障害物競走の参加賞をもらう為に、アタシとティナは一夏の部屋を訪れていた。丁度一夏たちもお昼ごはんだったらしく、アタシとティナもその中に入れてもらう事にした。
「まさかゴール出来たのが二人だけだとはね~」
「だからもう少し難易度を下げようって言ったんだよ」
「でもでも~、簪ちゃんだってゴール出来たでしょ?」
「アレは妨害も無ければ動き難いコスプレもしてなかったからだよ!」
如何やら生徒会の中でもあの障害物競走は揉めに揉めて実行されてたようね。でも簪でもゴール出来たのなら、それほど難易度は高く無いんだろうな、妨害無しなら……
「ハミルトンさんもゆっくりしていって下さいね」
「すみません、なんかお邪魔しちゃったみたいで」
「大丈夫だよ~! おりむ~なら気にしないからさ~」
「本音ちゃん、多分一夏様よりも私たちに言ったんだと思うよ?」
「ほえ~?」
相変わらず一夏の周りには面白い人が揃ってるようね。それにしても、此処に居る人全員アタシより胸が大きい……一夏が大きさを気にして無いってのは知ってたけど、それでもやっぱり大きい方が好きなのかしらね。
「ところで鈴は何時まで水着なのかしら?」
「着替えが無くなってたのよ! きっと嫌がらせね」
「ハミハミもなの?」
「ハミハミ……まぁそういう事です」
更衣室に戻ったら制服が無くなってたのよね……ウェルキン先輩に頼んで水着を返してもらったんだけど、この格好で寮内をウロウロするのは度胸が居るわよね……なにせ千冬さんが監視してるんだから……
「それでそんな格好だったのか、ほれ豚汁」
一夏が呆れながらもアタシをティナに豚汁を差し出し、他のメンバーにも渡している。如何やらもう少しクリアーする人が居ると見越して材料を多めに買っていたようね。
「後で須佐乃男に具現化してもらえ。そうすればとりあえずは平気だろ」
「それで一夏様、私への報酬は?」
「……最近お前も駄姉や駄ウサギに似てきたな」
「褒め言葉として受け取っておきましょう」
一夏の表情を見る限り、あれは嫌味で言ったんだろうな……須佐乃男も分かってて言ってるんでしょうけども、一夏相手に随分と慣れた返しよね……
「ねぇ一夏」
「あん?」
「アンタまた料理の腕上げたでしょ」
「そうか? 自分ではあまり変わって無いと思うんだが」
「少なくとも中学の時よりかは確実に腕を上げてるわよ。それもアタシが対抗するのを諦めるほどに」
「最初からお前は対抗してなかっただろ」
厳さんの恐怖が身体に染み込んでる為、会話する時は箸をおいて相手の目を見てする。一夏も心得てるのでアタシだけが部屋でうく事は無かった。
「あの頃は駄姉や駄ウサギ相手に作ってたからな。残飯でも満足するような舌の持ち主相手に作ってた時とは比べられないだろ」
「でも、あの頃だって美味しかったわよ」
「まぁ鈴や蘭、後あの馬鹿二人に作る時はちゃんとしてたからな」
「千冬さんに怒られたけどね」
「あれはただのやっかみだろ。自分のよりもちゃんとしてる事に対しての」
まだISが発表される前に、一度だけ千冬さんと篠ノ乃博士がアタシたちが一夏の料理を食べてるところに出くわした事があるのだけども、あの時の千冬さんの嫉妬が怖かったのよね。それと同時にあの馬鹿二人が千冬さんの部屋を漁ったとバレて更に怒ってたし。
「リンリンはおりむ~と長いんだっけ~?」
「まぁね。小五にこっちに来て、中二の時に中国に帰るまでの間、ずっとつるんでたからね」
「私たちが知らない一夏を、鈴は知ってるんだよね」
「そうだけど、アンタたちだって、アタシが知らない一夏を知ってるんでしょ? 少なくともアタシは一夏とデートなんてした事無いわよ」
「四人で遊ぶくらいだもんな」
「そうそう。でも一夏、あれって遊んでるというより集ってるって言った方が正しくない?」
殆ど使ったお金は弾か数馬の奢りなんだし。
「勝てばだろ。一位じゃなければ自腹なんだから」
「他ので勝って払ってもらったりしてたでしょ? だからアタシと一夏は何時も懐は痛まなかったわよ」
「それもそうか」
もちろん中学生が払えるレベルでの奢りなので、弾も数馬もそれほど文句は言ってこなかったのだけども。
「いいな~鈴ちゃんは。一夏君と普通に遊べるなんて」
「私たちだと如何しても友達感覚とは行きませんものね」
「でもアタシは逆に、友達感覚以外で一夏と遊んでみたいけどね」
「そりゃ無理だろ。何処までいったって、何時まで経ったって俺とお前は友人止まりだからな」
「分かってるわよ、そんな事」
前に振られてるんだし、そもそもあの時に一夏とそれ以上の関係になる事は諦めたんだからね……
「おりむ~、おかわり!」
「ホント良く食うなお前は……」
「お兄ちゃん私も!」
「出来れば私も」
「三人セットなのかお前らは」
本音に対抗するように、マドカと須佐乃男も豚汁のおかわりを要求した。まぁ気持ちは分かるけどね。
「ねぇ一夏、アタシもおかわりしていいの?」
「余らして捨てるのももったいないしな。食えるなら食ってくれ。ティナも遠慮無くな」
「そう言えば一夏さん、ISの整備はどんな感じです?」
「とりあえず全員納得してくれてる。ラファールも打鉄もどの子も使用しても問題無いコンディションだ」
「そう言えばアンタ、ISの声が聞こえるんだっけ?」
「正確には訓練機用のコアとその機体の声だけだどな。専用機の声はコアも機体も全く駄目だぞ」
一夏は訓練機も動かせないのに、何故声が聞こえるのかしら……普段から須佐乃男と会話してるから?
