もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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外に出ればやっぱり問題に巻き込まれます


デート中のイザコザ

 一夏と一緒に映画を観て、私は大満足で映画館を後にした。もちろんパンフやグッズも買ったし抜かりはない。

 

「楽しかった~!」

 

「そうだな、ずっと楽しそうだったな」

 

「一夏は楽しくなかったの?」

 

 

 楽しそうだったと言う事は、一夏は楽しんでなかったと言う事になる。もしかして私の為に我慢して付き合ってくれてたのかな?

 

「いや、楽しそうにしてる簪を見れたから満足だ」

 

「楽しみ方が違うよぅ」

 

 

 口では一夏の事を非難したけど、私の顔はもの凄い赤くなってるんだろうな。見なくてもこれほどの熱を感じれば自分でも分かる。

 

「楽しみ方は人それぞれだろ? それに、映画よりも簪の方が俺には興味深かったんだ。普段はあんなにはしゃぐんだな」

 

「一夏と一緒にアニメとか見たこと無かったもんね」

 

 

 私はアニメにのめり込むタイプのようで、見てると身体が自然と動いてしまう事が多々あるのだ。だからなるべく一人で見るようにはしてるんだけど、お姉ちゃんや本音とはそう言った事を気にしなくて良いから一緒に見た事はあるのだ。

 

「一夏、変だって思った?」

 

 

 私は少し不安になって一夏に尋ねた。偶にゲームをしてて身体が動く人は聞くけど、私のようにアニメで動く人はあまり聞かないような……きっと一夏も呆れてるんだろうと思って聞いたのだけれど、一夏の答えは私の想像とは違った。

 

「別に、それが簪なんだなと思ったよ」

 

「一緒に居て恥ずかしいとかは?」

 

「それも特に無いかな。だってそんな事を気にしたところで何かが変わる訳でも無いんだし、簪が昔からアニメを見てる時にそうなってるんだって聞いてたしな」

 

「えっ、誰から!?」

 

「刀奈と本音」

 

 

 お姉ちゃんと本音、帰ったら問い詰めなきゃいけないようね……それにしても一夏は私のこの行動を見ても全く動じないんだ。やっぱり彼女だから? それとも一夏がおおらかだからかな?

 

「さてと、次は何処行きたい?」

 

「お姉ちゃんとは何処に行ったの?」

 

「ゲーセンに行ってカラオケに行ってその後インタビューとかで雑誌社に行った」

 

「黛先輩のお姉さんの?」

 

「ああ。あの雑誌、何時発売か聞くの忘れてたな、そう言えば」

 

 

 インフィニット・ストライプスって確か月刊誌だったよね? そうなると来月? それとも再来月に出るのかな?

 

「誰が買うんだろうな、あんなの……」

 

「一夏とお姉ちゃんのインタビュー記事なら買う人大勢居ると思うけど」

 

「あれが『真面目』なインタビューならな」

 

 

 如何やら真面目ではなかったようだ……お姉ちゃん曰く――

 

「一夏君好きなら絶対に買った方が良いよ!」

 

 

――って言ってたんだけどな……一夏からすると買ってほしく無さそうな印象を受ける。

 

「そう言えば、簪も歌上手いんだってな」

 

「そ、そんな事無いよ」

 

「刀奈がそう言ってたんだから、嘘って事は無いよな?」

 

「お姉ちゃんと比べたら、私なんて……」

 

 

 そう言った私の唇が、何かで塞がれた。一瞬何が起こったのか分からなかったけど、私の唇を塞いでるのが一夏の唇だと気付いて、私は大慌てで離れる。

 

「な、何!?」

 

「前に誰かに言ったが、自分なんてって言うのは良く無いと思うぞ。自己否定したら誰も認めてくれなくなってしまうかもだからな」

 

「でも、お姉ちゃんと比べれば!」

 

「比べる必要は無いだろ。刀奈と簪は違う人間なんだ。姉妹だろうがなんだろうが違いがあって当然なんだから、気にするだけ無駄だと思うぞ」

 

「……一夏は織斑先生と比べた事は無いの?」

 

 

 何か一夏にやられっぱなしなのも癪なので、些細な反撃を試みたのだけれど、一夏にそんな事は通用しなかった。

 

