亡国企業を撃退した事で、私たちは歓喜に浸っていたのに、その裏ではお兄ちゃんが学園の何処かに連れて行かれてたなんて……私がその事を知ったのは完全に撃退した事を確認してクラスメイトと盛り上がるだけ盛り上がって一回着替える為に部屋に戻った時だ。私は当然部屋でも盛り上がってるものだと思っていたのに、その空間だけは何故だか空気が重かったのだ。
当然不思議に思った私は、真っ先に盛り上がりそうな本音に尋ねたのだ。
「何でこんなに暗いの? 何かあったの?」
「あのね、マドマド……おりむ~が、おりむ~が!」
「お兄ちゃんが如何かしたの?」
普段のふざけてる本音とはまったく違う、真剣な眼差しに私はお兄ちゃんに何かあったんだという事を察した。
「あのねマドカ、一夏には暫く会えなくなった」
「如何言う事? まさかアイツらに連れ去られたんじゃ無いよね!?」
だってお兄ちゃんはアイツらを撃退したんだから……それにもしそうならば皆だって大人しく部屋に居る訳無いし。
「そうじゃないけど、でも原因は亡国企業だね」
「何があったの?」
一向に話が見えてこないので、私はだんだんと不安に押しつぶされそうになってきた。だって私が最後に見たお兄ちゃんは、何時も通り不敵に微笑みながらも一切の容赦も無く敵を薙ぎ払っていたから、そのお兄ちゃんに何があったのか正直早く知りたかったのだ。
「一夏君はね、須佐乃男を庇って自分だけがダメージを負っていたのよ」
「須佐乃男を? だって須佐乃男はISですよね? その須佐乃男を庇うって如何言う状況なんですか?」
「えっとですね、私と一夏様が精神的に繋がってるのはマドカさんもご存知ですよね?」
須佐乃男が改まって聞いてきたので、私はこの事がきっと重要な事なんだと理解した。この状況で関係の無い事を聞いてくるはずも無いし、また須佐乃男がこの状況で関係の無い事を言う筈が無いと言う事も知っていたのだ。
「その中にはもちろん相手が受けたダメージを共有する事も含まれているのです。共有する事で個々のダメージ量を減らす役割があるのですが、一夏様はそのダメージを共有する事を、痛覚の共有のみを遮断する事でしなかったのです」
「……でもお兄ちゃんはダメージを負ってたなんて気付かなかったけど」
お兄ちゃんが心配させないようにしていたにしても、そこまで酷いダメージを負っているのならば、私にだって分かる。
「一夏様は無茶や無理を重ねて生活してるお方ですから、死にそうなダメージを負っていたとしても私たちには気付かせないでしょうね」
「お兄ちゃん死んじゃうの!?」
「そこまでは酷くないですが、数日間の絶対安静と退院後も激しい運動の禁止、不規則な生活は出来ないでしょうね」
お兄ちゃんは生徒会の仕事や私や彼女の相手とかで毎日忙しく睡眠時間が取れない不規則な生活をもう何ヶ月もしてる……いや、何年もか。私たち相手の前は姉さんや篠ノ乃博士の相手をしてたんだから、今以上まではいかなくとも小学生の頃から不規則な生活を送ってきたのだろう。そのお兄ちゃんが規則正しい生活を送れるか如何かと聞かれたら、間違いなく無理と答えるだろうな。
「絶対安静って事はお兄ちゃんはこの部屋に戻ってこないって事だよね?」
「そうですね。始めは保健室に運んだのですが、その後何処にあるのか分からない医務室に運ばれました」
「分からない? だって楯無さんは生徒会長ですし、須佐乃男はお兄ちゃんの気配を探れるよね?」
私のこの言葉に、楯無さんと須佐乃男が申し訳無さそうに視線を逸らした。つまりはそう言う事なのだ。
「ゴメンなさい、私も医務室の場所は知らないの。そもそもこの学園は一般生徒はおろか、私たち生徒会役員にも知らない施設や教室などがあるのよ」
「ついこの前まで千冬様が閉じ込められていた特別指導室も楯無様は知りません」
「……そう言えばお兄ちゃんについていって良いか聞いたら駄目だって言われたっけ」
危険とかそう言った感じでは無かったけど、やっぱりあれは普通の生徒に場所を知られる危険性を考えていたんだろうな。
「状況は確認する事は出来ますが、一夏様へのお見舞いなどは一切出来ません。場所が分かる分からない以前に、完全に面会謝絶状態ですから」
