一夏君が作った夕ご飯を食べ終えて、私たちは食後のお茶を啜る。摘み食いがバレた時は焦ったけど、一夏君は私の分のおかずを減らす事はしなかったのだ。その分一夏君のおかずが減ってたんだけどね。
「そう言えば」
「ん? 簪ちゃん、如何かしたの?」
お茶を飲んでいた簪ちゃんがフト思い出したように声を上げた。その所為で本音と須佐乃男がお茶を器官に入れてしまい咽たのだが、一夏君と虚ちゃんが迅速に背中をさすったおかげですぐに落ち着いたようだった。
「急に大きな声を出さないでよ~」
「ビックリしました」
「ゴメン……それでだけど、誰が一夏と一緒に寝るの?」
「「「「「「………」」」」」」
全員が一斉に沈黙する……その問題を忘れていたのもあるけれど、降って沸いたチャンスをいかに自分優位に進めるかを考えたからだ。
「別に俺はソファーでも床でも一向に構わないんだが……」
「「「「「「「駄目!」」」」」」」
「お、おおぅ……」
空気の読めない一夏君に全員が大声で責める。多分分かっていて言ってるんだろうけど、何でそんな事言うかな……
「ここはほら、新人の私に譲ってくれないかな? 皆は一夏君と一緒に寝た事あるんだからさ」
このチャンスが訪れるきっかけになったナターシャ先生がそんな事を言った。確かに私たちは一夏君と一緒に寝た事あるけど、それとこれとでは話が違う。
「私たちは毎回争ってるんですよ」
「毎回おりむ~の布団に忍び込もうとしてた時もあったんだから」
「結局全員が潜り込んだ所為で良く分からない状況になったんだけどね」
「懐かしいですね」
まだIS学園に一夏君が入学する前、私たち5人で旅行に行った時にそんな事もあったのだ。あの時はまだ碧さんも付き合ってなかったし、須佐乃男も居なかった。
「経験の差で言うなら、私やマドカさんだってそんなに多く無いですよ」
「お兄ちゃんと一緒に寝て健全なのは私だけだよ!」
「ちょっと不健全だと思うが……」
マドカちゃんの言い分に一夏君がツッコム。家族ではあるけれども、マドカちゃんは義妹なのだ。つまり結婚も出来るし奇形児の可能性も考慮せずに出来るのだ。
「健全じゃ無いよね!」
「そうですね、不健全です!」
事情を知っている私と虚ちゃんだけが猛反対をする。他のメンバーで知っているのは須佐乃男だけなのだから、反対しようにも理由が見当たらなくて躊躇していたのだが、私たちに続けとばかりに反対の意を示した。
「そんな理由で良いのなら、私はISですよ!」
「そもそも『そう言った事』はしないんだから、健全だろうが不健全だろうが関係無いもんね!」
「私はしたいけど、一夏がしないって言ってるんだからしょうがないけどね」
「学生ですからね。万が一の時大変ですから」
「皆、表現がだんだんと直接的になって無いか?」
「今時の女子高生はこれくらい普通だよ、お兄ちゃん」
「お前らは平気かも知れんが、俺が平気じゃ無いんだよ……」
こう言った話が苦手な一夏君は、気まずそうにキッチンに姿を消した。きっと片付けでもするんだろうけど、普通なら女子より男子の方がこう言った話が好きだと思うんだけどね。
「一夏君って苦手なものあったんだ」
「食べ物の好き嫌いも無い一夏様ですが、こう言った話になると途端に逃げ出します」
「じゃあこの前の事、結構無理してたんだな……」
ナターシャ先生の発言に、全員が一斉にナターシャ先生を見た。風を切る音が鳴りそうなくらいの速度で振り向いた為、ナターシャ先生はちょっと驚いている。
「な、何? 私、何か変な事言った?」
「この前って何時です?」
「無理してたって何の事ですか?」
「えっと……一夏君、あれって言っても良いのかな?」
「おりむ~返事してくれ~!」
ナターシャ先生がキッチンに居る一夏君に確認を取っているのに付き合うように、本音が大きな声で一夏君に呼びかける。
「あまり身内の恥は知られたく無いんですが、このメンバーなら大丈夫だと思う……だがしかし!」
肯定の返事をした一夏君だったが、その後にまだ何か言いたい事があるらしい……なんだか重要な事っぽいけど。
「絶対に他言無用で頼むぞ。万が一漏らしたら、俺じゃ無く織斑先生からの制裁があると思って聞くんだな」
「何それ怖い……」
釘を刺して満足したのか、一夏君は再びキッチンに戻って行っちゃった……一緒に聞いて本当に怖かったら抱きつこうと思ってたのに……
「それじゃあナターシャ先生、一夏様からの許可も下りたことですし」
