もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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一夏の苦労は報われるのか……


再テストの結果

 昨日のテストを返してもらった時に、気になる事があった。美紀や香澄が一夏君に勉強を教えてもらうのはまだ分かるけど、何で泊りがけだったんだろう……

 確かに一夏君の部屋は広いし、泊まるスペースにだって問題は無いだろう。だけどもわざわざ泊りがけで勉強をする必要なんてあったんだろうか……

 

「あら鷹月さん、そんな所に突っ立って如何かなさいましたか?」

 

「何でも無いよ……それよりも、こぼれるよ」

 

「はい? ……あらいけませんわ」

 

 

 オルコットさんのバランス感覚は微妙なようで、片手でトレイを持っていたんだけども如何もグラグラしてた。

 

「鷹月さん」

 

「何?」

 

「一夏さんの部屋で勉強会があったのはご存知ですの?」

 

「知ってるよ。一夏君が再テストの人を対象に勉強会を開いてたんだよね」

 

「そうですの。ですがあの程度の問題で再テストになるなんて、クラス平均が低いのは山田先生の責任だけでは無さそうですわね」

 

「あの程度って、あれは一夏君が作ったテストだって噂だよ? 一応の手加減はしてくれてたようだけど、結構難しかったよね? それとも、オルコットさんは満点でも取れたの?」

 

 

 今回のテストのクラス平均は48点。一夏君が満点だとしても五人もゼロが居る以上何人かの高得点者が居なければ平均点はもっと低いはずだ。

 

「私は70点ですわ!」

 

「ふ~ん……意外と普通だね」

 

 

 これだけ威張ってるんだから、もっと上だと思ってたけど、そうでもないんだね……それくらいの点数なら他にも取った人は居るだろうな……ボーデヴィッヒさんだって代表候補生なんだし、もしかしたらオルコットさんよりも高いかもしれないしね。

 

「普通!? それでしたら鷹月さんは何点だったんです?」

 

「私? 私は85点」

 

「なっ……」

 

 

 驚いたオルコットさんを見て、私が驚いた。もしかして自分が一夏君の次に良い点だと思ってたのだろうか……

 

「貴様ら! 何時まで食べてるんだ!」

 

「やばっ! それじゃあね、オルコットさん」

 

 

 今日は考え事が多かったから、普段よりも寝ちゃったんだよね……夜遅くまで考え事はやっぱり良く無いな……

 慌てて食堂から教室まで移動したものだから、教室に着いた頃にはすっかりと息が上がってしまった。

 

「静寂がこの時間とは珍しいな」

 

「一夏君……一夏君がこの時間に居るのも珍しいでしょ」

 

「違い無い。俺はまぁ色々とやる事があったからな」

 

「やる事?」

 

 

 一夏君が指差した方に目を向けると、まだ朝だと言うのに既に死にそうになっている五人の姿があった。

 

「何やってるの? あれ」

 

「再テスト対策」

 

「どんな問題やったらああなるのよ……」

 

「ん? ほれ」

 

 

 一夏君に手渡されたプリントに目を向け、彼女たち五人に同情した。昨日のテスト何かよりもよっぽどイジワルな出題方法だし、難易度もそれに合わせて上がっているのだ。

 

「よくこんな問題思いつくわね」

 

「別に普通じゃないか? 昨日のテストが簡単過ぎただけで、普通はこれくらいだろ」

 

「そうかな……昨日のも十分難しかったと思うけど」

 

 

 何せクラス平均が50点以下なのだから……抜き打ちだった事を加味したとしても、この平均はかなり低いものだろう。テストを催した織斑先生も頭を押さえてたくらいなのだから。

 

「簪にも言われたな。結構難しかったって」

 

「更識さんも難しいって感じてるのなら、それはきっと難しかったんだよ」

 

「簡単に作ったつもりだったんだけどな……」

 

「一夏君基準で考えたら簡単なんだろうけどさ」

 

 

 その基準に達してる人が他に居ないのだから、その感性はズレているのだ。ちなみに一夏君から渡された再テスト対策用のテストは、私が解いても正解率は七割を超えるか如何かだと思う……つまりかなり難しくなってると断言出来るくらいの難易度なのだ。

 

「オルコットさんにやらせてみる?」

 

「セシリアに? 何故だ」

 

 

 私は、今朝食堂で話した事を一夏君に伝えた。オルコットさんの実力を見るには丁度良い機会だと思ったのだから。

 

「それじゃあ静寂もやらなきゃな。どっちが上かをはっきりさせるにはそれが一番早いだろうし」

 

「参考までに聞くけど、あの五人の点数は?」

 

「ん? 37点」

 

「また微妙な……って全員が?」

 