「刀奈、騎馬戦の結果を聞いて無いんだが。点数の集計しなきゃいけないから教えてくれ」
「優勝はサラちゃんのグループで準優勝がティナちゃんのグループよ。順位での点数の他に、サラちゃんのグループの取った水着の数も点数に反映しておいてね」
「ホントにあのルールでやったのか……」
「だから一夏さんは整備に集中してもらったのです」
「織斑先生が一番楽しんでたけどね」
そう言えばセシリアたちって千冬さんにやられたんだっけ……さっさと敵と遭遇しないからそうなるのよ……
「あー食った食った。一夏、ご馳走様」
「お前ホントに女かよ……」
「女だからこの学園に居るのよ。アタシはアンタと違って例外じゃないから」
「のわりにはガサツだよなお前。ティナに迷惑かけてないだろうな」
「アンタはアタシのオカンか! 部屋の掃除くらい自分でしてるわよ!」
ルームメイトのティナがちょっと苦笑いを浮かべてるけど、あの位置なら一夏には見えないはず。
「洗濯やゴミだしは? 掃除だけが分担って訳じゃないんだぞ」
「……分かってるわよそれくらい」
「さてはしてないな。まったくこれだから不精者は……」
「アタシは千冬さんまで酷く無いわよ!」
「あーはいはい。分かってる分かってる」
一夏の態度が頭に来たけども、ここで反抗しようものなら返り討ちにされるだけだしね……一夏に反抗するのなんて小五の時に諦めたわよ。
「ねぇ鈴、何でこの話題で織斑先生が出てくるの?」
「……あっ」
千冬さんに言ったら殺すと脅されてたんだった……如何しよう、さすがにこの部屋に千冬さんが飛び込んで来るなんてことは……
「鈴、扉の向こうに殺気をむき出しの駄姉が居るんだが?」
「嘘でしょ!?」
「ああ嘘」
「……ねぇ一夏、アタシを苛めて楽しい?」
「それほど楽しくはねぇよ」
一夏は何時ものようにコーヒーを啜りながら人の悪い笑みを浮かべていた。
「ティナも余計な事を気にするな。命が惜しいのならな」
「織斑君が言うと冗談に聞こえないわね」
「あながち冗談って訳でもねぇし。それと本音、こぼしてるぞ」
「ほえ~?」
視線は完全にアタシたちの方に向いているのに、一夏は本音がこぼしてる事を指摘した。本人も気付いて無いのに、良く気付けるわよね……
「まったくだらしないな……ほれ、拭いてやるからこっちこい」
「ん~」
恋人、というよりも親子に見えるのはきっとアタシの気のせいでは無いはず……昔から千冬さんがだらしなかったから一夏が拭いてあげてたのを見たことがあるけども、あれはあれでおかしいと思ったのよね。
「そういえば鈴とティナは午後の競技には出るのか?」
「的当て? アタシは出ないわよ。中近距離が主なアタシの甲龍じゃ不利だもの」
「訓練機を使えば良いだろ。お前は俺と違って訓練機も使えるんだろ?」
「そもそも訓練機も扱えない人間に専用機が与えられる訳無いじゃない」
「それもそうか」
一夏は納得したようだけども、簪が少し不思議そうにしていた。
「如何かしたのか?」
「いや、鈴の専用機、甲龍には龍砲があるんだから、的当てでもそれなりに結果を残せるんじゃないかって」
「今回の的当てはあくまでも射撃がメインだ。砲撃である龍砲はルール違反だ」
「じゃあラウラウのミサイルもアウト?」
「そうだな。だからラウラも参加しないらしい」
参加表明してる人のリストに目を通して、一夏は少し笑っている。
「何か面白い事でもあるの?」
「いや、近距離が得意な篠ノ乃も参加するんだなと思って」
「箒が? 射撃赤点ギリギリなのに?」
一夏が見せてくれたリストには、確かに箒の名前があった。何で苦手分野にあえて参加するのかしらね……
「これは生徒会縛りも無いからな。簪も本音も思い切ってやってこい」
「お~!」
「私は正確に言えば生徒会じゃないんだけどね」
