本音や須佐乃男たちは再テスト、お姉ちゃんは部屋で安静、虚さんは生徒会で仕事、碧さんは調べ物があるとかで彼方此方動き回っている、そして一夏は無理しない程度のリハビリの為にグラウンド整備を手伝っている。つまり何を言いたいのかと言うと、相手してくれる人がいなくて暇なのだ。普段からクラスメイトとは付き合いが無い為に、こう言った事態になった時に話しかけられる相手が殆ど居ないのだ。
「一人でブラブラするのもなぁ……誰か知り合いに会わないかな」
この際顔見知り程度でも構わないから、誰か知ってる人間が居ないか探し始める。
「あれ、簪じゃん」
「エイミィ」
意外とすぐ知り合いに遭遇した。そう言えばエイミィは再テストじゃ無かったんだっけ。
「如何かしたの? 何だかキョロキョロしてたけど」
「誰か知り合いが居ないか探してたんだ。一人で出かけるのもね」
「一人? 珍しいね」
「皆それぞれ予定があるんだ」
エイミィに皆の予定を話すと、何だか納得してくれたようだった。だけど再テストと言う事場に過剰に反応したのは何でだろう……
「エイミィは大丈夫だったんでしょ?」
「う、うん……かなりギリギリだったけどなんとか……」
「……ひょっとして定期テストはかなり?」
「うわぁ~ん! 思い出したく無い事言わないでよ~!」
「現実逃避は駄目だよ。一夏に頼めばエイミィも泊まり込みで勉強教えてくれるって」
「泊まり込み?」
昨日あった事をエイミィに話す。泊まり込みで美紀と香澄が勉強していたと知って、エイミィは羨ましそうなのと嫌そうなのとで、丁度半々のような表情を浮かべた。
「一夏君の部屋に泊まれるたのは羨ましいけど、そんな時間まで勉強したく無いよ~」
「朝も早かったしね。香澄なんか半分寝てたよ」
「本音もでしょ~? だって朝弱いって言ってたし」
確かに本音は朝に弱い。まぁ夜もそれ程強い訳じゃ無いんだけど、それでもやっぱり朝の方が弱いのだ。その本音をやる気にさせた一夏は、やっぱり本音の扱いに長けてるんだろうな。
「一夏に『織斑先生に補習するように進言されても良いのなら寝ててもいいぞ』って脅されたから本音はすぐに起きた」
「私も起きるな、そんな事言われたら……」
それほどまでに、補習と言うものは恐怖の象徴なのだろうか……私には縁遠いものだし、その怖さを本音たちほど理解はしてないんだよね。
「それじゃあ一夏君に頼んで泊めてもらおうかな」
「もうすぐだもんね。その後で体育祭」
「テストなんてやらなくても良いんだけどな~……」
「候補生なんだからもうちょっと頑張ったら如何?」
「やってるよ~! でも実技の方が得意だから、座学は如何してもね……」
「一般科目もあるんだから、それも頑張らないと」
「日本の歴史は私には難しいわよ……」
「日本の学校なんだからしょうがないでしょ」
言い訳がましいエイミィだったけど、その事を職員室で言う勇気があるかどうか聞いてみると……
「言える訳無いでしょ!? だって職員室ってあれだよ? 織斑先生が居るんだよ? そんな場所で文句なんて言える訳無いじゃない!」
とのこと。どれだけ織斑先生に恐れてるんだろう……確かに怖いけどね。
「そうそう簪。お出かけなら付き合うよ」
「ホント? それじゃあ一緒に行こう」
近所の小物屋さんに行きたかったのだけど、一人だと如何しても恥ずかしくなってしまうのだ。お店の人に声掛けられたらもう駄目。すぐにその場から逃げ出したくなってしまうのだ。
「簪も女の子趣味だね」
「駄目?」
「ううん、可愛いと思うよ~」
「エイミィだって嫌いじゃないでしょ?」
「当然! 私だって女の子なんだから」
きっと一夏に一緒に来てと頼んでも断られただろう内装に、私とエイミィは見蕩れる。これはやはり可愛い……何か買って行って部屋に飾ったら可愛いだろうな……
「簪……このお店、かなり高いよ?」
「え? ……ホントだ」
普通の高校生にはちょっと手が出せない値段が、そこには書かれていた。仕方ない、今日は見てるだけにしておこう……
「何時か買いたいね~」
「とりあえず自立しないと。それからしっかりと生活していくだけの蓄えをしてからだね」
「……簪って夢が無いね」
「そう?」
「だって簪なら一夏君が買ってくれるだろうし、安定した生活なら今すぐにでも出来るでしょうが」
