もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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今回のメインはナターシャ先生です


緊張のHR

もうすぐチャイムが鳴るって言うのに、織斑君の姿が教室に無いのだ……今までも何度かこんな事があったけど、此処までギリギリなのは無かったのに。

 

「如何かしたの、日下部さん」

 

「あっ、鷹月さん……」

 

 

普通の女子で、織斑君ともっとも仲の良さそうな鷹月さんなら、織斑君がまだ来てない理由を知っているだろうか。

 

「織斑君が来てないから……」

 

「そう言えば見ないわね」

 

「何かあったのか心配で……」

 

「でも、一夏君なら心配するだけ無駄なような気もするけどね」

 

 

結構酷い……確かに織斑君は私たちなんかより強いしそれに頑丈かもしれないけど、危ない目に遭ったりして大変なのは皆同じだと思うんだけど……

 

「そんなに気になるなら、織斑さんでも布仏さんでも須佐乃男でも、事情を知ってそうな人に聞けば良いじゃない」

 

「そんな事出来ないよ……」

 

 

私はただでさえ人と会話をするのが苦手なのだ……そんな私が織斑先生の妹、企業代表、織斑君の専用機と言う、そうそうたるメンバー相手にまともに話せる訳が無いじゃないか。鷹月さん相手だって結構頑張ってるのに……

 

「なら、本人に電話を掛けるとか……」

 

「織斑君の番号は知らないよ……」

 

 

普通に話しかけてもらえるだけで十分なのに、そのうえ電話番号までなんて……私には恐れ多くて聞く事なんて出来なかったのだ……本当は聞きたかったし相談なんかに乗ってもらう時なんかに便利なんだろうな~って思ったけど、私には電話番号を聞く勇気が無かったのだ。

 

「そうなの?」

 

「う、うん……」

 

「じゃあ私が掛けてみるよ」

 

「お、お願い……」

 

 

そうか、鷹月さんは織斑君の電話番号を知っているんだ……あれだけ仲良かったら簡単に電話番号を聞けたんだろうな……鷹月さんは優秀だし織斑君とも話が合うのだろうが、私は無個性な上に優秀とはかけ離れた存在だから織斑君と話してもきっとかみ合わないだろう……電話越しじゃ無くてもろくにかみ合ってない気がしてるのだから、電話越しだともっとかみ合わないんだろうな。

 

「もしもし一夏君?」

 

 

鷹月さんが電話で織斑君と話している……このクラスで織斑君の事を名前で呼んでいる子は全体の1/3も居ないが、その中でも織斑君と友好関係を築けてるのは、その中の半分ってところだろうか……名前以外で呼んでいる織斑さん、布仏さんは兎も角、須佐乃男は専用機で彼女だから、クラスメイトと言う関係で織斑君と1番仲の良い子は鷹月さんなのかも知れないな。

 

「何って、今何処に居るのよ?」

 

 

此方からは織斑君の声は聞こえないが、鷹月さんのセリフから想像するに、『いったい何の用だ』とでも言われたのだろう……織斑君が言いそうな事だし、鷹月さんの反応を見るにきっと当たってるだろうな。

 

「教室には向かって来てるのね、なら良いけど……」

 

 

如何やら織斑君は移動中で、こっちに向かってる途中のようだった。さすがに遅刻はしないだろうけど、此処までギリギリなのは良いのだろうか……いくら織斑先生が居なくって、山田先生も居ないからと言って、このクラスにはまだナターシャ先生が居るんだから遅刻はマズイと思うんだけどな。

 

「それじゃあ、後でね」

 

「……織斑君、何だって?」

 

 

電話を終えた鷹月さんに、私は興味を抑えきれずに聞いた……想像してた事が当たってるのか気になったのもあるが、電話だと織斑君はどんな感じなのかも気になったのだ。

 

「職員室からこっちに向かってる最中だってさ」

 

「職員室?」

 

「如何やらナターシャ先生に捕まったみたいよ」

 

「捕まった?」

 

 

織斑君が悪い事をしたとは思えないし、それ以外に先生から捕まる原因って何だろう……少し考えたけど私にはさっぱりだった。

 

「緊張しちゃって1人では来れないから、都合良く職員室に来た一夏君を捕まえて一緒に教室に来てるみたいなの」

 

「緊張……」

 

 

それは入学当初の私のような気持ちなのだろうか……落ちたと思ってたIS学園に、最下位辺りで合格して、周りは私なんかより優秀そうな人ばっかで、しかも同じクラスに男の子が居ると知ってそれはもう私の人生の中でもっとも緊張してたのだ。まぁ、その緊張は1学期中ずっとあったのだが……

 

