一夏さんと二人きりになる事自体はそう珍しい事では無いのですが、外で二人きりとなるとやはり緊張するんですね。お嬢様、簪お嬢様と順番にデートをしてきて、今週は私の番なのですが、一夏さんは特に緊張してる様子も無く平然と歩いています。
「あの、今日は何処に行くんですか?」
予定も何も聞いていない私としては、行き先くらいは聞いておきたかったのですが、聞いても教えてくれなかったので、こうして当日も聞いているのですが……
「もうすぐ着くから」
このように教えてくれないのです。もう少しって、此処は随分と人が多い場所ですし、背が低い私には目的地が見えてきたとしても分からないんですがね。
「虚? 何か疲れてるのか?」
「何でです?」
「歩く速度が遅くなってきてるような」
「ちょっと人が多くて歩き難いだけです」
一夏さんみたいに上背があれば周りの人も避けてくれるのでしょうが、私みたいな身長だと気付かれずにそのままぶつかられたりする事もあるのです。
「そんなに人が多いとは思わないんだが」
「身長がある一夏さんとそうでない私とでは感じ方が違うんです」
「虚だってそこまで背が低い訳じゃ無いだろ? 刀奈や本音たちと比べれば十分高い方だ」
「更識家内は皆さん低身長ですからね。私だってお嬢様たちと居れば大きく見られがちですが、実際は165無いんですからね」
お嬢様たちも160前後ですし、世間では女性の身長も高くなってる今の時代、私たちが人ごみに紛れたらすぐに埋もれてしまうのです。
「仕方ねぇな、ほれ」
「?」
差し出された手を見て、一瞬何を如何すれば良いのか考えてしまいましたが、すぐにその手が意味する事を理解した私は、顔が熱くなっていくのを感じました。
「はぐれると厄介だからな」
「目的地さえ教えてくれれば自力で辿り着けますよ」
「如何だか。虚は肝心なところで抜けてたりするからな」
「そんな事無いですよ! それはお嬢様です!」
「刀奈は普段から抜けてるだろ」
「……確かにそうですね」
お嬢様が計画した事で何も問題無く実行出来た事など、今まででどれだけあった事か……殆どが途中で問題が発生したり、そもそも実行出来なかったなんて事の方が多かったですね。
「何か周りが騒がしいね」
「言われてみればそうですね」
一夏さんと手を繋いでから、何だかやけに見られてるような気もしますし、何人かの女性はもの凄い羨ましそうに見てたりしてましたけど、何かおかしな事でもあるのでしょうか?
「あまり気分の良いものでは無いな」
「そうですね。あまり注目されるのは好ましくないですね」
これがお嬢様や本音だったら見せびらかすような行動を取るのでしょうが、悪ふざけをして面倒に巻き込まれるのは私も一夏さんも本意では無いですしね。
「やっと目的地が見えたな、急ぐぞ」
「私はその目的地を知らないのですが、急ぐのには賛成です」
あまり人目に晒されていらぬ反感を買うのは好ましく無いので駆け足で人ごみを抜ける事にしました。一夏さんは一回も人とぶつかる事無くすり抜けて行くのですが、同じ動きが私に出来るはずも無く、何回か転びそうになりましたが、しっかりと一夏さんが支えてくれたので転ばずに済みました。ただまた何人かの女性が羨ましそうに私の事を見ていたり、同じだけの男性が一夏さんを羨ましそうに見ていたりしていました。
「さすが本音の姉と言うのか何と言うか、虚も意外と……な」
「意外と、何ですか?」
「人ごみとか苦手なんだなと思ってさ。普段は泰然としてるのに屋敷から出てからは妙にそわそわしてると言うかオドオドしてると言うか、何となく居心地が悪そうな雰囲気が出てたから何となくそう思っただけだ」
「本音は別に人ごみが苦手では無いですが……」
「それは周りに俺たちが居るからだろ。多分一人だったらオロオロして何も出来ないと思うんだが」
「何も出来ないのは私たちが居ても一緒だと思いますがね」
「確かに……だがやる時はやる子だろ」
「そうなんですよね。だからやらない時はとことんやらないんですよね……」
なんだか子育てに悩む夫婦のような会話になって来たのを一夏さんも私も自覚し、同時に苦笑いを浮かべた。
「とりあえず店に入ろうか」
「そうですね」
