もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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一夏が居ないと話が作りにくい…


努力する本音

 一夏さんもお嬢様も居ない為、体育祭の企画や様々な手続きは進められません。その所為で生徒会の仕事は溜まる一方です。

 

「おね~ちゃんが一人でやる訳にはいかないの~?」

 

「あのね本音、この量を一人でやろうとするとどれだけかかると思ってるの」

 

 

 さすがの私でも二,三日は徹夜しても終わらないくらいの量じゃないかと思うんですけど。

 

「お姉ちゃんの風邪も良くならないし、一夏の方は容態すら分からないしね」

 

「私が聞いただけでは一夏様が嘘を言ってる可能性もありますからね。それでなくても一夏様は自分の事を二の次にしますから」

 

「それじゃあ出来るものだけやれば~?」

 

「そのつもりですが、もちろん本音にも手伝ってもらいますからね」

 

 

 逃げ出そうとしていた本音の肩をガッシリと掴み、不敵な笑みを浮かべる。何だか悪役のような気分ですが、本来生徒会役員である本音に仕事をさせるのは当然なのです。

 

「私も手伝います」

 

「私も。一夏様に指示を仰げばある程度は役に立つと思いますよ」

 

 

 簪お嬢様や須佐乃男が手伝ってくれるのならば、普通の作業は終わりそうですね。

 

「それで本音、貴女も当然やってくれるわよね?」

 

「ふえ~……逃げようにも逃げられないじゃ~ん! 私が手伝ったところで大した戦力にはならないからね~」

 

「居ないよりはマシでしょうし、貴女は普段から一夏さんに押し付けすぎなんです! 少しは自分で作業する癖をつけなさい!」

 

「何だかおね~ちゃんがお母さんみたいだ~…」

 

 

 何回か言われてますが、本音と私は二つしか違わないんですから、お母さんは無いと思うんですけど。それとも私が老けているとでも言いたいのでしょうか?

 

「それで一夏様がお父さんですか? ですが一夏様は母親のように感じる時の方が多いと思うのですが」

 

「確かに……一夏はそこら辺のお母さんよりお母さんしてるし、でもお父さんだって感じる時も多いよ」

 

「おりむ~はどっちも感じさせてくれるからね~」

 

「……一夏さんの苦労が窺えますよね」

 

 

 前にマドカさんが冗談で言ってた事ですが、父親と母親の仕事を両方こなすのは大変でしょうね。

 

「兎に角、私は貴女の母親では無いんですからね」

 

「わかってるよ~! お母さんはお家に居るし、おね~ちゃんはおね~ちゃんだもんね」

 

「虚様、そろそろ始めないと終わらないかもしれませんよ」

 

「……確かにそうですね。普段なら一夏さんが居てくれますし、お嬢様も何だかんだで優秀ですからね。これくらい時間を使っても焦らないのですが、今日はそう言う訳にもいきませんしね。簪お嬢様や須佐乃男は兎も角として、本音がどれほど出来るか分かりませんし」

 

 

 前に手伝ってもらった時に簪お嬢様と須佐乃男の作業スピードはある程度見ましたが、あの時の本音は半分以上寝てましたし、それでなくても遅いですしね……

 

「大丈夫だよおね~ちゃん! いざとなったらおりむ~のところに仕事を持っていけば良いんだから!」

 

「如何やってです?」

 

「如何って、普通に持っていけば良いだけでしょ~?」

 

「それじゃあ貴女は医務室が何処にあるか知ってると言うんですね?」

 

「……あっ! そうだった……」

 

 

 肝心な事を忘れていたようで、本音はもの凄くガックリした。恐らく名案だと思ってたのでしょうね……ですが、それじゃあ結局一夏さん頼みになってしまうんですよ。

 

「そう言えば須佐乃男、一夏に指示を仰ぐって言ってたけど」

 

「はい、一応念話で聞けますから」

 

「でも書類の文面を見なきゃ一夏でも判断出来ないんじゃない?」

 

「大丈夫ですよ。見たものを一夏様の脳に直接見せる事も出来ますから」

 

「そうなんですか?」

 

 

 前は会話だけだったような気がしてたのですが、何時の間にそんな事が出来るようになったのでしょうか。

 

「この前試しにやってみたら出来たんですよ。如何やら一夏様からでも出来るようですが、一夏様からは滅多にやってこないでしょうけどね」

 

「何で?」

 

「一夏様が私に聞くなんて事がそもそも無いからですよ。精々何が食べたいとかそんな事ですし、メニューは一夏様が考えてくれてますから私はその中から選ぶだけでしたし」

 

