午後の授業は無いから、今日は後1時間で授業は終わる。そうなると如何やって時間を潰そうか悩むんだよね。
「(アリーナは使えないからISの訓練は出来ないし、部活も今日は休みだからね)」
そうすると図書室で本でも読むか、部屋で予習復習をするかどっちかなんだよね……それはそれでつまらないしな。
「ねえねえマドマド、これ終わったら何して遊ぶ~?」
「偶には違う事したいよね」
「本音様は生徒会の仕事があるのでは無いのですか?」
「おりむ~とおね~ちゃんに任せとけば大丈夫だよ~」
「また怒られても知らないからね」
如何やら放課後の予定を考えているのは私だけでは無さそうだ。偶には彼女たちと一緒に何かするのも楽しそうね。
「ねえねえ。私も一緒に遊んでも良いかな?」
「おや、鷹月さんがですか?」
「珍しいね~」
「駄目?」
「いや、大丈夫だよ」
これで暇で困るって事は無くなった。この3人と一緒に居れば、何かしらあるだろうから退屈はしなくて済むだろうな。
「かんちゃんも誘おっか」
「そうですね」
「簪も一緒ならお兄ちゃんも怒らなくて済むだろうしね」
「……貴女たちは普段何をして一夏君に怒られてるのよ」
ただ遊ぶだけで怒られるとは思えないし、一夏君がそんな事で怒るとも思えない……そうなると普通では無い遊びをしていると言う事なのだろうか?
「部屋を散らかしっぱなしだったり~」
「お菓子を食べ散らかしたり~」
「作業中の一夏様を、まったく考慮しないくらいの大声を出したりですね」
「……そりゃ怒るわ、一夏お母さん」
男子でありながら、恐らくこのIS学園で1番のお母さんっぷりを発揮してるのは一夏君だろう。そんな事もあって、一夏君は影でお母さんと呼ばれたりしてるのだ。
「おりむ~は男の子だけど、お母さんっぽいんだよね~」
「そりゃ本音は毎朝起こされてるんだし」
「朝食やお弁当も一夏様が作ってますしね」
「一夏君って結構苦労してるのね、こう改めて言われると……」
それに加えて今日は教師代理までやっているんだから、気の休まる時間などはあるのだろうか……放課後だって生徒会の仕事や、織斑先生たちの様子を見に行ったりするんだろうし、その後だって部屋で夕食の準備もするのだろう。
「誰か一夏君の手伝いとかしてるの?」
「お兄ちゃんの手伝いをしようとしても、結局足手まといになっちゃうんだよね」
「おりむ~の作業についていくのは大変だからね~」
「私たちがやっと1つの作業が終わった時には、一夏様は3つくらいの作業を終わらせてますからね」
「有能なのも考え物ね……」
一夏君を手伝うには、それ相応の実力とスピードが必要になってくるらしい。一夏君を手伝おうと言う気持ちはあるらしいのだが、結局邪魔になってしまうので手伝わないらしいのだ。
「後片付けくらいなら出来るんじゃないの?」
「そっちも気付いたら一夏様が終わらせてるんですよね~」
「おりむ~、あんまり食べないから」
「片付けに取り掛かるのも早いんだよね」
「一夏君、食べないんだ……」
そう言えば昼食でも一夏君が食べてる所を見かける事は少なかったわね……あれは食べるのが早いんじゃなくって、量が少なかったんだ。
「お兄ちゃんは姉さんと一緒で朝に沢山食べるからね」
「でも、沢山と言っても一夏様基準ですからね」
「私たちみたいにお菓子で補充してる訳でもないのに、よくもつよね~」
「だから一夏君は痩せてるんだ」
高校生男子の平均くらいはあるのだろうが、一夏君は筋肉質だから平均に届いているだけで、実際はそれほど体重は無いのだろうな。
「ところで、放課後は何をするか決まったの?」
「ボードゲームは昨日やったし~トランプもしたもんね~」
「いっそのことテレビゲームは?」
「簪様が有利すぎだと思いますが……」
「更識さんってそんなにゲーム上手いの?」
「ゲームと言うよりは、機械に強いから」
「相手の動きを読む力がありますからね……ゲーム限定で」
「かんちゃんは意外とゲーマーだから」
「そうなんだ……」
学年2位の頭脳の持ち主は、意外なことにゲーマーだったのか……余裕のある人だからゲームで遊んでいられるのだろうか。
「普段からしてるの?」
「普段はかんちゃんも学園ではしないかな~」
「偶にしてるくらいだよね?」
「楯無様とコッソリしてましたね」
「コッソリ?」
「あんまりゲームばっかりやってるとお兄ちゃんに怒られるから」
「あぁ~」
なるほど、そこでもお母さんを発揮してるんだ。
「だからお兄ちゃんを巻き込んでゲームをしない限り長くは遊べないんだよね」
「1時間毎に休憩を挟みますからね」
「目が悪くなるってね~」
