今日から一夏様が授業に復帰すると思うと、クラス中が浮かれてるような気がする。もちろん私も会えるのが楽しみだし、一夏様が居れば授業中に分からなかった事を直接尋ねる事が出来るのだ。
「おはよう、何だか美紀浮かれてない?」
「そんな事ないよ? 静寂こそ何時もより早くない?」
「今日は偶々。最近妙に早く目が覚めるのよね……篠ノ乃さんが早いからかしら?」
それが原因なら入学からずっと早くなければおかしいのだけれども、そのツッコミはしないでおいた。小鳥遊隊長が見た限りでは、篠ノ乃さんは最近以前よりも早く起きていると聞いたので、静寂が早起きになった理由としては一応筋は通っているのだから。
「美紀だけじゃなくってクラス中が浮かれてるような気がするけど、何かあるの?」
「あるとすれば一夏様が復帰なさる事でしょうけど、それだけで此処まで浮かれるとは思えないんだよね」
大体の理由は一夏様なんだろうけども、何かそれ以外の理由もありそうな気がしてならないのだ。それが何かは全然分からないのだけれども……
「そう言えばあの噂聞いた?」
「噂?」
「デュノアさんがまた織斑先生の逆鱗に触れて何処かに閉じ込められたって噂」
「また?」
以前にもそんな事があったのだろうか……私はまだこの学園に通うようになって日が浅いので前の話はさっぱりなのだが……
「そっか、美紀はまだ居なかったんだっけ……前にもデュノアさんは織斑先生の逆鱗に触れて閉じ込められる事になったんだけど、その時は織斑先生と山田先生も一緒だったって噂なんだけどね」
「何故閉じ込めた側である織斑先生と、山田先生までもが閉じ込められたの?」
「これもはっきりと分かってる訳じゃ無いんだけれどもね、如何やら一夏君に激怒されたらしくってそのままそこの空間に閉じ込められたんだって」
「一夏様を激怒させたの? それは凄い事を仕出かしたんだろうね」
一夏様は基本温和な方ですし、怒ったとしてもそれは私たちが何かやらかしたり言う事を聞かなかった時に、子供を注意するような怒り方をなさる方だ。その一夏様が激怒したとなると、よほどの事を仕出かさない限り説明がつかないと思うんだよね……
「一夏君は寝てる所を邪魔されると怒るって前に自分で言ってたけど、さすがにそんな場所で一夏君が寝てたとは思えないし、ホント何したんだろうね」
「寝てる所を? 一夏様が寝てる所なんて滅多に見られないと思うんだけど……」
刀奈お姉ちゃんや簪ちゃんもあまり見たことが無いと言っていたし、虚さんですら数えるほどだと言っていた。誰よりも遅くまで起きていて、誰よりも早く起きている一夏様の寝てる所を襲撃出来るような人は居るのだろうか……
「前に一夏君の部屋に忍び込もうとして怒られてた人が居るんだけどね」
「誰? そんな自殺行為をした人は」
部屋に忍び込もうって、あの部屋は基本的に関係者以外が近寄れる部屋では無いし、一夏様は気配で人が近付いてきてると言う事を察知出来るので、忍び込むなんて不可能なんだけど。
「発案者はデュノアさんで、オルコットさんと篠ノ乃さんとボーデヴィッヒさんが随行したらしいんだけどね。丁度文化祭が終わった辺りだったかな? 一夏君が疲れて寝てる所にお見舞いと称して部屋に行ったらしいんだけど、案の定一夏君にバレて、そのまま怒られたらしいよ。しかもその後で織斑先生にも怒られてグラウンドを何十周か走らされてたし」
「毎回デュノアさんが絡んでるんだね」
「……言われてみればそうね」
特に問題児と言う雰囲気は彼女からは感じないのだが、話だけ聞くと相当な問題児だと思えるんだよね……
「おはようございます」
「香澄、おはよう」
「何だか眠そうだね?」
静寂と話していたら香澄が教室にやって来た。随分と目が腫れぼったいけど、徹夜でもしたのかな?