「いや、最高が」

 

 

 じゃあ最低は何点なんだろう……それと誰が最高で誰が最低なんだろう……

 

「最高はマドカだ。それで最低は美紀の30点だ」

 

「私、何も言ってない……」

 

「顔に書いてあった。それに気になるのは当然だと思ったからな」

 

 

 相変わらず一夏君の観察眼には頭が下がる……別に隠そうとはしてないから良いんだけど、こうも簡単に思考を読み取られると些か恥ずかしいと言うか何と言うか……とにかく気分が良く無いのだけは確かだ。

 

「それじゃあこれが静寂の分な。セシリアには俺が渡しておこう。終わったら持ってくるように」

 

 

 一夏君はヒラヒラと手を振ってオルコットさんの席に向かって行った。同じように言われたのか、オルコットさんは私の方をキッと睨みつけてきたけど、すぐに余裕の無い表情に変わった。きっと難しさに驚いているのだろう。

 

「(何か面倒な事になっちゃったな……でも一夏君が作った問題で代表候補生と戦うなんて、入学当初の私から考えるとかなりの成長よね)」

 

 

 そもそもまともに一夏君と話す事だって出来なかったんだから、こうして考えると私ってかなり成長してるんじゃ……

 

「(って、自己満足は駄目よね。成長した事に満足はしてもいいけど、それが限界だと決め付けない事。周りからも成長したって言われて、初めて成長したって事なんだから)」

 

 

 自分一人で成長を実感してても、それは錯覚の可能性だってあるしね。そもそも成長を実感出来るほど、私の初期能力は高くなかっただろうし……

 

「お前はゲームの中の事を考えてるのか?」

 

「ふぇ!?」

 

「いや、初期能力とか成長とか考えてるから……」

 

「違うよ? 私自身の事」

 

「ふ~ん……余裕だが終わったのか? そろそろHRの時間だから採点に入りたいんだが」

 

「とりあえずは終わってるけど、後は見直して問題が無ければ大丈夫かな」

 

「あっそ……セシリアは手こずってるようだがな」

 

 

 一夏君に話しかけられた事によって、現実に思考を戻す事が出来た。とりあえずは分かるところは解いたけれども、それでも自信があるのはそんなに無い。それくらいの難易度だったのだ。

 

「(見ただけでは分からない難しさがこのテストにはある。やっぱり一夏君は性格悪いわね)」

 

 

 パッと見ただけでは気付かないような引っ掛けや、解釈を間違わせるような問題文など、昨日の小テストとは比べ物にならないくらいのイジワルさが詰まってるテストだった。

 

「うん、一夏君、私は終わった」

 

「一夏さん、私も終わりましたわ」

 

「分かった。それじゃあちょっと待ってろ」

 

 

 一夏君は私とオルコットさんの答案を受け取り、横に並べて見比べる。一夏君の凄いのはペン入れなどをせずに採点出来るところだろう……受け取ってすぐに採点が出来るので返却に時間が掛からないのが良いのだが、返された私たちからしたら、何処が間違ってるのかが分からないので結局ペン入れしてもらうんだけどね……

 

「静寂の勝ちだが、どっちも調子悪いのか?」

 

「何で?」

 

「如何してですの?」

 

「いや、静寂は六割そこそこだったし、セシリアも六割を切ったから」

 

 

 一夏君の感性から言えば私たちの調子が悪いんだろうけど、私たちから言わせてもらうと、このテストがそれだけ難しいって事なのだけどね。

 

「私が六割以下……何かの間違いですわ!」

 

「ペン入れしてやろうか? そうすれば何処が間違ってるかはっきりするだろうし」

 

「お願いしますわ!」

 

「それじゃあ静寂のもついでに……」

 

 

 そう言って左右両方の手に採点用のペンを握る一夏君、彼は両利きなのだ。

 

「……凄いスピードですわね」

 

「一夏君の処理スピードは人類の限界を超えてるからね……」

 

 

 あっという間に採点された答案が出来上がり、私たちは自分の結果を漸く認識する事が出来た。

 

「静寂が64点でセシリアが57点だな」

 

「このテスト、かなり難しかったよ?」

 

「そりゃあえてそうしたからな。簡単な問題に慣れても意味は無いし」

 

「そうだろうけどさ……」

 

 

 マドカたちはこのテストを何度も何度も解いて、それで理解を深めているのか……五人が持っているテスト答案を良く見ると、一夏君の解説が書かれて居る為、ビッチリと文字が書き込まれている。

 

「あれくらいの説明が無いと私も解けないって」

 

「そんなものか? これくらいが普通だと思うんだが……」

 