「家事駄目、貯金出来ない、頼まれた事が出来ない、弟が貯めた金を勝手に使う、挙句の果てには台所を破壊する……昔から下に見てる相手だから比べる必要が無かったな。そもそも比べようと思ったことも無い」

 

「……世間のカリスマって意外とハリボテなんだね」

 

「ああ、幻想だ」

 

 

 一夏から聞かされる織斑千冬像は、世間の人が憧れる織斑千冬像とはかけ離れているのだ。もちろん一夏が嘘を吐く理由が無いので、一夏が話してる織斑千冬が本当なのだろうけど、世間に公表しても誰一人信じないんだろうな……それだけ妄想が一人歩きしてるのだ。

 

「それで、カラオケで良いのか?」

 

「い、一夏が聞きたいなら」

 

「じゃあ聞きたい」

 

 

 一夏は私の逃げ道を一つずつ潰していく。さすが戦術家でもあるだけあって、その手際は見事なものなのだ。分かっていても逃げられない。

 

「またか……」

 

「一夏?」

 

 

 カラオケ屋さんに向かう途中、一夏がボソッとつぶやいたのを聞き、私は一夏の視線の先を探った。そこには、明らかに自分からぶつかっておいて、相手の所為にしてる女性と、自分が悪く無いと分かっていてもヘコヘコと頭を下げて謝っている中年男性が居た。

 今の世の中、政治も権力も全て女性の味方に成りつつあるのだ。こう言った些細なトラブルでもほぼ女性側が勝ちを収める。だから更に男性は肩身が狭くなる……いわゆる悪循環に陥っているのだ。

 一夏は今の世の中を間違ってると思っている。もちろん全面的に間違ってるとまでは言わなくても、何もかも女性優位なのはおかしいと思ってるようだ。

 

「先週もあったんだよ」

 

「先週? お姉ちゃんとデートしてる時?」

 

「ああ。自分が飛び出しておいて相手の男性に謝罪させてる女が」

 

「そっか……」

 

 

 女性って言っても、全員が全員ISを動かせる訳でも無いのに、自分は女だから偉いと思ってる人が世間にはそれなりに居るのだ。悪しく風習に染まりきった女性が政界に進出して、さらに悪しく風習を蔓延させる……これも悪循環なのかもしれない。

 一夏は機嫌が悪くなってるようだったけど、私に対しては何時も通り優しい一夏だった。

 

「さてと、こんな所に突っ立ってても仕方ないし行くか」

 

「うん」

 

 

 自然に差し出された一夏の手を握って私は浮かれ気分でカラオケ屋さんを目指した。だけれどそんな楽しい時間は脆くも崩れ去ったのだ。

 

「ちょっとそこの貴方?」

 

「………」

 

「貴方よ貴方! そのメガネの子と一緒に居る貴方!」

 

「俺ですか?」

 

 

 嫌々返事をした一夏に、話しかけてきた女性は満足そうに頷いた。

 

「そう貴方。私の荷物持ちをしなさい」

 

「は? 何で俺が見ず知らずの貴女の荷物持ちなどしなければならないのです?」

 

 

 口調は丁寧だが、一夏は明らかに怒っている。普段怒られている私だから分かる些細な変化だが、一夏は怒ってる時に口角を僅かに下げるクセがあるのだ。ちなみにイタズラを思いついた時は口角を僅かに上げるのだ。

 

「そんな口の利き方をして良いと思ってるのかしら? 警察に突き出せば貴方の人生なんて簡単に潰せるのよ?」

 

「そうですか……」

 

 

 ふと、気温が下がったような感覚に陥った。もちろんそんな急に気温が下がるなんて事が自然に起こるとは考えられない。別に雨も降ってなければ曇ってきた訳でも無いのだから。

 そうなると考えられるのが、自然現象では無いと言う事だ。つまりこの寒さを放っているのは隣に居る一夏だと言う事……これは相当マズイ事になりそうだな。でも、私は止めない、止めるつもりは無い。だって、明らかに一夏を侮辱してるあの人が悪いんだから。

 

「分かったらさっさと付き合いなさい」

 

「なら今すぐアンタの人生を終わらせてやろうか?」

 