「そんなに酷いの?」
お兄ちゃんがそこまでのダメージを受けたと言う事は、相手はオータムかスコールのどっちかだろう。そうじゃなきゃ説明がつかないのだ。
「私が受けたダメージの何割かは一夏様に流れますし、その後にも一夏様は無茶な動きで攻撃を避けたりしてましたから、その蓄積もあったのでしょうが、あれは明らかに一撃喰らってますね」
「アイツらだ! 絶対に許さない!!」
確証は無いが何となく分かる。そもそもお兄ちゃん相手に互角に戦える相手など限られている。それが二対一だったとしても、オータムとスコールはお兄ちゃん相手に負けて無いのだ。もちろん勝ってもいないのだが、お兄ちゃんを相手にしてまともに動けてると言う時点で凄いと認めざるをえないのだ。そしてお兄ちゃんにダメージを負わせる事が出来るとすればあの二人のどちらかだと言う事だと考えられる。
「お兄ちゃんが倒れたって皆に知らせた方が良いの?」
「とりあえず今日は黙っておきましょう。さすがに明日には隠しきれない状態になってるでしょうが、今は勝利の余韻に浸ってるでしょうしね。水を差す必要は無いでしょうし、一夏さんもそれを望んでないでしょうし」
「それじゃあ私は祝勝会に行くの止める。さすがに隠せないしね」
さっきまでは皆とワイワイやるのを楽しみにしてたのに、今はもうそんな気分では無い。お兄ちゃんは私たちに心配させて隙を作りたく無かったから黙っていたのだろうけど、本当なら弱音を吐いてほしかった。もっと頼って欲しかった。でもそれをお兄ちゃんがしなかったのは、きっと私たちが頼りないからだろう。どんなに大きなダメージを負っていても、お兄ちゃんには敵わないからだろう。つまりは私たちが弱いからだろう……
「一夏は皆を心配してた。怪我無く明日も普通に過ごせるようにって」
「それで自分は無理してるんだから、やっぱり一夏君はお人よしなんだろうね」
「ですが、私たちにくらいは弱音を吐いてほしかったですね」
「一夏様は誰かに甘えるという事が苦手ですからね。何でも自分一人で解決しようとしてしまうのが一夏様の悪い癖ですしね」
何だか無理に明るく振舞ってるんだと言う事が伝わってくる。そうでもしてないと今にも泣いてしまいそうなのだろう。現に私も泣きたい気分だし……
「とりあえず静寂に電話しとく。部屋に戻ったら急に疲れたって事にしとくね」
明日には分かる事なんだろうけど、とりあえず今日だけはお兄ちゃんの事は知らずに盛り上がって欲しいし……別にお兄ちゃんと二度と会えない訳でもないのだけれども、お兄ちゃんが居るのと居ないのとでは教室で感じる安心感に違いがあるだろうし、姉さんや篠ノ乃たちの暴走を止められる人が居なくなるのは、山田先生には相当なストレスがかかるんだろうな。
「おりむ~が居ないんじゃ、今日の晩御飯は食堂かな?」
「でもそれだと一夏が居ない説明をしなくちゃいけなくなるよ」
「そうなると誰かが作るって事になるけど、私は風邪引いてるから無理よ」
「私も皆さんに食べてもらえるような腕では無いので……」
「碧さんや美紀さん、恐らく部屋に来るであろうナターシャさんは如何です?」
「後で皆纏めてジャンケンで良いんじゃない? お兄ちゃんが居ない以上誰かが作らなきゃいけないんだし」
静寂にはいけなくなったとの旨を伝え、お大事にと言う言葉を貰った。それが私に向けてなのか、はたまたお兄ちゃんに向けてなのかを一瞬考えたが、お兄ちゃんの事は知られて無いんだから私が言われたのだろう。どうもお兄ちゃんの事で物事を深読みし過ぎてるような気がする……
マドカが急に来れなくなった事を不審に思ったが、今はせっかくの勝利の余韻を大切にしたかったので特に詮索はしなかった。この時に詮索してれば後々で驚く事も無かったのかもしれないけど、今の私にはそんな事を思いつきもしなかった。
「マドカが疲れたから来れなくなったって」
「そうなの? 本音も誘ったけど同じように疲れたって」
「まぁあの二人や織斑君は最前線で戦ってたんだし、私たち以上に疲れてても仕方ないよね」
打ち上げと言うか祝勝会には、ウチのクラスだけでは無く上級生や他クラスの生徒も参加しており、最早ただ騒ぎたいだけになって来ている。