「だから一夏君がズレてるんだってば。このテストを昨日出されてたら、もっと平均点は下がってると思うよ」

 

 

 そもそも私もオルコットさんも下がってるんだから、それだけで平均点は下がるんだけどね。

 

「シャルが居ないのも影響してるんじゃないか? アイツも性格以外は普通に優秀だからな」

 

「その性格が最重要じゃないの?」

 

 

 特にデュノアさんの腹黒さは異常なくらいだから……織斑先生に歯向かうだけの度胸が、私たちには無いのだ。

 

「一夏君が再テストの問題も作るの?」

 

「いや? それは駄姉が自分でやるそうだ。さすがにそれくらいはしないと怒られると思ったんだろうよ」

 

 

 確かに……今回のテストにおいて、織斑先生は採点しかしてないような気が……それで再テストの問題まで一夏君に任せてたら、完全に給料泥棒だもんね。

 

「ところで、何でセシリアは立ったまま気絶してるんだ?」

 

「多分私に負けたのがショックなのと、六割を超えられなかったのとが入り混じったんだと思うよ」

 

 

 私も64点と言う事実が結構重くのしかかってるし……一夏君が作ったと言う事を差し引いたとしても、こんな点数は結構酷いと思っているし、かなりショックを受けているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日中一夏様の作ってくださった再テスト対策の問題を解き、何とか理解を深める事が出来たと思ったら既に放課後、再テストの時間は刻一刻と近づいて来ているのを感じ、私たち五人は更に焦る。

 これが駄目なら補習決定、土日は何処にも遊びに行けずに勉強しなくては行けなくなってしまう……それだけは避けたい。例え遊びには行かなくとも、土日にまで勉強はしたく無い。

 

「貴様ら、覚悟は出来てるだろうな」

 

「ね、姉さん……」

 

「千冬様! もう少しだけ猶予を……」

 

「学校では織斑先生だ! それと猶予は与えられん」

 

「「そ、そんな……」」

 

 

 マドカと須佐乃男の抵抗虚しく、織斑先生は私たち五人に問題を配り始める。

 

「織斑兄に勉強を見てもらったようだが、アイツの顔に泥を塗らなければ良いがな」

 

「そう思うならもう少しまってくれたって……なんでもないです」

 

 

 本音ちゃんが微かな抵抗を試みようとしたけども、途中で威圧されてあっさりと引き下がった。

 

「私だって貴様らの相手で土日を潰したくないからな。補習などと言う結果に終わらない事を期待してる」

 

 

 織斑先生から更なるプレッシャーを掛けられて、私たちは更に萎縮してしまった。これでは落ち着いて問題に挑む事が出来ないのだけれでも、かと言って簡単に落ち着ける訳も無いのだ。

 

「五分間落ち着く為の時間を用意してやる。その間に緊張を解くんだな」

 

 

 緊張してるのがバレバレだったらしく、織斑先生は開始時間を五分だけ遅らせてくれた。その気遣いに感謝しながら、私たちは緊張を解くために必死になる……そんなに必死になってる時点で緊張など解ける訳ないのだが……

 

「後一分」

 

 

 何とか落ち着きを取り戻し始めた時に、織斑先生から残り一分を告げられた。落ち着け、後一分あるんだ……平常心は無理でもそれに近い状況でテストに挑まなければ出来るものも出来なくなってしまう……

 自分の心に言い聞かせるように何度も頭の中で反芻する。自己暗示のようなものだが、しないよりかは幾分かマシにはなるだろう。

 

「よしそこまで! それではテストを開始する! 制限時間は三十分だ」

 

 

 問題用紙を裏返し、私たちは再テストの問題を解き始める。

 

「(……あれ? この問題、何処かで見たような……)」

 

 

 解き始めてすぐ、既視感に襲われる。問題の殆どを何処かで見たような、見なかったようななどと曖昧な感覚に陥ったのだ……落ち着いて、今は問題を解かなければ。

 既視感の事を頭から追いやって、私は問題を解く作業に集中する。

 

「(……分かる。一夏様に教わった成果がはっきりと出てる)」

 

 

 昨日遅くまで勉強して、そして今日も朝早くからこのテストに向けての対策に勤しんできたのだ。その成果を実感出来るほどに、私はスラスラと問題を解く事が出来ているのだ。

 

「(でも、如何してこんなに理解出来てるんだろう? 対策用のテストでは散々だったんだけどな……)」

 

 

 五人中最下位、再テスト組の中でも、私の成績の悪さは目立っているのだ……だけどこのテストは殆ど解ける。理解出来ている。

 

「(一夏様の指導力の高さは知っていましたけど、まさかこれほどとは……)」

 

 

