もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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タイトル通りのデート回です


待ちに待ったデート

 デート当日、私は緊張で殆ど眠れずにその日を迎えた。昨日須佐乃男に具現化してもらったおかげで服は何とかなってるけど、それ以前に私が全然駄目だよ、これじゃあ……

 

「如何しよう、デート中にあくびなんかしたら、一夏に退屈じゃないのかって思われちゃう」

 

 

 一夏と一緒なら例えつまらない場所でも退屈だなんて思わないのに、あくびしちゃったら言い訳のしようが無いよね……まぁ一夏ならつまらない場所になんて連れてかないんだろうけど。

 

「でもでも、せっかくのデートなのにこれじゃあ一夏に心配掛けちゃうよ……」

 

 

 寝不足の原因は完全にデートなのだが、別に嫌な訳じゃ無いのに……何で寝不足になっちゃうかな……

 

「二人きりで出かけた事だってあるのに……」

 

 

 前に一夏と二人きりでケーキを食べに行った時も、そう言えば緊張で早く待ち合わせの場所に行っちゃったんだっけ……その時は一夏が別件で早めに来てたからそのままデートっぽくなったけど、今日はそんなに上手く行くとは思えないし……

 

「今から寝る? 駄目だ、そんな時間無いし……それに寝癖なんかついちゃったら目も当てられないし」

 

 

 こんな時コーヒーでも飲めば良いのだろうが、私はあまり得意では無いのだ。本音ほどでは無いにしても、コーヒーを飲むとお腹が痛くなるのだ。

 

「一夏は何してるんだろう? きっと一夏の事だから私みたいに緊張してるとかは無いんだろうな……そうだ! 今日は私が一夏の為にお弁当を作ろう! ……あっ、でも材料が無いかもしれない……」

 

 

 食堂にあるものなら使えるだろうけど、あれは更識家のもので、私個人のものでは無い……一夏みたいに普段から食材を買ってきてる訳でも無いし、家の人に頼んでももらえる保障は無い。何せ今更識の財政事情は芳しくないのだから……

 

「一夏が建て直しを計ってるけど、それも何時になるか分からないし……」

 

 

 一夏の仕事がそれだけなら速めに解決するかもしれないけど、仕事以前に一夏は学生なのだ。勉強や鍛錬がそこまで必要ではないとは言え、一夏だってそれなりにプライベートな時間は必要だろう。片手間で財政立て直しが出来るだけで十分なんだろう。

 

「でも、何でいきなりお金が無くなっちゃったんだろう? お父さんだってそんなに散財してたようには思えないんだけど……」

 

 

 お姉ちゃんの代になっても、そんなに無駄遣いしてるようには思えないし、そもそも経理を担当してるのが私だから、無駄遣いなどがあればすぐに見つけられるはずなのに……一夏も領収書などを確認して問題無しと判断してくれてるのに、一向に回復の兆しは見えてこないのだ。

 

「ヤメヤメ! 今日は経理の仕事の事は考えない!」

 

 

 せっかく一夏と二人きりでデートなのに、結局家の事で頭がいっぱいになってしまう……さっきまで緊張してたのに、別の事を考えたおかげでそれは解れたようだった。

 

「お弁当は無理でも、せめて一夏に喜んでもらえるようにしなきゃ!」

 

 

 普段はあまりしないけど、少しくらいはお化粧して行った方が良いのかな? でも、あんまり好きじゃないんだよね……お姉ちゃんも虚さんも殆どしてないし、本音に至っては化粧水すら持ってない……それであんなに肌が綺麗なんだからちょっとズルイ……

 

「一夏は化粧品の匂いとか大丈夫なのかな? 織斑先生もしてないし、しない方が良いのかもしれないかな」

 

 

 お姉さんである織斑先生が、一夏の嫌がる事をするとは……するのか。一夏が苦労してきた大半の原因は織斑先生だし、嫌がる事はしてるんだ。でも、一夏が化粧品の匂いが嫌いだったらさすがにしないよね、織斑先生はそんな事しなくても綺麗なんだから……皆ズルイな。

 