「は? 何いって……!?」

 

 

 不意に一夏が揺れた、と思った次の瞬間には、女性の首元に手刀を当てていた。

 

「脅しじゃねぇ。このままアンタの首を撥ねる事だって出来るんだぜ? 今すぐ死にたいか黙って目の前から消えるか選ばせてやる、どっちが良い?」

 

 

 そう言っている一夏の目は、怒りなんて表現では生温いほどの炎が燃え盛っていた。つまりかなり本気……私たちにすら見せた事の無いほどの怒りを、一夏は今見ず知らずの女性に向けてるのだ。

 

「け、警察に言いつけるわよ!」

 

「それで? アンタが権力に頼るのなら、俺は使えるコネを使うだけだ」

 

「コネ? どうせ大したコネじゃ無いんでしょ?」

 

「そうだな。たかがブリュンヒルデと大天災だもんな。大した事無いな」

 

 

 あっさりともの凄い単語を連続で言った一夏を、女性は信じられないといった感情を全身で表現してるようだった。

 

「それとアンタ、誤解してるようだから言っておくが、ISを持ってない女性を殺すのなんてさほど難しくねぇんだぜ? その事分かってんのか? 無条件で女性が偉いなんて誰が決めた? 全ての男が女の言う事を聞くと思ったら大間違いだぜ? 現にアンタは男の俺に勝てなくて焦ってる。これに懲りたら偉ぶるのは止めるんだな」

 

 

 今度は言葉の刃で女性に切りかかる一夏、こうなったら誰も一夏を止める事は出来ない。止めたら駄目だと本能で理解させられてるからだ。

 

「それで、今すぐ死にたいのか黙って消えるのか、どっちを選ぶんだ? 俺はどちらでも構わねぇんだが」

 

「う、訴えてやる!」

 

「無意味な事で警察や検察、弁護士や裁判官を働かそうとするんじゃねぇよこの愚か者」

 

 

 情け容赦の無い一言に、ついに女性がキレた。

 

「貴方何様のつもり! 男がそんな口利いて良いと思ってる訳!?」

 

「アンタこそ何様だよ。人のデートを邪魔する権利がアンタにあんのか?」

 

「私は会社の重役よ!」

 

「だから? 俺はアンタの会社には関係ねぇし、アンタがどれだけ偉かろうが関係無いからな」

 

「ISも使えないくせに偉そうに!」

 

 

 出た、二言目にはこのセリフ「ISも使えないくせに」だ。自分の立場が悪くなるとこのセリフを使う女性が多いと聞いた事があったが、まさか本当に使う人が居るなんて思わなかった。そして今回に限り、そのセリフは何の意味も持たないのだ。

 

「使えるぞ」

 

「……え?」

 

「だからIS.俺は使えるって言ってるんだよ」

 

「お、男がISを使える訳無いじゃない!」

 

「やれやれ……一応持ってきて正解だったな」

 

 

 そう言って一夏は財布から何かを取り出した。あれは確か……

 

「IS学園生徒手帳……織斑一夏!?」

 

「これで分かったか? 俺は世界で唯一ISを操縦できる男だ」

 

「だ、だ、だったら! 今此処でISを起動して見せなさいよ!」

 

「部分展開で良いな? こんな所で本体を起動したら問題だからな」

 

 

 そう言って一夏はISの武装を取り出す。前に篠ノ乃博士に作ってもらった装置で、須佐乃男が居なくてもIS武装を展開する事が出来るのだ。

 

「まだ何か言う事があるよな? 俺はまだ謝罪の言葉を聞いてないし、デートの邪魔をされた簪にも謝るのが筋だよな?」

 

 

 武装をしまった一夏は、これまで以上に高圧的な印象を与えるように話しかけている。それだけこの女性に対して頭にキテたのだろう。

 

「……ゴメンなさい」

 

「聞こえねぇよ!」

 

「ゴメンなさい!」

 

 

 明らかにプライドの高そうだった女性は、一夏に完敗して頭を下げてきた。それを一夏は、ゴミを見るような目で見て、興味を失ったように私の方に振り向いた。

 

「行こう簪、これ以上此処に居たら殺してしまいそうだ」

 