私にとって本音は間違いなく妹なのですが、一夏さんも似たような感情を持ってるのでしょうか? マドカさんや須佐乃男に対しても似たような目を向けているので少なからずその二人と同じ感情を抱いて本音の事を見てるのでしょうね。要するに妹のように見ている……でもしっかりと本音と須佐乃男の事は彼女としても見てあげてるようですし、本当のところは一夏さん本人に聞かなければ分かりませんけどね。
「あの一夏さん、ここって……」
「虚は服に無頓着だからな。偶にはおしゃれでもしてみたら如何だ?」
「で、ですが! こんな可愛らしい服なんて私には似合いませんよ! お嬢様や本音が着てるようなものばっかですよ!?」
「この前簪も着てたけどな。如何やらマドカや須佐乃男も部屋で着てるらしいが、あいつらはただのコスプレだろうな」
「ですが、私のような女がこんな可愛らしい服を着たって似合いませんよ!」
「そうかな……似合うんじゃないか? 試しに着てみたら良い」
他人事だからって……一夏さんは店員を呼んで試着出来るものを確認し始めました。店員は私を見てサイズが合う服を用意してくれましたが、やたらと一夏さんの事をチラチラと見ているような気がするのは何故でしょう。
「似合わなくても知りませんからね!」
「大丈夫だろ。虚なら似合うよ」
「………」
真顔でそんな事言われると恥ずかしくて何も言い返せないじゃないですか。偶にあるのでしが、こうやって相手を黙らせる事を平気で言う一夏さんは、やはり何処か世間一般の男性からはズレているんでしょうね。
「絶対に笑わないでくださいね!」
「笑わねぇよ。そもそもそんな要素があると思ってるのか?」
「だってこんな服、お嬢様や本音のような女性が着るから似合ってるんですよ? 私みたいな無愛想な女が着ても……」
「虚だって可愛い女の子なんだから似合うだろ」
この人はまた……如何してそう顔から火が出るような事を平気で言ってのけるのでしょうか。
二学期に入ってからの一夏さんの成長速度は私たちの想像の遥上を行っているように感じるんですよね。何が原因でこんなに成長してるんでしょう?
「如何……ですか?」
「うん、やっぱり似合ってる。可愛いと思うぞ」
「あ、ありがとうございます」
普段はキッチリとした服装が多い私ですが、こんなにフリルの付いたような女の子な服は初めてかもしれません。スカートも制服以外では滅多に穿きませんし……
「気に入ったのなら他には着なくて良いのか? 他のもあったろ」
「こ、これが精一杯ですよ!」
他のはスカートの丈がこれ以上短くて下着が見えてしまうのではと思うくらいなんですからね! そんなの穿ける訳無いじゃないですか!
「それじゃあこれを一式ください。着て帰るので彼女が着ていた服は袋に入れておいて下さい」
「はい、お買い上げありがとうございます」
「い、一夏さん!? これを着て街を歩くんですか?」
「可愛いし別に問題は無いだろ」
「は、恥ずかしいですよ」
「そうなのか? 全裸で風呂に突撃してきた事もあるだろ」
「あれは一夏さん限定です! 他の人に見られるなんて考えただけで今既に逃げ出したいですよ!」
「服着てるんだからそこまで恥ずかしがる事も無いだろ」
「ううぅ……他人事だと思って楽しんでません?」
恨めがましい目で一夏さんを見ると、一夏さんはわざとらしく視線を逸らして笑い出しました。
「そうか……楽しんでるのか、俺は」
「自覚してなかったんですか?」
「いや、楽しいなんて感情を自分が持ってた事を忘れてたんだ。そうか、刀奈や簪とのデートの時に感じた感情も楽しいだったのか……」
「随分と楽しそうですよ」
「そうか。俺もまだ楽しめるんだな」
一夏さんの壮絶な過去を聞いてる身としては、一夏さんがつぶやいた言葉の意味が分かってしまうので、冗談だと笑い飛ばせませんでした。
「さてと、それじゃあ次に行くか」
「まだ何処かに買いに行くんですか!?」
「安心しろ、次は普段虚が着てるような服が売ってる店だ」
「最初からそこだけで良いですよ……」
「偶にはそう言った格好したって良いと思うぞ? 虚だって女子高生なんだから」
「えっ!」
「「ん?」」
一夏さんが私を女子高生と言って、店員の女性が声を上げた。私と一夏さんに同時に見られた店員は、恥ずかしそうに私が元々着ていた服の入った袋と、領収書を一夏さんに手渡してそそくさと去って行こうとした。
「あの、今のは如何言った理由での『えっ』だったんでしょうか?」