「よし! 何時も通りで行こう!」

 

 

 変に意識して失敗するくらいなら、何時も通りで行って何時も通りの反応をしてもらった方がマシだろうしね。

 とりあえず顔を洗って、それからこの寝ぼけ眼を如何にかしなくっちゃ。

 

「洗面所に行かなきゃ」

 

 

 着替えもよりもそれが先だったわね……このままで行ったら一夏に笑われちゃうし、街に行けば一夏も笑われちゃうよ……

 世間が女尊男卑の風習が強いとは言え、一夏ほどカッコよければ世間の女はそんな事無視して一夏の事を評価してくるだろう。そんな一夏の隣に寝ぼけた私が居たら、一夏の女の趣味を疑われちゃう。そうなると他の彼女にも失礼になっちゃう……

 

「そう考えると、一夏の彼女って意外と大変なんだなぁ……今まで意識した事無かったけど、結構荷が重いかもしれない……」

 

 

 お姉ちゃんなら活発なイメージと明るい笑顔で認めてもらえるだろうし、虚さんは知的なイメージと偶にかけているメガネがアクセントになって一夏の隣に居るとお似合いだし、本音は天真爛漫で可愛いイメージだけで行けるだろうし……考えると私って印象薄い?

 

「メガネはしてるけど、これは別にオシャレじゃ無いし、お姉ちゃんや本音みたいに胸がある訳でも無いし……」

 

 

 せっかくのデートだと言うのに、何だか鬱入ってきたかも……世間の目がこれほど気になった事なんか無かったかも……代表候補生でそれなりに知られているんだろうけど、そんな事関係無く一夏の隣に相応しいか如何か見られるんだよね……なんでこんなに緊張してるんだろう、デートならもう何度も……

 

「あっ! 二人きりだからだ……」

 

 

 今までは集団でデートしてたからそうでも無かったけど、今日は完全に私と一夏だけなんだ。だからこんなにも世間の目を気にしてるのか……

 

「先週はお姉ちゃんが一夏と二人きりでデートしてたのに、そんな事全然考えなかったな」

 

 

 いざ自分の番になるとこれほど緊張するんだ……お姉ちゃんもこんな事考えてたのかな……

 

「いや、お姉ちゃんがこんな事で悩む訳無いか」

 

 

 細かい事で悩むような人じゃ無いし、細かくなくても悩まないんだから考えるだけ無駄だよね……今はあの性格が凄く羨ましいと思う……

 

「おはよ!」

 

「うひゃい!?」

 

「……簪ちゃん?」

 

「お、お姉ちゃん、いきなり声掛けないでよ」

 

 

 お姉ちゃんの事を考えてたら、本人が背後から声を掛けてきた。その所為で私は未だかつて出した事の無い声を出してしまったのだ。

 

「いきなりって、朝起きて可愛い妹が居たら挨拶くらいするでしょ」

 

「考え事してる時に声を掛けられたらビックリするんだよ!」

 

「考え事? 今日は一夏君とデートでしょ? 何か不安な事でもあるの?」

 

「そんなんじゃないけど……」

 

 

 私はさっきまで考えてた事をお姉ちゃんに話すべきか如何かで迷った。話せば何かしらのアドバイスはもらえるだろうけど、こんなつまらない事で悩んでるなんて言えないし……

 

「そう言えば一夏君、さっき外に出てたけど待ち合わせは何時なの?」

 

「えっと……8時だったかな?」

 

「えっ……今7時半だよ?」

 

「………」

 

 

 お姉ちゃんが言ってる事が一瞬理解出来なかった。だってさっきまであんなに朝早かったのに、何時の間にか時が流れていたのだから……

 

「何で!? さっきまでまだ6時くらいだったのに!?」

 

「うふふ、緊張は解けた?」

 

「えっ?」

 

「冗談、今はまだ6時半よ」

 

「お姉ちゃん!」

 

「ごめ~ん!」

 

 

 ポカポカとお姉ちゃんの肩を叩くと、お姉ちゃんはチロっと舌を出して謝ってきた。まったく、手の込んだイタズラを仕掛けてくるわね。

 

