予選が終わって決勝の為に一夏君がプログラム変更を行う間だけ、私たちは休憩する事が出来る。
「やっぱりこの四人は決まりだよね」
「一夏に鍛えてもらってるから、簡単に負ける訳にはいかないもんね」
「ですが、一夏さんのプログラム、少し甘めに設定してありましたよね?」
「確かに~。予選とはいえおりむ~らしくないな~って思ったよ~」
私たち四人の感想と、残り三人の感想は全くの逆だった。
「私はかなり苦戦したんだけど、やっぱり楯無たちはレベルが違うわね」
「同じ候補生だけど、簪が頭一つ抜けてる感じがするわよね」
「一夏様のプログラムが甘めだと言える四人が羨ましいですよ」
「でも、サラちゃんもエイミィちゃんも美紀ちゃんも予選ではいい結果を出してるでしょ? 勝負はここからよ」
「この中の二人は、一夏さんと一緒に食事が出来ませんからね」
上位五人だけが一夏君とご飯を一緒に食べれるのであって、残り二人は決勝に進出したのにも関わらず、特に特典は無いのだ。
「大体布仏先輩や楯無たちは普段から一緒に食べてるんじゃないの?」
「一夏君と一緒の部屋だけど、一夏君ってあんまりご飯食べないのよね」
「そうなんですよね……自分だけ食べないで私たちにだけ食べさせるんですよね」
「それって如何なのよ……織斑君って料理上手なんでしょ? 味見でお腹いっぱいになってるとか?」
「それはないと思いますよ。本音じゃあるまいし」
「かんちゃん、それってひどく無いかな~?」
休憩時間だけあって、この場にピリピリした空気は流れていない。特典は無くとも得点は確保したのだから、それこそピリピリする要素が見当たらないのだ。
「サラちゃんも美紀ちゃんも、それにエイミィちゃんも一夏君が専用にカスタマイズした機体だけあって動きがちょっと違ったよね」
「やはり一夏様のカスタマイズした機体でしたか」
「あれ? 美紀は知らなかったの?」
「エイミィのは知ってたけど、先輩のは聞いてなかった」
「おりむ~の関係者と、おりむ~がカスタマイズした訓練機で参加した人が残ったんだね~」
「言われてみればそうだね! さすが一夏君の彼女って思ってたけど、私たちも一夏君関係者だったんだ」
正直エイミィちゃんとサラちゃんがこの競技に参加してる本当の理由を知っている私からすると、この後の決勝を二人が真面目にやるのかが気になってしまう……射撃データがほしいって一夏君が言って参加した二人は、果して特典を目指すのか、それともデータを確実に取っていくのか……
「そういえば、他の候補生の結果って芳しくなかったんだよね?」
「そうですね。軒並み予選敗退、オルコットさんにいたっては射撃に特化したISを使用してたのにと来賓の間で噂になってるとか」
「それ、誰が虚ちゃんに教えたの?」
「隠密行動中のマドカさんです」
来賓の中に亡国企業に通じてる人が居ないかを探ってもらう為に、マドカちゃんにはこの競技を諦めてもらったのだ。それにしてもセシリアちゃんもとんだ赤っ恥よね。大勢の来賓の前であの結果は……調子が悪かったのかしら?