「ねぇねぇ一夏君、私と虚ちゃんには言ってくれないの?」
「もちろん刀奈や虚も頑張れよ。俺は参加しないが応援くらいはしてやるさ」
「あれ? 一夏は参加しないんだ」
「当たり前だろ。鈴、少し考えろ。女子の体育祭に男子である俺が参加したとして、その結果は公平だと言えるか?」
一夏に指摘されて少し考える。これが弾や数馬なら公平だと言えるかもしれないけども、一夏の身体能力を考えると話が違ってくる。
「確かに公平とは言えないわね」
「そもそもまだ完全に回復した訳じゃねぇしよ。参加しようものなら全力で止められるのがオチだ」
一夏の言葉にアタシとティナ以外の全員が頷いた。ここまで揃ってると何だか圧巻ね……
「ん? 何でアイツがこの部屋に近付いてくるんだ?」
「もしかして千冬さん!? アタシは此処に居ないわよ」
「いや、駄姉なら今は山田先生ら教員と一緒に飯を食ってる。さっき差し入れ持っていったからご機嫌だしな」
「じゃあ誰?」
「一夏ッ!!」
「アレ」
一夏が指差した先には、何故か怒ってる箒が居た。
「少し話がある」
「分かった。それよりも腹いせに切り刻んだ鈴とティナの制服は後で弁償しろよ」
「な、何のことだ」
アタシたちの制服は箒が持っていったのね……てか切り刻んだって、アタシたち何か箒を怒らせるような事したのかしら……
「悪いがちょっと出てくる。片付けは任せるからな」
「は~い。一夏君、今日もご馳走様」
「早くしろ!」
怒ってる箒に引っ張られていき、一夏は部屋から居なくなってしまった。
「何あれ?」
「さぁ? それよりも急いで片付けないと午後の競技に間に合わないよ」
「まだ大丈夫でしょ」
「リンリンは分かって無いな~。おりむ~に頼り切ってる私たちは、片付けるスピードがかなり遅いんだよ~」
「あー……なるほどね」
一夏が優秀な分、成長のチャンスが少ないこの部屋の人たちの家事スキルは、一夏と出会う前から成長して無いんだな……その気持ちは分かるけども、少しは一夏に楽させてあげなさいよね! ……アタシが言える立場では無いんだけどもさ。
篠ノ乃の用件を表情から察した俺は、なるべく人の来ない場所に篠ノ乃を連れて行った。
「ここなら邪魔されないだろ。それで、いったい何の用だ?」
「姉さんを脅してISのコアを造らせるようだな。そして学園所属の専用機をお前が造るんだと聞いた」
「……あの駄ウサギが、他言無用だと駄姉に言われてただろうが」
篠ノ乃の耳に入ると面倒だからとあれほど釘を刺しておいたのに……今夜にでも粛清に行くか。
「千冬さんに確認を取ったが、極秘情報で答えられないと言われた。つまりはお前が造るって事なんだろ」
「……その察しの良さ、他に使えないのが残念だよな」
まぁ空気の読める篠ノ乃など篠ノ乃では無いんだがな……コイツは空気が読めないキャラだからしょうがないんだが。
「それで、俺に何の用だ」
「その専用機、私に寄越せ」
「想像通りだな。当たり前だが断る」
「何故だ!?」
「むしろ何故お前に専用機を与えなければならない。訓練機に八つ当たりして軒並み嫌われてるお前に」
勝てないのはあの子たちの所為じゃなくお前が未熟だからだと何故分からない。訓練機だって正しく使えば専用機にも劣らない力が秘められているのに……
「なら誰にその専用機は与えられるんだ!」
「お前に答える義理は無い」
「一夏ッ!」
何処から取り出したのか、篠ノ乃の手には竹刀が握られている。こうやってすぐに暴力に訴え出るからお前は訓練機にも馴染めないんだよ。
「満足か? 用が済んだなら俺は行く」
「ま、まだ終わってない!」
篠ノ乃の振り下ろした竹刀を片手で受け止めてそのままいなして地面に倒す。前よりかは実力がついているようだが、その力を正しく使えてないから成長しないんだ。
「大体お前は自分に専用機に相応しい力があると本当に思ってるのか?」