「完全にお母さんじゃない……」
一夏君の私生活はちょっと想像出来なかったんだけど、話を聞く限り完全に母親のような生活をしているようだった……おかしいな、一夏君は男の子だったと思ってたんだけど。
「ほらそこ、さっさと席に着け」
「「「は~い」」」
「ゴメンなさい、お母さん」
「お母さん?」
「あっ、間違えた」
そろそろチャイムが鳴るので、一夏君が私たちを注意したのだが、私の中で完全に一夏君=お母さんの公式が出来てしまったのでついついお母さんと呼んでしまった。
「間違えたって静寂、俺は男だが」
「3人の話を聞いてたらお母さんみたいって思ったのよ」
「……何となく否定出来ない自分が情けない」
「気にする事無いって。一夏君は一夏君なんだから」
「慰めになって無い気が……」
「細かい事は気にしないの」
一夏君が何か言う前に、私は自分の席に戻る。次の授業も一夏君が担当するんだししっかりとしてなきゃね。
「細かく無いと思うんだが……」
教壇の前で首を捻りながら唸っている一夏君を見て、思わず噴出しそうになったのはその姿がお母さんが子供に言われた事を気にしてるような姿に見えたからだ。
本日最後の授業は大嫌いな社会……世界情勢なんて知らないからって困らないと思うんだけど、これも試験科目なので受けておかないと後で泣くのは私なのだ……主にお兄ちゃんに泣きつくんだけどね。
「ねぇ須佐乃男」
「何ですか?」
「この授業ってつまらないよね?」
同じように退屈してる感じの須佐乃男に話しかけた。お兄ちゃんからは離れてるし、小声で話せば聞こえないだろうと考えたからこその暇つぶしだ。
「退屈ではありますが」
「お兄ちゃんも良くこんな授業を出来るよね」
「千冬様が担当してたらもっと退屈だったと思いますよ」
「確かに……姉さんの授業は分かりにくいもんね」
お兄ちゃんは分かりやすく説明してくれるし、難しい言葉も分かりやすく変換してくれるのでまだ耐えられるが、姉さんの授業は私たちが理解してると思い込んで進めるため、難しい言葉もそのまま使うし説明も簡単にしかしてくれない。これじゃあどっちが本当の教師だか分からないじゃないか……
「ですが、山田先生だと脱線しまくりですからね」
「あの人は怒るって事を覚えた方が良いよね」
「山田先生が怒ったらそれはもう山田先生では無いですよ~」
「何となく分かる」
山田先生は怒らないから山田先生なので、怒ったらもうそれは私たちの山田先生では無くなってしまうのだ。
「そう考えるとお兄ちゃんの授業が1番だね」
「まぁ怒られる可能性はありますがね」
「大丈夫だって。小声で話してるんだし」
「そうですね」
お兄ちゃんは今、日下部さんの質問に、分かりやすく説明してるからこっちには意識が向いてないし、例え意識を向けてたとしても小声だから聞こえないだろうな。
「マドカ、須佐乃男」
「「は、はい!?」」
「退屈なら外走ってくるか?」
「き、聞こえてたの……?」
「結構小声だったんですが……」
「後数十分くらい我慢しろ」
「「は~い」」
「まったく……他に質問のある人は居ないか?」
姉さんなら有無を言わさずに走らされてただろうが、お兄ちゃんは1回は猶予をくれるのだ。だが2回目の注意では姉さん以上の罰を与える時もあるから油断は出来ない……最悪ご飯作ってくれなくなりそうだしね。
「それじゃあ先に進むぞ」
お兄ちゃんは質問のある人が居ないのを確認してから先に進んでくれる。普通ならある程度は気にせず進めてしまうんだろうけど、お兄ちゃんの場合はしっかりと質問に答えてあげてるのに進度は遅れさせてないのだ。要点をまとめてから教えてくれているので、無駄な説明などを省いてるからだろうけど、それだって急造で出来る事では無いと思うんだけどな。
「(やっぱりお兄ちゃんは凄いんだな~)」
この学園に来てから、更にお兄ちゃんの凄さを思い知らされてる気がするけど、それがまったく嫌な感じにはならないのも凄いんだよね~。
「とりあえず今日は此処まで。連絡事項は特に無いから、このまま解散して良いぞ」
「おわった~!」
「何する?」
「ケーキでも食べに行こうよ」
お兄ちゃんが終了の合図をした途端、クラス中が騒がしくなった。授業中に出来なかったお喋りを一気に爆発させた感じがする。
「ナターシャ先生、少し付き合ってほしいのですが」
「良いよ~」
そんな中お兄ちゃんは真面目な顔でナターシャ先生に何かを話していた。対するナターシャ先生の顔は気楽そうだったので、表情だけで会話の内容を読み取る事は出来なかった。
「マドカさん、行きましょうか」
「かんちゃんを迎えに行くのだ~」