一夏と安定した生活……エイミィに言われ、私の顔は急に熱を帯びる。
「そ、そ、それって、一夏とけ、け……」
「け?」
「……なんでもない」
恥ずかしくて声に出せない……考えた事はあるけど、じっくりと考える事はしなかったのだ。だって恥ずかしいし……それに一夏の相手はきっと私だけでは無いのだから……
「兎に角、今度一夏君に頼んでみたら? 買ってくれるんじゃない?」
「一夏はまだお出かけするのは無理だよ。普通に生活してるから忘れがちだけど、まだダメージは残ってるんだから」
「そうなんだよね~……一夏君があまりにも普通に生活してるから忘れてたけど、一夏君ってまだ完全に回復した訳じゃ無いんだよね」
「うん……無茶してなきゃいいけど……」
「大丈夫だって! 一夏君だって自分の事くらい分かってるってば」
一夏の場合、分かっていても自分の事を蔑ろにする事が多い。だから頼まれると基本嫌がるが断らないのだ。
「今回だって再テストの監督官をやるかグラウンド整備をするか織斑先生に迫られてたし」
「それは、どっちも織斑先生の仕事なんじゃないの?」
「そうなんだけど、再テストの監督官とグラウンド整備は同時には出来ないからって……」
不承不承ながらも一夏はグラウンド整備を選んだ。監督官だと昨日と変らないからって言ってたけど、本当は試験中に聞かれると答えそうだからだと私は思った、さすがに無いだろうけども、一夏だってうっかりする事くらいあるだろうしね。
「それじゃあそろそろ試験も終わっただろうし、学園に戻ってみようか」
「そうだね。大体見て回ったし、それに何時までも見てるだけじゃお店の人にも悪いしね」
さっきからこっちをチラチラと見てきているので、そろそろ何かしないと居心地が悪くなってくる。だからエイミィの提案は凄く良いタイミングだったのだ。
「一夏君の苦労が水の泡にならなければ良いんだけどね」
「大丈夫だとは思うけど、本音も美紀も勉強嫌いだし、補習受けるくらいなら再テストで頑張ると思うし」
「随分と薄い根拠だね~……一夏君が疲れるだけの結果にはなってほしく無いね」
夜遅くまで対策テストを作ってたようだし、それでなくても朝早くから私たちの分のご飯を作ってくれてるんだから、これ以上一夏に疲れるような事はしてほしく無いんだけどな……そう思ってても結局は一夏に頼ってしまうんだよね……この癖を如何にかしないとホントマズイような気がするんだよね。
「さてと、それじゃあ私はグラウンドにでも行ってみようかな」
「グラウンド? 整備してるだけで、面白いものは無いと思うけど?」
「一夏君にテスト対策をお願いしないと……」
「なるほど……」
エイミィは今回のテストは自力で何とかしたけど、次の定期テストではそうはいかないんだろうな。何せ教科が多いし範囲も今回の比では無いのだから……
「簪も出来れば教えてくれると嬉しいな」
「私は一夏が許可してくれたら手伝ってあげるよ。その方がエイミィだって良いでしょ?」
「そうだね……出来れば静寂とかにも手伝って欲しいんだけど、静寂は部屋が違うからね」
エイミィと別れ私はその場に立ち止まって考え込む。
静寂か……確かに学年でも上位に名を連ねるほどの猛者だ。それに一夏とも仲が良いし、それに教え方も上手だ。静寂が手伝ってくれたら一夏も少しは楽が出来るかも知れないけど、何となく静寂をあの部屋に泊まらせるのは許可出来ない。理由は無いけど、何でか静寂は一夏と一緒の部屋にしない方が良いと、私の直感が告げているのだ。
「でも、何で……?」
一夏と静寂はお友達だ。それは私も否定しない。それに互いに友達以上の感情を相手に求めてないし、今のところはそんな雰囲気でも無い。
一夏と虚さんほどでは無いが、既に一緒に居て自然な感じは一夏と静寂からも感じるのだ。
「だけど、一夏と虚さんが夫婦なら、一夏と静寂はお兄ちゃんとお姉ちゃんって感じだけどね」
主にクラスメイト相手に注意したり、間違いを正してあげる姿はまさにお兄ちゃんやお姉ちゃんだろう。直接見たのは数えるほどだが、本音の話では結構二人でクラスメイトに対しての注意や指導があるらしいのだ。
「夫婦……いやいやいや」
さっきの小物屋さんで思いついた事を思い出し、慌てて首を振る。想像でも早いってば!
