一夏様の仕事の手伝い、結局は刀奈おねえちゃんの看病だったんだけど、それをしたおかげで一夏様が作ってくれたご飯を食べる事が出来た。
「そう言えば一夏は? 帰って来てないけど食べちゃって良かったのかな?」
「良いんじゃない? おりむ~は自分で作ったものをあまり食べないから~」
「そうなの? 一夏君って作るだけなんだ」
「お兄ちゃんは色々と忙しいからね。ゆっくり食べられる時間が無い時はパンで済ませてる時が多いかな」
「そうなんだ……一夏君ってそんな食生活だったんだ……」
「香澄、呼びなれないのなら苗字で呼べば良いじゃない。さっきまでは『織斑君』って呼んでたんだから」
「でも、私の事を名前で呼んでくれてるし……」
一夏様は基本的に仲良くなった相手の事は名前で呼ぶようですが、私の場合は仲良くなったと言うよりかは部下だからと言った感じが強いですかね。
「何だかいい匂いね」
「小鳥遊隊長」
隊長が部屋に入ってきたので、思わず立ち上がって挨拶をする。ここは更識の屋敷では無いからしなくてもいいと言われてるのだが、身体に染み込んでいる習慣と言うのは中々抜けないのだ。
「私も貰っていいかしら?」
「どうぞ、まだ沢山ありますし」
「それじゃあ頂きますね」
「美味しいけど、やっぱりおりむ~が全部やったカレーの方が美味しいね」
「仕方ないですよ。一夏様が作り始めたのは皆さんが来る少し前なんですから。炒めて煮込んでは出来てましたけど、それより後は私と本音様がやったんですからね」
「おりむ~が作る時のスパイスの分量とか分からなかったからね~」
一夏様ってカレーも一から手作り出来るんですね……なかなか凝ってるわね。
「そう言えばお嬢様、体調は良いんですか?」
「まだ良く無いかな……一夏君が血液検査してくれてるから」
「風邪じゃないんですか?」
「私も良く分かってないんだけど、一夏君がウイルスの可能性があるって言うから……」
「随分と物騒ですね。IS学園の生徒会長にウイルス攻撃ですか?」
刀奈お姉ちゃんと虚さんの会話が気になったのか、静寂が割り込んだ。かなり不穏な会話だったから仕方ないとは思う……
「一夏君が言うにはその可能性があるって言ってたよ。何でも自由国籍を使ってロシアの代表になった私を面白く思って無い人が居るかもしれないからって」
「それは個人の自由なんですけどね。それにお嬢様が自由国籍を使ってロシアの代表になったのは大分前の話ですよね?」
「代表になったのは中三の時だけど、それより前からロシア国籍でやってたからね」
刀奈お姉ちゃんは日本でやってても代表にはなれただろうけど、何でロシアで代表をやってるんだろう……
「ところで虚ちゃん」
「何でしょうか?」
「カレーが無くなりそうなんだけど?」
「はい? ……ちょっと皆さん! 一夏さんの分を取っておかなければ!」
虚さんが慌てて止めに入ったが、すでにお鍋の中身は空っぽだった……ついつい食べ過ぎちゃうんだよね、カレーって……
「如何しましょう」
「もう一度作る~?」
「材料もありませんし、何よりルウがありませんよ」
「じゃあ如何するの~? おりむ~に怒られるよ?」
「本音が食べ過ぎたんでしょうが!」
確かに、本音ちゃんはあれが五杯目だ。明らかに食べすぎなような気がするのだが、あれだけ食べても太らないって羨ましいわね……
「マドマドやかんちゃんだっていっぱい食べてるよ~!」
「私は二杯しか食べて無いよ!」
「私だってこれが三杯目だ!」
「……マドカさん、良く入りますね」
「前の授業が大変だったからです! 普段はこんなに食べてませんよ」
「それは知ってますが……」
マドカさんの小さな身体にカレーが三杯も入るのは確かに驚きだ。そう言えばこの部屋に居る全員が二杯以上食べているって事だよね? 皆随分とお腹が減ってたんだね……私もだけど。
「一夏様の気配!? 如何します?」
「素直に謝るしか無いですよ……」
「おね~ちゃんだって食べたんだから、一緒に謝るんだよ?」
「私は一杯しか食べて無いです」
「でも食べたんだから」
いや本音ちゃん、お昼ご飯なんだから虚さんが食べてもおかしくは無いでしょ。むしろおかしいのは私や香澄、静寂なんだから……
「ただいま」
「一夏さん、スミマセン」