「ですから、あそこでシャルロットさんが援護してくれれば私だって活躍出来たんです!」
「僕が護衛したからって、セシリアが活躍したとは思えないけどね」
「何ですって!」
「だってセシリアは敵に囲まれてたじゃん。布仏先輩が助けに来てくれてなければやられてたよ」
「そう言うシャルロットさんだって歩兵に捕まってたじゃないですか!」
「あれはセシリアが僕の邪魔をしたからだろ!」
……なんだか揉めているようだけど、今此処に一夏君や更識先輩のようにカリスマ性の高い人は居ないからな……誰も止めようとしないし、ここは放って置くのが良いだろう。
「私は兄上に迷惑を掛けるしか出来ないのか……」
「そう落ち込むなラウラ、一夏のヤツは迷惑だと思って無いだろうしな」
「だが箒、私は軍人だ。その私が戦場で目を瞑るなどあって良いものか」
「そんな事言ったら、私は武人だが今回の戦闘ではまったく活躍しなかったぞ」
「お前は専用機が無いんだ。先生方が優先的に使ってしまってたんだから仕方ないだろ」
何だかこっちでは慰めあいのような事になってるし……ああもう、一夏君助けて。
「やっほー静寂、一夏が居ないけど呼んで無いの?」
「凰さん? 一夏君なら連絡がつかないのよ。さっきマドカに聞いたらさすがに疲れたからってもう寝てるんだって」
「一夏が? 随分と無茶してたのね」
「しょうがないよ。織斑先生が居なかったんだし、一夏君は最大戦力だしね」
現に一夏君が居なかったら敵の最大戦力は止められなかっただろう。それだけ相手も強力なカードを持っているのだ。
「鈴、あまり食べながらウロウロするのは感心しないぞ」
「相変わらずティナは厳しいわねー。何だか一夏に言われてるみたい」
「久しぶりに会えると思ってたのに、織斑君は不在か…残念ね」
「アンタが一夏の事を気にするなんて珍しいわね。……ハッ! まさかその胸で一夏を誘惑する気かー!」
「胸は関係無いでしょ。そもそも鈴、本気で言ってないわよね?」
「当たり前でしょ! 一夏はそんなもので靡かない事くらい知ってるわよ」
そう言えば凰さんは昔一夏君に告白して振られてるんだっけ……それでも友人であり続けられてるのは凄いわね。
「それじゃあアタシは向こうでワイワイやってるわ」
「うん、それじゃあね」
そう言えば凰さんは一人で戦ってたんだっけ……やっぱり一年の専用機持ちでは凰さんが少し実力的に抜き出てるのかしらね。もちろん一夏君や更識さん、本音にマドカを除いた専用機持ちの中でだけど。
「静寂、お疲れー!」
「エイミィも、結構活躍してたんだってね」
「一夏君のおかげでね。……ところでその一夏君は?」
やっぱり皆一夏君が居ない事を気にしてるわね。それだけ一夏君が周りに影響してるって事なんでしょうけど、それ以外の感情も見え隠れしてるのが良く分かるわね。私も少しそんな気持ちがあるから……
「一夏君ならさすがに疲れたってもう寝てるわよ」
「何で静寂が知ってるの?」
「マドカに電話で聞いたのよ。さっき掛かってきてマドカも部屋についた途端に疲れが出てきたって言って来れなくなっちゃったし」
「そうなんだ……一夏君にお礼を言いたかったんだけどな」
「それなら明日言えば良いじゃない。一夏君とはクラス違うけど何時でも会えるんだから」
エイミィはクラスは違うけど結構ウチのクラスに遊びに来たりしている。織斑先生の授業の後は来ない確率が高いけど、山田先生やナターシャ先生の授業の後は結構高い確率で遊びに来るのだ。
「そうだね、一夏君には何時でも会えるんだし、今はもう少し楽しもうっと」
「そうそう、せっかく亡国企業に勝ったんだから、少しくらい楽しまないと」
「静寂ももう少し楽しそうにした方が良いって!」
「そう? 十分楽しんでるつもりなんだけど」
如何やら私の表情は硬いようで、エイミィはニッコリと笑うように言ってきた。しかし私がそんな笑顔など出来る訳も無く、エイミィは呆れたように肩を竦めて立ち去ってしまった。
「う~ん、如何やら私も一夏君の事は言えないようね」
一夏君も普段から表情が硬かったり笑みが怖いだとか言われてるようだけど、私も同類だったようね。