「うん」

 

 

 一夏の言ってる事が冗談では無い事は、私も、相手の女性も、そして周囲に居た野次馬たちにも伝わっていた。一夏は間違い無く殺せるだけの能力を持ってるのだ。

 

「それにしても一夏、随分と本気で怒ってたね」

 

「当たり前だろ? せっかく彼女とのデートだって言うのに、あんな馬鹿の所為で無駄な時間を使わなきゃいけなくなったんだから」

 

「そっか。それだけ私との時間を大事に思ってくれてるんだ」

 

「当たり前だろ」

 

 

 嬉しくなった私は、普段なら絶対に出来ない腕組みを自分からした。一夏も少し驚いたようにしてたが、すぐに納得したようで抱き寄せてくれた。

 

「一夏、随分と高圧的にモノを言えるんだね」

 

「あんなの千冬姉や束さんを怒ってる時となんら変わらないぞ?」

 

「……例えが凄すぎて分からないよ」

 

 

 他に誰が織斑先生と篠ノ乃博士を怒れるんだろう……ご両親って言っても、一夏のご両親は行方不明だし、篠ノ乃博士のご両親もバラバラになっちゃったらしいし、現状でこの二人を怒れるのはやっぱり一夏しか居ないようだ。

 

「さてと、気を取り直して歌うか」

 

「一夏の歌、楽しみだな~」

 

「あんま期待すんなよ? それほど上手い訳じゃ無いんだから」

 

 

 一夏は恥ずかしそうに頭を掻いてそっぽを向いた。如何やら一夏にも苦手な事があったようだ。

 

「そう言えば、さっきの人、何で一夏に声を掛けたんだろうね? あんなに男の人引き連れてたのに」

 

「さあ? あんなヤツの考えてる事など分からないな。それに考えたくも無い」

 

「そっか。じゃあ一夏、そのうっぷんは歌って発散しちゃいなよ!」

 

「だからそんなに期待されるほどじゃ無いんだって」

 

 

 少し嫌そうに見えても、私が引っ張れば一夏はしっかりとついてきてくれる。本気で嫌なら抵抗すれば良いのに、一夏はそれをしていないのだ。

 

「ねぇ一夏」

 

「ん?」

 

「もし私たちが侮辱されたら、さっきみたいに怒ってくれるの?」

 

「私たちって、他の彼女も含めてって事か?」

 

「うん」

 

 

 実際には侮辱される事なんて少ないだろうけど、中にはそう言った事を言ってくる人も居るだろう。だからその時に一夏は私たちの為に怒ってくれるのか気になったのだ。

 

「当たり前だろ、そんなの。彼女を侮辱されて黙ってるほど俺は駄目人間じゃないつもりだからな。大体簪たちを侮辱出来るような相手が何人居るかって話だ。努力も他の人よりも何倍もしてる簪たちを侮辱して良い立場なんてそうそう無いだろうがな」

 

「お姉ちゃんや虚さんたちは代表だけど、私は候補生なんだよ? それこそ貶しあいとかあってもおかしく無い世界だとは思わないの?」

 

 

 日本では幸いにしてそう言った事は無いけど、世界では如何なのか分からない。もしかしたら日本が特殊なだけで、影で言い合ってるのが普通な世界かもしれないのだ。

 

「俺が誰の弟だと思ってるんだ? その世界の事もある程度は知ってるつもりだ」

 

「そっか……そうだよね」

 

 

 初代日本代表選手が姉なんだから、代表や候補生の世界について知っててもおかしくは無かったんだ。

 

「質問は終わりか? それならさっさと入らないか? さっきから店員が不思議そうに見てるんだが」

 

 

 立ち止まった場所が、丁度お店の入り口の前だったので、入るのか入らないのか気になっている店員さんがコッチをチラチラと見ていた。

 

「よし! 一夏、デュエットしようね!」

 

「知らない曲は勘弁してくれるとありがたい」

 

「だ~め! 今日は思いっきり楽しむんだから!」

 

 

 一夏の腕を取り、また引っ張っていく。普段はどちらかと言えば引っ張ってもらう立場の私だが、今日は少しくらい強引でも良いと思っているのだ。

 

