今週もまったく授業についていけない……編入二週目でも特別扱いは無く、授業は進んで行っている。その所為で私は毎日放課後は静寂に頼んで授業の復習をしている。
「本当は一夏君が教えた方が良いんだろうけど、彼は忙しいからね」
「編入の時にお世話になっておいて、授業についていけないからってまたお世話になるなど無理ですよ! ただでさえ一夏様には他にもご迷惑をおかけしているのに……」
如何やら更識の財政悪化の原因はお父さんにありそうなのだ。随分と上手く誤魔化しているようで証拠はまだ無いが、前にお父さんの側近が話してるのを聞いたような気がするのだ。
確かどっかの組織にお金を流してる代わりにお父さんたちがしたかった事をやってもらってるとか聞いたような聞かなかったような……随分と前だし良く覚えて無いんだけれどね。
「一夏君なら別に気にしないだろうけどね。忙しいのは確かだから私で我慢してよね」
「我慢も何も、私が静寂に頼んだんだから。それに、かなり助かってるんだよ」
「本当は本音とかも捕まえて一緒にやらせたいんだけど、逃げ足だけは早いんだから」
「仕方ないよ。本音ちゃんは昔から勉強嫌いだから。私と一緒で……」
二人共勉強嫌いだったのに、何で本音ちゃんは入学試験を合格出来たんだろう? 一夏様に勉強見てもらったのかな?
「あれ? 静寂に美紀、何してるんだ?」
「一夏君。生徒会の仕事じゃなかったの?」
「そっちは終わらせた。それでちょっと忘れ物を思い出して取りに来た訳だが、今日の範囲だな。復習か?」
「そ。美紀が分からないから教えて欲しいって」
「ちょっと静寂!」
そんな事一夏様に言ったら呆れられるじゃないのよ! ただでさえ呆れられてるんだろうけど、それ以上に呆れられちゃったら如何するのよ!
「復習する気があるだけ良い事だ。本音や須佐乃男やマドカは今日もどっかで遊び呆けてるんだろうし。アイツら、テスト前に泣きついて来ても知らないからな」
「そんな事言って、本当に泣きついて来たら面倒見るくせに」
「赤点取られて補習になって泣きつかれる方が面倒だからな」
「私も多分一夏様に泣きつくかもですけど……」
多分では無く確実にだろうけど、少しくらいは可能性を信じたい。
「普段から努力してる日下部さんやエイミィは教えても良いし、美紀もこうして努力してるんだから少しくらいなら手助けしてやらんでもない。だがあの三人はまったく反省もしないで遊び呆けてるからな、一度痛い目でも見なければ変わらないのかも知れんな」
「一夏君が怒ったら勉強するんじゃない?」
「それでするなら苦労しないさ……既にカミナリを落とした事がある」
一夏様はご自分の机から参考書を取り出して教室から出て行かれました。
「参考書? 一夏君が使う訳じゃ無いだろうけど、いったい何で一夏君がISの参考書なんて持ってるんだろう……」
「そろそろ小テストも近いですし、その準備かも知れませんよ」
「一夏君が問題を作る訳じゃ無いんだし、一夏君なら参考書なんて見なくても理解してると思うよ」
「そうでしたね……それじゃあいったい何で参考書なんて」
それもわざわざ教室にまで取りに来るほど重要なのでしょうか……考えても全然分からなかったので、大人しく復習を始める事にしました。もちろんそっちも全然分からなかったのですが……
「美紀は勉強は苦手だけで実技の腕は候補生クラスくらいはあるからね。そっちで点数を稼げれば補習は無いと思うよ」
「あまり慰めにはなって無いよ……でもありがとう」
静寂に慰められて何とか泣かずに済みそうだった。
「あれ~? おりむ~は?」
「本音? 一夏君なら一時間前くらいに此処に来て、参考書だけ持って何処かに行ったけど」
「おかしいな~、此処に居るって須佐乃男が言ってたんだけどな~」
「須佐乃男が? でも居ないわよ?」
本音ちゃんと静寂と一緒に教室を見渡したけれど、一夏様の姿は何処にもありませんでした。須佐乃男が気配察知を間違えたのか、一夏様がこの教室に本当に居るのかのどちらかなのでしょうが、居るとしたら何処に……
「しょうがない、他の場所も探してみるね~」
「ところで本音、如何して一夏君を探してるの?」
「須佐乃男がなんだか調子が悪いって言ってるから、持ち主であるおりむ~に知らせた方が良いだろうと思って~」