「如何やらセシリアはサラ先輩を意識しすぎて力んだんじゃないかって一夏が」
「私? 別にオルコットとは何とも無いんだけどな……」
「見立てでは、騎馬戦で優勝したサラ先輩に、同郷であり同じ候補生でもあるセシリアが対抗意識を燃やしたんじゃないかって。それが空回って悲惨な結果になったんだろうって書いてある」
「何処に?」
「メールに」
簪ちゃんが見せてくれた一夏君からのメールには、私たちの会話が聞こえてたんじゃないだろうかと思わせるほどタイムリーな内容が書かれていた。
「別に私はブルー・ティアーズには興味無いんだけどな……」
「セッシーは気にしてるって事ですよ」
「正直あんまり接点無いしね」
「まず学年が違うもんね。サラちゃんは別にエリート感出してないけど、セシリアちゃんは酷いものね」
「候補生で満足したくないの」
「大人ですね~」
エイミィちゃんが本心だか冷やかしだか微妙な口調でサラちゃんを褒める。すると意外な事にサラちゃんは照れているようだった。
「そうだ。サラちゃん、エイミィちゃん、一夏君から伝言があったんだ。ちょっと二人ついて来てくれる?」
「お嬢様、一夏さんからの伝言とは?」
「ゴメンね。他言無用な上に誰かに聞かれたら私が……」
虚ちゃんは知ってるから大丈夫だけど、一夏君からの指令を思い出し、その時の一夏君の雰囲気も同時に思い出して、私はガタガタと震えだした。
「察しました。それでは私たちは大人しく待ってます」
「え~! 気になるよ~!」
「じゃあ本音はお姉ちゃんと一緒に粛清されたいんだね」
「ちょっと!? 私はされたく無いんだけど!」
大体一夏君を怒らせる勇気なんて私には無いわよ……だってさっき大きな音がしたアリーナの映像を会長権限で視たんだけど、あれは怖かったわよ……一夏君ってあそこまで怒るんだって感じよね……
「ご安心を。本音ちゃんは私が捕らえていますから」
「はなせ~!」
「ゴメンね本音。私もお姉ちゃんが一夏に怒られるの見たくないんだ」
「かんちゃんまで~!」
美紀ちゃんと簪ちゃんに押さえつけられ、虚ちゃんに監視される事になった本音は、暫くしたら大人しくなった。
「それじゃあ行きましょう」
「了解」
「分かりました」
選手控え室から少し離れたところで、私は二人に一夏君からのメッセージを伝えた。
「予選である程度のデータは取れたから、決勝は二人の判断に任せるそうよ」
「如何言う事?」
「多少無茶して実力以上の結果を狙っても良いし、堅実に実力の中で競技に挑んでも良いって言ってたわよ。ガムシャラに挑めばそれなりに良い結果を出せる二人だから、一夏君は二人の判断に任せるって言ったんだと思う」
特典を気にするか、それとも専用機の為のデータを優先するかは本人次第って事なんでしょうけども、一夏君も性格悪いわよね……こんなに悩んでる二人なんて見た事無いわよ。
「答えは私に言わなくていいわよ。だって敵同士なんですから」
悩んでる二人を置いていって、私は控え室に戻る事にした。もちろん誰かに聞かれる可能性も考慮して、専用機という単語は口に出さなかったんだけどね。一夏君に怒られちゃう可能性が高いから……
予選で敗退して、私はクラスの集合場所に戻った。これも全て一夏が悪いんだ。
「お疲れだな、箒、セシリア、シャルロット」
「ラウラは参加してなかったね」
「私のはミサイルだからな。射撃とはまた違うから」
「そう一夏さんに言われましたの?」
「いや、教官にだ」
ラウラの言葉に、私たち三人は実況席に居る千冬さんに視線を向けた。
『一夏がプログラムを書き換えてる間、暫く予選のハイライトでも流しとくので見てろ』
相変わらず一夏が傍に居ないと強気全開だな……
「それにしても、セシリアが予選敗退とはな……正直意外だったぞ」
「自分でも驚いてますの……気合が空回りしてしまいましたわ」
「うん、そんな感じだったね。あと一夏のプログラムがかなりレベル高かったからね」
「そうなのか? ここから見てる分にはそんな感じは受けなかったが……」
「あれは実際にやってみないと分かりませんわ」
セシリアとシャルロットの言い分に、私は頷いて同意する。私たちの時だけ難易度を上げたんじゃないだろうな……
「同調してるところ悪いんだけど、箒のは普通に駄目だったんじゃない?」
「そうですわね。今見ましたが、箒さんのはプログラム関係では無く射撃の腕の問題ですわね」
「何! そんな事は無いだろ!」
正直結構いけてるつもりだったので、二人の感想は衝撃的だった。あれはもう少しプログラムが簡単だったらパーフェクトいくだろうとも思ってたのに……
「箒は近接が主だからな。だがあの射撃の腕でよく参加しようとしたな」
「五月蝿い! 参加自由なんだから別にいいだろ!」
「誰もいけないなんて言ってないよ」
「そうですわ。箒さんはすぐに怒る癖を如何にかした方がいいですわよ」
「グッ、グゥ……」
完全に言い返せない事を言われ、私は声にならない声を漏らす。だがあれは一夏のプログラムも悪いんじゃないのか!?
