公園でお昼を食べて、暫くそこでマッタリする事にした。普段は遠慮して出来ないけど、今私は一夏の膝を枕に横になっている。所謂膝枕だ。本当なら私が一夏にしてあげたかったんだけど、頑なに拒否されたので私がしてもらったのだ。
「ねぇ一夏」
「何だ?」
「一夏って今の世界が気に入らないの?」
さっきの女性ではないが、多かれ少なかれ男を見下している人は居る。IS学園にもその風潮はあったらしいけど、一夏が入学してその風潮は鳴りを潜めている。全ての男性が一夏のような訳でも無いのだが、全ての男性がへいこらと女性に従う訳でも無いのだと分かったんだろうな。
「別に無理に変えろとは思って無いが、あそこまで威張り散らしてるのがムカつくだけだ。先週も似たような事があったしな」
お姉ちゃんから聞いたけど、一夏にイチャモンをつけてあっさりと返り討ちにされた愚か者が居たらしい。一夏の事を馬鹿にするなんて身の程知らずも良いとこだ。
「でも、今の世の中になったから簪や刀奈たちと出会えたんだろうから、そこだけは感謝してるさ」
「恥ずかしいよ」
聞いてる私が真っ赤になって、一夏はいたって平常なのがちょっとムカつく。少し前までは私たちがくっつけば真っ赤になってたのに、いつの間にか全く動じなくなってるんだよね。
「眠いなら少し寝ても良いぞ」
「大丈夫、こうしてるだけで疲れが取れるから」
「なら、もう少しこうしてるか」
「うん」
日曜の昼下がりに公園で彼氏の膝枕で日向ぼっこをしてる女子高生って、他に居るんだろうか? でも、幸せだな~。
「ん?」
「如何かしたの?」
一夏が正面を見て驚いたような声を出したので、私も一夏の視線の先を辿った。
「あれ? 榊原先生だ」
向こうは私たちに気付いて無いようだけど、榊原先生も男の人と一緒のようだ。男の人と言うよりは、如何やら私たちと同年代に見えるんだけど……
「上手くやってるみたいだな」
「一夏?」
二人を見て、一夏が安心したようにしきりに頷いたので私は不思議に思った。何だか二人が付き合ってるのを見てホッとしているようだったのだ。
「如何かしたのか?」
「あれって榊原先生だよね? それとその隣の人、何処かで見たような……」
「文化祭の時にウチに来てたからな。俺の悪友の一人だ」
「あっ!」
思い出した。一夏のクラスで騒動を起こして凰さんと一緒に怒られてた人だ。だけどあれ? 一夏の悪友って事は、私たちと同い年な訳で、それが榊原先生と一緒に居るって事は……
「あの二人って付き合ってるの?」
「見たまんまそうだろ」
「如何やって知り合ったんだろう……」
基本的に男子禁制のIS学園の教師が、普通の高校に通うと思われる男子と、如何やって知り合ったのかが気になった。
榊原先生と言えば、惚れた相手は残念な男ばかりで、最近は実家からお見合いを勧められているとか言う噂が飛び交っていたが、そう言えば此処最近そう言った話は聞かなくなったなと思ってたら、何だ彼氏が出来たんだ。
「俺が榊原先生に頼まれて紹介したんだ」
「一夏が?」
「あぁ。別件で弾と学園近くの喫茶店に居てな。そこに偶然榊原先生も居て、如何やら一目ぼれしたらしい」
「そうなんだ」
「まぁ、アイツもまんざらでも無かったようだし、今は順調に付き合ってるようで安心した」
お友達の恋路まで手伝ってるなんて、一夏は大変なんだなーと思いつつ、口では悪友って言ってても本当に仲が良いと言う事が言葉の端々から感じ取れた。
「移動する?」
「いや、向こうは自分たちの世界に入ってるから、こっちには気付かないだろ。それにしても弾のヤツ、しまりの無い顔してんなー」
「良く見えるね。私はちょっとそこまでは見えないかな」
顔は何とか区別つくけど、表情までははっきりと見えない。目は良い方なんだけど、さすがに一夏見たいに数キロ離れた場所の文字まで区別出来る訳でも無いのだ。
「後でからかってやるか」
「一夏でもそう言う事するんだね」
「ネタになるからな。後で鈴にも教えてやるか」
「うわぁ……」
凰さんが絡むとまた可哀想な展開にしかならないような……でも、一夏も普通の男子高校生だと言う事が分かって良かった。何時もの一夏は歳を誤魔化してるんじゃないだろうかと思うくらい大人びてるから、こう言った友達をからかうような普通さがあってちょっとホッとした。
「どっちが金払ってるんだろうな」