「ナターシャ先生は基本的に実習の補佐だったからね、HRとかそう言うのに慣れてないんでしょうね」

 

「でも、何で織斑君と?」

 

 

彼だって生徒のはずなのに、ナターシャ先生は織斑君が遅刻しても良いと思ってるのだろうか。そんな考えなら織斑君が一緒に来る訳無いか……だって基本的には他人にも自分にも厳しい人のような感じがするし、織斑君。

 

「一夏君なら頼りになるし、教師代行も経験した事あるからじゃない?」

 

「教師代行?」

 

「そっか、日下部さんは夏休みの合同訓練には来て無かったんだっけ」

 

「うん……」

 

 

そんな高度な訓練に参加出来るほどの実力は無いし、そもそも怖そうだったから参加しなかったのだ。

 

「本来なら榊原先生が担当するはずだった連携部門を、一夏君が担当してたんだよ」

 

「1人で?」

 

「いや、ナターシャ先生と一緒に。だからナターシャ先生は今回も一夏君を頼ったんだよ、きっと」

 

「そうなんだ……」

 

 

やっぱり織斑君は凄い人なんだな……そんな人と会話出来るなんて、私からしてみれば相当なラッキーだ。織斑君のおかげで実技も座学も底辺組から脱出出来そうだし、織斑君はこれからも教えてくれるって言ってくれたから、変に遠慮せずに頼っても良いんだよね?

 

「さてと、そろそろチャイムも鳴っちゃうし、私は席に戻るね」

 

「うん……あの」

 

「何?」

 

「あ、ありがとう……」

 

「お礼を言われる様な事はしてないけど?」

 

「でも、ありがとう……」

 

「じゃあ、どういたしまして」

 

 

鷹月さんには分からないのかもしれないけど、織斑君と会話するって事は、それだけで勇気の要ることだし、電話ともなると必要となる勇気の度合がかなり跳ね上がるのだ……そもそもクラスの中で、織斑君の番号を知ってる人が少ないのだから、まず聞く勇気が必要なのだけどね。

 

「でも、織斑君の番号か……」

 

 

色々と聞きたい事もあるし、電話じゃなくってメールでも良いんだよね……でも、私なんかが織斑君とメールしても良いのかな?だってクラス中だけでは無く、学園中の人たちが織斑君と話したいだろうし、話したくても話せない人の方が多いだろう。私はただ偶然に同じクラス、隣の席ってだけで話せたけど、そんな偶然が無ければきっと話しかける事は出来なかっただろうな……それだけ織斑君はこの学園の高嶺の花なのだ……男の子に使う表現では無いのだろうが、他に適当な表現が思いつかなかったのだ。

 

「あっ、チャイム……」

 

 

結局チャイムが鳴るまでに織斑君は教室に姿を現さなかった……事情を知ってるであろう織斑さんや布仏さん、須佐乃男と鷹月さん以外のクラスメイトは、織斑君が居ない事を不審がっている……特にオルコットさんとボーデヴィッヒさんの取り乱し方は異常だと言えるだろうな……別に貴女たちの特別な人じゃ無いんだから、顔を青ざめたりする必要は無いでしょ。

 

「特別な人……か」

 

 

自分の心のつぶやきに引っかかりを覚えた……織斑君は世界から見ても特別な存在なのだが、付き合っている女の子はどんな気持ちなんだろうか……自分の彼氏が世界中からもてはやされるのはどんな気分なんだろう。

 

「布仏さんか須佐乃男に……いや、聞けないな」

 

 

自分の考えに慌てて首を振る……普通に話すのも難しいのに、踏み込んだ話など私に出来る訳無いのだ。こうして無駄な事を考えていたら教室のドアが開き、ナターシャ先生と織斑君が一緒に入ってきた……何故だか織斑君の方が教師っぽいと感じたのは、きっと私だけでは無かったはずだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに教室のすぐ傍まで来てしまった……隣にはまったく緊張を感じさせない一夏君が歩いている。普通なら遅刻なのだが、私が無理言って一緒に教室まで来てもらっているのだ。でもまったく緊張してないのは、一夏君が無関心だからでは無いだろうな……こう言った場面に慣れているのだろうか?

