もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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今月買うものが多くて……金欠気味に


はしゃぐ彼女と呆れる彼氏

 お風呂でわいわい騒いだ後、ちょっと疲れた私は皆より先に出る事にした。仕事疲れからか何時もより付き合えなくなっちゃってるのだろうか……

 

「あれ? 早いですね」

 

「ちょっと騒ぎすぎまして……」

 

「そうですか」

 

 

 部屋の掃除をしていた一夏さんが不思議そうに私を見ましたが、それ以上何かする訳でも無く掃除を再開しました。散らかしてるのが私たちなのに何だか申し訳無いですね……

 かと言って私たちが掃除しようとしても一夏さんより時間はかかるし、一夏さんより綺麗に仕上げる事が出来ないので、結局一夏さんが掃除する事になってしまうんですよね。所謂二度手間と言う事になるので一夏さんに任せてしまうのですが……

 

「どうぞ」

 

「え?」

 

「少しは疲れがとれると思いますよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 何時の間に淹れてきたのか分かりませんが、私の前にミルクティーが置かれた。一夏さんの早業には慣れているはずなのですが、何時見てもお茶を淹れる動作が見えないんですよね。

 

「お疲れのようですので少し甘めにしてあります」

 

「相変わらずの気配りですね」

 

「これくらい普通だと思いますけど?」

 

「………」

 

「虚さん?」

 

 

 別に一夏さんが悪い訳では無いのですが、この前した約束を忘れているようですね。まぁ一夏さんは忙しいですし仕方ないって言ってしまえばそれまでなのですが、イマイチ釈然としないのは何故でしょう……

 

「……あぁ、そう言うことか」

 

 

 ふと一夏さんが何か思い出したようにつぶやき、私に向き直りました。急に見つめられると照れるのですが、今は何故だか視線が外せませんでした。

 

「この間の約束を忘れてたな」

 

「覚えてくれてたんですか?」

 

「一応はな……だけど普段から敬語だから急に変えろって言われても難しいんだよ」

 

「ですがそっちの方がより恋人らしいじゃないですか」

 

「如何なんだろうな……他の恋人たちの話し方を聞いた訳じゃないから比べようも無いが」

 

「普段の一夏さんは硬い印象を与えるですよ」

 

「虚は先輩だし、普段の話し方の方が世間的には正しいと思うんだが……」

 

「先輩の前に彼女なんですからそんな事気にしなくて良いんです!」

 

「……彼女の前に先輩だと思うんだが」

 

 

 困ったように頭を掻きながら、一夏さんは私の前に腰を下ろしました。掃除が一段落したのか、一夏さんもコーヒーを淹れてきていました。いったい何時の間に……

 

「兎に角2人きりの時はなるべくこうやって話すから、普段は勘弁してくれ」

 

「しょうがないですね」

 

「大体急に変えろって方が無理なんだよ……」

 

「じゃあ少しずつ慣れれば良いんですよ」

 

「同じ事を虚が言われて、そう簡単に受け入れられるか?」

 

「……無理ですね、ゴメンなさい」

 

 

 一夏さんの立場に自分を当てはめて考えると、一夏さんの言い分が正しいと良く分かりました。私だって普段からお嬢様や簪お嬢様のように話せと言われたら困りますし……

 でも一夏さんはこうやって崩した話し方も出来るのに、何故普段から使わないのでしょうか?

 

「一夏さんってクラスメイトにもそれほど崩した話し方はしてませんよね?」

 

「そうだな……こんなに砕けた話し方はしてない」

 

「何故ですか?」

 

「何故って言われてもなぁ……恐怖心を植えつけそうで怖いからかな」

 

「気にしすぎだと思いますけど」

 

「そうかな……粗暴な言葉遣いは怖いと思う人が居ると思ってるから使わないんだが」

 

「確かに怖いと思う人も居るかもしれませんが、やっぱり気にしすぎだと思いますよ」

 

「だからと言って明日から砕けた話し方をしたら驚かれるだろうが」

 

「ですが、鷹月さんには普通に話してますよね?」

 

 

 本音や須佐乃男からの情報では、鷹月さんと話している時だけ、一夏さんの言葉遣いが違うらしいのだ。それだけ心を開いているのでしょうが、何故彼女だけなのでしょうか?