「榊原先生じゃないの? だってあの人、普通の高校生でしょ?」
「……まるで俺が普通じゃ無いみたいな言い方だな」
「普通じゃ無いでしょ? IS動かすし、生身でISは撃退するし、株で大儲けしてるし」
「まぁ確かに普通じゃねぇな」
降参したように両手を上に挙げ、一夏はおどけて見せた。こう言った事をする一夏も新鮮で良いな。
「まぁ弾はバイトもしてないし、金は無いだろうな。榊原先生に出してもらってるのか」
「高校生じゃそれが普通だよ。それに相手が社会人なら尚更だね。榊原先生も年下に出してもらう訳にも行かないだろうし」
一応立派な社会人である榊原先生が、高校生に驕ってもらう訳には行かないだろうな。
「そう言えば俺、榊原先生に奢った事あるぞ」
「嘘!?」
「喫茶店で自棄飲みしてたコーヒーの代わりにジュースを頼んだんだが、その分は俺が出した」
「自棄コーヒー……お酒じゃないんだ」
「如何やら医者に止められてるらしい」
何て可哀想なんだろう……きっとお見合いが上手く行かなくて自棄酒をしてたんだろうけど、それまで止められちゃうなんて……しかも今度は自棄コーヒー、胃に悪そうな事してるんだな……
「ウチの駄姉も誰か貰ってくれないかな」
「織斑先生は無理でしょ。だってつりあう相手が思いつかないもん」
それこそ、織斑先生より強くて、はっきりとモノが言えて、料理洗濯が得意で、お金の管理がしっかり出来る人じゃなきゃ……あっ、一人だけ居る。
「ん? 何だその目は?」
「でも、織斑先生相手じゃ可哀想だもんね」
「何で俺がアイツを面倒見なければいけないんだ」
「だって、姉弟でしょ?」
「……なら、別にマドカでも良いだろうが」
「マドカは駄目だよ。だって料理とか出来なさそうだし」
そもそも女同士じゃ結婚は出来ないよ……あっ! そうなると姉弟でも結婚出来なかった。駄目じゃん、織斑先生……
「それともう一人心配な駄ウサギが居るんだよな……」
「駄ウサギ? ……篠ノ乃博士?」
確かウサ耳を愛用してたような気が……それにしても一夏、何だか二人のお母さんみたいな感じがするんだけど。結婚出来ない娘を心配してるようなお母さんの感じが。
「二人共一夏に面倒見てもらうつもりなんじゃないの?」
「お断りだ。そもそも俺は他に好きな相手が居るからな」
「うん」
ジッと見つめられてまた顔が熱くなった。もちろん私だけじゃ無いんだけれども、一夏に好きと言われるとうれしいし恥ずかしい。
「さてと、そろそろ移動するか?」
「もうちょっとこのままで。二人が如何するのかも気になるし」
「如何するって?」
「だから、キスとかするのかな~って」
「悪友のキスシーンなど見たくないんだが」
一夏は本気で嫌そうな顔をしてるけど、私としてみたら教師のキスシーンと言うのは非常に興味があるのだ。
「変な好奇心出してないで、こっちはこっちでデートしないか?」
「一夏がキスしてくれたら良いよ?」
「此処でか?」
「うん」
一夏は少し周りを見渡してから、私にキスをしてくれた。これも少し前なら恥ずかしがってしてくれなかったのだろうけど、これはこれで良いものだな。
「あれ? 何か囲まれてない?」
キスしてもらって満足してたら、榊原先生たちが数人の男の人に囲まれてた。何かあったのかと思ってたら、一夏がなにやら面白そうな笑みを浮かべていた。
「相変わらず不運なヤツだ。だが、此処で逃げるなんてありえないよな?」
「一夏?」
「すまない簪、ちょっと降りてくれ」
「う、うん……」
一夏の膝から頭を降ろし、改めて二人を見た。なにやら絡まれているようで、一夏のお友達が必死に追い払おうとしている。
「榊原先生も普通にモテるんだな」
「暢気にそんな事言ってないで、助けてあげないの?」
一夏ならあんな連中一撃で退ける事が出来るだろうに、一夏はその場から動こうとはしない。
「俺が此処で助けに行ったら弾に失礼だからな。もう少し様子を見て駄目そうなら行くさ。それまではアイツの見せ場だ」
「見せ場?」
一夏が何を考えているのか分からずに、首を傾げてると、一夏が分かりやすく説明してくれた。
「彼女の前で良いとこ見せるチャンスだからな。怪我しないうちは放って置くのがアイツのためだ」
「なるほど……」