「試験範囲が全然分からなくて……勉強してたら朝になってた」
「大丈夫? この前のテストもそうだったけど、香澄って結構ギリギリだったよね?」
「結構じゃなくてかなりだけどね……」
そう言う話を聞くと、私も勉強した方が良いのかなとも思うんだが、実際には勉強なんてしないんだよね……テストか、私は補習を逃れられたらそれで良いんだけどなぁ……絶対に自力じゃ無理なんだよね……
「多分また一夏君が勉強会を開いてくれると思うから、そこでしっかりと勉強したら?」
「でも、一夏君に負担ばっか掛けちゃうと、また倒れちゃうかもしれないし……」
「一夏君が倒れたのは亡国企業との戦いで無茶をしたからでしょ? 勉強教えるくらいじゃ一夏君は倒れないって」
そう言えば本音ちゃんも一夏様頼りだって言ってたし、本当に一夏様は私たちに勉強を教えても大丈夫なのだろうか……私が言うのもなんだけど、本音ちゃんや香澄だって私と大差無いくらいのおバカなんだけど……
「その前にそろそろ小テストがあるだろうし、それで今の実力を確認したら?」
「静寂は良いよね、勉強教えてもらわなくても良い成績が取れるんだからさ」
「あら、私だって勉強してあの成績なんだけど?」
「教えてもらう必要が無いってのが羨ましいんだよ」
「でも、一夏君に教えてもらってるんだから、私からしたらそっちの方が羨ましいわよ」
確かに静寂は一夏様に教わる側では無く、一夏様の手伝いをする側――つまり教える側の人間なのだ。教える側の人間である静寂が一夏様に勉強を教えてもらえる確率は、私たちが満点を取る確率とほぼ同じ……つまり、限りなくゼロに等しいのだ。
「私も分からない所は一夏君に聞こうかな」
「自分で調べろって言われそうだよね」
「確かに、静寂なら一夏君に教わるよりも自分で調べそう」
「本当に分からない事くらいしか聞かないし、一夏君も私が質問してきても不思議そうに顔を見てくるからね」
既に一回は一夏様に質問をした事があるんだ……静寂でも分からない問題を、私たちが自力で解ける訳無いんだけどな……
「今回学年平均で最下位だったら色々とマズイでしょうし、織斑先生も気合が入ってるんじゃないの?」
「そう言えば昨日一夏様が作ってたのって、あれは小テストの問題だったようですしね」
「え? 織斑先生じゃなくて一夏君が作ったの?」
「そうみたい。私や須佐乃男にも見せてはくれなかったし、小テスト対策の勉強は範囲全部を教えてくださるみたいだったし」
範囲全部って言うのが憂鬱だけれでも、それだけ一夏様が私たちの成績を気にしてくださってるのだし、頑張って結果を出さなければ一夏様に迷惑を掛けただけで終わってしまうのだ。
「美紀は良いよね。一夏君にガッツリ教えてもらえるんだから……私は如何なるんだろう」
「一夏様が言ってただけだけど、何か泊り込みで勉強会を開いてくれるようだよ?」
「泊まり? 何処に泊まり込むの?」
私が言った事に香澄では無く静寂が食いついてきた。泊り込みと言う単語に引っかかりを覚えたんだろうな……
「何処って、恐らく一夏様たちの部屋だとは思うけど……それが如何かしたの?」
「ううん、一夏君が美紀や香澄の部屋に泊まるのは問題だけども、一夏君たちの部屋に美紀や香澄が泊まる分には問題無いだろうしね」
「生徒会長さんや布仏先輩が居る部屋は緊張するかも……」
「そっか、香澄にとっては先輩であって生徒会長なんだもんね」
「……美紀には違うの?」
「私はほら、一応遠縁って事になってるし、昔から一緒に遊んでたからさ」
それに今でも仲良くはさせてもらってるし、一夏様のおかげでつい最近まであった居心地の悪さも無くなったし。
「まぁ何か起こそうにも勉強でヘロヘロになってるだろうしね」
「ありえそうで嫌だな……」
「でも、一夏君に教わるんだからしっかりと勉強しなきゃね」
「そうなんだけどさ……それで勉強が出来るようになるのなら、一夏様の将来は学校の先生で決まりでしょうけどね」
勉強の苦手な人に勉強をさせて、更にはテストで十分な結果を残せるようになるんだから、学校の先生じゃなきゃ塾の講師にでもなるべきお方だと思う……でも、IS操縦者としての腕も、整備師としての腕も相当なものがあるので、一夏様は恐らくIS業界から抜け出す事は出来ないでしょうね。