『さて、プログラムの書き換えが終わったようなので、ここからは一夏にも予選の結果をコメントしてもらうとしよう』
『随分と好き勝手言ってたなアンタ』
『別に嘘は言ってないだろ』
『確かにそうなんだが……』
スピーカーから一夏と千冬さんの会話が流れてくる。確かに千冬さんは今まで好き勝手言ってた印象があったが、それを面と向かって本人に言えるのは一夏だけだろうな……
『私は篠ノ乃がワーストだと思うんだが、一夏は如何だ?』
『確かに篠ノ乃も酷いが、気合の空回ったセシリアもなかなか酷いだろ』
『だがあれでも候補生だからな。落ち着けばそれなりには結果を出せただろうからな。だから私が選ぶワーストは篠ノ乃だ』
『候補生だからこそ、常に冷静で居てほしいとは思わないのかよ……アンタ一応教師だろ』
『お前が煽ったんじゃないのか?』
『俺がそんな面倒な事する訳ねぇだろ』
『それもそうか』
スピーカーからは予選の結果を見て誰が一番酷かったかを話してるようだが、私がワーストだと!? 千冬さんも冗談キツイな……
「良かったな箒。教官が認めてくれたぞ」
「ワーストだってさ……」
ズレているラウラは、純粋に選ばれた事を羨んでるが、シャルロットは笑いを堪えてるのがバレバレの表情を浮かべていた。
「セシリアも一夏の同情されて良かったね……」
「兄上に興味を持ってもらえるなんて羨ましいぞ。私も参加すれば良かった」
こっちでもズレたコメントをしたラウラは放って置くとして、シャルロットのヤツ、何であんなに黒いんだ?
『じゃあやはり一夏が選ぶワーストは』
『セシリアじゃね? 騎馬戦でサラ先輩に負けたのをやっかんで勝手に意識して自滅。典型的な駄目パターンだろ』
『そもそもオルコットは騎馬戦でウェルキンと戦ってないんだが』
『そうらしいな。アンタが嬉々として狩ったって聞いたよ』
『隙だらけのやつらがいけないんだ! 私は頼まれた仕事をしただけだからな!』
『はいはい……準備出来ましたので、五分後に決勝を開始します。決勝は一人一人で行い、合計得点の高い人が二回目の順番を決められ、総合得点が高い人が優勝って、何だこのメモ』
『当たり前な事が書いてあるな』
『とりあえず、二回やって一番的を射た人が優勝って事です』
なげやりになった解説に、他のヤツらも力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「やっぱり一夏が選ぶワーストはセシリアだって……よかったじゃん、一夏に見てもらえてたみたいだよ」
「シャルロットさん、少しお話があります」
「私もだ、少し付き合ってもらうぞ」
「何だ? 三人は決勝見ないのか?」
「ラウラは大人しくしててね」
「分かった」
如何やらシャルロットもラウラを巻き込むつもりは無いらしいな。意外と気にしいなのかもしれないが、私たち二人を侮辱した事には変わり無いのだ。
私たちは全校が決勝に注目してる間にけりをつけるつもりで、無断でアリーナと訓練機の一機を使用することにしたのだった。
決勝の準備も終え、解説席でボーっと出来ると思ってたらウチのクラスの集合場所から気配が三つ動くのをキャッチした。
「(これは、シャルとセシリアと篠ノ乃……何してるんだあの阿呆共は)」
今はマイクのスイッチを切ってある為に、俺は駄姉にその事を伝えた。
「おい駄姉よ」
「その呼び方じゃ反応しないもんね」
「……クソ教師」
「酷くなってるだろ!」
「五月蝿い、クラスの集合場所から三人が移動した。トイレって感じでもなさそうだぞ」
「別にそれくらいなら問題無いだろ」
「向かった先がアリーナで、ISを無断使用しようとしてるって言ってもか?」
現在進行で気配を探ってる為、目的地も何をするつもりなのかも大体の察しはついた。だが原因が分からん。
「それは私に対する挑戦と受け取って良いんだよな? では粛清に……」
「アンタじゃISごと破壊しかねないだろ。ここは俺が行く」
「だが実況は……」
「マドカ、何時まで隠れてるつもりだ?」
「えへへ……やっぱりお兄ちゃんにはバレちゃったか」
気配を殺し、また気配を偽って部屋の様子を窺っていた義妹に声をかけて部屋に入れる。
「来賓は如何だ?」
「馬鹿ばっかだね。亡国企業と通じてそうなヤツは居なかったよ」
「そうか。では次の指令は俺の代わりにこの駄姉と決勝の実況を頼む」
「分かった」
「てな訳でだ、駄姉よ」
「分かった。粛清はお前に任せる」