「織斑家で生活してた時だね~。でもおりむ~に何食べたいなんて聞かれるなんて羨ましいな~」

 

 

 確かに、何時も一夏さんは自分で献立を決めて作ってしまいますし、それでもちゃんと私たちの苦手なものは避けてくれてるので良いのですが、やはり聞かれてみたい事ではありますね。

 

「それじゃあ私の担当はこれだけですね。早速一夏様に情報を送ってと……」

 

「おね~ちゃん、須佐乃男だって結局はおりむ~に任せてると思うんだけど~」

 

「須佐乃男個人の分が終わったら本音の分を見てもらうから問題無いです。それと本音、何時までも文句言ってないで始めてください」

 

 

 簪お嬢様はとっくに作業を開始してますし、須佐乃男も一夏さんからの返答があるまでは自力でやってくれてますのに、本音は未だに始めようとはしてません。少しは努力を覚えてくれても良いと思うんですがね……

 

「おね~ちゃんだってやってないじゃんか~!」

 

「私は普段からやってるのである程度の時間で終わりますから」

 

 

 それでも相当な量を担当するので、そろそろ私も作業を始めないといけませんね。

 

「マドカさんにお嬢様の看病を頼んだのは良いですが、それでもやっぱり心配ではありますし、皆さん早めに終わらせますよ」

 

 

 マドカさんは身体は丈夫ですが、家事スキルは私と大して変りませんし、看病が得意とはお世辞にも言えないですしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の隣にはマドカちゃんが座っている。ジャンケンで負けたのか、それとも生徒会の仕事に不向きだったのかは分からないけど、マドカちゃんが私の看病をしてくれているのだ。とは言ってもタオルを絞ってくれるとか、一夏君が作り置きしてくれてたおかゆを温めなおしてくれるとかだけれどもね。

 

「お兄ちゃんって本当に何でも出来るんだね」

 

「ん~? 如何したのいきなり」

 

「だって、このおかゆって昨日の朝作ったんですよね? それをちゃんと保存しておいて置くなんて、自分に何か起こるって予言してたみたいじゃないですか」

 

「単純に面倒だから纏めて作ったって思わないの?」

 

「だってお兄ちゃんは毎回ちゃんと作ってくれてますよ?」

 

 

 そう言われればそうね……一夏君は毎回ちゃんと新たに作ってくれるのに、おかゆだけは何故か作り置き……亡国企業が攻め込んできたから気にしてなかったけど、何でおかゆだけはこんなに作ったんだろう。

 

「一夏君に予知能力は無いと思うんだけど……」

 

「それは無いですね。さすがにそこまでいくと完全に人知を超えてますし」

 

 

 既に超えてるとは思うけど、確かにそこまではありえないわよね……

 

「マドカちゃんは、織斑先生とは如何なったの?」

 

「何ですいきなり」

 

「いや、単純に気になったから」

 

 

 入学当初は色々あって仲悪かったけど、今では普通に会話するようにはなってるし、そこから何か進展があったのかが気になったのだ。

 

「何も無いですよ。普通に会話したりは出来ますけど、一緒に暮らすのは無理ですね」

 

「何で?」

 

「だって姉さんも私も家事が出来ませんし……お兄ちゃんが一緒なら良いですけど、楯無さんや簪たちと一緒が良いって言うでしょうしね」

 

「確かに一夏君は織斑先生と一緒に生活するのは嫌がるだろうね」

 

 

 血の繋がりがあると思ってた時はしょうがなかったのだろうけど、今となっては織斑先生は家族であっても姉では無いのだ。その証拠に一夏君は織斑先生の事を「あの人」とか「駄姉」としか呼ばなくなったのだ。

 

「お兄ちゃんレベルの家事スキルがある人が一緒なら姉さんと一緒に生活しても良いですけど、どっちもダメな二人が同居したら、半日でゴミ屋敷になりますよきっと」

 

「半日はさすがに言い過ぎじゃない?」

 

 

 織斑先生だって気をつけるだろうし、マドカちゃんだってそれ程散らかす人では無いのだし。

 

「箍が外れた姉さんを止められる自信がありませんし、恐らく私も姉さんにつられて散らかすでしょうしね」

 

「……一夏君が気にしてたのを思い出したわ」

 

 

 夏休み前、何回か一夏君が織斑家に戻らない日があったのだけれども、その週は必ずと言って良いほど織斑家が散らかってたらしいのだ。翌週に一夏君にお説教された織斑先生が更識の屋敷に泣きに来た事があったのを今思い出した。

 

「だから姉さんと二人きりで生活するなんて事はありえないですね」

 

「言いきれるほどダメなんだね……」

 

 