「そろそろ一夏君たちも来る頃かしらね」
「本音ちゃんが起きてれば来るんじゃないかな」
「布仏さんって朝弱いの?」
「弱いってレベルじゃないよ。本音ちゃんは放っておけばずっと寝てるよ」
「そうだったんだ……」
本音ちゃんの寝ている所を見た事がある人ならば、誰もが納得してくれるだろうと思っている。それくらい本音ちゃんは寝起きが悪いのだ。
「そう言えば一夏君が起こしてあげてるんだっけ?」
「一夏様じゃ無きゃ起こせないレベルにまで達してしまってるそうよ」
「布仏先輩じゃ駄目って事?」
「虚さんは起こす事をしないからね。遅刻しても本音ちゃんの自業自得だって思う厳しい人だからね」
それが優しさでもあるんだろうけども、そんな屈折した優しさはきっと本音ちゃんには理解出来ないでしょうしね。
「おはよー!」
「あっ、来たみたいだよ」
本音ちゃんの元気な声が教室中に響き渡り、クラスメイト全員(私たちも当然含む)が一斉にドアの方に視線を向けた。
教室に着いた途端、一斉に視線を浴びせられた本音様は、驚いたように一回ドアを閉めたのでした。
「本音、如何かしたの?」
「いや、何かみんなに睨まれたんだけど」
「睨まれた? 何故本音様を睨むんですか?」
「分かんないよ~」
「とりあえずもう一回開けてみたら?」
マドカさんに言われ、恐る恐ると言った感じで本音様はドアを開けました。
「おはよー……」
今度は閉める事無く教室に入って行った本音様ですが、やはり視線は此方に向けられていました。
「皆、何で私も睨んだの~?」
「別に睨んでませんけど……」
「貴様になどさほど興味は無い」
「兄上は何処だ?」
オルコットさん、篠ノ乃さん、ボーデヴィッヒさんの順に発言してきたのですが、相変わらずボーデヴィッヒさんは素直で良い子のようで、クラス中の皆さんが思っていたであろう事を聞いてきました。
「おりむ~なら職員室で織斑先生と山田先生とお話してるよ~」
「話? 何を話してるんだ?」
「しらな~い。おりむ~に聞いたら、何か授業に関することだとしか教えてくれなかった~」
恐らく一夏様が職員室に行かれた理由は、実技の授業を欠席する為の手続きをしに行かれたのでしょうが、本音様には一夏様の言い回しは少し難しかったのでしょうね。
「お兄ちゃんならもう少しで来るはずだけど、あまり負担は掛けるなよ。動けるようになったからって、まだ完全に回復してる訳じゃ無いんだから」
マドカさんが睨みを利かせてクラス中に忠告すると、何人かは少しガッカリしたように視線を下に向けました。恐らくですが一夏様と遊びたかったのでしょうね。
「そろそろチャイムが鳴りますね」
「織斑先生が来る前に座っておかないとね~」
「姉さんに叩かれるのは痛いから嫌だ」
まだ千冬様が来ると決まった訳では無いのですが、このクラスではチャイムが鳴る前に着席する習慣が刷り込まれてるので皆さん大人しく席に着きました。
チャイムが鳴ったのと同時に、教室に入ってきた大人二人と一夏様……見た感じだけならば一夏様が一番しっかりした大人に見えるのですが、年齢は一夏様がダントツで下ですからね。
「織斑兄、お前も席に着け」
「分かった」
千冬様に短く命令されたにも関わらず、一夏様は素直に席に着きました。そこは素直に聞くんだなーっと関心していたら、一夏様から鋭い視線を向けられてしまいました。また思考を読まれたのでしょうか……
「さて、今日も連絡事項が多いから心して聞け! まずは見ての通り織斑兄が復帰した。座学だけだが織斑兄が居ると居ないととでは授業の進み具合が大分違うと聞いてるからな。これでテスト範囲をちゃんと終わらせる事が出来るだろう」
千冬様がテストと言った途端に、クラス中に不安が充満したのを感じ取った。もちろん私もかなりの不安があるので、似た感じを鋭敏に察知する事が出来たのでしょうけどね。
「次にシャルロット・デュノアについてだが、あいつは教師に楯突いた挙句に、無断でISを展開して暴走した為に暫く反省させる事となった。何処に居るのかは知らなくても良い事なので教えないが、とりあえずは会いにいけないと思っていろ」
つまりはこの間同様一般生徒の入れない空間にあるとされている特別指導室に入れられたと言う事なんでしょうね。シャルロットさんも学習しない人ですね。