「そう……だね。うん、遊ぼう!」
お兄ちゃんたちが何処に行くのかとか、何を話していたのかとか気になる事はあるけど、せっかくの自由時間を考え事で費やすのももったいないので切り替えて全力で遊ぶ事にした。
真面目な顔で一夏君に連れられてきたのは、特別指導室だった。本来なら私は来る事は出来ない場所だが、一夏君に手を引かれて来たので入る事が出来たのだ。
「それで一夏君、此処で私に何の用なの?」
連れて来られたからには、何かしらの用があるのだろうけど、私は此処に入れられるような事に心当たりは無いし、一夏君も私を入れる事はしないだろう。だがそれ以外で此処に来るような用事が思いつかないのだ。
「ナターシャさんには、問題児2人を出して良いかの判断を手伝ってもらおうかと」
「問題児?」
「ぶっちゃけると千冬姉とシャルです」
「山田先生は?」
「あの人は特に問題が無かったら今開放するつもりですから」
つまり山田先生は2人とは別の理由で入れられたって事なのだろうか……そもそも私は何で織斑先生まで閉じ込められてるのかちゃんと分かってないのだ。学園側にはしっかりと説明して納得されているのだろうけど、一夏君の独断で閉じ込めたって事しか私のような末端の人間には知らされてないのだ。
「気をつけてくださいね」
「何を……」
「一夏!!」
「きゃっ!」
言ってるのと続けるはずだったが、扉の微かな隙間から聞こえてきた雄たけびが私の口の動きを変えさせた。
「だから気をつけてと言ったでしょ」
「あ、ありがとう……」
驚きのあまり転びそうになった私を、しっかりと一夏君は受け止めてくれた。
「シャルはあまり反省してないようだな」
「してるよ!」
「じゃあそんな登場の仕方は止めるんだな」
「ビックリした?」
「するか、馬鹿者」
一夏君はデュノアさんのイタズラを軽くあしらい、そのまま更に奥に進む……てか、此処が最深部のようだけどね。
「おい駄姉、起きてるか?」
「起きてるさ。だが一夏、その駄姉と呼ぶのを止めてくれないか?」
「呼ばれたくなかったら少しは成長を見せるんだな」
「私だって成長してるさ」
「ほう、何処が成長してるんだ?」
「この胸だ!」
「……もう暫く此処で生活してもらう」
「何故だ!?」
「今のは仕方ないと思いますよ」
これが世間の憧れの織斑千冬の本性なのか……一緒に仕事するようになって少しは分かっていたつもりだったけど、此処まで酷いとは思ってなかったなぁ。
「さて山田先生」
「はい」
「しっかりと反省は出来ましたか?」
「色々と反省しました」
「具体的には?」
「最終的に織斑先生に乗せられてしまう事とか」
「あぁ~」
確かに山田先生は何だかんだ言っても最終的には織斑先生のノリについていってる感じがしていた。途中までは止めてるのに、気が付いたら織斑先生以上に悪乗りをしてたりしたんだっけ。
「これからはしっかりと自分を律したいと思います」
「それが上辺だけで無い事を信じ、開放します」
一夏君も山田先生を解放する事によって授業の負担は減るが、釈放後の観察など別の仕事が課せられるらしいのだ。学園の仕事なんだから、学園から人員を割けば良いのに、都合良く一夏君に押し付けているらしいのだ。
「もし反省が口先だけだと分かったら、また此処に入る事になりますからね」
「重々承知しております」
「一夏、僕は?」
「シャルはまだ駄目だな」
「何でよ!?」
「ナターシャさんを連れて来たのは、釈放しても大丈夫か判断を手伝ってもらおうと思ってたのだが、そのナターシャさんを脅かすようなシャルは開放する訳には行かないだろう」
「うんうん」
あれは本当にビックリしたよ。一夏君は顔色1つ変えずに見てたけど、私は心臓が停まるかと思ったくらいだったのだ。
「千冬姉と仲良く反省してるんだな」
「一夏、私は反省したんだぞ!」
「まず義弟に対する変態行動を反省するんだな!」
「弟を可愛がるのは姉として当然だろ!」
「あれが当然だと思ってるのはアンタくらいだ!」
「束もそうだろ!」
「……どっちも変態思考じゃねぇかよ」
一夏君のこう言った口調は珍しい……確かに一夏君も高校生男子なのだからこう言った口調をしててもなんらおかしく無いのだが、普段丁寧な口調で話してるから普通の高校生男子のような口調をされると、結構ビックリするのだ。
「それさえ何とかなれば、アンタは出られるんだからしっかりしろ」
「私の一夏への愛が変態だと……」
「愛じゃねぇよあんなの!」
いったい何をしてきたのだろうか、織斑先生は……多少の迷惑行為なら寛容な一夏君は見逃してくれるんだろうが、その一夏君が此処まで嫌がる事ってなんなのだろう?