「……何?」
「カレー、全部食べちゃった~」
「全部? 本音が一人でか?」
いや一夏様、それはいくらなんでもありえないよ……多分一夏様も分かってて言ってるんだろうから、心の中でツッコミを入れておいた。
「皆で食べたら無くなっちゃった」
「ああ、随分と腹減ってそうだったしな。別に食べてくれる分には構わないんだが」
「でも、一夏の分が残って無いんだよ?」
「気にするな。どうせ食べるつもり無かったし」
「……そうなの? 一夏君っていっつも食べて無いけど大丈夫なの?」
部屋や私の見てないところで食べてはいるんだろうけど、それでも一夏様は食べなさ過ぎな気がする。
「心配してくれて如何も。でも大丈夫だ」
「一夏様、職員室に行くだけなのに大分時間が経ってますが、何処か行って来たんですか?」
「ん? ああ、食堂で軽く摘めるものを買ってきた」
そう言って一夏様は腕にある武装から食堂で買ってきたものを取り出した。あれくらいなら普通に持ってても負担にはならなそうなんだけど……
「足りなかったら食べて良いぞ」
「でも、一夏君のお昼が……」
「ロクに動いてないし、香澄が気にする事じゃ無いぞ」
一夏様はさっき言ったように香澄の事を名前で呼び捨てにした。香澄の方も詰まりそうになりながらも一夏君と呼んだ。
「それで、悪いんだがこれから生徒会の仕事があるから食べ終わったら部屋から出て行ってくれるか?」
「本音は残ってくれても構わないけど?」
「……それじゃあ何処で遊ぼうか?」
本音ちゃんは虚さんと一夏様に同時に視線を向けられて気まずそうに視線を逸らした。生徒会役員なんだから、もう少し働いた方が良いんじゃないかな……
「一夏君、片付けくらいはやってくよ」
「そうか? 悪いな、静寂」
「ご馳走になったのは私なんだから、お礼を言うのも私だと思うけど?」
「そんなもんか? 何時も作って片付けるだけだから気にしなくて良いんだが」
一夏様がそう言うと、この部屋で生活してる皆さんが気まずそうに一夏様から視線を逸らした。そう言えばこの部屋の家事の一切は一夏様がやってるんでしたっけ……
「それでも私は部外者なんだから、この部屋のルールには縛られないでしょ?」
「別に縛っては無いんだが……まぁ、洗ってくれるのなら助かる」
「わ、私も手伝う!」
「おう、ありがとな香澄」
一夏様がマドカさんやラウラさんに向けるような笑みを香澄に向ける。要するに香澄も妹ポジションなんだろうな……そうなると私のポジションは何処になるんだろう?
「美紀ちゃん、午後は体育館で軽く運動してから見回りだからね」
「分かりました」
隊長と二人だけど、この前の戦闘で私に何が足りないのかはっきりと隊長が分かったようで、今日からその足りない部分を補う為にトレーニングを始めるのだ。
「碧、今日はアリーナ使えないぞ?」
「分かってます。ですから今日はISを使わないトレーニングをするつもりです」
「まぁ、アリーナが使えても美紀のISはまだ直ってないがな」
私のISは一夏様が高度なチューンナップをした為に普通の整備士では手に負えなくなってしまっているのです。虚さんが辛うじて調整出来るレベルなので、この学園にはそれ以外に整備出来る人は存在しないのです。
「おりむ~はまだ安静にしてなきゃいけないんでしょ~? だったら当分は美紀ちゃんはISが無い状況なんだね~」
「仕方ないよ本音ちゃん、一夏様が整備してくれないとあの子も機嫌が悪くなっちゃうから」
私にISのコアの声を聞く事なんて出来ないけど、一夏様が整備して下さった後と、虚さんが整備してくれた後ではちょっとISの機嫌が違うのだ。上手く表現出来ないけど、何だか一夏様に整備してもらうと嬉しそうなんだよね。
「そんなに違うか?」
「やっぱりあの子も一夏様の事が好きな様ですよ」
「そうか……それじゃあやっぱりなるべく俺が整備する事にしよう」
「お願いします」
元々あの子のコアは一夏様が政府に掛け合って手に入れたものですし、本来なら訓練機としての能力しか出せない量産型なのですが、一夏様が手入れをする事によってコア本来の能力を発揮できるようになってるのですから。
「そうなるとエイミィのも俺が整備するしかなくなるのか……仕方ないな」
