一夏様から話があると言われ、何事かと思っていたら何と! ナターシャ先生とお付き合いするとの事でした。
「いったい何時からなの!」
「そうだよお兄ちゃん! そんな事聞いて無いよ!」
「そんな素振りなんて全く無かったじゃない!」
「おりむ~の魅力にナターシャ先生もやられちゃったんだね~」
このように様々な反応が見られましたが、私の心情的には楯無様の何時からと言う質問に近いですかね。
「一気に言われても答えられないんだが……」
「それじゃあ整理してから聞きますが……まず始めに何時からそんな流れになったんです?」
この中で最も冷静に進められるだろう虚様が一夏様に質問をしました。他のメンバーは大人しく一夏様の答えを待っています……今虚様を刺激するのはマズイと全員が理解していたからです。
「今日の1時間目に管制室でですかね?」
「うん……そこで我慢出来なくなって一夏君に気持ちを伝えたの」
「一夏さんを好きになったきっかけは?」
「本当なら死んでてもおかしく無いような事件に巻き込まれたのを助けてもらって、その後も色々と力を貸してくれたから……この学園に来てからも助けてもらったりしてるうちに感謝の気持ちが恋心に変わったの」
「ほえ~何だかドラマみたいだ~」
「ピンチの場面で助けられて惚れてしまう、ある意味王道だね」
「でもさ~現実でそんな事ってあるんだね」
本音様、簪様、マドカさんがナターシャ先生が一夏様に惚れた理由を聞いて話し始めました。確かに恋愛ドラマとかにありそうなきっかけですが、ナターシャ先生がそう言ってるんですからそうなんでしょうよ……ほら、虚様が睨んでますから静かにしましょうよ。
「それで、ナターシャ先生が我慢出来なくなったきっかけって何です?」
「さぁ、俺は聞いてませんね」
「えっと……言わなきゃ駄目?」
「駄目です」
あまり言いたそうでは無いナターシャ先生でしたが、虚様の強い口調に逆らえずに、ポツポツと話し始めました。
「布仏さんや織斑さん、それに須佐乃男が一夏君に甘えてるのを見て、羨ましいって気持ちが大きくなってきて我慢しなきゃって気持ちを上回ったから……その他にも更識さんとか布仏さんとかも3人が居ない場所で甘えてたりと、こんな事教師が思うのはおかしいんだけど、ズルイって思っちゃったんだ」
「意外と見られてるんですね」
「「「「「「………」」」」」」
当事者である私たちは、一夏様以外顔が真っ赤になるほど恥ずかしくなりました。見られてないと思ってた事を見られてるってこれほど恥ずかしいものだったんですね。
「ナターシャさん」
「何?」
「いや、分かりにくいから名前で呼ぶか、千冬姉みたいに姉、妹って付けて呼ぶかしてくれるか?」
「そうだね……じゃあ名前で呼ぶ事にするよ、今だけは」
「別に教室じゃない場所なら名前で呼んでも問題無いと思うんだが」
「先輩彼女を名前呼びなんて出来ないよ……」
「ふ~ん……そんなもんか」
先ほどから一夏様とナターシャ先生が会話しているのですが、何か違和感があるような無いような……
「ねぇ一夏君」
「何です?」
「随分と砕けたしゃべり方してるけど、そんなに進展してるの?」
「いや別に……」
「じゃあ私たちと同じように話せば良いじゃない」
「何だ、やきもちか?」
「ち、違うもん!」
そうでしたか! 一夏様があまりにも自然に話していたので気付きませんでしたが、ナターシャ先生に対して、一夏様は砕けた口調で話しているではありませんか! それで違和感を感じてたんですか……これですっきり……?