 そう言えばこの前ラウラちゃんが寮長室を見てショックを受けてたっけ……それほど織斑先生が生活する空間は汚れるのが早いのだろう。

 

「それじゃあマドカちゃんは一夏君の事が如何して大好きなの? いくら長年離れてたからって、あそこまでベッタリにはならないと思うのよね」

 

 

 それに加えて一夏君とマドカちゃんも義兄妹だ。普通の兄妹よりかは仲良くでもおかしくは無いのだろうけど、それもきっかけ次第だろう。昔から兄妹として育てられてたのなら兎も角、長年離れていた義兄妹がこれほど仲良しなのも不思議だと思うのよね。

 

「お兄ちゃんは私の事を覚えてなかった。でもお兄ちゃんは私の事を妹として扱ってくれる。これだけでも嬉しい事だと思うんですけど、それ以上にお兄ちゃんは私と姉さんの仲を取り持ってくれましたし、稽古や寝食の世話だってしてくれてますからね。ずっと離れてても見てましたし、実際のお兄ちゃんは想像の中以上に優しかったのでベッタリになってるんです」

 

 

 想像って……まぁ昔に離れ離れになった大好きなお兄ちゃんが自分の事を覚えて無くても優しく接してくれたらベッタリになってもおかしくは無いのかな。でもちょっと行きすぎなほど甘えてるようにも思えるから、彼女の立場からするとちょっと……いや、かなり羨ましく疎ましい存在なんだよね。でもそんな事を思う以上にマドカちゃんは私たちと仲良くなってるから良いんだけど。

 

「それじゃあ逆に、楯無さんは何でお兄ちゃんの事が大好きなんですか? 普通の彼女って何股もされたら怒ると思うんですが」

 

「それは私たちが認めてお願いした事だからね。それと私が一夏君の事が大好きな理由は色々あってこの体調では話しきれないかもしれないから今度ね」

 

 

 さすがに疲れてきたし、喉も痛くなってきたのだ。

 

「何だかズルく無いですか? 私だけお兄ちゃんへの気持ちをしゃべったのに、楯無さんは今度なんて」

 

「しょうがないでしょ……ゴホゴホ」

 

「……まぁその体調で無理させたら、お兄ちゃんが帰ってきた時に私が怒られるから良いですけど、その代わり絶対に聞かせてくださいよ」

 

「分かってる。その時は一夏君の彼女全員を集めて聞かせてあげるからね……ゴホゴホ」

 

 

 長い間おしゃべりしてた所為なのかは分からないけど、何だかまた咳きが酷くなってきたような気がする……一夏君が看病してくれればすぐにでも治るのに、これも「病は気から」なのかな? 意識すれば大丈夫なように、ダメだと思うからダメなのかな? でも一夏君は私以上に重体だし、私も何とか自力で治さないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏様に指示を仰ぎながらの作業でしたが、何とか終わらせる事が出来ました。しかしその後には本音様の手伝いをしなければいけないのでもの凄い憂鬱です。

 

「(ISが憂鬱になるなよな)」

 

「(人の思考を読まないでくださいよ)」

 

「(何だよ、手伝ってやろうかと思ってたが、そう言う態度をとるなら手伝わなくて良いんだな?)」

 

「(さすが一夏様! 素敵です!)」

 

「(……変わり身の早いヤツ)」

 

 

 だって一夏様が手伝ってくれるのなら通常の何倍も早く終わりますし……それでなくても本音様の作業スピードはもの凄く遅いんですから、私に掛かる負担を考えると変わり身くらい早くなりますって。

 

「(暇だから別に良いんだが、これって結局俺の負担になってるんじゃないか?)」

 

「(細かい事は気にしないのが快適な気分を保つ秘訣ですよ、一夏様)」

 

 

 とりあえず本音様から半分くらいの書類を受け取り、一夏様にその情報を送る。私個人では出来る範囲に限りがあるのですが、一夏様に指示を仰ぐ事によって私も一夏様並に作業が出来るようになるのです! まぁ、作業スピードは一夏様の足元にも及ばないのですがね。

 

「(ぼやぼや言ってないでさっさと始めろ。指示が滞ってるだろ)」

 

「(一夏様の処理速度にあわせてたら私が故障してしまいますよ! 少しはペースを落としてください!)」

 

 

 指示を貰ったからと言って、実際に作業するのは私なのですから、やはり速度は一夏様と比べると格段に落ちてしまうのです。

 

「(それは分かってるから速度を落としてるだろうが)」

 

「(……これで落としてるんですか?)」

 

「(ああ、普段の半分って所じゃないか?)」

 

 