「でも、せっかくのデートなのにあんなに緊張してたら楽しい事も楽しめないでしょ?」

 

「……そうかもね」

 

「それで、何考えてたの?」

 

 

 私はさっきまで考えていた事をお姉ちゃんに話した。自分に自信が持てない事、自分は一夏に相応しいのか如何かと言う事など、考えていた事を全てお姉ちゃんにぶちまけた。

 

「そっか……でも、そんな事簪ちゃんが悩んでも仕方ないよね?」

 

「如何して?」

 

 

 自分が一夏に相応しいか如何かで悩んでる事が、如何して仕方ない事なの? お姉ちゃんは私が悩んだって何も変わらないとでも言いたいの!?

 

「だって、相応しいか如何かを決めるのは一夏君でしょ? 周りの評価で如何こうするような子じゃ無いんだし、本当に相応しくなかったらデートなんてしてくれないよ?」

 

「あっ……」

 

 

 そう言われればそうかもしれない……世間の目なんて気にしないで、一夏の評価だけを気にしてれば良かったんだ。

 お姉ちゃんの前向きな考えで、私の滅入ってた気持ちは一気に晴れやかになった。

 

「それに、簪ちゃんは一夏君とお似合いよ?」

 

「そうかな……お姉ちゃんの方がお似合いだと思うけど」

 

「そう? 簪ちゃんにそう言われると嬉しいわね」

 

 

 お姉ちゃんは本当に嬉しそうに頬に手を当てて照れている。如何やら私に言ってくれたのはお世辞では無いようだ。

 

「ところで、随分と眠そうだけれど……もしかして寝れなかったの?」

 

「ちょっとね……余計な事まで考えてたら寝れなくって」

 

「余計な事?」

 

「うん。更識の財政について考えてたらね」

 

「あ~……その話は聞きたく無いな~」

 

 

 当主であるお姉ちゃんには、耳が痛くなる話だったようだ。でも、普通財政立て直しは当主が率先してしなきゃいけないんじゃないのかな……まぁ、一夏も虚さんも優秀だから大丈夫なんだろうけど。

 

「それと美紀の試験の事もね。大丈夫なの?」

 

「それは大丈夫だと思うよ。一夏君が何も考え無しに動いてるとは思えないから」

 

「……さすがに不正はしないと思うよ」

 

 

 一夏はそう言う事嫌いだし、そもそもその場で合否判定されるんだから、その場に居ない一夏に不正しようが無いじゃない。

 

「美紀ちゃんも頑張ったし、そっちの心配はしなくて大丈夫だと思うわよ。あ、後ね」

 

「何?」

 

「簪ちゃんは出先から直接学園に戻ってきてね」

 

「えっ? だって荷物とかがあるし……」

 

「制服は寮にあるし、下着だってそれなりに向こうに置いてあるでしょ。それに、最悪須佐乃男に出してもらえば良いんだし」

 

 

 昨日の夜に某猫型ロボットじゃ無いと言われたばっかだし、それはさすがに遠慮したい……

 

「大丈夫、汚れても一夏君が洗濯してくれるから!」

 

「ッ! 汚れてないもん!」

 

「知ってるわよ~」

 

「もう!」

 

 

 お姉ちゃんと話してたおかげで、睡魔は遠のいたようだった。これなら一日何とかなりそうだな。

 

「さてと、そろそろ簪ちゃんもお着替えしなきゃいけない時間だし、私はこれで行くわね~」

 

「うん。お姉ちゃん、ありがとう」

 

「ふふ~ん! もっと感謝しても良いのよ?」

 

「それは大丈夫」

 

「何でよ!?」

 

 

 お姉ちゃんのおかげで今日一日が楽しめそうになった。世間の目とか財政難とかで悩んでたちょっと前までの自分が何だか恥ずかしいくらい、今は前向きだ。

 

「そうそう、一夏君が外に出たのは本当だからね」

 

「そうなんだ。でも、一夏が朝早くに外に出るのは何時もの事じゃないの?」

 

「そうなんだけどね~。昨日も家の周りを走ってたみたいだし」

 