それにしても、一夏君が疲れたから寝るなんて言うのかな……一夏君なら参加しないにしても他の理由で断ってくるような気がするんだよね……でも、付き合いの長い凰さんが気にしなかったと言う事は、私の考えすぎなのかも知れないわね。
「静寂ーこっちおいでよー!」
「今行く!」
清香たちに呼ばれたので私も一旦一夏君の事は考えないようにして楽しむ事にした。いくら私が考えたところで真相は分からないのだから。
暮桜を守っていた為に、地上が如何なってるのかは正直分かってなかった。一夏君が居るし、他の子もそれなりに実力者が揃ってるから圧勝は無くとも勝っているだろうと思っていた。事実亡国企業は撤退し、事実上生徒たちの勝利と言う結果がもたらされているのだが、私には完全に予想外の出来事が告げられた。
「……それって本当なの?」
一夏君たちの部屋に報告に行ったら、そこに一夏君は居なかった。最初は祝勝会に引っ張っていかれたのかとも思ってたけど、楯無さんから告げられたのはまったく違う真実……
「一夏君は医務室で絶対安静、面会謝絶で会いに行く事も出来ないの」
「一夏君が負けたって事!?」
「負けてない! 負けてないけど、私たちを守る為にかなり無理をしてたの……亡国企業の実力者二人に対して生身で時間を稼いだりとか」
亡国企業の実力者二人、それは恐らく一夏君が気にしていたスコールとオータムってヤツだろう。その二人相手に一夏君は生身で戦ったと言う事なの? その二人は確かISを持っているって言ってたような気がするのだけれど。
「それで、その二人は如何したの?」
「お兄ちゃんが撃退した。と言うよりはお兄ちゃんが優位に見えるようにして撤退させた」
「一時的優位に立つ事で相手を動揺させたのね」
自分が不利だと理解してるからこその行動だったのだろうけど、一夏君がそこまでしなければいけない相手だったなんて……事前に知ってたら私が一夏君と行動を共にしてたのに……
「ナターシャさんの方は、暮桜は大丈夫なんですか?」
「あれ? 私言ったっけ?」
「いえ、一夏さんの推測です。最深部にあるISの反応と、山田先生の動きの迅速っぷりから察したと言ってました」
さすが一夏君……織斑先生に万一の時は頼むと念を押されていたので、山田先生の動きは普段からは考えられないほど迅速だった。しかも私を巻き込んで……
「結局誰一人最深部どころか深部にすら入って来なかったけどね」
「一夏があの二人を食い止めてくれてたから、他の場所の守りが決壊する事も無かったしね」
「碧さんや美紀ちゃんも頑張ってたし」
「……結局私が最深部に居た意味は無かったのね」
それなら私だって地上で暴れたかったわね……最近はこの子を使って戦う機会も減っちゃったし、この子と大空の下を飛びたかったな……
「とりあえず今日だけは一夏君の事は他の生徒には秘密で。せっかく盛り上がってるところに水を差したくないから」
「それは良いけど、結局は明日知る訳でしょ? 今言っても反応は変らないと思うけど」
「それでもだよ。一夏が盛り上がってる相手を落ち込ませるような事を望むとは思わない」
確かにそうかも知れないね……一夏君は何だかんだで優しいし、本当なら一緒に盛り上がってたかもしれない相手だしね。気にするのも当然かもしれない。
「さっき美紀ちゃんにも言っておいたけど、くれぐれも顔に出さないでくださいね」
「確認だけど、一夏君の事は学校側は知ってるんだよね?」
「ええ、学校側の判断で一夏さんを保健室から医務室に移したんですから」
「医務室? そんな場所あったっけ?」
「医務室の存在を知ってるのは限られた人だけ。私も知らないですし」
生徒会長も知らないとなると、それはかなり厳重な場所なんだと勝手に想像する。一夏君なら知ってたのかもしれないけど、やっぱり相当酷い怪我なんだな……
「織斑先生が帰ってきたら何か言われそう……」
「そうですね……絶対に周りに当り散らすでしょうね」
織斑先生の一夏君への溺愛っぷりは常軌を逸しているからな……その一夏君が重症を負ったとなると、一人で亡国企業へ殴りこみに行くかもしれないし……これは私も知らないフリをするしか無いようね。
勘の良い人でもさすがに一夏が負傷したとは思わないでしょうね。