IS学園体育祭の最大の目玉競技である的当ての参加者を均等に振り分けてグループを作成するんだけど、こういった作業は正直得意じゃないのよね……一夏君や虚ちゃんが普段からやってくれてるから私は成長しないんだと自覚してるんだけども、やっぱり苦手なものは苦手なのだ。
「虚ちゃん、一夏君は何処に行ったのかしらね?」
「篠ノ乃さんに連れて行かれましたから、何処だか分かりませんよ。それよりもお嬢様、さっさと手を動かしてください」
「ううぅ……苦手なのよこういうの……」
参加者が多いし力にもばらつきがあるし……コンピューターで分けるといってもデータを打ち込むのは私たちな訳だし……簪ちゃんに手伝ってほしかったんだけど、午後の最初の競技に参加するからって断られちゃったのよね……
「何でしょう、今の音は……」
「向こうのアリーナから聞こえてきたわよね」
何かが吹き飛ばされたような音と、そのすぐ後に何かがぶつかった音が生徒会本部にまで響いてきた。
「あっちって確か、一夏君が整備したISが保管されてる場所よね?」
「今確認します……」
虚ちゃんが携帯を取り出して一夏君に連絡する。私も気になる為に、虚ちゃんにはスピーカーモードにしてもらった。
『何かあったのか?』
「それは此方のセリフです! 今一夏さんが整備したISが保管されてる場所の近くのアリーナでもの凄い音が……」
『ああそれな。別に問題無いから気にするな』
「……何があったの?」
一夏君の声から、少し苛立ちを感じ取ったので、私は一夏君に原因を聞く事にした。
『身の程知らずを粛清しただけだ。それ以上何も無い』
「身の程知らずって箒ちゃんの事よね、何があったのよ……」
『関係無い……っと言いたいところだが、刀奈と虚は知ってるんだもんな。専用機の件で篠ノ乃が馬鹿な事を言い出したから身の程を教えてやっただけだ』
「そうなんだ……それじゃあ的当てには箒ちゃんは参加しないんだね?」
『それは知らん。気を失ってるが特に肉体的ダメージを残すようなヘマは踏んでないからな。ダメージが残るとしたら精神的にだろうよ』
電話越しでも分かる、一夏君が人の悪い笑みを浮かべてるのが……
「それと一夏君、早く戻ってきてくれないとエントリーが終わらないのよね」
「それはお嬢様がのんびりしてるからでしょうが」
「だって~」
『はいはい、篠ノ乃が使った子を再調整したら行くから、それまでは刀奈も頑張るんだな』
「もしかして一夏君、また生身でISと戦ったの?」
須佐乃男は本音やマドカちゃんと一緒に放送席に行ってるし、そもそも箒ちゃんと出かけた時に須佐乃男は部屋に残ってたし……
『別に攻撃されて無いから気にするな。そもそも亡国企業の手練と素人同然の篠ノ乃とでは比べ物にならねぇよ』
「そういう事じゃありません! 一夏さんは何度も何度も無茶をして……心配する身にもなってくださいよね!」
虚ちゃんが珍しく怒ったので、一夏君は何となく気まずそうな雰囲気を電話越しで醸し出している。
『心配させたのは悪いと思ってるが、だが如何しても篠ノ乃を許せ無くてな……』
「何があったんです?」
一夏君の説明を聞いて、一夏君が怒ったのも仕方ないと確かに思った。ある意味箒ちゃんは割り切ってISと向き合ってるのかもしれないけども、ISと意思疎通出来る一夏君からすれば、個々の違いを否定され、存在を否定されたISの気持ちが伝わってきたんだろうな。怒れないISの代わりに一夏君が怒ったんだろう。
「それで、そのISは無事なの?」
『機体に怪我は負わせてない。シールド・エネルギーを一撃でゼロにして強制解除させて吹き飛ばしただけだからな』
「訓練機を強制解除……一夏君、少し設定弄ったでしょ」
『試合そのものに影響は出ないさ。ただ吹き飛ばされずにこの子の中に留まられるとこの子にもダメージが行くからな。それを防いだだけだ』
「ですが、篠ノ乃さんは壁に打ち付けられたのでは」
『自業自得だ。それに壁にも細工してあるから衝撃は音ほどでかくない』
さすが一夏君……手回しが良いと言うか何と言うか……初めからこの事態を予期してたような準備の良さよね……
「それでは先ほどの音は特に気にする必要は無いという事を放送しておきましょう」
『そうしてくれ。こっちももうじき終わるから』
「電話しながら整備してたの?」
『エネルギーの充填と機体に破損が無いかのチェックだけだからな』
一夏君の作業スピードを甘く見てたわ……ながら作業でも信じられない速さね……