 

「そうだな、後鈴にも普通にしゃべってる。アイツには気を使う必要がねぇからな」

 

「凰さんとは小学校時代からの付き合いがあるからですか?」

 

「堅苦しい話し方するとキレるんだよ、鈴のやつ」

 

「それだけ親しいって事なんでしょうね」

 

「特別扱いされるのが嫌だって言ってましたけど、アイツ代表候補生になったんだから特別扱いされてるんじゃねぇのか?」

 

「一夏さんに特別扱いされるのが嫌なんだと思いますよ」

 

「俺に? ある意味で特別扱いはしてるんだが」

 

「外で遊ぶ数少ない相手ですものね」

 

「ほっとけ!」

 

 

 一夏さんと話していると、何でこんなに心が穏やかになるのでしょう。さっきまで感じていた疲れはミルクティーと一夏さんのおかげですっかり無くなり、代わりに楽しい気持ちになってきました。

 一夏さんの方は私と話しているとどんな気持ちになっているのでしょうか。私と同じ気持ちになれてるのなら嬉しいですが、さすがに私にそんな癒し効果はありませんよね。

 

「もう1杯飲むか?」

 

「え?」

 

「いや、空なのにカップを口に持っていってるから」

 

「それじゃあ頂きます」

 

「ちょっと待ってろ」

 

 

 いつの間にか飲み干していたミルクティーに気付く事無く話していたようで、一夏さんが指摘してくれるまで全くその事に気付けませんでした。道理でさっきから飲んでるはずなのに水分を感じられなかったはずですね。

 

「ほい」

 

「ありがとうございます」

 

 

 おかわりを貰って再び一夏さんと会話をしようとしたのですが、一夏さんが何かを感じ取ったように立ち上がりました。

 

「如何かしたんですか?」

 

「そろそろ皆が出てくるみたいだ。会話は此処までだな」

 

「別に出てきても平気じゃないですか」

 

「この話し方は2人きりの時だけだ。それに今度は俺が風呂に入るからな」

 

「そうですか……」

 

「また今度な」

 

 

 そう言って一夏さんは自分が使ったカップを持ってキッチンに行ってしまいました。確かにあまり親しい姿を見せ付けては皆さんに悪いですし、一夏さんも普段の口調の方が話しやすいですからね。人前では敬語に戻ってしまいますし、また距離を感じてしまうでしょうから此処で切り上げるのが1番良かったのでしょうね。

 

「さっぱりした~!」

 

「お姉ちゃんはハシャギ過ぎなんだよ」

 

「でも面白かったですね」

 

「おりむ~牛乳頂戴~!」

 

「私もほしいな~」

 

「はいはい、全員分あるから大人しくしてろ」

 

 

 キッチンから出てきた一夏さんの手には、全員分の牛乳をのせたお盆が持たれていました。私だけでは無く全員に気配り出来るのが一夏さんの良い所なのですが、言われなくても分かってるのは何だか気恥ずかしいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏君に淹れてもらった牛乳を飲んで、私たちはベッドの上でおしゃべりを開始する。一夏君はお風呂に入ってるから怒られる心配も無いしね。

 

「それにしてもお姉ちゃんは元気だね」

 

「あったりまえじゃない! 何て言ったってみんなの会長さんだからね!」

 

「意味が分かりませんが」

 

「私に元気が無かったら学園が元気なくなっちゃうからさ!」

 

「それは無いですよ~」

 

「ですが、少しは暗くなるかもしれませんね」

 

「楯無さんが元気だから、この部屋も明るいのかもね」

 

「でしょ~!」

 

 

 須佐乃男とマドカちゃんが私の発言を支持してくれたのを良い事に、私はさらにはしゃぐ。それを見て虚ちゃんが首を左右に振っていたけど、そんな事を気にしてたら楽しめないので気付かないフリをした。

 

「お姉ちゃんがはしゃいでいるのは兎も角、一夏や虚さんも、もう少し学園生活を楽しんだ方が良いと思うんだよね」

 

「私ですか?」

 

「確かにおね~ちゃんとおりむ~は仕事ばっかりで遊んでないもんね~」

 

「誰の所為だと思ってるんですか!」

 

「さぁ~?」

 

「間違い無く本音様の所為かと……」

 

「そう言えば本音も生徒会役員だったんだっけ?」

 

「そうだよ~!」

 

 

 マドカちゃんに忘れられていた事に驚いた本音だったが、それだけ生徒会の仕事をしていないって事なんだと思うんだけどな~……人の事言えないけど。

 

「それに今の生徒会が信用されてるのは間違い無く一夏と虚さんが居るからだと思う」

 

「そうですね。職員室から仕事を回されてくると一夏様がぼやいてましたし」

 

「それって職務怠惰じゃない?」

 

「主に千冬様からだと」

 

「なるほど」

 

「姉さんはギリギリまで動かないからね」

 

 