「電話は?」
「そう言えばしてなかったね~。さすが鷹月さんだよ~」
「普通思いつきそうなものだけど?」
本音ちゃんは携帯を取り出して一夏様に電話を掛けた。
「あっ、おりむ~? 須佐乃男が大変……へ? 知ってる。そして心配しなくて良いの? うん、分かった、おりむ~がそう言うなら大丈夫なんだね。うん、それじゃあ……だ、大丈夫、今は遊んでないから」
電話を切ろうとしてた本音ちゃんの顔が、みるみると青ざめていく。きっと一夏様に怒られているんだろう。
「それじゃあ須佐乃男は寝かせとけば良いんだね。うん分かった、あとそっちもやっておくからそんなに怒らないで欲しいかな」
やっぱり怒られていた本音ちゃんは、携帯越しに何回も両手を合わせてる。よっぽど怒られてるんだろうな……
「ふぅ……それじゃあ私は部屋に戻るね~」
「須佐乃男、具合悪いの?」
「おりむ~がちょっと何かしてるみたいで、それで須佐乃男に負荷が掛かってるだけだろうってさ。横にさせても具合悪そうならもう一回電話して来いだって」
「一夏君が? でも直接何かをしてる訳じゃ無いんでしょ?」
「具体的には何してるのかは分からないけど、須佐乃男も普通に具合が悪そうじゃなくて、機嫌が悪そうだったような気もするしね~。何か嫌な事でも感じ取ったのかもね~」
良く分からない事を言い残して本音ちゃんは教室から去っていった。
「良く分からないけど、一夏君が何かをしてるから須佐乃男の機嫌が悪くなったって事で良いんだよね?」
「恐らくは……しかしISの機嫌が悪くなるような事っていったい何でしょう」
復習もそこそこに私と静寂はその事を考え込んでいた。いくら考えたところで私や静寂に答えが見つけ出せるはずも無いと気がついたのはそこから一時間は過ぎた時だった……
やはり見よう見まねでは上手く行かないようだな……だがしかし、須佐乃男とのリンクをなるべく切る事によって少しはマシになってるんだろうな。
「その所為で須佐乃男の機嫌が悪いそうだがな……」
最初は具合が悪いって本音が電話してきたが、そのうち気分が悪かったに変わって、今では機嫌が悪いになっている。
「初めと全然違うじゃねぇかよ……だが、さすがに専用機の目は誤魔化しきれないらしいな」
残り香を辿って教室まで本音を使わすとは、須佐乃男の執念と言うべきものは侮れないらしい。
「別に須佐乃男を捨てる訳では無いんだが、これは浮気になるんだろうか」
今取り組んでいるのは、訓練機を動かせるように須佐乃男とのリンクを一旦切る事だ。図書室で見つけた明らかに何処かの駄ウサギが書いたとしか思えない本を見つけ、図書委員に確認したところ、こんな本は知らないとの事なので俺が預かっているのだ。
問いただそうにも電話では掴まらないし、現在地も前とは変わってるようで探しようが無い。クロエさんも教えてくれないし、これはいよいよ困ったと思ったところでこの本を開いたら、明らかに俺に向けての本だと言う事が分かったのだ。何時仕込んだのかは兎も角、もう少し渡し方を考えられなかったのだろうか、あの駄ウサギは……
「だが、これは他の人に見せる訳にはいかないよな……何考えてるんだ、あの駄ウサギは」
世界中があの駄ウサギを探してる原因の一つは、ISのコアの製造方法が分からないからなのだが、この本にはそれに近い事まで記されている。
「ちょっと勘の良いやつなら、これからコアを作れるようになりそうだぞ……また世界が揺らぎかねない事しやがって」
駄姉にも見せてないのだが、この字は間違いなくあの駄ウサギの字だ。昔見た研究資料とかにあったクセのある字を見間違う訳も無い。てか、明らかに自分だと俺に分からせるように色々と関係無い事まで書いてあるが、何が目的なんだろうな……
「電話か……白状するつもりになったのか?」
ディスプレイにはウサギの文字が。つまりはこの状況を覗いていたあの人が俺がしようとしてた事の解説でもしてくれるつもりになったのだろうな。
「はい」
『もすもすいっくん? 天才発明家の束さんだよ~!』
「それで、この本はいったい何時仕込んだんです?」
『相変わらずクールだね~、箒ちゃんがいっくんで慰めてる理由が良く分かるよ~』
何をしてるんだ篠ノ乃のヤツは……