「一夏様、何でナターシャ先生にだけはすぐに砕けた口調で話してるんですか?」
「特に意味は無いんだが……」
「じゃあ私と虚ちゃんにもその口調で話してよ!」
「そうですよ! 普段から砕けた口調で構わないとあれほど申していますのに!!」
「……それじゃあこの部屋と生徒会室ではそうしよう」
「「やった!」」
何だか趣旨が変わったように思えるのですが……ですがそんな事を言えば楯無様と虚様に睨まれそうなので言いませんが……
「それで、如何してナターシャ先生が一夏君に告白したかは聞いたけど、何で一夏君の事を見てたんですか? 本当に感謝の気持ちしか無かったんですか?」
「それは……」
見られてた事への羞恥心を払拭したのか、今度は楯無様がナターシャ先生に詰め寄ります。此処は経験の差なのでしょうか、私たち1年生は黙って見守る事しか出来ませんでした。
「それに、私はお嬢様や本音と比べれば甘えてないと思うんですが?」
「えっ、でも虚さんだって一夏君と2人きりの生徒会室で……」
「!? 何を言うつもりですか貴女は!」
「虚ちゃん?」
「虚さん、一夏と何をしてたんですか?」
「おりむ~おね~ちゃんと何してたの?」
「何って、肩揉んだりお茶淹れたり頭撫でたり……えっと他には何かしたかな?」
「何で言っちゃうんですか!」
「何でって……聞かれたから」
「もう!」
本音様に聞かれてあっさりと白状した一夏様に、文句を言いたくても本当の事なので言えなくなった虚様が顔を赤くしてそっぽを向きました。
しかし向いた先には腰に手を当てて仁王立ちする楯無様と簪様の姿が……これは虚様も分が悪い展開になったかもしれません。
「虚ちゃんも何だかんだで一夏君に甘えてるんだ~」
「普段は甘えてないような雰囲気を出しておいて、結局甘えまくってるんじゃないですか」
「そ、それはその……」
「「言い訳しない!」」
おお! さすがは姉妹ですね。息ピッタリの反応に私とマドカさんは揃って拍手を送りました。
「怒ってるとこ悪いが、簪だって結構……」
「うわぁ~!」
「簪ちゃん?」
如何やら簪様も影で一夏様に甘えてる様子……何だかんだで全員が抜け駆けしようとしてるんですね。
「話を戻そう!」
「そ、そうですね!」
「俺は別に構わないが」
「それで、一夏は何で付き合う事にしたの?」
「特に断る理由が見当たらなかったし、ナターシャ先生なら皆も気にしないだろ?」
「それはまあ……」
「山田先生と比べたらナターシャ先生の方がお似合いだと思うけどさぁ……」
「おりむ~はモテモテだからまだまだ増えるかもね~」
「そんなにモテてるつもりは無いんだが……」
一夏様のこの発言に、部屋に居る全員が驚愕しました。まさか気付いて無いとでも言うのでしょうか……この学園の生徒、及び教師の大半が一夏様に好意を持っている事を。
「じゃあナターシャ先生もこの部屋で生活するの?」
「いや、教師用の寮で生活してるからな。さすがに生徒用の寮に引っ越してくるのはマズイだろ」
「でも、それだとナターシャ先生だけが一夏と一緒の部屋で寝れない事になっちゃうよね」
「ちょっと不公平かな……」
何だかんだでナターシャ先生を一夏様の彼女だと認め始めている楯無様と簪様が腕を組んで考え込んでいましたが、その姿を見て一夏様が笑ってこう言いました。
「そんな事言い始めたら碧さんは如何なるんだよ。あの人は学園にすら居ないんだぞ」
「そうだった……」
「屋敷に戻っても一夏と一緒に寝てる訳じゃ無いもんね……」
「そう言うことだ。別に一緒に寝なくても気にしない人だって居るんだから」
「でも、私も偶には一緒に寝たいな」
「それじゃあ1週間に1日はこの部屋に泊まれば良いんだよ~!」
「それだ!」
本音様の提案に楯無様が真っ先に喰い付く。確かにそれなら不平等感は減りますが、いったいナターシャ先生は何処で寝るんでしょうか? ベッドの空きはありませんし、誰かと一緒のベッドで寝るのでしょうか?