 さすが妹なのだろうか、織斑先生の特性をしっかりと把握しているようで納得顔で頷いていた。

 

「そう言うマドカさんだってテスト前ギリギリまで動かないのでは?」

 

「何で知ってるの!?」

 

「千冬様と血が繋がってる時点で大体の想像はつきますよ」

 

「そう考えると、やっぱり一夏は立派なんだね」

 

「一夏君は普段からしっかりしてるからね」

 

 

 此処の部屋のメンバーでも、織斑先生と一夏君に血の繋がりが無いのを知ってるのは私と虚ちゃんくらいだ。マドカちゃんと須佐乃男は私たちが聞かされる前に知ってるので別とするが、簪ちゃんと本音は確か知らないはずだから気を使うわね……一夏君も隠さずに話しちゃえば良いのに。

 

「お兄ちゃんは授業で理解しちゃうからテスト前に慌てないだよ」

 

「普通の学生では考えられないほどの理解力ですからね」

 

「そもそも普通の学生だったら急に教師の代わりに授業しろって言われても出来ないでしょうが」

 

「おりむ~先生はすごかったね~」

 

「皆が一夏先生って呼んでたのはちょっと気になったけどね」

 

「だって『織斑先生』じゃ千冬様の事になってしまいますから」

 

「でもお兄ちゃんの事をクラスメイトが名前で呼ぶのはちょっと面白く無いよ!」

 

「確かに……一夏の事を名前で呼ぶのは限られた人間だけに許される事なのに」

 

「ちょっと簪ちゃん、何か大仰に言ってない?」

 

 

 別に一夏君は名前で呼ばれる事にはそれほど執着しているようでは無いんだし、クラスメイトでしかも同じクラスに織斑が2人居るのだから名前呼びくらい大目に見てあげようよ。

 

「ナターシャ先生ですら一夏様の授業に感動してましたからね」

 

「だってナターシャ先生は座学を教えるのが苦手だってお兄ちゃんから聞いたよ?」

 

「元々軍属ですからね。教わるより盗むって感じなのかもしれません」

 

「習うより慣れろかもね」

 

 

 様々な憶測が飛び交うが、ナターシャ先生は元々教師では無いんだから多少の苦手意識は仕方ないと思うんだけどなぁ~。そもそも一夏君の適応力が凄すぎるだけで、普通はナターシャ先生みたいになっちゃうんだよ、きっと。

 

「おりむ~はこのまま先生になっちゃうのかな~?」

 

「一夏が先生になったら、織斑先生以上に騒がれるかもね」

 

「お姉様ーじゃ無くってお兄様ーになるのかしら」

 

「容易に想像出来ますね」

 

 

 一夏君の容姿は文句のつけようが無いくらい良いのだし、授業も分かりやすく質問にもしっかりと答えてくれるらしいから、分かってる事を前提で進める織斑先生よりも人気が出るのは当然なんだろうな。

 でも不特定多数の女子に一夏君を取られるかと思うと面白く無いわね……一夏君には更識を支えてもらわなきゃいけないし、先生は無しね。

 

「一夏様は何処かの国でIS乗りになるのでは無いのですか?」

 

「何処の国の代表になるんだろうね~」

 

「少なくともお姉ちゃんとは絶対に戦うんだろうね」

 

「勝てる気がしないんだけど……」

 

 

 訓練で手加減してもらっても勝てないのに、代表戦となると一夏君も手加減してくれないだろうからあっさりと負ける未来しか見えない……一夏君が敵になるくらいなら棄権した方が安全かもね。

 

「でも一夏さんは代表とか興味無いみたいですし」

 

「クラス代表もやる気無かったですからね」

 

「勝っちゃったんだから仕方なく引き受けたんだよね~」

 

「あの時のオルコットさんの態度は酷かった」

 

 

 まだ半年も経ってないのだが、随分と昔の事のように思える。

 女尊男卑の悪しく風習に染まりきっていたオルコットさんは、一夏君の事を見下していたのだ。その事でオルコットさんは一夏君と勝負する事になったのだが、一夏君は遊び半分で叩きのめしたのだ。 

 その後に私たちがオルコットさんにしかるべき処置をしたおかげで悪しき風習から抜け出したのだった。

 

「セッシーは今ではおりむ~に夢中だからね~」

 

「相手にされてませんがね」

 

「お兄ちゃんは精々知り合いかクラスメイトとしか思って無いのにね」

 

「友達のレベルまで達してないんだ」

 

 

 一夏君はお友達が出来ないと嘆いているらしいけど、一夏君が本気を出したら学園中が一夏君のお友達になるんだけどなぁ~。でもそんな事をされたら私たちが面白く無いのでやってほしくは無い。