「それでは一夏さん、また後ほど」
『ああ。刀奈もサボるなよ』
……何で逃げ出そうとしたのがバレたんだろうな……一夏君に釘を刺され、虚ちゃんに視線で射抜かれて私は逃げ出そうと浮かせた腰を再び椅子に下ろしたのだった。
「お嬢様、本音に連絡しておいてください。その間に私がエントリー作業を進めておきますから」
「ホント? じゃあお願い」
ポケットから携帯を取り出して本音の番号にコールする。
『はい、どうかしたんですか~?』
「さっきの音、別に心配ないって放送して」
『音? ……え須佐乃男とマドマドには聞こえたの!? 私全然気がつかなかったよ~』
「もしもし本音?」
電話の向こう側で繰り広げられているであろう会話が聞き取れない私は、本音の名前を呼んだ。
『あっ、すみません。今スピーカーモードにしますね~』
私が気になってる事に気がついたのか、本音はスピーカーモードにして須佐乃男とマドカちゃんの声も聞こえるようにしてくれた。
『それで楯無様、先ほどの音の正体はいったい?』
「あれね、一夏君が箒ちゃんを粛清した音だってさ」
『お兄ちゃんが篠ノ乃を? 何があったんですか?』
「えっとねぇ……」
さっき一夏君から聞いた理由をそのままマドカちゃんたちに伝え、説明が終わったのと同時にマドカちゃんが納得の声を上げた。
『お兄ちゃんが怒るわけだよね……あの馬鹿はお兄ちゃんが怒るように行動してるとしか思えないくらいお兄ちゃんを怒らせてるよ』
『そうですね。個性を否定されたISたちの代わりに怒るなんて一夏様らしいですよね』
『ほえ~、シノノン死んじゃったの?』
「一夏君曰く、別に肉体的ダメージは残らないそうよ。残るのは精神的ダメージだけだって」
もしかしたら「IS操縦者」としての篠ノ乃箒は死んだのかもしれないけど普通に生活してくぶんには問題無いんだろうな。
『お兄ちゃんも何だかんだで優しいよね。私なら肉片一つ残らずに消し去るのに』
『マドカさん、学園で殺人はマズイですよ。せめて半殺しくらいで押さえて下さい』
「………」
さすがは一夏君の義妹と専用機よね。黒い事をあっさりと言い放つんだから……
『えー皆さん、先ほどの爆発音は、おりむ~がシノノンを粛清した音だそうですので、別に気にしなくても大丈夫で~す』
『ちょっ、本音! 何そのまま放送してるの!?』
『ほえ~? 駄目だった~?』
『駄目ではありませんが……兎に角その口調だけは駄目ですよ』
スピーカーを通して聞こえてくる本音たちの声に、虚ちゃんは頭を押さえていた……おそらく本音の放送を聴いて頭痛がしてきたんだろうな……
「随分と間延びした報告だな」
「あっ、一夏君」
「エントリー作業は終わったのか?」
「まだです! お嬢様がずっと電話に感けてたので」
「ちょっ!? 虚ちゃんが電話しろって言ったんじゃない!」
「どっちでもいい。とっとと終わらせるぞ。それと本音、事実だがもう少しオブラートに包む事を覚えろ」
私の携帯を手にとって本音にそれだけ言った一夏君は、通信を切って私に携帯を手渡してくれた。
「エントリー作業の進行度は……まだ半分も終わってないのか」
「だってこういった作業、苦手なんだも~ん」
「やけに参加者が多いのが気になるんだが……まさかまた何か報酬とか考えてるんじゃねぇだろうな」
一夏君の言葉に、私と虚ちゃんは揃って視線を一夏君から逸らした。つまりはそういう事なのだ。
「……怒らないから何企んでるのか言ってみろ」
「本当に怒らない?」
上目遣いで一夏君を見ると、一夏君はちょっと視線を逸らした。まだこれは有効のようね。
「あまりにも酷くない限りは怒らねぇよ」
「嘘吐いたら一夏君のベッドに忍び込むからね。私たち二人が」
「えっ、私もですか!?」
普通の男の子にはご褒美でしか無いんだろうけども、一夏君にとっては安眠妨害の何ものでも無いのだ。
「分かった分かった……それで?」
「えっとね、上位五名は一夏君と一緒にご飯が食べられるって」
「……五名って、刀奈、虚、簪、本音で四人は決まりだろ」
「油断はしてないけど、多分そうだろうね」
後は美紀ちゃんかティナちゃんかよね……大穴でサラちゃんとかエイミィちゃんもありえそうだけども。
「それって別に普段とあまり変わらねぇよな?」
「そうね~。でも、後一枠を賭けた熾烈な争いって盛り上がるわよ~」
「くだらねぇの……」
マドカちゃんが参加しないからこそ成り立った勝負だものね。選手としてだけども、思いっきり楽しんじゃえ!