「その時は一夏君と一緒が良いな」
「「「「「「駄目(です)(だよ~)!」」」」」」
「うるせぇ……」
6人同時に叫び声を上げた為、一夏様がそうつぶやきながら耳を塞ぎました。普段は気にしない一夏様でも、さすがに耳元で大声を出されたら五月蝿いと感じるようでした。
「私たちだって3日に1日しかチャンスが無いんだから!」
「それを週1でされたんじゃ黙ってられないよ!」
「一夏さんは良いって言うかもしれませんが、私たちが許しませんからね!」
「おりむ~と一緒に寝たら離れられなくなっちゃうからね~」
「お兄ちゃんとは私だって一緒に寝たいもん!」
「一夏様のベッドで寝る分には構いませんが、一夏様と一緒に寝る事は認められません!」
「俺は何処で寝ろと?」
「一夏様ならソファーでも床でも寝なくても問題無いですよね!」
「まぁ……無いっちゃ無いが」
「なら問題無いですよね」
一夏様は1日2日寝なくても問題無く生活出来ますし、一夏様のベッドを使わせるまでなら我慢出来ますから。
「でも~それじゃあおりむ~が可哀想だよ~」
「そうですね、その日は私たちの誰かと一緒に寝ると言うのは如何でしょう?」
「一夏君が……」
「私たちと一緒に……」
「それって私にもチャンスあるんですか?」
マドカさんがもの凄い喰い付きようです……よっぽど一夏様と一緒に寝たいのですね。
「ジャンケンで平等に決めます。もちろんナターシャ先生にも参加してもらいます」
「良いんですか?」
「一夏さんの彼女である条件の1つは、平等に扱われて文句言わない事ですから」
「そうそう、新人彼女にもチャンスをあげなきゃ」
「あ、ありがとうございます!」
「……ナターシャさんが年上だよな?」
楯無様と虚様に頭を下げているナターシャ先生を見て、一夏様がそのような事をつぶやきました。この際年齢は気にしないのが得策ですよ、一夏様!
「それじゃあ早速今日はお泊りしてもらおう!」
「はぁ!?」
「それが良いね!」
「それじゃあ皆でジャンケンだ~!」
「お風呂は如何するの?」
「この際全員一緒に入って親睦を深めよう!」
「お嬢様、はしゃぎすぎですよ」
「そう言う虚ちゃんだって嬉しそうじゃない!」
「楯無様も偶には良い事言うんですね~」
「何よ! それじゃあ私が普段駄目みたいじゃない!」
「「「………」」」
「自覚無いんですか?」
「あはは~駄目人間~!」
楯無様の反応に、私と簪様と虚様は無言で対応し、マドカさんは自覚してなかった事に驚き、本音様は指を差して笑いました。
「笑ってるが、お前も駄目だからな本音」
「ほえ!?」
「大体刀奈さんよりお前の方が駄目人間だろ」
「そんな事無いよ~!」
「そう言うなら明日から自力で起きるんだな」
「無理だよ~!」
一夏様に指摘され、本音様は笑っていたのから一転して泣きそうになってしました。
「一夏君、私って駄目な子なの?」
「はいはい、泣かないの」
「ぐすん」
一夏様に抱きつきながら泣いている楯無様を、一夏様は頭を優しく撫でながら慰めています。こう言う風に甘えられる楯無様が羨ましいと思う反面、何故こんなチャンスを与えてしまったのだと後悔する私と簪様と虚様でした……
「お兄ちゃん、私も私も~!」
「本当に甘えん坊だな、マドカは」
「だって小さい頃に甘えられなかったんだもん! 今は思いっきり甘えられるんだもん!」
「はいはい……ん?」
マドカさんと楯無様の頭を撫でながら、一夏様は私たちの視線に気付いて此方を向きました。
「何か……?」
「一夏、後で私も撫でて!」
「私も撫でてほしいです!」
「一夏君、私も撫でてみてよ」
「一夏様、私も甘えさせてほしいです!」
「おりむ~私も慰めてよ~!」
全員纏めて一夏様に突撃して、結局全員が一夏様に甘えるのでした。
一夏君の部屋を訪問するって決まった時は、まさかこんなに早く認めてもらえるなんて思って無かったのだけど、こうして一緒に一夏君に甘えてると、年齢や年月は関係無く一夏君の彼女なんだなって思えてきた。織斑さんは違うけど……
「それじゃあお風呂の準備だね」
「ナターシャ先生の着替えは如何するの?」
「おね~ちゃんの……は駄目か」
「本音、今何処を見たんですか」
「須佐乃男に具現化してもらえば?」
「それが良いでしょうね」
「そんな事出来るの?」
織斑さんの発言を聞いて、私はマジマジと須佐乃男を見ました。何処から如何見ても人間なのに、本当の姿はISなんだもんね、それくらい出来て当たり前か。
「お風呂の前にご飯かな~」
「一夏君が作ってくれてるしね」
「そう言えば皆は料理しないの?」
何気無い質問だったのだが、一斉に目を逸らされた……何か聞いちゃマズイ事だったのだろうか?