「最後に昨日修復工事が終わった為に、今日からアリーナを使う事が出来る。ISの整備も最低限は昨日の内に終わらせてもらったので、実習はする事が出来るようになった。それで今日の授業は昨日出来なかった実習から行う為に、この後すぐ着替えてアリーナに集合するように。もちろん、織斑兄と須佐乃男は参加しなくて良し」
一夏様は身体に負担の掛かる実習は当分お休みしますし、一夏様の専用機である私もまた、当分の間は実習をお休みする事となるのです。
「それではHRは終了とする。遅刻したものは相応のペナルティーがあるものと覚悟するんだな」
「お、織斑先生! 肝心な事を言ってませんよ!」
「おっと、そうだったな」
山田先生に呼び止められ、千冬様は何かを思い出したように踵を戻しました。
「修復工事は終わってるが、まだ至る所に戦闘の傷跡は残っている為に、当分は学園内に工事が入るからな。騒音には気を使ってもらうが、やはりゼロとは行かないだろうから、その点だけは理解しておいてくれ」
確かに亡国企業との戦闘の跡は至る所に見受けられる。それを修復しないままでは、見た目もそうだが何時までも痛々しい思いをしなくてはいけなくなってしまうのだ。
「もう無いな。それでは各自着替えて第一アリーナに集合」
千冬様と山田先生が教室から出て行くのを見送ってから、一夏様はゆっくりと立ち上がり教室から出て行きます。
「一夏様、待ってくださいよー」
私も次の時間は自由に動けるので、一夏様と一緒に居ようと思っていたのですが、あっさりと置いて行かれそうになってしまいました。
慌てて教室から出た私でしたが、既に一夏様の姿はありませんでした。仕方ないので気配を探ろうとしたのですが、一夏様は気配を殺しているようで、私の気配探索能力では見つけられませんでした。
「こうなったら呼びかけるしか無いですね」
リンクは切られてないので、念話で呼びかける事が出来ます。私は頭の中で一夏様に呼びかけました。
「(一夏様、何処に居るんですか?)」
「(何処だって良いだろ。お前も自由に過ごせな良いじゃないか)」
「(一人で居たってつまらないじゃないですか)」
「(そうか? 偶には一人ってのも楽しいかもしれないだろ?)」
一夏様は一人でも時間を潰す手段をお持ちなのかもしれませんが、私は一人で時間を潰す手段を持ってないんですよね。だから一人が楽しいだなんて間違っても思いませんし、思えないでしょうね。
「(とりあえずは一人で過ごしてみろ。それでも退屈だったらまた呼びかけるんだな)」
「(ちょっと、一夏様!?)……切られた」
念話を一方的に切られ、私は諦めて一人で何処かをうろつこうと決めました。ただし校内だけなので何処に行こうと真新しい何かは無いんですけどね……
「一人でぶらぶらしてても仕方ないですしね……やっぱり何処か一夏様と行きたかったですね」
当てもなく校内をぶらぶらして、やはり何も新しい発見は無く、私は再び一夏様に念話をしました。
「(一夏様、退屈です!)」
「(……十分もたないのかよ)」
「(退屈なものは退屈なんです!)」
一夏様に八つ当たりするように語気を強めて会話をすると、一夏様は呆れたような口調で話しかけてきました。
「(お前には一人になりたいと言う気持ちが分からないのか)」
「(分かりませんよそんなの。そもそも一人になりたいなんて思う事すら無いんですから)」
「(そうかよ……俺は図書室に居るから、来るんなら来れば良いだろ。その代わり図書室ではおしゃべり禁止だからな)」
「(大丈夫ですよ! こうやって声に出さなくとも会話は出来ますから)」
私と一夏様だけに出来るこの会話方法なら、図書室でも気兼ねなく会話する事が出来ます。一夏様の居場所も分かった事ですし、私も図書室に行きましょう!
こうして実習の間中、私は一夏様と一緒に図書室で時間を潰したのでした。一夏様はISの参考書を見ながら何かを必死に書いていて、私はそれを見ながら脳内で質問してただけなのですが、これが意外と有意義な時間だったらしく、終了のチャイムが鳴るまで私はずっと一夏様の作業を眺めていたのでした……いったい何をやっていたのでしょう? 後で聞いてみましょうか。
体育祭ネタを如何しようか悩んでます……