「簪? 何してるんだ?」
「あれ、一夏? エイミィが一夏を探しにグラウンドに行ったんだけど?」
「ああ、さっき会った。再テスト対策が終わったら今度は定期テストか……学園ってのは面倒だな」
「一夏だって通ってるんだから他人事じゃないでしょ?」
「まぁそうなんだがな。だけど泣き付かれる身にもなってみろよ」
一夏の立場になって考えてみる……うん、確かに面倒だと思うかもね。
「手伝う分には良いんだが、そうなるとまた泊まり込みか? 放課後だけじゃ駄目だろ」
「そうかもね……今回の五人だってきっとまた一夏頼みだもんね」
「それにエイミィを加えて合計六人。ちょっとした塾だな」
「月謝も何も無い塾だけどね」
IS学園一夏塾ってところかな? 生徒募集したらもの凄い希望者が殺到する予感が……もちろんそんな冗談は口には出さないけど。
「泊まり込みとなると食材がちょっと足りないかも知れんな……明日にでも少し多めに買い込んでおくか」
「後半月あるんだから」
「半月勉強しても平均点に届くか如何かだと思うんだが? 今回のように狭い範囲じゃ無いんだし、どうせあのメンバーには一から事細かに説明しなければいけないんだし、むしろ短いくらいだろ」
既に一夏先生の中ではスケジュールが組まれているようで、私は五人が居るだろう方を向きそっと手を合わせた。束の間の平穏を精々楽しんでると良いんだけどな……
再テストを無事合格した事で、私たち五人は食堂でささやかなパーティーを開く事にした。と言っても学食のケーキとお茶での本当にささやかなものなのだが、私たちにはささやか以上の意味合いを持っているパーティーだ。
「一夏様のおかげですね、これも」
「おりむ~に足を向けて寝れないね~」
「本音は何時もお兄ちゃんに足向けて寝てるじゃん」
「そうなの?」
「本音ちゃんの寝相の悪さは相変わらずだね」
昨日一緒に寝て分かったけど、本音ちゃんの寝相は子供の頃よりも酷くなってる。何度蹴られたか分からないくらい蹴られたもん……
「そう言えばそろそろ体育祭だね~」
「今年はどんな事をやるんだろうね?」
「専用機持ちが多いんだし、何か凄い事してほしいな」
「香澄は出ないからって気楽だね」
「私のあれは専用機判定されるの?」
使えるのは私だけとは言え、あれは学園の訓練機を一夏様が改良してくれたものだ。コアだって専用機用のものでは無いし、所有権も私には無い。
「美紀ちゃんのが専用機判定されると、エイミィもそうなるんだろうね~」
「あれも一夏様がカスタマイズした訓練機なんですけどね」
「お兄ちゃんがカスタマイズすれば、ISも本来の力を発揮出来るんだってさ。姉さんがそんな事言ってた」
「そうなんだ……一夏君ってやっぱり凄い人なんだね」
「そりゃ世界的に注目されてるお方だし、何より私たちの点数をあそこまで高めてくれるんですから」
さっきの再テスト、一番悪かったのは私だけど、それでも十分に満足の行く結果だったし、他の人もかなり満足出来る結果にしてくれたのだ。あれは自力だなんて此処に居る誰もが思っていない。あれは一夏様のおかげなのだから。
「お兄ちゃんが勉強を教えてくれてなかったら、私たち明日明後日と補習だったんだよね」
「恐ろしい事言わないでくださいよ。一夏様が居てくれて、私たちは補習を回避した。これが事実で他の可能性の話は聞きたくありません」
「でもさ~須佐乃男、おりむ~が居てくれなかったらそうなってたのは確実でしょ~? だからおりむ~に感謝しておくのも必要だよ~」
「……本音ちゃんがまともな事を言っている!? 明日は雨!? それとも雪!?」
「美紀ちゃん、それは酷いよ~」
冗談を言いながらお茶を飲み、ケーキを頬張る。疲れた頭には甘い物は必須だからね、この瞬間はまさに至福の一時だった。
だがそんな時間は長く続かないものだ。ついさっき話題に上がった女子が現れて、至福の一時は脆くも崩れ去ってしまったのだから……
「あっ、居た!」
「カルカルだ~」
「如何かしたのですか?」
一夏君にカスタマイズしてもらった訓練機の操縦者の一人、エイミィが私たちの許に駆け寄ってきたのだ。
「いやね、今日から私もお世話になるから、一応挨拶をってね」
「お世話? いったい何の話?」
「何って、定期テストまでの勉強会の話だけど……聞いて無いの?」
「……え? それって何時から?」