「この前の事を教えて~」
「お兄ちゃんが無理してて、姉さんが関係してる事なら、私は絶対に聞くべきだと思うんだよね!」
噂好きの3人は既に聞く態勢をバッチリ整えていた。私も3人に続けとばかりにナターシャ先生の傍に移動する。簪ちゃんと虚ちゃんは興味半分、恐ろしさ半分って言った感じで近づいてきた。
「じゃあ話すけど、一夏君が言ったように他言無用でお願いね。万が一織斑先生にバレても私から聞いたって言わない事」
「分かってますよ」
「だから早く~」
「姉さんの秘密!」
興味津々なのが良く分かる3人と、私もあまり変わらない雰囲気を出しているかもしれないわね。
「ナターシャ先生、3人がもう我慢出来そうじゃ無いんですが……」
「お嬢様も大概ですけどね……」
「そう…みたいね。それじゃあ話すわね」
簪ちゃんと虚ちゃんの呆れ気味な催促に決心がついたのか、ナターシャ先生が話し始めた。
先日寮長室の掃除をしてた時に一夏君がクローゼットから発掘した謎の袋の正体を確認する為に、ナターシャ先生と山田先生も一夏君と一緒に寮長室を訪ねたらしい。
「それって何時の事です?」
「えっと……昨日?」
「この前ってほど過去じゃなくって、近々じゃないですか!」
「今日が色々ありすぎて、もっと前だと思ってたのよ……」
「色々?」
「うん……まさか一夏君とお付き合い出来るとは思って無かったし」
「そう言う事ですか……」
話がわき道に逸れたが、誰もその事を指摘しない。それくらい一夏君と付き合えた事に衝撃を受けたナターシャ先生の気持ちが理解出来るのだ。
「えっとそれでね、一夏君と寮長室に行ったのよ」
自ら流れを元に戻して、ナターシャ先生は続きを語り始める。
如何やらその袋の中身は映像の保存されたCD-Rと大量の写真だったようなのだ。確認の為に一夏君と一緒に写真を見たら、それはコラージュされた一夏君と、これまたコラージュされた織斑先生が写っていたようなのだ。
「どんなコラージュがされてたんですか?」
「そこを聞きたいです!」
「姉さんの趣味が分かる!」
「……ちょっと刺激が強すぎるかもだけど」
そう前置きしてナターシャ先生は写真の内容を話してくれた。
「「「「「「!!」」」」」」
前置きの通り、その内容はとてつもなく刺激が強いものだった。
「お姉ちゃん、鼻血……」
「そう言うかんちゃんだって……」
「本音様も出てますよ……」
「須佐乃男だって……」
「マドカちゃんも出てるわよ……」
虚ちゃんを除き、聞いていた全員がその内容に鼻血を噴出す始末……織斑先生の趣味思考は私たちにはレベルが高すぎたのだ。
「虚さんは平気なんですね」
「お嬢様たちよりは年上ですし、それなりに対処出来るようになったのでしょう」
「そうですか……てっきり虚さんも似たような趣味思考なのかと思いましたよ」
「そんな訳無いですよ。私は織斑先生ほどぶっ飛んでませんので」
ナターシャ先生と虚ちゃんが話している間に、私たちは鼻血に対しての処置を施す。一斉に駆け込んできた私たちにビックリした一夏君だったが、状況から私たちが鼻を押さえている理由に察しがついたようで、私たち1人1人を手当てしてくれた。
「ゴメンなさいね、やっぱり刺激が強すぎたみたい……」
「大丈夫ですから」
「それよりも続きを……」
「気になって寝れなくなっちゃうよ」
「此処で終わりにされると消化不良です」
鼻血の手当てを済ませ、私たちはまたナターシャ先生の傍に腰を下ろす。あれだけの事を聞いても、まだ満足出来ないのは本能なのかしら? それとも唯単に怖いものみたさなのかもしれないわね。
「それじゃあ続きを話すわね」
写真を確認した3人は、それだけで何となくCD-Rの中身も想像がついたらしいのだが、それでも確認しなければ意味が無いと思いPCで再生する事にしたらしい。
「ちょっといいですか」
「ん? 須佐乃男、如何かしたの?」
「千冬様のPCなんですよね?」
「そうね。織斑先生の部屋のPCだったから、織斑先生のでしょうね」
「それなら普通パスワードが必要なのではないですか?」
須佐乃男の疑問はもっともだった。私は個人用にPCは持ってないから良く分からないけど、一夏君や虚ちゃんは自分しか使わないPCにロックを掛けているのを見たことがある。重要な案件などが保存されてるから持ち歩く時に万が一失くしてしまっても良いようにだとは思うのだが、それ以外にも理由があるように思えるんだよね。