 

「何か?」

 

「ううん……ただ、落ち着いてるな~って思ってさ」

 

「落ち着くも何も、俺は普通に教室に向かってるだけですからね」

 

「それもそうなんだけどね……」

 

 

確かに一夏君にとっては『普通』なのかもしれないけど、私にとっては『普通』じゃ無いし、一夏君が隣に居るだけで『普通』では無くなるのだ。例の暴走事件の時に助けてもらった相手だし、世界で唯一の男性IS操縦者が傍に居るのだ、これで緊張しない人が居るのなら、今すぐ私の目の前に現れてほしいわね。

 

「ナターシャ先生」

 

「な、何!?」

 

「いや、行き過ぎです……」

 

「え、ああそうね!」

 

「……大丈夫なんですか?」

 

 

あまりにも挙動不審だったのだろう。一夏君が心配と不安が同居した視線を私に向けている……年下の男の子にこんな風に見られるなんて、ちょっと前までの私だったら思っても無かっただろうな。

世界でもトップクラスの軍事力とISのコア保有数から、世界の警察とまで称されたアメリカの、それもIS部隊に所属していた私が、男の子からこんな目で見られたらどんな気持ちになっただろうか……高慢に一夏君を侮辱しただろうか?それとも一切の容赦無く切り捨てただろうか?……今の立場だから分かるけど、昔の私ってかなり俗世間に毒されてたんだ、男の子だからって、今の一夏君の態度は間違い無く私を心配してくれてるだけなのに……

 

「行きます!」

 

「そんなに力まなくっても……リラックス、リラックス。はい、深呼吸」

 

「すーー……はーー……」

 

「落ち着きましたか?」

 

「元から緊張してないって!」

 

「はいはい……言い返せるくらいには緊張がほぐれたんですね」

 

 

一夏君は少し苦笑い気味に笑っていた。こんな表情は滅多に見られないのでは無いだろうか……貴重な体験をした気分になった私は、ついさっきまで躊躇っていた、教室のドアを開ける動作を、何の躊躇いも無くする事が出来た。あぁ、私はやっぱり緊張してたんだな……あれほど一夏君には緊張してないって言ってたけど、自覚するとやっぱり私は緊張してたんだな。

 

「皆、おはよう」

 

「「「おはようございます!」」」

 

「じゃあ、俺は席に着きますね」

 

「うん、ありがとう一夏君」

 

「……教室では苗字で呼んでください」

 

 

一夏君はすぐに切り替えられるらしいけど、私はそこまで器用では無いのだ……周りに人が居るからって、簡単に呼び方を変えられる一夏君が凄いのであって、きっと私が普通なんだろうな。

 

「一夏君は気にしすぎなんだよ。普段から私の事も『ナターシャさん』で良いのに……」

 

「けじめは大事ですよ?」

 

「う~ん……その考えは如何もしっくり来ないのよね~」

 

「日本的な考え方でしょうからね」

 

 

いくら私が親日で、日本語も問題無く使えるからと言って、全面的に日本文化を受け入れられている訳では無いのか……

 

「まぁ、少しずつ慣れてくれれば良いですよ」

 

「努力してみるわ……」

 

 

一夏君の事を名前で呼び始めてから、如何も苗字で呼ぶのが難しいのよね……『織斑』って呼ぶと、如何してもその後に付く敬称が『先生』か『さん』になってしまうのだ。

 

「えっと見た感じ居ないのはデュノアさんだけだね」

 

「シャルは反省中ですからね」

 

「特に連絡事項も無いし、HRは終わり」

 

 

終わってみれば緊張する必要は無かったなと思った……教室に入ってから終わるまで5分も経っていないのだ、緊張してた時間の方が長かった気がする。

 

「それじゃあ私は職員室に帰るから、一夏君後はよろしくね」

 

「……せっかくだしやって行きませんか?」

 

「な、何をかしら?」

 

「何って、このまま授業を」

 

「無理無理無理無理!!」

 

「そんな勢い良く拒否らなくても……」

 

「だって無理だよ」

 

「フォローしますから」

 

「だって無理なものは無理だもん」

 

 

一夏君は私の教え方の下手さくらい知ってるだろうに、如何して私に座学を教えさせようとするんだろう……もしかして私に恥を掻かせて悦ぶのだろうか?

 

「いやいやいやいや」

 

「?」

 

 

自分の考えに呆れて、思いっきり首を振ったら一夏君に不審がられてしまった……

 

「幸いにも今日は座学担当の教師は居ませんし、復習も兼ねて既にやったところを教えてくれれば良いですから」

 

「……下手でも笑わない?」

 

「笑う事なんてあるんですか?」

 

「だって……」

 

 

お偉いさんがいっぱい居る中で試しに授業をやった時、馬鹿にしたような笑いを浮かべてた人が沢山居たし、慰めてくれた試験官も内心笑ってたし……だから私は座学の授業をしたくないのだ。

 

「誰だって苦手な事くらいありますよ」

 

「一夏君には無いじゃないのよ……」

 

 

完璧超人、それが一夏君に対する私の評価であって、恐らくは世間の評価もこれと同じか少し低いくらいだろう。そんな一夏君に言われても、私の心にはまったく響かないのだ。

 