「? お姉ちゃん、見てたの?」

 

「ううん、須佐乃男が言ってた」

 

 

 須佐乃男が? だって一昨日は本音の部屋に泊まってそのまま一緒に寝てたから、昨日は須佐乃男だって朝遅かったはずじゃ……

 

「如何かしたの?」

 

「ううん、多分気のせい」

 

 

 多分寝てても一夏の場所が分かるくらいな事が出来るんだろう。一夏の専用機だし、それくらいは出来てもおかしく無いよね。

 

「それじゃあお姉ちゃん、私準備するから」

 

「はいはい、楽しんで来るのよ~」

 

「うん!」

 

 

 細々とした気になる事はあるけど、今はそれよりもこれからのデートの事を考えよう。一夏は何処に連れてってくれるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日来てたからもしかしてと思ったが、勘弁してくれと頼んだおかげか如何かは知らないが、今日はヤツの気配はしなかった。その代わりに此処も亡国企業の連中が嗅ぎまわってるようだ。

 

「(碧を動かしたのは間違いだったか、いやでも、如何して更識の屋敷なんて嗅ぎまわってるんだ?)」

 

 

 IS学園には機密文書などヤツらにも有益な情報があったりと納得は行くのだが、更識の屋敷を嗅ぎまわったって有益な情報は無いはずなんだが……金だってありはしないしな。

 

「(誰か内通者でも居るのか? いや、それは考えすぎか)」

 

 

 気配の質を考えると、IS学園の周りを嗅ぎまわってるヤツらとそう変わらないし、危険度は低めだろう。

 昨日居なかった事を考えると、恐らくだがコイツらはスコールの行動を調べてるヤツらなんだろう。内部分裂は恐らく間違い無いだろう。

 

「(勝手に潰れてくれるのが理想だが、あのスコールやオータムがそんな事で終わるとは思えないしな……厄介な事になりそうだ)」

 

 

 亡国企業が如何なろうと知った事では無いのだが、そうなれば必ず此方にも火の粉は飛んでくるだろう。スコールの部隊も亡国企業も狙いはIS学園と俺なんだから……

 

「やれやれ……」

 

 

 せっかくのデートだと言うのに、朝から面倒な事に気付いてしまったものだな……まさかこいつらが尾行してくるなんて事は無いよな……衆人環視の中でデートなんて嫌だぞ。

 

「普通に見られる分には気にならないんだがな……」

 

 

 注目されると如何も居心地が悪くなるんだよな……中学の時もその所為でクラスメイトとは疎遠になったし……元々か。

 

「気にするだけ無駄か」

 

 

 そう割り切って俺は屋敷の中へ戻る。今日は簪とデートで美紀の編入試験日なんだから、余計な事を考えてる余裕は俺には無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待ち合わせの10分前、私は門の前で一夏を待とうとしたが、既に一夏はその場所に居た。さすが一夏、私より先に来てるなんて。

 

「ゴメン、待った?」

 

「いや、別にそんな事は無いぞ」

 

「そっか」

 

「? いやにご機嫌だな」

 

「そんな事無いよ」

 

 

 一夏が見抜いたように、私は今とても気分が良い。ご機嫌だと言った一夏の観察眼には恐れ入った。

 

「それじゃあ行くか」

 

「何処に行くの?」

 

「簪が見たいって言ってた映画、先週からだったろ? それを観にいこうと思ってるんだが」

 

「本当! やった、嬉しいな!」

 

 

 アニメ映画だから一夏は付き合ってくれないと思ってたけど、そう言う事をちゃんと調べてる辺り一夏らしいと思えた。それに、あの映画は二人で行けば特典がもらえるしね。

 

「それじゃあ一夏、早く行こ?」

 

「そうだな、それじゃあしっかりと掴まってろよ?」

 

「え? ……きゃ!」

 

 

 急に抱きかかえられたと思ったら、次の瞬間には景色が流れていた。

 

「あっ、逃げられた!」

 

「さすがお兄ちゃん」

 

「だから止めましょうと言ったんです」

 

 