「無論だ! 私は専用機を手に入れれば更に成長するだろう」
「……ここまで勘違いしてると、逆に凄いと感じるよな」
いっそ拍手を贈りたいと思うくらいに……
「そこまで言い切るなら試してやろう。時間もあまり無いしさっさと来い」
「何処に行くつもりだ」
「午後の競技用にカスタマイズした訓練機を使って、お前の実力を俺に見せてみろ。俺を納得させる事が出来たならお前にも造ってやる」
「言ったな? その言葉忘れるなよ」
「その代わり、俺を納得させる事が出来なかったら、金輪際専用機がほしいとかほざくな。反吐が出る」
手加減無しの侮蔑の視線を篠ノ乃に向け、俺は格納庫へと足を進める。正直あの子たちを篠ノ乃に使わせたくないのだが、己の未熟さを知らしめるには丁度いい機会だからな。一人くらいは付き合ってくれる子も居るだろう。
「さて、お前はどの子を使う」
「どれでも変わらん。お前が選べ」
「……チッ」
コイツ、ISの事を道具としか見てねぇな。そんなだからお前はISから嫌われるんだ。
「(さて、悪いがこの阿呆に現実を見せる為に力を貸してくれないか)」
殆どの子が拒否反応を示す中で、一人手伝ってくれる子が名乗り出てくれた。
「(悪いな。後でちゃんとお礼はするから)」
名乗り出てくれた打鉄の装甲を撫でて、俺は篠ノ乃に視線を向ける。
「この子がお前に付き合ってくれるそうだ。さっさと準備するんだな」
「この子? お前はISに意識があるとか言ってるようだが、こんなのはただの道具だろ」
「……そんなだからお前はISにも人間にも嫌われるんだ」
声が聞こえないのは他の連中もそうだが、だがコイツほどISの事を馬鹿にしてるヤツは居ない。なるべくこの子にでは無く篠ノ乃にダメージを与えるようにしないとな。
「それで一夏、如何やって私の実力を示せばいい?」
「一発でも俺に攻撃を当ててみろ。当てられたら合格だ。だが一撃でも俺にダメージを喰らわされたら、大人しく自分の未熟を認め、さっきの言葉を取り消してISたちに謝ってもらう」
「さっきの言葉?」
コイツ、まったく自覚してねぇのかよ……だから俺はコイツが嫌いなんだよ。
「『ISなんてただの道具』、お前はあの子たちの前でそう言ったんだよ。その事でどれだけあの子たちが傷ついたと思ってやがる」
「事実だろ。IS乗りである事を自慢してるヤツらも居るが、国から貸し与えられた玩具にはしゃいでる阿呆にしか見えないな、私には」
「『玩具』ねぇ……」
手加減してやろうかと思ったがそんな気持ちは消えてなくなったな。コイツには微塵も容赦しねぇ。
「開始のタイミングはこのコインが地面に落ちたらだ」
「トスはどっちがやるんだ」
「お前がやれ。後でタイミングが不公平だとか言い出されたら面倒だ」
自分でトスして負けたなら言い訳も出来ねぇだろうしよ。
「ふ、一夏も私の事を甘く見すぎだ。生身の相手に一撃当てるくらい造作も無い事だ」
調子に乗ってる篠ノ乃を睨みつけ、俺はあの子に謝る。
「(悪いな、こんな茶番劇に付き合わせてしまって……なるべく痛く無いようにするからな)」
IS本体では無く篠ノ乃を狙うにしても、ISには絶対防御が存在するからな……ISへのダメージもそれなりにあるのだ。
篠ノ乃がコインをトスして、そのコインが地面に着くまでの間、俺は目を閉じ集中する。
「一夏ッ!!」
馬鹿正直に突っ込んできた篠ノ乃の攻撃をかわして、俺は篠ノ乃に蹴りを喰らわせる。絶対防御が発動してエネルギーが全て尽きて、篠ノ乃は打鉄から解除され吹き飛ばされる。
「これで分かったか? 身の程ってやつを」
エネルギー切れになった打鉄を回収してすぐさま再調整を施す。阿呆な事に使って試合に間に合わなかったら洒落にならねぇしな……
箒に友達が出来ない理由は此処にあるって感じになりましたかね?