「余計な情報までこの本に仕込んで、貴女はまだこの世界を崩壊させたいんですか?」
『まだって、束さんは別にそんな事考えて無かったよ~? ただちょっと面白くなれば良いと思ってただけだも~ん』
「その結果が今の世界なんですか? 今この現状は貴女にとって面白い世界だと?」
『いっくん相手に誤魔化せないね。でも今回はいっくんの為になるはずだよ~』
「偶々俺が見つけたから良かったですが、他の人に見つけられたら如何するつもりだったんですか? この学校には様々な国の人間が居るんですよ」
『いっくん以外の屑に見つけられる訳無いじゃん~! だってその本は見た目は普通の参考書なんだから』
「これが普通だと思ってるのは貴女だけですよ」
明らかに他とは違う異様な雰囲気を醸し出している本を、普通だと思える感性の持ち主は他には居ないだろう。
『ちーちゃんでも気づけないようにちょっと束さんが術を施しただけで、後は普通の参考書だよ。それこそ本棚に隠してあっても気付かれないようなね』
「……じゃあ何で俺は気付いたんですか? 俺は束さんのような奇抜なセンスはしてないつもりなんですが」
『それはね~、いっくんがISにより近付いてるからかな~? 詳しい事はこの束さんでも分からないんだけど、いっくんにはISのコアを作れるかもしれない可能性があるんだよ~』
「可能性? かもしれないって如何言う意味ですか」
『だから良く分からないんだけれど、いっくんはISの声が聞こえるんでしょ?』
「全てでは無いですが、訓練機のなら一応は」
最近ではラファールの声も聞こえるようになったし、整備の時にIS自身に何処かおかしな部分が無いかどうか聞けるのは非常に楽だ。
『そもそも須佐乃男のコアも、専用機用のコアじゃないし、でもいっくんの力で専用機以上の力を引き出してるんだよ。だからいっくんなら束さんが作れないようなコアを作る事が可能なんじゃないかな~って思ってその本を渡したんだよ』
「……それとこの本に俺が気付いた事の関係性は?」
『束さんの愛がいっくんに……待って! 切っちゃ駄目だからね!』
俺が通話終了させようと電話越しに感じ取ったのか、ふざけたトーンではない声で必死に引き止められた。
『本当の理由は、いっくんが束さん以上の発明家の可能性があるからだよ。そもそもいっくんにあげた武器を展開させる装置だって、別のものを収納出来るようには作って無かったんだよ。それをいっくんが装着しただけでその装置を進化させたんだよ』
「発明関係無いようにも思えますが」
『ポテンシャルが高いんだよ。元々の装置の能力を想定以上にする力があるんだから、いっくんが本気でIS開発に取り組めばきっと束さん以上のISを作る事も可能なんだと思うよ』
「それでコアの作り方をボンヤリと伝えてきたんですか?」
『その説明で何となく分かるのはいっくんだけだよ。他の屑やちーちゃんが見ても何の事か分からないはずだから』
「これを俺に教えて、貴女は俺に何をさせたいんですか?」
そもそもコアを作りたくないから逃げているはずの束さんが、俺にコアを作らせようとする理由が分からない。
『私が出来なかった、本当の意味で楽しい世界を創って欲しいの』
「俺に世界を創造するような趣味は無いですよ」
『それじゃあ箒ちゃんに専用機を……』
「貴女も知ってるように、アイツに力を与えるとまた暴走する可能性がある」
『箒ちゃんだってそれなりに力を制御出来るようにはなってると思うけど……』
「『それなりに』じゃ駄目でしょ。何せIS一機で世界を半壊させる事だって出来るのですから」
ISはとてつもない兵器だ。条約で禁じられてるとは言え、その気になれば一機でそれくらいの事は可能な力を秘めているものだ。そして力を手に入れると舞い上がって何処までも突っ込む癖のある篠ノ乃に、そんなものは持たせられないのだ。
『じゃあいっくんの認めた人になら造ってあげても良いよ。あのイタリア娘にでも造ってあげたら?』
「エイミィに? アイツにはいずれ国が造ったものが渡されるだろう」
『あの研究の仕方じゃ永遠に第三世代のISが作れないよ。それこそ他の国の研究結果でも盗まない限りはね』
「随分と物騒な事を言ってるが、何か心当たりでもあるのか?」
『そんなもの無いよ~。だって興味ないもの』
「そりゃそうか」