 

「クラスでも一夏様と友達だと思える相手は精々鷹月さんくらいだと思いますよ。一夏様も鷹月さんは友達だと言ってますし」

 

「あの人は? えっと……日下部さん」

 

「カスミンはまだ友達まで行ってないと思うな~」

 

「そうですかね……一夏様の態度は他の方とは違うような気がしますけど」

 

「お兄ちゃんとちゃんと話せてるのは確かだけどね」

 

 

 一夏君と普通に話せるのは結構仲が良いと思うけどね。それだけ一夏君と仲良くすると言う事は難しいのだ。本人が聞いたら否定するだろうけど。

 

「そもそも一夏君は本当にお友達がほしいと思ってるのかな?」

 

「如何言う事?」

 

「だって普通にしてたらお友達なんて簡単に作れると思うんだけど」

 

「それはお姉ちゃんが社交的だからだよ。私だって簡単には作れないし」

 

「お兄ちゃんは無駄にベタベタしてくるような友達は要らないって思ってると思いますよ」

 

「あんまりしつこいとシャルルンみたいになっちゃうしね~」

 

「デュノアさんは何故あそこまで一夏さんに構おうとするのでしょうね?」

 

「席が隣だからじゃない?」

 

 

 本音が何となく言った事に、私たちは一瞬考えが止まる。それだけで一夏君と親しくなれると思ってるのなら、デュノアさんは世間の厳しさを知らないのだろう。

 家庭事情は聞いてるが、それにしてもあの依存癖は如何にかならないのだろうか。直せないにしても、何故一夏君に依存しようとするのだろう。他にも依存出来そうな人なら居るのに……織斑先生とか。

 

「シャルロットさんは要注意人物ですからね。あの人は隙さえあれば一夏様に胸を押し付けようとしますから」

 

「それは見逃せない行動ね」

 

「制裁を加えますか?」

 

「いや、一夏君にされるでしょうからその後にしましょう」

 

 

 一夏君に裁かれてから私たちが制裁を加えた方が効果的でしょうし、そうなれば一夏君に依存しようとも思わなくなるでしょうしね。

 

「おりむ~が決行したら私たちもシャルルンに制裁を!」

 

「ノリノリだね」

 

「だって面白そうなんだもん!」

 

 

 本音が思いのほかデュノアさんに制裁を加えるのに乗り気なのには驚いたが、これなら何かあったらすぐに本音から報告が来るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂に入る前にまとめて洗濯物を洗濯機にぶち込んで回しておく。普通なら男女分けた方が良いのだろうが、特に誰も気にしないのでまとめて洗っているのだ。その方が手間を省けるし節水になるから俺としても助かるのだ。

 

「義姉が居たから女性の洗濯物で気恥ずかしくなる事も無いし、1回で済むならそれに越した事はないからな」

 

 

 誰に言い訳をするでもなくつぶやき、俺は風呂場に移動した。

 はしゃいでいたのはしってるが、まさか此処まで派手にはしゃいでいたとは思って無かった……そこら中泡だらけじゃないか!

 

「こりゃカビるぞ……」

 

 

 1日の疲れを癒す為に風呂に入ろうと思ってたのに、その前にまだ重労働が残っていた。俺は掃除道具一式を持って風呂場の壁、床、浴槽などに残っている泡を綺麗さっぱり洗い流す事にした。その方が後々苦労しなくていいのだが、元々するような苦労では無かったはずなのだがな……遊んだら片付けろよな。

 

「誰が主になって遊んだのかは知らないが、責任もって片付けまでしてほしいものだ」

 

 

 こんな事を考え付くのか刀奈さんだろうが、決めつけは良く無いのであえて特定はしなかった、心の中でも。

 思い返せば今日1日でどれだけ掃除をしてるんだ俺は……

 

「おかしいな……俺はこの学園に勉強する為に入学したんだよな……何だか違う事ばかりしてる気がするんだが……気のせいだよな?」

 

 

 イマイチ言い切れるだけの自信が無く、独り言にも関わらず疑問系になってしまった。教室に寮長室に生徒会室に自室、他にも細かい箇所の掃除をしている自分を思い返して、俺は何をしにこの学園に来たのかと頭を抱えた……

 好きでやってるから良いが、これからはもう少し勉強の時間を取ろう、そう決心して風呂掃除を真剣にやっている俺は、やっぱり何しにこの学園に入学したのかをもう1度考え直した方が良いのかもしれないな……自分の意思で入学した訳では無いのだがな。




次回から本格的にナターシャヒロイン計画を進めます
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