら目を合わせた……今の一夏君からは相当なプレッシャーが放たれているのだ。
「じゃ、じゃあ次の質問」
「どうぞ」
「クラスメイトの女の子で好きな子は居る?」
「……そんな事を記事にするんですか?」
一夏君は完全に呆れているのを隠そうともしていない……確かにこんな事聞いて何の得になるって言うのだろうか。
「世界中が貴方に注目してるのよ?その男の子の恋愛事情なら知りたいじゃない?」
「……さっきも言いましたが、俺には今国籍がありませんからね。彼女は6人居ますが倫理観には触れてませんからね」
「おおぅ……」
「記事にしたければどうぞ。別に隠してる訳でもなければ彼女たちも納得してる事ですから」
「そ、それじゃあ今度は更識さんに聞くけど……織斑一夏君って貴女から見てどんな男の子かな?」
一夏君相手に旗色が悪いと思ったのだろう、急に私に矛先が向いてきた……一夏君相手じゃ口を使って仕事してるお姉さんもタジタジなのね。
「カッコいい彼氏ですね」
「……えっと、そう言う意味で聞いたんじゃなくって、後輩としてって意味だったんだけど」
「え、なら優秀だと思いますよ」
事務も勉強も実習も……どれを取っても勝てる相手などIS学園には存在しないだろうな……もちろん教師も含めてだけど。
「如何優秀なのかしら?」
「学年トップの頭脳に公式戦負け無し、生徒会の職務もあっさりと終わらせる処理能力、とある分野には鈍いですが、それ以外には鋭い感性を持ってる子です」
「とある分野って?」
「それはですね……ゴショゴショ」
耳打ちするように一夏君の欠点を教える……恋愛に疎いのが一夏君の欠点らしい欠点だからね。
「なるほど……貴女も大変ね」
「でも、しっかりと相手してくれますから」
「それはつまり……夜の相手?」
「なっ!」
「あら、違った?」
「黛さん、高校生相手に何言ってるんですか貴女は……」
「だってそれくらいの男の子って興味津々なんでしょ?」
「……誰でも彼でもそうだと思うなよ」
赤面して何も話せなくなっている私に代わって一夏君がお姉さんの相手をしている……確かにしたいけど、人に言われると恥ずかしいわね///
「織斑君は奥手……っと」
「自分の立場もはっきりしてないのにそんな事出来る訳無いでしょうが」
「立場?」
「さっき言ったでしょうが……所属もはっきりしてないんですから」
「貴方って本当に16歳なの?」
「さぁ?」
「さぁって……」
一夏君は自分の出自がはっきりと分からないので正確な歳も分からないと言っていた……織斑先生は知ってるんだろうけど、聞くつもりは無いらしい……そんな事に拘っても意味は無いって思ってるんだろうな。
「もう終わりで良いですか?」
「だ、ダメよ!」
「なら、さっさと質問してください」
「……やりにくい子ね」
「そりゃどうも」
皮肉に皮肉で返す一夏君……お姉さんもこれ以上口で戦っても勝ち目が無いと分かったようで無駄口は叩かずに仕事に集中するようになった……口でも頭脳でも実戦でも一夏君に勝てるのは誰1人居ないのだろうな……
「それじゃあ後は写真を撮って終わりね」
「やっぱり撮るのか……」
一夏君は嫌々ながらも頼まれた衣装に着替えて写真を撮られてる……凄くカッコいい……普段からカッコいいけど、衣装ってやっぱり大事なのね。
「じゃあ最後は更識さんとツーショットで。更識さんも好きな衣装着て良いわよ」
「本当ですか!!」
「ええ、しっかりと撮ってくれるわよ」
一夏君が今着てるのは何故だか水着……一夏君もしきりに首を捻っている始末だ……
「男の子の身体……しかもその男の子が織斑一夏……これは、これは売れる!」
「「………」」
良くも悪くも薫子ちゃんと姉妹なんだなっと納得してしまった……
「それじゃあ私はこれ!」
「なっ!」
「ふふ、一夏君しっかりと抱きしめてね♪」
「は、嵌められた……」
ポーズだけは指示があって、私は一夏君にお姫様抱っこされるらしい。そして私の衣装は一夏君にあわせて水着、しかも布地の少ないものだったりする……一夏君は赤面しそうなのを堪えて私を抱き上げてくれた……これは絶対に記念になるわね!
渚子さんが某生徒会の新聞部部長みたくなってる気が……