もし私が榊原先生のポジションなら、カッコよく自分を守ってくれた彼氏に惚れ直すだろう。だけど一夏だとそんな事思う前に片付けちゃうからな……ちょっと残念。
「少しずつ近付いて行くか」
「私も?」
「気になるんだろ? 顔に書いてある」
「!?」
慌てて自分の顔を触ったけど、そもそも触ったからと言って分かる事でも無かった。私は二重の意味で恥ずかしくなって俯いた。
「暴力に訴えないだけの理性は保ってるようだな」
「そうだね」
先に手を出したらいけないとちゃんと理解してるようだった。一夏や凰さんは彼の事を馬鹿だって言ってたけど、それくらいはちゃんと分かってるようだった。
「しかし、今日は随分と厄介事に巻き込まれる日だな」
「一夏はそう言った星の許に生まれたんだよ、きっと」
「そんな星は滅んでしまえ」
苦笑いを浮かべながら一夏は冗談めかしてそんな事を言った。私たちが暢気におしゃべりをしてた隙に、事態は急変していた。
「コイツ、一発くらい喰らわねぇと分からないようだぜ?」
「生意気な餓鬼だな……うぉら!」
「ッ!」
絡んできていた男たちが、一夏のお友達を思いっきり殴った。少し距離があるけど、殴られた時の音はもの凄い痛そうだった。
「一夏……」
「ああ、これで反撃出切るだろうな」
「えっ、そっち!?」
私は可哀想だと思ったのだが、如何やら一夏はやり返すきっかけが出来たと見てたようだった。それにしても自分のお友達が殴られてるのに平然としてるなんて、一夏は何事にも落ち着いて対処出来るんだなぁ~。
「弾君! もう良いから」
「良く無いです! 俺は菜月さんの恋人ですから」
「弾君……」
何だか甘ったるい空気を醸し出した二人に、一夏が呆れ始めた。
「状況を理解してるとは思えんな……あんな空気醸し出したら、更にやられるだけだろ」
「確かに」
一夏が言ったように、絡んできていた男たちは更に襲い掛かるきっかけを得たように纏めて殴りかかり始めた。
「さて、そろそろ行くか」
「いってらっしゃい」
一夏も潮時だと感じたらしく、漸く助けに行く事にしたようだった。私としても彼氏の友人がこれ以上ボコられるのを見てられなかったので、丁度良いタイミングだったのだ。
「よう弾、中々カッコよかったぜ」
「一夏!?」
「後は任せな」
「何だお前は?」
「コレのダチだ。偶々近くに居たら面白そうな事に遭遇してな。俺も混ぜてくれよ」
「良いぜ! 二人纏めてサンドバッグにしてやるぜ!」
息巻いて一夏に殴りかかった男たちだったが、その一瞬後には地面に倒れこんでいた。
「何だ、ツマんねぇの」
「織斑君、如何して此処に……」
「俺たちもデート中だったんですよ。それで偶々二人を見つけたら、この有様だったんでね。手出しするつもりは無かったんですが、この阿呆がこれ以上やられるのは見てられなくてね。一応友達って事になってるんで」
「おい一夏、一応って何だよ」
「黙ってろ阿呆」
「イテッ!」
蹲っているお友達を一夏は軽く小突いた。友人関係が成り立ってるから出切る事で、そうじゃなかったら死体蹴りだ。
「邪魔者は去りますから、後はしっかりと手当てしてやってください。コレでも先生を守ろうとしてたんですから」
「分かってる。でも、もう少し早く助けに来てくれても良かったじゃない!」
「それじゃあコイツの気持ちが聞けませんでしたからね。如何やら本気で先生の事が好きみたいですよ? 良かったですね」
「織斑君……かなり恥ずかしいんだけど」
「でしょうね。聞いてるこっちが恥ずかしかったですから」
「うんうん」
「更識さんまで!?」
「言いましたよね? 俺たちもデート中だって」
榊原先生は私の登場で更に驚いていたけど、一夏は確かにデート中だと伝えていたのだ。もう一人居てもおかしくは無いと何故分からなかったんだろう。
「それじゃあ俺たちはこれで。弾、しっかりと手当てしてもらえよ? お前は勢いだけで実力はそこまでじゃねぇんだから」
「お前と比べたら全人類が大した事ねぇよ」
「憎まれ口を叩けるだけの元気はあるようだな。心配はしてなかったが安心したぜ」
「言ってろ!」
互いに言いたい事を言い合える仲って何だか良いよね……なんだか男の友情って感じがするし、普段の一夏とは違った一面が見れて嬉しいな。
「行くぞ、簪」
「うん。それじゃあ先生、また学園で」
榊原先生に一礼してから、私は一夏の手を握った。一夏は私が握った手を更に深く握りなおしてから、空いてる手で背後のお友達に手を振った。