「一夏様はISのコアにモテますからね」
「その最たるが言うな」
「あれ? 須佐乃男も専用機用のコアじゃ無いんですか?」
私がした質問に静寂や香澄も頷く。如何やら知らないのは私だけではなかったらしい。
「元々は亡国企業が使い捨てに使用してたISのコアが俺に反応したのが始まりだからな。須佐乃男はその使い捨てられたISのコアを使用して作られた俺専用の機体だからな。コア自体は量産型だ」
「ですから無所属の一夏様が専用機を持っていても誰も文句を言えないんですよ」
「コア数の問題には触れないからな。その代わり虚や本音の専用機は駄ウサギを利用したから問題になり兼ねないんだが、そこは大天災が何とかしてくれたし」
「束様が脅したんですよね?」
「まぁそんなところだ」
はぐらかされましたが、篠ノ乃博士が何をしたのかがもの凄く気になるんですが……しかし一夏様はこれ以上話してくださらないようで、私は続きを聞くのを諦めた。
「ナターシャ先生の問題も一夏様と千冬様が片付けましたしね」
「あれはアメリカ政府にお願いしただけだ」
一夏様のお願いに力が入っていたような気がしましたが、これは触れない方が良さそうなので流します。
「さてと、それじゃあ片付けを静寂と香澄に任せるとして、虚は生徒会から仕事に必要なものを持ってきてくれ。本音もそれくらいは手伝えよ」
「……アハハ、バレちゃった」
忍び足で部屋から逃げ出そうとしていた本音ちゃんに声を掛ける事で本音ちゃんの動きを止める一夏様、さすがですね。
「俺が動ければ俺が運ぶんだが……」
「一夏さんはまだ重たいものを運べませんしね」
「いや、これに入れれば大丈夫だが」
「それでも生徒会室までは階段の上り下りがありますし、今日は止めておいた方が良いと思いますよ」
なるほど、それでさっき購買で買ってきたものもあそこにしまっていたんですか……なるべく身体にかかる負荷を減らすために。
「それじゃあ本音、行きますよ」
「は~い……」
「私も手伝いますよ」
荷物運びなら手伝えるだろうと思ったのか、須佐乃男も生徒会室へ向かって行った。
「それじゃあ美紀ちゃん、私たちはお暇しようか」
「そうですね。それじゃあ一夏様、ご馳走様でした」
一夏様にお礼を言って私は小鳥遊隊長と一緒に部屋から出る。食後にすぐ激しい運動は良く無い為見回りの前は軽い運動で済ませるようです。さすがは隊長、良く考えてらっしゃる。
「ねえ美紀ちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「体育館ってどっちだっけ?」
「………」
この方向音痴だけは如何にかならないのでしょうか……
部屋に一夏君と虚ちゃんと私の三人だけになって、さっきまで流れていたほのぼのした空気は消え去ってしまった。今この部屋に流れているのはもの凄く真面目な空気だけだ。
「それで、結局競技は如何するんだ? 的当てで良いのか?」
「そっちの方が予算的にも負担は減りますし良いんですが、盛り上がりに欠けると思うんですよね」
「だから他ので盛り上げるんでしょ? 一夏君に解説をしてもらえばバッチリ盛り上がるわよ」
私の発言に二人の白い目が突き刺さる……正直怖いんだよね、この視線。
「IS学園の体育祭なんだから、ISを使って盛り上げるのが普通なんじゃないのか?」
「ですが、例の襲撃で補修とか色々と予算がかさみますし、やはりお嬢様が提案したように的当ての方が良いんじゃないでしょうか」
「そこなんだよな……アイツらも面倒な時期に攻め込んできたもんだ」
一夏君は腕組みしながら予算表とにらめっこを始めた。学園全体の予算はさすがに生徒会の管轄では無いんだけど、一夏君は学長から全幅の信頼を置かれてる為にこう言ったものも手に入れられるのだ。
「修繕費に相当かかってるな……」
「全てのISを一夏君が整備するなら予算が浮くんだけどね~」
「今の一夏さんにそこまで負担を掛けられませんよ」
「そうだな、精々二日で一機が限界だ」
それでも十分早いのだが、何せ学園にあるISは一夏君が交渉してくれたおかげで倍以上に増えているのだ。それを全て一夏君が整備するとなると……私たちとデートする時間が無くなるだけじゃ済まないのだ。