午後の競技も順調に進み、残すは後一競技になった。今年の体育祭の目玉である競技なのだが、本来なら俺も参加してるはずだったんだよな……
「さて、残すところ後一つになりました今年の体育祭、最後の競技の放送は、何の因果か「世界で唯一ISを動かせる男」の織斑一夏と」
「私、「公式戦無敗、モンド・グロッソを連覇したブリュンヒルデ」こと織斑千冬でお送りします」
「ホントなんでこの二人なんだ……」
主だった生徒会メンバーが的当てに参加してるんだから仕方ないのだが、何故駄姉を相方に選んだんだ……
「さて一夏、本来ならお前がぶっちぎって優勝するはずだった競技だが、お前は如何見る?」
「さてね、とりあえず生徒会メンバーは順当に勝ちあがるだろうが、後は分からん」
「だが何故マドカが参加しないんだ?」
「分かりきった試合はしたく無いとか言ってたぞ」
残り一枠を自分で埋めるのがつまらないとでも思ったのだろう……正直マドカが参加してくれてたら俺も普通に生活出来たんだがな……
「お前が参加しない事で、各国のお偉方が不満を垂れてるようだが、文句があるヤツはかかってこい! 私が相手を……痛いぞ一夏」
「国際問題を勃発させるつもりかアンタは! 俺が参加しない理由は、少し前に怪我したのが影響して、今まともにISを動かせないからです」
「武装だけなら出来るだろ?」
「如何やって空中に留まれと?」
この競技は空中を移動しながら、時に空中に留まりながら的を射る競技だ。武装だけではさすがに参加は出来ない。
「尚予選は各アリーナで同時に行われる為、スクリーン観戦になりますがご容赦ください」
「メインアリーナでも予選は行われるので、そこだけ見ても問題は無いがな!」
「だから何で偉そうなんだよ……」
予選は各アリーナで行われる為、決勝戦は勝ち抜いた七人で行われる。まぁ決勝まで残っただけでもかなりのポイントがその選手が在籍するクラスに与えられるのだが、参加者の目的は別にあるしな……ホント面倒な事を考えたよな……
「予選グループの決定はコンピューターがランダムに選んだからな。実力差があっても泣くなよ」
「初めは均等になるように分けるつもりだったんだが……」
それでは面白くないと駄姉以下教師陣が乗り込んできた為に、結局ルーレットでグループ分けされたのだ。その結果優勝候補の四人が見事に別グループに分かれてしまったのだ。
「一夏は誰が勝ち進むと思う」
「順当に行けば楯無、虚、本音、簪は確定だろ。この四人は格が違う」
「それは私も同意見だ。残る三つのグループだが、一つはサラ・ウェルキンで決まりだろ」
「あのグループ唯一の候補生だからな」
「後は混戦か」
エイミィのグループにはセシリアとシャルが、美紀のグループには篠ノ乃やティナがそれぞれエントリーされているのだ。これもまた微妙な組み合わせだよな……
「更識姉と布仏姉はエントリーしたが、残りの上級生の専用機持ちは如何したんだ?」
「疲れる事はしたく無いと、体育祭自体不参加だそうだ」
「ほう、それは私への挑戦と取って良いんだよな?」
「良いわけあるか。とりあえず予選第一選手の競技が始まるようなので、無駄話は一時中断します」
モニターで見る限り、第一選手の中で際立った成績の人は居なかった。まぁ候補生も代表も居ないしな……
「そう言えば一夏、今回の豪華賞品は何だ?」
「何だいきなり」
「いや、目玉競技には豪華賞品があっただろ? だからこの競技にも当然あるんだろ」
「さっき聞いたが、俺は承諾してないんだがな……」
「なになに……「上位五名は一夏と一緒にご飯が食べられる」か……何とも羨まけしからん賞品だな!」
「別に飯を一緒に摂るくらい良いんだが、回数も日程も何もかも不明のことなど、俺は承諾しかねるんだが」
あえて書かなかったのか、それとも上限無しなのかも分からないし、そもそも上位五名の内四人は決まってるようなものだからな……今更発表したところで選手のやる気が上がる訳でも無いしな……
「次はイギリス候補生のオルコットがやるようだな」
「一応注目選手の一人ですからね。どんな結果を出してくるのか」
正直あまり興味は無いんだが、実況という立場上盛り上げなくてはいけないのだ。