「それじゃあまた明日来るわ」
「待て一夏!」
「……何だよ?」
「ご飯は?」
呼び止めた時の声とは違い、今の織斑先生の声はもの凄い可愛い感じがしてきた……まるで一夏君に甘えている感じだ。
「1食2食抜いたからって死ぬような人間では無いだろ、アンタ」
「だが食べる以外にする事が無いんだ」
「反省しろ!」
「あぅ」
一夏君のカミナリが織斑先生に落ちた。普段の威厳は何処に行ったのだろうか、今の織斑先生は威厳も貫禄も無いただの女性になっていた……いや、女子だろうか。
「そう言えば寮長室のクローゼットにある袋は何だ?」
「な、何の話だ……」
一夏君がふと思い出したように聞いた事に、織斑先生は動揺を見せた。何か一夏君に知られたらマズイものなのだろうか?
「開けて確かめても良かったんだが、弁解の余地を与えてやろうと思ってまだ開けてないんだ。今此処で言えないのならこのままナターシャさんと山田先生を連れて確認に向かうぞ」
「あれは私のものだ!」
急に声を荒げて扉にしがみつく織斑先生、私と山田先生はその迫力に2,3歩後ろに距離を取ったのだが、一夏君はまったく動じずに、むしろその織斑先生に近づいて行った。
「アンタのものだと分かって聞いてるんだよ。さっさと白状しやがれ!」
「正直に行ったら中身は確認しないんだな?」
「されたくないものなのは分かったが、あまりにも酷かったら確認した後に処分する」
「じゃあ絶対に言わない!」
「言わないのならこの鍵で部屋に入って確認するだけだ」
そう言って一夏君はポケットから1本の鍵を取り出した。その鍵を見るなり、織斑先生の顔色はみるみる青ざめていった。
「何でその鍵をお前が持ってるんだ……」
「汚いアンタの部屋を掃除して見つけたんだ。職員室にも許可を取って1本は俺が預かってるんだ」
「なん……だと」
「今すぐ白状するか、俺たちに確認されるか、アンタに選べるのはこの2択だけだ」
「あれは高い金を払って手に入れたんだ。頼むから処分だけはしないでくれ!」
「高い金って、アンタまた無駄遣いを」
何だか駄目夫に怒る妻みたいな光景が繰り広げられている……もちろん一夏君が妻で織斑先生が駄目夫だ。
「文句は束のヤツに言え。アイツが散々吹っかけてきたんだから」
「それに乗るアンタも同罪だろうが!」
一夏君の表情は、明らかに怒っている感じだった。だけど私たちの方にはその怒気を感じさせないように調整しているようで、恐怖を感じる事は無かったのだが。
「そんなに言いたくないのなら今から行って確認してくる」
「一夏は見るな!」
「何でだよ?」
「あれはお前には刺激が強すぎる」
「……変態」
一夏君は今の一言で何かを察したようで、まるでゴミを見るような目を織斑先生に向けている。あんな目を一夏君にさせたら駄目だと思ったのは、きっと私だけでは無く山田先生も同じだっただろう。
「兎に角中身を確認した上で適切な処理を施すからな」
「せっかくお金を貯めて買ったのに……」
「さて、行きましょうか」
「う、うん……」
「そうですね……」
気まずい雰囲気に包まれたこの場所から逃げ出したいけど、一夏君以外此処から出る方法を知らないので逃げ出す事も出来ず、私と山田先生は大人しく一夏君の後に付いていく事しか出来なかった……背後から織斑先生の必死な声が聞こえているけど、一夏君はまったく興味を示す事無く進んでいく。
「でも、織斑先生の宝物を勝手に見ても良いのでしょうか?」
「ちょっと可哀想ですよね」
「2人共、あまりあの馬鹿を甘やかさないでください」
「「は、はい……」」
口調こそ普段通りだが、顔が……目が笑ってなかった。一夏君にそんな風に見られたら、私も山田先生も逆らえるはずもないのだ。特別指導室から出て、私たちはそのまま寮長室に向かった。そこでとんでもないものを見るなんて、そんな事思っても無いままに……
何となく想像はついていると思いますが、次回は結構酷い回になりそうです……