「一夏の腕にかなわないから……」
「一夏君と一緒に調理してると、自分の未熟さが浮き彫りになるからね……」
「私はそもそも得意では無いので……」
「邪魔するだけになってしまいますし……」
「おりむ~に任せておけば大丈夫なのだ~!」
「お兄ちゃんの料理は本当に美味しいからね! 邪魔して遅くなるのも嫌ですし」
「そうなんだ……」
昨日見たけど、一夏君の手捌きは確かに凄いものだったけど、皆だってそれなりに出来る人なんだから、邪魔になるって事は無いと思うんだけどな……
「あっ、良い匂い……」
「さすが一夏君、もう完成させてるよ……」
「如何やったらあんな早く出来るだろうね……」
「前に聞きましたが、織斑先生と一緒に生活すればこうなるか死ぬかのどっちかだって言ってましたけど……」
「姉さん、家事出来ないからね」
「一夏様から苦労話は聞いてますけど、良く生き抜いたと思いますよ」
「おりむ~は普段から修行してたんだね~」
「何その壮絶な過去は……」
詳しい事は聞いてなかったけど、今の話を聞く限り一夏君は昔から苦労してたんだと言う事が窺える……どれだけ苦労してるんだろう?
「お兄ちゃんは結構苦労してるからね。並大抵の苦労では文句言わないんだよ」
「一夏様は千冬様だけでは無く束様の相手もしてましたからね」
「束って……篠ノ乃束博士だよね?」
「そうですよ」
本当に凄い人たちと知り合いなんだなぁ……ブリュンヒルデに大天災、この2人が揃うと世界が滅ぶと聞いた事があるんだけど、何でなんだろう……
「ねぇ、その2人が揃うと世界が滅ぶって聞いた事無い?」
「世界が?」
「聞いた事無いですね」
「そう……やっぱ噂は噂か」
一夏君と近しいこの子たちでも知らないって事は嘘なんだろうな。大体高校の時の同級生だって話だし、滅ぶのならとっくに滅んでなきゃおかしいもんね。
「ある意味で本当ですけどね」
「うわ~今日は豪華だね、おりむ~」
「一応記念だからな。ちゃんと手を洗ったんだろうな?」
一夏君に言われて一斉に洗面所に走る……私も含め一夏君のあの目に逆らえる人間は居なかったのだ。
「それで一夏君。ある意味で本当って如何言う事なの?」
「摘み食い……まぁ良いですけど。後で刀奈さんの分が減るだけですから」
「えぇ!?」
「それで、噂の真相ですけど……」
手を洗って帰ってきたら、更識さん……楯無さんが摘み食いをしていた。完全に一夏君は他所を見てたのに、バレていた事に驚いた楯無さんは、その場に座り込んでしまった。
「あの2人がとある場所に揃うと世界が滅びかねない事が起こるんですよ」
「とある場所?」
「おりむ~それって何処なの~?」
特にもったいぶっている訳では無いのだろうが、一夏君はすぐには教えてくれなかった。思い出したく無いのか、記憶の奥底に封印してる為に思い出すのに時間がかかってるのかは分からないけど、少し間が空いてから一夏君は教えてくれた。
「キッチンだ」
「「「キッチン?」」」
「そんなに危険な場所じゃ無いと思うのですが……」
「虚、お前はあの2人が揃ってキッチンに居た光景を見たこと無いから言えるんだよ。あれは化学実験よりも恐ろしい事が起こるんだぞ」
「何が起こったのかな~?」
楯無さんが興味津々なのを隠そうともせずに一夏君に尋ねる。他のメンバーも似たような心境のようだ……もちろん私も気になってるんだけどね。
「なべが飛ぶなんて、信じられるか?」
「おなべが?」
「爆発でもしたの?」
「違う。『跳ぶ』んじゃ無く『飛ぶ』んだよ……何処かに飛んで行ったんだ」
「何それ怖い……」
「次の日に近所のオバサンが持ってきてくれた時に、何処にあったか聞いたんだが、隣町で空からなべが降ってきたって聞いて取りに行ったて聞いた時は呆れたね」
「隣町……」
「完全に飛んでるね……」
一夏君の話を聞くまでは、そこまで酷い事無いんだろうと思ってたけど、もしそれが本当なら織斑先生はキッチンに立たせたら駄目な人だろう。
そして篠ノ乃博士も同様にキッチンに踏み入ってはいけない人だ。その2人がキッチンに揃ったら、確かに世界を滅ぼしかねないね……
一夏君の表情を見る限り、本当だと信じられるからこそ、私たちはこの話を決して他人には話さないでおこうと決心したのだった。
何だかんだで仲良しの彼女たちでした…