「オルコットといえば漸く「偏向射撃」が出来るようになったとか」
「そのようですね。それが有効に使えるか如何かが鍵となりそうです」
動かない的ならセシリアやシャルにも勝気は十分あっただろうが、これは自分も的も動く競技だからな……二人には分が悪いだろう。
「平均を少し上回っただけか」
「期待を大きく下回りましたね」
「普段から慢心してるからこんな結果に終わるんだ」
「まぁそれくらいで……次はフランス候補生のシャルロットとIS学園期待の星の四月一日美紀が参加のようです」
「期待してるのは一部の人間だけだろ」
「まぁそう言うな。危険に晒されてる状況で一人でも多くISを「まとも」に扱えるやつが居るのは心強いだろ」
俺の言い分に、駄姉が僅かに笑った。如何やら口では文句を言ってるが本心は俺と同じらしい。
「私はフランス候補生のデュノアの点数が気になるがな」
「受け持ちの生徒ですものね。でも四月一日美紀も受け持ちですよね?」
「アイツはお前が気にしてやってるだろ。両方で同じヤツを気にしてもな」
「その気遣い、何故他で出来ないのかが気になりますが、そろそろ時間のようですね」
モニターで両者の動きを見比べても、やはり美紀の方が無駄の少ない動きで確実に的を打ち抜いている。
「デュノアも期待はずれだな」
「まぁこんなものではないでしょうか。まだ一年ですし」
「四月一日は満足行く結果だろうが」
「では指導者の差では?」
駄姉に視線を向けると、同じような速度で視線を逸らしていった……自覚はあるようだな。
「さて、次は注目選手が続々ですね。更識楯無、布仏虚、更識簪、布仏本音、サラ・ウェルキンが一気に参戦する様子ですね」
「この組み合わせ、本当に無作為なのか?」
「貴女が組んだんですよね?」
「私は決定ボタンを押しただけで、組んだのはコンピューターだ!」
まぁそうなんだがな……とりあえず作為的な何かを感じる組み合わせだが、確かに無作為に選ばれた順番なんだよな……
「それともう一人、大天災の妹の篠ノ乃箒も同時にスタートするようですよ」
「アイツには期待してないからな」
「随分と辛辣なコメントですね」
正直俺も期待もしてなければ興味の無いんだがな……マイクがなければ言ってる事だが自重してるんだよ……
「見てて可哀想になるほどの圧倒的な差がありますね……」
「そもそも篠ノ乃は射撃部門赤点ギリギリだからな」
「何故エントリーしたんでしょうね」
障害物競走も騎馬戦も散々な結果なのに、何故こういった強者が大勢居る競技にエントリーするんだか……
「お前が最初にあげた優勝候補、全員パーフェクトだそうだ」
「サラ・ウェルキンもほぼ予選突破ですね」
モニターに映し出された結果を見て、俺たちは解説を続ける。
「篠ノ乃は何がしたかったんでしょうか?」
「平均を大きく下回ったな」
「これは年末の試験が心配な結果ですね、織斑先生」
「射撃は山田先生の担当だ。私は知らん」
「だそうですよ。山田先生、胃薬の準備は怠らないようにお願いします」
その後エイミィとティナが出てくるまでは、特筆するような選手は居なかった。
「最後はイタリア候補生のアメリア=カルラとアメリカで期待値大のティナ・ハミルトンが参加するようですね」
「アメリアはここで負けると厳しい目が向けられるだろうな」
「セシリアもシャルロットも大した結果では無かったですからね……これでエイミィまでもとなると、ヨーロッパの候補生は大した事無いと思われそうですしね」
「ハミルトンの方は、四月一日が驚異的な点数を出してるからな。厳しいかも知れん」
「どちらも俺たちの期待は高いですからね。頑張ってもらいたいです」
既に決勝進出を決めているのは、刀奈、虚、簪、本音、サラさんの五人だ。残る枠は美紀とティナ、エイミィとシャルで争われるのだが、正直エイミィは決定だろうと思っている。
「これは順当な結果ですね」
「残る二枠は、四月一日美紀とアメリア=カルラで決定です」
ティナもかなり高い点数だったのだが、美紀には届かずに決勝進出は美紀に決まった。決勝は戦い方が変わるんだが、俺がプログラムする事になってるから、これまた一波乱があるかもしれんな。
何時もより時間が掛かったな……そして次回ちょっと脱線予定