「一夏君が居たからで、貴女たちなら分かりそうだけど」
「なるほど……」
「さすが一夏君ね……」
「だって一夏だもんね」
「おりむ~だもんね~」
「お兄ちゃんならありそうだと思ってたよ……」
「最初から知っていたのでしょうか?」
「如何だろう……でも、少しも考える素振りは無かったわね」
ナターシャ先生曰く、一夏君はパスワードを打ち込む際に、全く迷い無く打ち込んだとの事。これは一夏君知っていた可能性が高いわね……
「ちょっと聞いてくる!」
「私も行きます!」
気になって仕方なかったので、一夏君に聞きに行く事にした。如何やら虚ちゃんも気になってたようで、私と一緒にキッチンに駆け込んだのだった。
「今度は何です?」
洗い物を終えてコーヒーを飲んでいた一夏君が、慌しく来た私たちを見て少し呆れた口調で聞いてきたのだった。
だけど今の私にそんな事を気にしている余裕は無かったのだ。
「ねぇねぇ一夏君、織斑先生のPCのパスワードって知ってたの?」
変化球では無く直球勝負で一夏君に質問をぶつける。私の直球勝負に驚いたのか、虚ちゃんが口を開けて固まっている。
「随分とはっきり聞いてくるんですね」
言われた一夏君も少し驚いているようだったが、私にはそんな事如何でも良いのだ。
「教えて! ねぇ一夏君、知ってたの? それともその場で思いついたの?」
「何となくは分かってましたが、まさかドンピシャだとは思いませんでしたよ」
「それって私たちでも分かるものですか?」
どんな風に装っても、結局虚ちゃんも興味津々のようだった。やっぱり私たちは色々似てるんだね。
「マドカなら分かる可能性はありますが、他の人にはちょっと難しいと思いますよ」
「そうなの?」
「あの人の考えを読むなんて、それこそ妹のマドカか、世紀の大天災くらいなものですからね」
「後は一夏君だけか……」
「そう言う事です」
そう言ってまたコーヒーを啜って目を瞑る一夏君。これ以上は何も話す事は無いと言う意思表示だろう。
私と虚ちゃんは聞きたかった事を聞けたので大人しくナターシャ先生の傍に戻る事にした。
「如何だった?」
「うん、その場で何となく思いついたのを打ち込んだら当たったって言ってた」
「さすが一夏だね」
「その場で姉さんの考えが分かるなんて、やっぱりお兄ちゃんは凄いな~」
「でも、マドカさんでも分かるはずだと言ってましたよ」
「私が? 姉さんのパスワードねぇ……」
虚ちゃんに言われて考え込んだマドカちゃんだったが、暫くして諦めたように首を振った。
「やっぱり私には分からないです……お兄ちゃんに期待されたのは嬉しかったですけど、私はお兄ちゃんや姉さんみたいに文武両道じゃ無いですから……」
「そんな事は無いんじゃない? 一夏君や織斑先生が異常で、マドカちゃんが普通なのかもしれないし……むしろあの2人がおかしいんだって」
「そうかも知れませんが、やっぱり私はお兄ちゃんや姉さんとは違うんだなって思うと、ちょっと寂しいです……」
「大丈夫だよマドマド、おりむ~と織斑先生はちゃんとマドマドの事を大事にしてくれるからさ」
「そうだね。一夏も織斑先生も何だかんだで優しいもんね。だからマドカが2人より劣ってるとか気にしないで良いと思うよ……私も昔は悩んでたけど、今はそんな事気にならないくらいお姉ちゃんと仲良いからさ」
「そうなんだ……簪も悩んでた時期があるんだね」
「うん。出来が良いお姉ちゃんと自分を比べて、それが世間の評価なんだって思い込んでた時期があったんだ」
「如何やって解決したの?」
マドカちゃんは簪ちゃんがコンプレックスを解決した方法が気になるようで、簪ちゃんに掴みかからん勢いで近寄った。
「マドカも知ってる人のおかげだよ」
「私も知ってる?」
「マドマドが最も敬愛してる人だよ~」
「……お兄ちゃん?」
本音の助け舟もあって、マドカちゃんは答えに辿り着いた。
「一夏が他人の評価なんか気にせずに話し合ってみろって言ってくれたから、お姉ちゃんと話せるようになったんだ」
「実際には違う言葉だったけど、ニュアンスはそんな感じだったね~」
「大体簪ちゃんが気にし過ぎてたから、私まで簪ちゃんと話すのが気まずくなっちゃってたのよね~」
「お嬢様が余計な事を言ったから気まずくなったんでしょうが」
「そうだっけ?」
私、何か余計な事言ったっけ……全然覚えて無いんだけれど?