束さんは俺と駄姉と篠ノ乃以外には興味が無いんだったな……家族ですら見分けがつかないくらいこの人は他人を見ていないのだから。
『それと須佐乃男のコアだけど、いっくんと完全にリンクが切れたら壊れるから気をつけるんだよ~?』
「は? そう言った大事な事は先に言え! この駄ウサギが!!」
『いっくんの罵声、なんだか気持ち良い!』
「……兎に角完全にはリンクを切らないようにすれば良いんだな?」
『そうそう、一割程度残ってれば壊れる事は無いから安心して良いよ~』
それでさっき本音が具合が悪いって言ってたのか……あの時は集中してて本当に一割くらいしかリンクを残してなかったからな。
「コアを作れる事は黙っておきますから、貴女も余計な事言わないでくださいよ?」
『ひっどいなーいっくんは! 束さんが何時余計な事を言ったんだよ~!』
「俺がISを動かせると世界に言い触らしたのは貴女ですよね?」
『それじゃあいっくん、くれぐれもコアの事は内緒にしてるんだよ~? じゃ~ね~!』
何がしたかったのか結局良く分からないまま、束さんは電話を切った。
「コアの製造方法ね……アイツに知られたらますます仲間にならないかとでも言われそうだな」
強奪を繰り返されるよりはマシなのかもしれないが、それでアイツらの戦力を拡大させるのも馬鹿馬鹿しい。
「とりあえずこの本は何処かにしまっておかないとな」
部屋に置いておくにしても、何処にしまえだ良いんだか……誰かに聞いてみるか。そう思って俺は数馬に電話する事にした。
『一夏? 何か用か?』
「ちょっと聞きたいんだが、本を隠すには何処にしたら良いと思う」
『何ッ!? 一夏もそう言う興味が出てきたのか』
「? 何の興味だ?」
単純に何処か良い場所知らないか如何かだけ答えてくれれば良かったんだが、数馬は何故だか感慨深いような声を出している。
『そう言うことなら箪笥の裏とか、ベッドの下は定番過ぎて駄目だな』
「定番? 何の定番だ?」
『おこちゃまの一夏君には分からない世界のだよ』
「……良く分からないが、知らなくて良い世界だと言う事は分かった」
『今お勧めなのは、堂々と本棚に入れておくだな! ブックカバーをしてあれば気にされないしな!』
「参考書にブックカバーはおかしいんじゃないか?」
『……参考書?』
さっきまでテンションの高かった数馬だが、俺が参考書だと言うと言葉を忘れたように一瞬黙り、その後間が抜けた声を出した。
「とりあえず普通に本棚に入れておけば良いんだな? サンキュ、助かった」
『ちょ、ちょっと待て! 一夏が隠したい本って参考書なのか?』
「ああ。他に何かあるのか?」
この本は他人に見せて良いものじゃないし、隠す事は必須だと思うんだが……
『そっか、そうだよな……女子高に秘蔵本を持ち込める訳無いもんな』
「秘蔵本? 何だその大それた名前の本は」
『思春期男子のお宝のようなものだ』
「弾も持ってるのか?」
『アイツのは俺よりスゲェぞ』
「ふ~ん……」
何が如何凄いのかはさておき、そんなに凄いのなら今度見せてもらった方が良いのだろうか。思春期男子として。
『ところで一夏、例の美人先生の件は如何なった!』
「美人教師? ああ、悪いがお断りのようだ」
てか、お前の本性を余す事無く伝えたら引かれたんだがな。
『何でだよ! 会っても無いのに何故フラれたんだ!』
「ありのままのお前を伝えたら引き笑いで遠ざかっていったんだが」
『そこは友人として気を使えよな!』
「だって実際に会えば本性は分かるだろうし、遅かれ早かれフラれてたと思うぞ?」
『俺のリアル彼女の夢が……』
あれだけ二次元に嫁が居ると豪語してる数馬でも、彼女は欲しいんだな……良く分からないヤツだ。
「まぁそう落ち込むな。最悪駄姉をくれてやるから」
『だからいらないっての! お前が世話してやれば良いだろ!』
「お断りだ。あんなのの世話を一生しなきゃいけないなんて御免だからな! 一応他に居ないか探しておくが、あまり期待はするなよ」
『そもそも人生に期待してないから大丈夫だ』
それはそれで如何なんだよ……とりあえず聞きたかった事は聞けたので、数馬との電話を終わらせて部屋に戻った。本棚は無いが、教科書の中に紛れ込ませとけば大丈夫かな?
数馬の相手、誰にしよう……