だが私が逃がさないとばかりに質問した為に、店員の女性はその場で立ち止まってゆっくりと振り返り、気まずそうに答えてくれました。
「い、いえ、あまりにも大人びていたので、若くても大学生でそれかもう立派な社会人とばかり……」
「良かったな虚。大人びてるってさ」
「一夏さん!」
「えっとそれじゃあ、そちらのお連れの方も高校生なのですか?」
「そうですが」
「それじゃあお二人とも高校生……なんですか!?」
「一夏さんも高校生には見られてなかったようですよ?」
「何時もの事だ。今更気にしないさ」
確かに一夏さんは名前は世界的に有名ですし、IS業界では顔も知られていますが、世間一般になると名前だけで顔はそこまで有名じゃないんですよね。
「高一と高三ですが」
「えっと、どちらが高一ですか?」
「俺ですが」
「えぇ!?」
「何か?」
「い、いえ……高一が出せる金額では無いと思いまして」
そう言えばこの服、値段とか書いてませんでしたがいくらなんでしょうか……
「一夏さん、領収書を見せてもらえます?」
「ん? 気にしなくても良いんだが」
「いえ、純粋に気になりまして」
「ほれ」
ポケットから出された領収書には、桁が五つの数字が書かれていました。一着で万超えなんですか……しかも一番上の数字は一じゃないですし……どれだけ高い服を着てるんでしょうね、お嬢様たちは……
「刀奈たちはもう少し安いところで買ってるからな? それが原因では無いぞ」
「顔に出てました?」
「ああ」
如何も更識の財政が気になってしょうがないんですよね……でもお嬢様たちの服代ではないようなので一安心です。
「それじゃあ今度は虚が好きそうな服を買いに行くか」
「やっぱりこれを着て歩かなければいけないんですね……」
「似合ってるんだから気にするな」
「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております」
店員に見送られ店を出た途端、周りの人たちの視線が私に向けられた。やはり似合ってないのでしょうね。
「か、可愛い……」
「モデル? それにしては見た事無いわね」
「スタイル良いー! 羨ましいわねー」
小声だったり大声だったり違いはありましたが、殆ど私が思っていた事とは逆の感想を言っていました。
「ほらな? だから言っただろ」
「え、えぇ……」
なんだか恥ずかしくなってきたので早足で次の店に進んでもらうように一夏さんに頼み、私はなるべく人目に付かないように一夏さんに身を寄せて隠れるように歩きました。それが余計に目立つ行為だったとも気付かずに……
せっかくの休日だと言うのに、私は今同僚の先生のデートに着ていく服を選ぶのを手伝わされています。
「榊原先生、何で私なんですか~! 織斑先生でも良かったんですよね?」
「山田先生の方が良いと思ったからです」
「だからってせっかくの休みをこうして過ごすなんて……」
「後でお昼驕りますから」
「そんなんで……あら?」
「如何かしたの?」
つまらなくて視線を逸らしたら、今入り口付近に見慣れた人が居たような気が……
「榊原先生、今織斑君が居ませんでした?」
「織斑君? ここ女性物のお店よ? 織斑君が……って織斑先生の服の殆どは織斑君が買ってるんだっけ」
「千冬さんは無頓着ですからね」
「それじゃあ織斑先生の服を買いに来たのかしら?」
「ちょっと探してみましょう」
既に飽きていた私は、面白そうな事を見つけてちょっとテンションが上がってきました。
「いませんね……」
「見間違いだったんじゃないですか?」
「そうなんですかね……」
店中を探したのですが、織斑君は何処にも居ませんでした。やっぱり見間違いだったのでしょうか……
「誰を探してるんですか?」
「お、織斑君!?」
「どうも」
「こんにちは」
「えっと……もしかして三年の布仏さんですか?」
可愛らしい服を着ている織斑君の隣に居る女性が一瞬誰だか分からなくてついつい聞いてしまいました。
「やっぱりおかしいですよね」
「いえ、ちょっとイメージと違っただけで、似合ってはいますよ」
「さっき一夏さんに買ってもらったんですが、何故か着て歩く破目に……」
「似合ってるんだから良いだろ。虚は気にしすぎなんだよ」
「ですが……」
仲睦まじい二人を見て、私は自分の連れを改めて見てしまいました。
「? 何か付いてる?」
「いえ、せっかくの休日に職場の先輩の服選びに付き合わされてる自分を改めて自覚しておこうと思いまして……」