マドカちゃんが辛うじてエイミィに質問したけど、それ以外のメンバーは私を含めて固まってしまってたのだ。
「だから今日から。一夏君が言うには、半月でも足りないって」
「「「「「………」」」」」
確かに私たちの頭脳では定期テストの範囲を全て理解するには一月以上の時間が必要かも知れません。ですが補習の恐怖から漸く解放されたのですから、一日くらいはその余韻に浸りたかったと言うのが偽らざる本音だったのですが……しかし一夏様に見放されたら私たちは補習と言う事になるのも明白、逆らって補習なんて事になったらそれこそ地獄の日々が私たちを待っているのです……
「お兄ちゃんに電話してみる」
これが嘘であってほしいと言う一縷の望みに賭け、マドカちゃんは一夏様に電話をかける事にした。
私たちはその会話を聞き取ろうと全員でマドカちゃんにピッタリとくっついたので、マドカちゃんがスピーカーモードにして携帯をテーブルに置いた。
『如何かしたのか?』
「あっ、お兄ちゃん? 今エイミィから聞いたんだけどね、今日から定期試験の勉強会をするって本当?」
『一応はその予定だが、何か都合でも悪いのか?』
一夏様は当たり前のように答えてくれて、しかも私たちの都合まで聞いてくれるようだった。
「あのね、お兄ちゃん」
『ああ』
「私たち五人はやっと補習の恐怖から解放されたんだよ?」
『そうみたいだな』
如何やら一夏様は既に我々の結果を知っているらしく、その事を軽く流してマドカちゃんに続きを促した。
「その意味がどれだけ大きいか、お兄ちゃんも分かってるよね?」
『どうせお前らの事だから、定期テストの事を頭の中から追いやって体育祭の話でもしてたんじゃないのか?』
「一夏様! もしやまた思考を……」
『いや? 今のは当てずっぽう。だが図星のようだな』
「……じゃあ今日から本当に勉強会をするんですか?」
『その予定だったんだが、お前らにやる気が無いのなら勉強会自体を無しにしても良いが?』
一夏様の声から、簡単に人の悪い笑みを浮かべてるお姿が想像出来たのでした。見捨てられたら補習、その事は此処にいる全員が理解している事ですし、そうなったらせっかく解放されたと思っていた恐怖に再び苛まれる事になる訳でして……
「お兄ちゃん、明日からじゃ駄目なの?」
『お前らが苦労するだけだが、休みたいのなら仕方ないな。今日は別にどっちでも構わない。お前らで話し合って決めろ。決まったらまた電話してこい』
それだけ仰って、一夏様は電話を切ってしまいました。
「如何する? お兄ちゃんの口ぶりだと、本当に私たちが苦労する事になりそうだよ?」
「ですが、せっかく解放されたのに、すぐにまた勉強と言うのは……」
「おりむ~に面倒を見てもらわないと……」
「怖いから最後まで言ってよ……」
「私は元々今日からのつもりだったし」
「それはエイミィが再テストじゃなかったからでしょ?」
「ギリギリだったけどね」
此処に居る六人で、座学の成績にそれ程の差は存在しない。だからこそ勉強会は一日でも長い方が良いと言うことは分かっているのだ。分かっているのだが、それでも一日くらいは休みたいと思ってしまうのも全員の共通の悩みなのだ。
「如何するの?」
「諦めますか……」
「本当にささやかで終わったね」
「定期テストが終わったらパーッとやれば良いよ」
「そうだね」
「その時は一夏君も私も参加するからね」
諦めと恐怖から、私たちは勉強会を今日から開く事に賛成する事にした。結論が出たのでマドカちゃんがもう一度一夏様へ電話をかけ、そして私たちの考えを伝えた。
『そうか、じゃあ今日の夜から始めるから、それまでは遊んでて良いぞ』
私たちが未練タラタラなのを見透かしたように、一夏様はそんな事を仰った。やっぱり一夏様には隠し事など出来ないようだと、全員が思ったことだろう。だって全員の顔が少し嬉しそうだったのだから、きっと私と同じ思いだと確信できる。
「それじゃあ祝勝会を再開するって事で」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
「えっと、かんぱーい」
一人乗り切れてないエイミィだったが、夜まで食堂で楽しい時間を過ごしたのだった。さて、これからは勉強しなきゃいけないんだな……頑張らなきゃまた補習の恐怖がのしかかってきちゃうんだよなぁ……
大変なのは本音たちなのか、はたまた一夏なのか……