 さっきまで居た場所から耳なじみの声が聞こえたような気がしたけど、今はそんな余裕なんて無いくらい慌てているのだ。

 

「一夏、早い! 早いって!」

 

「そうだな、もう撒いただろうしゆっくり行くか」

 

 

 如何やらさっきの声は聞き間違えでは無かったらしい。本音とマドカと須佐乃男が影からコッソリと覗いてたようだった。

 

「まったく、順番だって言ってるんだがな」

 

「しょうがないよ。一夏はモテモテなんだから」

 

「モテモテって、死語じゃないのか?」

 

「でも、他に表現のしようが無いし」

 

「ったく」

 

 

 一夏は抱えていた私をそっと下ろし、ため息代わりに首を振った。しかしこれだけ悩み事や苦労を抱え込んでるのに、一夏って白髪とか見当たらないんだよね……コッソリと染めてるのかな?

 

「ん? 如何かしたか?」

 

「ううん、一夏の髪って綺麗だな~って思ってさ」

 

「何だいきなり」

 

「手入れとか如何してるの?」

 

「普通だぞ?」

 

 

 学園の部屋にある一夏のシャンプーは、私たちが使ってるのと変わらないもので、確かに普通のシャンプーとトリートメントだ。でも普通、一夏みたいな生活をしてたら髪にダメージが蓄積しててもおかしく無いんだけどな……

 

「切れ毛とか抜け毛とかは無いの?」

 

「……あのな、俺は一応同い年なんだが」

 

「でも、それくらいあってもおかしくは無いほどの苦労をしてるから」

 

「別に心配してもらわなくても大丈夫だ。特にその事で悩んだりはしてないから」

 

「そっか」

 

 

 一夏がハゲたりしたら嫌だったけど、心配ないのならそれで良かった。お姉ちゃんや本音だけじゃなく、私たちも色々と一夏には迷惑を掛けてるし、それでなくても学校や家でも一夏は問題を抱え込んでるのだから……

 

「さて、映画館に着いたわけだが」

 

「まずはポップコーンと飲み物を買わなきゃ! 後でパンフレットとグッズも!」

 

「……ノリノリだな」

 

「だって、せっかく来たんだから楽しまなきゃ!」

 

「それもそうだな」

 

 

 一夏は何か納得したように一つ頷くと、私の手を握ってきた。

 

「それじゃあ行くか」

 

「うん!」

 

「そうだ簪、その服似合ってるぞ」

 

「えっ!」

 

「可愛い」

 

 

 普段はそんな事言わないはずなのに、今日の一夏は随分と直球で褒めてくる。正直やり難いけど嬉しい。

 

「一夏、カップルだと割引だって」

 

「別に金の心配は要らないんだが……」

 

「特典もあるんだから!」

 

「はいはい、これでよりカップルらしいだろ」

 

 

 さっきより一夏が近くなり、手の握り方も普通のではなく指を絡ませる感じに変わった。こう言った事を自然に出来るなんて、一夏は何時の間に成長したんだろう。

 

「高校生二人」

 

 

 チケット売り場で一夏がそう告げると、受付のお姉さんの顔が一気に赤くなったような気がした。一夏に見とれてるんだろうか?

 

「あの?」

 

「は、はい! 高校生二名ですね」

 

 

 慌てて職務を思い出したお姉さんは、チケットと恋人特典であるグッズを手渡してくれた。後ろにいたお姉さんは、一夏を見て「高校生?」って顔をしてたけど、如何やら一夏の事を知ってた人が居たようで、それ以上の追求はしてこなかった。

 

「ワクワクするね」

 

「アトラクションじゃ無いぞ」

 

「分かってるけど、楽しみだった映画を一夏と観られるなんて思って無かったからさ」

 

「そんなものか」

 

 

 一夏は私がはしゃいでるのを見て、よくお姉ちゃんや本音に向けている目を私に向けてきた。慈しむような目、親や兄姉が弟妹に向ける目だ。つまり私は今子供っぽいと思われてるって事なんだろうな。でも、それ以上に楽しみだから良いや。




次回に続きます。
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