駄姉も諦めたようで、俺は解説席からバレないようにコッソリとアリーナに近付く事にした。まぁ気にしなくても、あの三人に気取られるほど油断してないんだが念のためにな。
「(せめて原因が分かれば、誰を止めれば良いか分かるんだが……)」
会話を拾えないのが痛かったな……須佐乃男でも配備しとけばよかったぞ……
「(タイミングから推察すると、あの三人が移動したのは俺と駄姉が予選を振り返ってる時だよな……そしてセシリアと篠ノ乃は俺と駄姉が選んだワーストだ……それをシャルが冷やかしたのか馬鹿にしたのかは分からないが、恐らくそれが原因かも知れないな)」
アリーナの格納庫に到着し、俺は三人の会話を拾う為に全神経を耳に集中させる……ISの声が聞こえるけど、今聞きたいのはこの声ではない。
「……たら……ばいい……」
「当然……さまは……らな」
「……シャルロットさんは……ですものね」
やっぱりまだ距離があるな……それに既に上空にいるようで上手く声が拾えない……
「もう少し近付いたほうがよさそうだ」
気配を出しても、アイツらは既にアイツらしか視界に入らないだろうし意識にも入らないだろう。俺はそそくさとアリーナ入り口まで移動して、再び耳に集中した。
「私たちを侮辱した罪、償ってもらいますわ!」
「僕は事実を言っただけだよ。一夏や織斑先生が二人をワーストに選んだのは事実でしょ!」
「あの二人に言われるのと、貴様に言われるのとでは癇に障る具合が違うんだ! 貴様には言われたく無い!」
「そうですわ! あのお二方は正確に分析して言ってましたけども、シャルロットさんは完全に嫌味でしたもの!」
「五月蝿いな。事実二人は酷い結果だったんだから、その事を言われて怒るなんて逆恨みも良い所だよ」
何だ、何時ものシャルのブラックモードが出ただけか……それでアリーナと訓練機の無断使用とは……コイツらは一度徹底的に反省させた方が良いんじゃないだろうか。
「シャルロットさんはついこの間まで反省してたんじゃありませんか?」
「そうなんだが……一向に反省の色が見られないんじゃしょうがないだろ」
「……驚いてくれないんですか?」
「気配で分かる」
「残念です……近くに一夏様の気配を感じ取ったので来てみたら、これは私の出番かもしれませんね」
「お前を動かした方が、生身で三人相手にするより楽だからな」
いくら二人が候補生で、篠ノ乃もそれなりに力をつけているとはいえ、正直須佐乃男ありきで対峙すれば一撃で終わらせる自信がある。もちろん慢心はしないつもりだが、慢心しなくても同じ事を思うほど三人との実力差は明白なのだ。
「さて、とっとと終わらせて決勝を見るとするか」
「一夏様も大概面倒くさがりですよね」
須佐乃男を展開して三人の間に割ってはいる。
「さて、ISの無断使用にアリーナの使用申請を怠った事について、言い訳があるなら聞くだけ聞いてやる」
「僕は二人に連れてこられて身を守る為にISを展開したんだ。不可抗力だよ」
「元々はシャルロットさんがあんな言い方をしなければ良かっただけですわ!」
「そうだ! お前に言われると腹が立つんだ!」
如何やらそれぞれが反省してないようだな……面倒だが仕方ない。
「三秒だけくれてやる。その間にISを解除して土下座するなら許してやる。3…2…1…」
「えっ、ちょ、まっ……」
「カウント早すぎですわ!」
「私は巻き込まれただけだぞ!」
「0」
ISを解除しなかったという事は、抵抗すると見なしてもしょうがないよな。
「(一夏様もシャルロットさんに負けず劣らず真っ黒ですよね)」
「(須佐乃男の飯は、当分おかゆでいいんだな)」
「(ゴメンなさい、出来れば許していただけると嬉しいのですが)」
「(そのことは追々話すとして、今はさっさとこの馬鹿三人を片付けるぞ)」
「(承りました、一夏様)」
久しぶりに須佐乃男本来の武装、雪月を展開して『零落白夜』をそれぞれに叩き込んだ。あの子には後でちゃんと謝らないとな……巻き込まれた挙句俺に斬られたんだからな……
「さてと、応援を呼ぶか」
「そうですね」
「さすがに蹴っ飛ばして運ぶのは駄目だろうしな」
「問題児でも女子ですからね」
シャルとセシリアの待機状態の専用機を回収し、篠ノ乃を打鉄から引き剥がして俺は駄姉に連絡を入れる。如何やら決勝は一回目が終わったところで、丁度インターバルだったようですぐに駄姉はアリーナにやってきたのだった。
シャル、三度目の特別指導室決定?