「簡易メンテナンスじゃないしね、フルチェックだと業者に頼んでも結構かかるし」
「予算も時間もかかりますけど、やはり出来るものは全て業者に頼みましょう」
「とりあえず最低限は今日の整備で使えるようにはなるが、それでも後でまたメンテナンスしてもらわなきゃ駄目だしな」
授業で使う分だけは今日中に整備してもらえるらしいのだが、それだけでも相当なお金が掛かる。訓練機自体は国から借りているからお金が掛からないのだが、整備やフルチェックなどのお金は何で学園持ちなんだろうな……
「一夏君、全快までどれくらいかかりそう?」
「さぁな。それは分からない」
「当分は一夏さんには無茶はさせられませんし、整備科全員で訓練機の整備をしましょうか?」
「それでも時間はかかっちゃうし、整備科の子達だって用事とかあるでしょ?」
実習でやってもらうにしても、スタートが壊れてる状態じゃ直すに直せないだろうし……一夏君がやっちゃったように、簡単に出来ちゃう様な事じゃないんだよね、ISの整備って。
「それではやはり体育祭での競技は的当てですかね」
「そうなると、後は刀奈が考えたふざけた競技になる訳だが……生徒が納得するかね」
「一夏君に見てもらえるって分かれば納得するわよ!」
私の根拠の無い自信にまたしても二人の白い目が突き刺さる……体調が悪い時にこの視線は堪えるわね……
「生着替えコスプレ借り物競争や水着での障害物競走……寒くないか?」
「体育祭は十一月ですしね」
「大丈夫でしょ。此処の子達は皆それなりに鍛えてるんだから」
「俺は参加しなくて良いならそれでも良いが、虚は大丈夫か?」
「私は……なるべく露出の少ない競技に出ますので」
「それが賢明だろうが、虚ってクラス代表だろ? 貧乏くじ掴まされるんじゃないか?」
「嫌な事言わないでくださいよ!」
……そうなると私や簪ちゃんも可能性がある訳で、自分で発案しておいてあれだけど、何だか不安しか無いわね。
「国家代表と企業代表はIS競技に参加するんだし、大丈夫じゃないかな?」
「……候補生の簪に怨まれる可能性がある訳だが」
「……簪ちゃんならきっと大丈夫よ」
「そうですね……簪お嬢様の実力なら的当てに参加した方が得点を稼げるって思ってもらえますよね」
元々簪ちゃんはIS以外の運動は体力的に苦手だしね……出来るんだけど持久力が無いんだよね。
「それじゃあ競技は大体そんなもんかな。後は細々とした事を決めれば終わりか」
「体育祭についてはですけどね」
「そうか、他の仕事もあるんだっけ……」
昨日簪ちゃんたちが手伝ってくれたらしいのだけど、それでもまだ沢山仕事があるのだ。一夏君と虚ちゃんの二人が何時もやってくれてるから分からなかったけど、生徒会って大変なんだって簪ちゃんたちが口を揃えて言ってたっけ……私も偶にしかやらないからね。大変だとは知ってるけど実感はしたくなかったなぁ……
「それじゃあ細部の取り決めは刀奈に任せるとして、俺と虚は本来の生徒会の業務を済ませるか」
「お嬢様、決してふざけないでくださいよ?」
「分かってるわよ。私にも関係してくるんだし、ふざけて怒られるのは嫌だからね」
体調が万全では無い状況で、おふざけして二人の長々としたお説教は聞きたく無いのだ。精神的にもダメージを負うので、聞かされた以上に疲れるから……
「それじゃあ刀奈に任せるから」
「お願いしますね」
二人に念押しをされ、体育祭の細部の取り決めをしていく。途中でチラリと二人の姿を見ると、私が任された以上に仕事をもの凄い速さで終わらせていた。
「うわぁ……」
思わず漏れてしまった声にも反応しない集中力、やっぱりこの二人は凄いんだと改めて思った。
「更識の仕事もだけど、生徒会にも一夏君と虚ちゃんが居てくれないとね」
絶対に私だけじゃ終わらせられないし、本音や簪ちゃんが手伝ってくれたとしてもこれほど早くは終わらないだろうしね。
「さてと、私も終わらせないとね」
二人が終わってるのに私だけ終わってないなんて惨めな思いはしたく無いし……って、かなりそんな思いはしてきたんだけど……とりあえず部屋で作業してるから二人に置いてかれるって事は無いんだけど、何となく疎外感は感じるから頑張らなきゃ!
次回、シャルの処罰を出来たら良いな……