 どれだけ化け物染みてるでしょうか、この人は……一夏様の指示を受けながらも作業を終わらせ、虚様に提出すると、虚様はあれだけあった量を既に終わらせていました。

 

「一夏様もですけど、虚様も作業スピード速いですね……」

 

「そうですか? 私は一夏さんより遅いのですが」

 

「一夏様が異常に早いだけですよ。虚様も十分早いです」

 

 

 大体指示を出す速度も早いのだ。一夏様自身が作業していたら私の半分の時間も必要ないくらいだったんでしょうね。

 

「それじゃあ後は本音が終われば帰れますね」

 

「簪様も終わってるんですね」

 

「うん。でも私は本音の分を手伝ってないから、須佐乃男の方が仕事してるよ」

 

「私のバックアップは強大ですからね。簪様は一人で作業してたのですから、やはり私なんかより凄いですよ」

 

 

 簪様は私が一夏様の指示を受けて作業して居た事を知っているので、これ以上の謙遜はしてきませんでした。それにしても本音様、私たちの半分も無いのにまだ終わらないんですか……

 

「本音、早く終わらせないと暗くなってきちゃうよ」

 

「だって~! こんなにあるんだよ~!」

 

「私たちはそれの倍はやったし、虚さんは更にその倍くらいの量を終わらせてるんだよ?」

 

「出来る人と比べないでよ~! カスミンやカルカルならまだ終わってないよ、きっと」

 

「あのお二人は関係無いですよね」

 

 

 確かにあのお二人こう言った作業が苦手そうですが、それでも本音様よりかは出来ると思うのですが……

 

「人が如何こうより、まず自分の事を如何にかしなさい」

 

「ふえ~ん! おね~ちゃんが苛める~!」

 

「苛めてません! そもそも貴女の仕事なんですから真面目にしなさい!」

 

 

 普段からサボってる本音様は、作業する事自体が嫌なのでしょうね。そうじゃなきゃ毎日サボるなんてありえませんし……

 

「そもそも何故本音様が生徒会役員なのでしょう?」

 

「確かに……気が付いた時にはもうなってたし」

 

「それは私が少しでも真面目にさせようと思って入れたのですが、入る前以上に怠け者になってしまって……」

 

 

 それは多分一夏様と虚様が優秀過ぎたからだと思いますよ……本来本音様に回るはずだった仕事も、一夏様と虚様が終わらせてしまったから本音様は怠け放題になってしまったんだと私は思いました。だって楯無様も仕事してない事が多いですし、それ以上に本音様が怠けてしまうのは仕方ないと思います。

 

「兎に角後少しなんですから頑張ってください」

 

「無理だよー! 全然少しじゃないもん!」

 

 

 確かに後数十枚はありそうですね。虚様にとっては少しでも本音様には大量に思えても不思議ではありませんね。

 

「じゃあ後これだけやって下さい。後は私がやりますから」

 

「うん、おね~ちゃんありがとう」

 

「お礼は終わってから言ってください」

 

 

 そう言って虚様はもの凄いスピードで残っていた書類の処理を終わらせたのですが、本音様はまだ終わってません。

 

「本音、虚さんの方が多かったと思うんだけど?」

 

「これでも頑張ってるんだよ~! かんちゃんだって分かるでしょ~?」

 

「分かるけど、それでも驚きは隠せないよね……」

 

 

 確かにそうですね。虚様が引き受けた量は本音様の倍以上はあった気がするのですが、虚様が終わって本音様がまだと言うのはさすがに……

 

「こうなったらいい加減でも良いから終わらせるぞ~!」

 

「いい加減では困ります! ちゃんとやってください!」

 

「わ、分かってるよおね~ちゃん……ちょっとした冗談だからそんなに怒らないでよ~」

 

 

 虚様に怒られて本音様はたじろぎましたが、それで漸く決心が付いたのか残っていた書類の処理に取り掛かりました。

 

「終わった~!」

 

「お疲れ様です。それではこれから部屋に戻って誰が夕食の準備をするのか決めましょうか」

 

「……食堂で良いんじゃない? だって今から作ったら何時になるか……」

 

 

 簪様が時計を指差し、私たちは簪様の意見に賛成する事にしました。一夏様のスピードがあるなら兎も角、今から作り始めたら消灯時間に漸く片付けが出来るくらいになってしまいそうですしね……改めて一夏様の凄さが分かったのと同時に、私たちって一夏様に頼りすぎだったのだと実感させられました……

 

「(そう思うのならもう少し敬ってほしいがな)」

 

「(また思考を! ……ですが、確かに凄いですよ、一夏様)」

 

 

 素直に一夏様を褒め、私はカックリと肩を落としたのだった。




努力しても本音はダメな子でした……
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