「俺だって苦手な事くらいありますよ」

 

「そうなの?」

 

「俺だけじゃ無く、ブリュンヒルデも大天災にも苦手な事はありますよ」

 

「それは……」

 

 

確かに織斑先生は世間一般には知られてないが苦手な事が多い……家事の殆どを一夏君に任せてたため、織斑先生は簡単な家事すらまともに出来ないのだ。世間では完璧超人だと思われている織斑千冬も、結局は人の子、苦手な事だってあるのだ。

そして『大天災』と称されている篠ノ乃束博士。窓際に座って知らん振りをしている篠ノ乃箒さんの姉にして、私たちが使っているISの生みの親だ。完全無欠のマッドサイエンティストだと言われているが、彼女にも苦手なものがあるらしい……

 

「その2人にも苦手があるって分かれば、少しは楽になったでしょ?」

 

「じゃあ、一夏君の苦手って何?」

 

「教えたらそれで攻められるので教えません」

 

「教えてよ~」

 

「駄目です。それよりもこれ、山田先生の教科書を使って良いですから、此処から此処までをナターシャ先生なりに教えてください」

 

「じゃあ、上手く教えられたら一夏君の苦手を教えて」

 

「……それでモチベーションが高まるなら良いですが」

 

「よし、じゃあ頑張る!」

 

「……意外と単純だな」

 

「何か言った?」

 

「いえ何も……」

 

 

一夏君が何かをつぶやいたように聞こえたが、それが何かまでは聞き取れなかった……それにこうやって嘯く一夏君相手に、本音を聞きだすのは織斑先生でも無理だって言ってたし、私相手じゃまったく歯がたたないだろうし諦めるか……

 

「それじゃあ復習を兼ねて授業を始めたいと思います。おかしくても笑わないでね」

 

「「「はーい!」」」

 

「ノリの良いクラスだ……」

 

 

呆れ顔の一夏君を目の前に、私は教壇に立った。あの時の記憶が思い出されるが、今はあの嫌味顔のお偉方も居なければニマニマと私の身体を嘗め回すように見てくるエロオヤジも居ない。此処に居るのは私の生徒で、私の授業を聞いてくれる子たちなのだから。

 

「じゃあまず始めに……」

 

 

緊張が無いと言えば嘘になるが、まったく動けなくなるような緊張ではない。これは上手く出来るか心配している感じの緊張だ。失敗しても笑わないって言ってくれたし、下手なのは分かってて頼まれたのだから、馬鹿にされる心配をしなくて良いのだ。そっちの緊張が無い分、結構気楽に授業を進める事が出来た……と思う。既に山田先生が教えた場所をやっているので、私の表現がおかしくても誰も指摘してこないし、一夏君がおかしな所は補足説明してくれてるから私の方でも勉強になっているのだ。

 

「えっと、此処までで何か分からないところはある?」

 

「ナターシャ先生は織斑君が好きなんですか?」

 

「んな!?」

 

「……授業に関係無い質問は減点せざるを得ないぞ、相川さん」

 

「減点は嫌だな~」

 

 

軽口を叩いた相川さんに、私は絶句してしまった……私が、一夏君の事を好き?そりゃ頼りになるし、助けてもらった相手だから好意はあるけど、それが如何言う類の好意なのかは、実はあまり分かっていないのだ……人として好きなのか、はたまた男の子として好きなのか。一緒に居て楽しいし、嬉しいけど、それだけで男の子として好きなのか如何かは分からないんだよね……軍属でそんな事にかまけてる暇は無かったし、世間の同年代の女性と比べれば、色恋事には疎いのだろう。

 

「それじゃあ聞きなおすけど、授業の中で此処までで分からなかった事はある?」

 

「大丈夫で~す」

 

「織斑君がフォローしてくれてるし、ナターシャ先生の教え方もそこまで酷く無いよ~」

 

「むしろ自信を持って授業しても良いくらいだと思うけど」

 

「マヤヤはすぐ脱線するからね~」

 

「あっ、それ分かる~」

 

「だよね~」

 

「「「あははははは」」」

 

「……脱線するのは皆が山田先生をからかうからだろ」

 

「それもそうだね~」

 

「からかいやすいからね~」

 

「だってマヤヤだもんね~」

 

「「「あはははは~」」」

 

「……授業を再開してください」

 

 

一夏君の疲れきった感じが良く伝わってきた……自分の気持ちは兎も角として、今はしっかりと授業をしなければ。せっかく一夏君がくれた成長のチャンスを、無駄話や余計な考え事で潰すのはもったいないからね。




次回も授業風景だと思います
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