「やれやれ、とんだデートだな」
「でも、面白がってたよね?」
「弾のヤツがどれだけ本気かを確かめられたしな。あれなら簡単には別れないだろうよ」
「榊原先生も凄く嬉しそうだったもんね」
あの弾と呼ばれていた人は、本気で榊原先生の事が好きなようだったし、その為なら不利な状況でも戦う勇気を持っていた。確かに一夏ほど頼り甲斐は無さそうだけれでも、自分の事を守ってくれる男性なら、安心して付き合えるよね。
「さすが一夏のお友達だね」
「ん?」
「大事な人を守る為なら自己犠牲を惜しまないなんて」
「そんなカッコいいもんじゃないぞ、あれは。単純に他に手が思いつかなかっただけだろ」
口ではこう言ってる一夏だけれど、表情は彼の事を認めているのがバレバレなくらい嬉しそうだった。
「さてと、これから何処に行くかな」
「ゲーセンが良い。一回行ってみたかったんだ」
「何だ、格闘ゲームでもするのか?」
「レースゲームや音楽ゲームでも良いよ?」
「昨日散々してただろうが……まぁ良いか」
確かに昨日は一日中ゲームしてたけど、今日は一夏と一緒に出来るんだから私は譲るつもりは無かった。それを感じ取ったのか、一夏はあっさりと折れてくれたのだった。
「今度こそ一夏に勝つんだから!」
「はいはい、熱くなりすぎて公共の場だって事を忘れるなよ?」
「大丈夫、お姉ちゃんじゃ無いんだから」
「……本当に大丈夫か?」
不安そうに私の事を見てくる一夏だが、そんなに心配する必要は無いと思うんだけどな……
暫くしてゲーセンには私の声が響いていた。
「もう一回!」
「何回やるんだよ……」
「だってあと少しで勝てそうなんだよ!」
「やれやれ、やっぱりこうなったか……」
周りの人たちの視線を集めているのは私たち……いや、私だ。一夏の心配していたように、私は公共の場だと言う事を忘れて一夏に食い下がっていたのだ。
「これで最後だからな。もう時間も時間だし」
「今度こそ絶対に勝つんだから! 一夏、手を抜いたら承知しないからね!」
「はいはい……」
もう何回目か分からない対戦で、一夏は若干呆れ気味に首を振った。此処まで全敗の私は、何としても勝ちたい気持ちでいっぱいだったのだ。
「この、えい、うりゃ!」
「黙って出来ないのかよ……」
「五月蝿い! うわぁ!」
一夏が呆れたようにつぶやいたのに反応したら、その一瞬の隙を突かれて形勢が逆転した。
「このこの! よし! ……あれ?」
上手く返せたと思ったのだけれど、一夏は更に上を行っていた。
「さて、帰るか」
「ううぅ……また勝てなかった」
「途中からデートだって忘れてただろ?」
「……あっ!」
せっかくのデートだったのに、結局半日ゲームして終わってしまった……もうちょっと良い場所あっただろうに、何でこうなっちゃったかな……
「さてと、刀奈たちもそろそろ学園に戻ってる頃だろうし、俺たちも行くぞ」
「ちょっと待って!」
「ん?」
呼び止められるとは思って無かったのだろう、一夏は不思議そうに振り返った。
「今日はありがとう。凄く楽しかったよ!」
「途中から何時ものようにゲームしてただけだけどな」
「また、一緒に来ようね!」
「……勘弁してくれ」
苦笑いを浮かべた一夏だったけど、これが一夏の照れ隠しだと分かってしまうのだ。一夏も多分今日は楽しかったのだろう。何時もならゲームをこんなにしたら怒るんだけれど、今日は怒ってない。
「一夏、今日は楽しかったよ」
「さっき聞いたぞ?」
「うん、でももう一回言いたかったの」
「そうか」
一夏は軽く頷くと私を抱きかかえて朝のようにもの凄いスピードで空中を駆け抜ける。方角的にもIS学園に向かってるんだろうなと思った次の瞬間にはIS学園が見えてきた。
これで私の一夏との「二人きり」での初デートは終わりなんだと思うと、少し寂しくなってきたな。
「ねぇ一夏、また二人でデートしようね」
「そうだな。それにはもう少し時間的余裕がほしいけどな」
「お姉ちゃんと本音が迷惑かけてスミマセン……」
「問題はそれだけじゃ無いんだけどな。休みだって言うのに随分と大勢居るな」
「何が……?」
一夏は学園の周りを睨んでため息を吐いたけど、私には何が何だかさっぱりだった。もしかして敵が居たのだろうか?
弾の本気度は見せられたかなと思ってます