「榊原先生の? ひょっとして弾とデートする時の?」
「そ、そうよ」
恥ずかしそうに頬を染める榊原先生を見て、私は軽く殺意を覚えました。自分だけ幸せの真っ只中に居るなんて……少しは独り身の気持ちも考えて欲しいものですね。
「そう言えば先週のあの後は大丈夫でした? チンピラを片付けて俺たちは行っちゃいましたし」
「とりあえず手当てはしたわ。でも痕が残らなければ良いけど……」
「そんなに酷い怪我には見えなかったですし、気にしすぎじゃないですか? 弾ならあれくらい慣れっこですし」
「そうなの!? 何で?」
「実家での弾は妹よりも下の扱いですしね。お玉で叩かれたり拳骨だったり蹴りだったりと殴られなれてますし、中学時代には鈴にもう一人の悪友と一緒に蹴られたりしてましたし、耐久度だけなら並の高校生レベルでは無いですから」
「随分と凄い扱いをされてるのね、弾君って……」
「榊原先生が慰めてあげてるおかげで、最近は愚痴メールも来なくなりましたしね」
榊原先生が楽しそうに織斑君と話していますが、事情を知らない私には何の事だか……布仏さんは知ってるようで黙って聞いていますが、私は如何しても気になるので聞く事にしました。
「榊原先生の彼氏って織斑君の知り合いなんですか?」
「あれ? 前に言わなかったでしたっけ、俺の悪友の一人ですよ」
「織斑君が間を取り持ってくれたおかげで今の彼氏と付き合えてるのよ」
「そ、そうなんですか……なんてうらやま……いえ、羨ましいんでしょう」
「言い直せて無いですよ」
榊原先生と言えば惚れた相手は駄目な男性ばかりで周りからは止められ、それで此処最近はご実家からお見合いを勧められてると聞いてましたが、まさか織斑君が榊原先生の幸せを取り持ってたなんて……
「この前やっぱ言ってますよね。ついでに誰か知人でも紹介しますって」
「そうでしたっけ? 何となく言われた様な気もしないでも無いですが、織斑先生を押し付けると言われた事しか覚えて無いですね」
「ん? そう言えばそんな事も言いましたね」
「そんな事言ったんですか? 一夏さんも冗談が過ぎますよ」
「半分は本気だったんだけどな。不良債権女を引き取ってくれる物好きなんて居ないだろうし、それだったら普段から相手してる山田先生に引き取ってもらおうってな」
「嫌ですからね! 私は結婚を諦めてないんですから!」
「……別にあの人も諦めては無いんだろうが」
千冬さんも結婚願望とかあるのかしら……織斑君が諦めてないと言ってるからには恐らくあるのでしょうが、千冬さんが結婚……まったく想像出来ませんね。
「織斑君は今週もデートなんだね」
「色々と大変なんですよ」
「良いな~織斑君の彼女たちは。私なんか弾君と今週も来週も会えないって言うのに……」
「あっ、来週は俺と遊ぶ約束なんで」
「弾君と二人で?」
「いえ、もう一人居ますよ」
如何やら織斑君と榊原先生の彼氏は来週一緒に遊ぶ事になってるらしいですね。そうなると来週も榊原先生に振り回されるのでしょうか……
「それじゃあ俺たちはこれで」
「失礼します」
「はーい。また学園で会いましょうね」
キッチリと一礼してから私たちを別れた織斑君と布仏さんは、如何やら布仏さんの服を買いに来た様であれこれ見て回ってるようでした。
それにしても、この店の服は安くても一着一万以上、とても高校生が買えるような服ではないと思うんですが……
「榊原先生は恋人に服とか買ってもらうとか考えないんですか?」
「だって弾君は普通の高校生よ? 高くて買ってもらえないわよ」
「でも、織斑君は布仏さんに買ってあげてますよ?」
私が指差した先で、織斑君が数着の服を持って会計に向かってる姿がある。
「織斑君は色々と普通じゃ無いし、お金の管理もしっかりとしてるからね」
「千冬さんがぼやいてましたね」
今は見放されたのか自分で管理してるようですが、一学期まではお小遣い制で、千冬さんが自由に使えるお金は少なかったんでしたね……良い大人が高校生の弟に資金管理されてるのは可哀想だと思ってましたが、織斑君になら私も管理してもらいたいです。そんな妄想よりも私も恋人がほしくなってきましたよ……誰か良い人居ませんかね……
女性物って幾ら位するんですかね? 安物ばかりの知り合いが多いのでさっぱりです。値段より組み合わせなんですかね?