「もう話はおしまいで良いのかな?」
「あっとゴメンなさい。気になるので続きをお願いします」
違う話で盛り上がっていた私たちに、終わりにしていいか確認してくれたナターシャ先生のおかげで、話の続きを聞く事を思い出した。
PCを起動してCD-Rの中身を確認すると、案の定一夏君と織斑先生の顔に修正されたいかがわしい映像が保存されていたらしいのだ。一夏君は速攻電源を切ろうとしたそうだけど、山田先生が興味津々で切らせてくれなかったとか……あの人も大概よね。
「それで、残りのCD-Rも同じようなものだったんですか?」
「そうね……よりハードになってた以外は変らなかったわね」
「よりハード……」
「おりむ~攻めなんだよね?」
「そうだけど?」
「う~ん……やっぱりおりむ~が受けって想像が難しいなぁ」
「何想像してるのよ?」
「だって~おりむ~が攻めじゃまんまなんですもん。だから想像の中くらいではおりむ~に受けをさせたいんですけど~」
「本音ってやっぱり変態だね」
「本音様は私たちと比べても群を抜くくらいの変態ですから」
本音の想像に、マドカちゃんと須佐乃男が反応した。だが同調では無く否定のようだが。
「何だよ~、それじゃあ2人はおりむ~に攻められたいの~?」
「お兄ちゃんにならどんな責め苦を味あわされても耐えられる自信があるね」
「大体一夏様が攻められる構図など想像不可能ですからね」
「だから難しいって言ってるんだよ~」
変態談義は放って置くとして、織斑先生の想像以上の性癖を知る破目になってしまった事を後悔している私と虚ちゃん……好奇心は猫をも殺すと言うのは何となく的を射てるかもしれないわね。
「私、一夏にお茶淹れてもらってくる」
気分が悪くなったのか、簪ちゃんがおぼつかない足取りでキッチンに向かった。
「大丈夫でしょうか?」
「多分平気でしょ。駄目でも一夏君が何とかしてくれるから」
「……そうやって一夏さんに頼りすぎるから、お嬢様は駄目なんですよ」
「虚ちゃんだって一夏君に頼ってるでしょ」
一夏君に頼ってるのは、私たちだけでは無く先生もなんだけど、私たちは公私共に一夏君に頼り切っている節があるのだ。
「それで、今の話を聞かせたので、私が一夏君と一緒に寝ても良いのかな?」
「何でそうなるんですか!」
「だって、全員に精神的ダメージを与えたから」
「「………」」
確かに精神的にダメージは負ったし、少なからず今後の生活に支障をきたす事にはなったけれども、それとこれでは話が違う。一夏君と一緒に寝れる権利は、そう簡単に渡す訳には行かないのだ。
「そんなので決まるんなら、誰も苦労しないわよ!」
「そうですよ! 毎回一夏さんと一緒に寝られる権利を勝ち取るには、それはもう大変な苦労をしてるんですよ!」
「そうなの? それじゃあ今回もそれなりに苦労するのかしら」
年上の余裕……なのだろうか。ナターシャ先生は顔色1つ変えずに私たちを見ている。変態3人共はこの際放って置くとしても、私と虚ちゃんで、何とかしてナターシャ先生の余裕を崩せるようにしなくては!
「お~い。簪が調子悪そうだから誰か手伝ってくれ」
「今行きます」
一夏君から呼ばれて、真っ先に虚ちゃんが反応した。料理や掃除は駄目な虚ちゃんだが、手当てや介抱ならそれなりに出来るので、私は素直に虚ちゃんを向かわせたのだ。
「ナターシャ先生、絶対に負けませんからね!」
「何で対決するのか分からないけど、私だって負けられないんだから!」
全くの未定事項にも関わらず、私とナターシャ先生は互いに火花を散らしにらみ合う。一夏君と一緒に寝るのは、それだけ貴重な出来事なのだから
なかなか一日が終わらない……