「そろそろか」

 

「ん?」

 

 

 部屋に案内してもらったと同時に、一夏が時計に目をやってそうつぶやいた。何がそろそろ何だろう……

 

「一夏?」

 

「ああいや、編入試験がな。そろそろだった気がして」

 

「美紀の?」

 

「大丈夫だとは思うんだが、一応気になっただけだ」

 

「そっか、大事な生徒だもんね」

 

「俺は同い年なんだが……」

 

「知ってるよ。だって美紀は私と同い年なんだから」

 

 

 ついでに言えば本音も同い年だし、一夏が同い年なのも知っている。でも一夏はそれとは別に大人っぽいので、一緒に居ると偶に同い年だと言う事を忘れるのだ。

 

「静寂にも一夏先生とからかわれるし、何なんだ? 周りは俺がそんなに老けてると言いたいのか?」

 

「老けてるんじゃなくって大人びてるんだよ。雰囲気とか立ち居振る舞いとかがさ」

 

「……何か釈然としないんだが」

 

「ほ、ほら一夏! 歌って歌って!」

 

「誤魔化されてるような気がするが……まぁそうだな」

 

 

 何とか誤魔化しきれたようで、私はホッと胸をなでおろした。しかしせっかく解けた緊張だったが、一夏の歌を聞いてまた緊張してしまった。

 

「上手い……」

 

 

 確かこのお店は点数が出るんだったよね……えっと、一夏の点数は……

 

「95点!?」

 

「意外と高かったな」

 

「このマシン、厳しいので有名だってクラスの子が言ってたのに……」

 

「さて、次は簪の番な訳だが」

 

「い、一夏? 笑顔が怖いよ?」

 

「さっき誤魔化されてやったんだから、これくらいは甘んじて受けとるんだな」

 

「やっぱり誤魔化せてなかった!?」

 

 

 優しい一夏から一変、ドSな一夏が顔を覗かせてきた。こうなったら逃げようにも逃げられないし、助けを呼べない……素直に歌うしか無いのかな……

 

「でも私、そんなに上手じゃないからね?」

 

「緊張しなければ簪も大丈夫だろ」

 

 

 そう言われて、私は覚悟を決めて歌い始める。久しぶりに本気で歌ったような気がするけど、途中で打ち切られる事無く歌い終えた。

 

「上手いじゃないか」

 

「そんな事無いよ」

 

「採点結果が出るぞ」

 

 

 実際何点だろうが如何でも良い気分だった。一夏の前で演奏打ち切りと言う事態を避けられただけで満足だったのだから。

 

「やるな、簪」

 

「え?」

 

 

 一夏が褒めてくれた理由が分からず、私はモニターを覗きこんだ。

 

「98点!?」

 

「俺なんかより上手いじゃないか。やっぱり謙遜だったんだな」

 

 

 今までで一番高い点を出してしまった……何でこんな時に限ってお姉ちゃんや本音が居ないんだろうな……居れば漸くあの二人に勝てるチャンスだったのに。

 

「このまま歌うか」

 

「今度も絶対に勝つからね」

 

 

 何だかんだ言って、結局一夏と張り合ってしまってる自分に気が付いて、私は苦笑いをした。普段しないから苦笑いが引きつってるような気がしたけど、一夏が特に指摘してこなかったから別に良いかな。

 結局午前中はずっとカラオケで歌っていたのだった。結果は半々だったけど、一夏とそれなら良い勝負だったと思う。

 

「さてと、そろそろお昼だね」

 

「そうだな。何処か座れる場所があれば良いんだが」

 

「何で?」

 

 

 そう聞いた途端、一夏は何も無かった空間からお弁当を取り出した。そう言えばあの武装、展開だけじゃなくて収納も出来るんだっけ……

 

「良かった、私もお弁当作ろうか迷ってたんだ」

 

「簪の弁当か、是非食べてみたいものだな」

 

「こ、今度ね」

 

 

 一夏に食べてもらえるほど上手じゃないんだけど、一夏が楽しみにしてくれてるのなら頑張ってみよう。その後は公園で一夏のお弁当を食べて、暫くゆっくりしてたのだった。




実際一夏がコネを使ったら誰も勝てませんよね
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