 編入試験の時はちょっと届かなくって自力では合格出来なかった。だけども一夏様や刀奈お姉ちゃん、虚さんのおかげでIS学園に通う事が出来るようになった。

 でもそれは私の力じゃない。一夏様に勉強を教わって、三人に期待してもらったおかげで通う事が出来るのであって、何一つ私の力は関係していない。だからこそこのテストではしっかりと結果を出したいのだ。

 

「(最後の問題……これも何処かで見たような……)」

 

 

 昨日のテストの問題では無い。それだけははっきりと分かるのだけれども、この問題は何処で見たんだろう……

 

「(……あっ! 思い出した)」

 

 

 最後の問題を解き始めた時に、既視感の正体に気がついた。この問題、一夏様が作ってくれた対策問題とほぼ同じなんだ……それも難易度は一夏様が作った方が大分上だ……

 

「(一夏様は再テストの問題を知っていた? ……いや、それは無いでしょうね。もし知っていたとしても、私たちには教えなかったでしょうし……)」

 

 

 一夏様は私たちに勉強は教えてくれますが、答えまでは教えてくれません。ほぼ答えまで辿り着くまでの説明はしてくれますが、最終的な答えは私たち自身に見つけさせるようにしているのです。

 

「(それじゃあこのあまりにも酷似している問題は何なのでしょう? 一夏様と織斑先生はご姉弟ですし、思考が似ていても仕方ないのでしょうけども……それでもこれは似すぎです)」

 

 

 性格の悪さが一夏様の方が上なのか、引っ掛けのレベルは一夏様の方が数段性質が悪いものですが、それでも引っ掛けようとする部分はほぼ一緒。これほど似ていると、最早どちらかが問題を真似たと言われた方が納得出来ますね……

 

「後五分」

 

 

 残り時間が五分と言われ、私はかなり驚いた。時間が少ない事にでは無く、私が時間を残して問題を解き終えた事に対してだ。

 

「(見直しなんて縁の無い事だと思ってたな……)」

 

 

 シャーペンを置き、自分の答案を見直す。何処か間違いは無いか、ミスリードに引っかかってないか、念入りにチェックする事は出来なくても簡単なミスになら気がつけるだろう。私は初めから最後まで見直し、すぐに分かるミスは無いと判断して答案を置く。

 

「(これだけ出来てれば補習は無さそうですね……でも、安心するのは結果が出てからでも遅くない。むしろ今安心してるのが早いんだから)」

 

 

 自分が何となく浮かれてるのを感じて、私はもう一度自分の気持ちを落ち着かせる。一夏様は土日に何かをするだけの気力は無いでしょうけど、てか安静にしてなければいけないので何も出来ないでしょうけども、お礼を言うのは出来る。他の皆さんも恐らく補習は逃れられるでしょうから、五人で何か一夏様にしてあげられる事があれば良いのですが……

 

「後一分、名前の書き忘れはゼロだからな」

 

 

 名前を書いてあるか確認して、私は小さく頷いた。これなら大丈夫、でも浮かれるな。まだそれは早い……自分に言い聞かせるように何度も何度も頭の中で反芻させる。時計の秒針が一周するのがこんなに待ち遠しいテストは初めてかもしれない……何時もはもっと遅くと願ってるのだから……

 

「そこまで! 各自答案を持って私のところに来い。その場で採点してやるからな」

 

 

 織斑先生に答案を渡して、私たち五人は座っていた席で結果を待つ。私だけでは無く他の四人も自信があるようで、その表情は明るい。

 

「お前ら……何故一回目でこの結果を出さない! 面倒だろうが!」

 

 

 良い点を取ったのに怒られた……五人の中でやっぱり私が一番低かったけど、それでも83点だった。私からしてみればそんな点数取ったこと無いから小躍りしたくなるくらいの気持ちなのだけども、織斑先生はかなり怒っている。

 

「問題考えるこっちの身にもなれ! かなり面倒なんだからな!」

 

「姉さん、そんな事言われても」

 

「そうですよ千冬様。一夏様のご指導が無ければ、私たちはこの結果は出せませんでしたから」

 

「そうだよ~。元々は織斑先生が抜き打ちでテストしたからですよ~」

 

「五月蝿い! 兎に角、貴様ら全員合格だ。この結果を本番のテストでも発揮してくれる事を願う、以上だ」

 

 

 答案を返されて、私たちは駆け足で一夏様の許へと移動する。早く一夏様に結果を知らせなければと全員が思ったのだ。

 一夏様は私たちの結果を見て、満足そうに一度頷いて、私たちの頭を優しく撫でてくださったのだった……気持ちよかったなぁ……




千冬よ、お前基準で説教するなよな……
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