体育祭の結果は、騎馬戦で優勝したサラちゃんと、的当てで優勝した私が在籍しているクラスが総合優勝を果たし幕を下ろした。楽しい時間はあっという間に過ぎるというけれども、まさにそんな感じの体育祭だったと思ってる。
「いや~終わった終わった~」
「お疲れ様です、楯無様」
「碧さんもおつかれ~。それで、敵の動きは?」
「特に目立った動きはありませんでしたが、何故だか今日は男性の気配がちらほらと見受けられました」
「そっか~。まぁ絶対に外からじゃ見られないんだけどね~」
体育祭の内容は、手に入れようとすれば結構簡単に手に入る情報だ。その情報に釣られた亡国企業の下っ端連中が来るかもって一夏君が言ってたけど、まさにそんな感じだったのね。
「しかし、今回の体育祭では、新たな情報は得られませんでしたね」
「駄目元だからね~。今回は招待した中に亡国企業と通じてる人が居ないって分かったのが収穫って事で良いんじゃない?」
実際国のトップを調べようとするともの凄いお金と時間が必要になってくるのだ。今回正体した人たちも、それなりに地位も名誉もある人たちなので、彼女たちを調べようとしても同様に大変なのだ。
「次のチャンスは暮れにやる学年別トーナメントかな」
「そんなのがあるんですか?」
「一年の成長を確認するために、入学早々と暮にやるのよ。年明けだと三年生が忙しいからって理由なんだけどね」
「暮でも忙しい人は忙しいのでは?」
「そこは気にしちゃ駄目よ」
碧さんとおしゃべりしながら部屋までの道程を進もうとしたんだけど……
「お嬢様? どさくさでサボろうとなんてしてませんよね?」
「も、もちろんだよ?」
虚ちゃんに見つかってしまいあえなく脱出失敗……生徒会は今体育祭の片付けに勤しんでいるのだ。
「あれ、本音は?」
「学年優勝の祝勝会の幹事を任されたため、先に帰しました」
「えぇ~! それだったら私だって総合優勝の祝勝会を開く~!」
「それは既に計画されていて、お嬢様は後で参加してほしいとウェルキンさんから言伝を預かってます」
「逃げ場が無い……」
サラちゃんが先手を打っていたようで、私は折角見つけた口実を有効利用する事が出来なかった。
「虚、大体片付いたが」
「すみません一夏さん、殆ど任せてしまって……」
「別にこれくらいならなんてことは無いが……刀奈は何で膝をついてるんだ?」
「サボろうとしてもサボれないからじゃないですか?」
「まったく……少しは仕事してくれよな、会長さん」
「分かってるわよ……でもさすがに疲れたのよ」
実況をやったり選手として競技に参加したりと忙しくて、もうこれ以上動きたくないのよ!
「やれやれ……虚、刀奈をつれて先に帰っていいぞ。後はやっとくから」
「ですが、一夏さんだって色々とありましたよね? それこそお嬢様以上に」
「気にするな。慣れてるから」
一夏君の好意に甘えたいけど、選択権は私では無く虚ちゃんにある。お願い、虚ちゃん! 一夏君の好意に甘えましょ?
「……分かりました。では片付けは一夏さんにお願いします」
「了解だ。そっちは任せる」
「……あれ? 何だか嫌な予感がするんだけど……」
虚ちゃんは片付け「は」と言ったわよね……そして一夏君も何か別な事があるような口ぶりだったし……
「ではお嬢様、生徒会室に行きましょうか」
「部屋じゃないの?」
「書類仕事と、先ほどイギリス、フランスのお偉方から書面で抗議がありましたのでその解答をお願いします」
「抗議? 何かあったの?」
精々予選でセシリアちゃんとシャルロットちゃんが悲惨な結果だったとしか……でもイギリスはサラちゃんが決勝に残ったし、その事じゃ無いと思うのよね。
「セシリア=オルコット、シャルロット・デュノア両候補生の専用機を一時的にIS学園預かりにする事に対する抗議です」
「何それ? 私何も聞いてないんだけど……」
「ですから、本来なら一夏さんにお任せしようと思ってた事なんですよ。ですがお嬢様が片付けしたく無いと言い出しましたので、一夏さんに片付けを任せ、お嬢様にイギリス、フランスに対する返答を任せる事にしたのです」
「そもそも何でIS学園預かりに? 何か問題でも起こったの?」
気になる事があるとすれば、決勝第二試合が時間になっても始まらなかった事くらいしかないし、それがあの二人に関係してるとも思えないのよね……
「私もまだ確認してないんですが、如何やらそのお二人と篠ノ乃さんが無断でアリーナを仕様して私闘を始めようとしたらしいのです。それで一夏さんが仲裁に入り、それぞれに一撃喰らわせて気絶させたとか。ISの無断使用とアリーナの使用申請をしなかった事で、三名は当面の間謹慎処分となったのでISを学園側で預かることになったらしいのです」
「揉め事の原因が気になるわね……さすがに何も無いので争うほどおバカでも無いでしょうし」
織斑先生のクラスには、普通の先生では手に負えない生徒が多数在籍しているのだが、まさかそのスリートップが一斉に謹慎処分になるなんて……
「それではお嬢様、まずはイギリスに対する返答をお願いします」
「私やるなんて言ってな~い!」
虚ちゃんにズルズルと引き摺られていき、私は生徒会室に向かう破目になってしまった……これじゃあ片付けしてた方がまだマシだったかもしれないわね……
まさかこの短期間でまたこの場所に戻ってくるなんて思って無かった。テスト前に此処から出て、まだ二週間も経ってないのにな……
「シャルロットさん、此処は一体何処なんですの?」
「お前は知ってる風だっただろ! あれだけ千冬さんに抵抗したのだから」
僕と一緒にこの空間に連れて来られた二人は、此処の恐ろしさをまだ知らないからあんなに元気で居られるんだろうな……正直この空間は居るだけで滅入ってくるのだ。
「此処はね、セシリア、箒、問題児を閉じ込めて反省させる『特別指導室』って場所なんだ。学園の誰も知らない、閉じ込められた事のある僕ですらこの場所が何処なのか分からない、完全に一部の人間にしか存在を知られて居ない場所だよ」
「まさかエリートたる私がこんな牢屋みたいなところに閉じ込められるだなんて……国が抗議してきてもおかしくはありませんわ!」
「そうだな。私だってこんな所に閉じ込められたと姉さんが知れば、学園に攻め込んでくるかも知れんぞ」
色々と騒いでる二人だけども、そんな事で出られるなら僕だってこんなに絶望しないよ。
「セシリア、箒、この『特別指導室』の今の管理者は織斑先生なんだよ。だから国が出てこようが大天災が出てきてもここから出られる確率は万に一つもありえないんだ。それに一夏もこの場所を知ってるからね。脱走しようものなら一夏に成敗されるだけだよ」
「何故一夏さんがこの場所を?」
「アイツは閉じ込められた訳でも無いのだろ?」
「ほら、前に織斑先生と山田先生が授業に出てこなかったことがあったでしょ? あの時僕と一緒に織斑先生と山田先生も閉じ込められてたんだよ。そして、その二人を此処に閉じ込めたのが一夏なんだ」
正確に言うのならば、暴走した織斑先生の様子を見に来た山田先生と一夏に助けを求めたのだけど、山田先生が途中から乗ってしまったので閉じ込められたんだけどね。
「そうでしたの。ですが、私のブルー・ティアーズさえあれば……あら?」
「この場所に閉じ込められる前に、専用機は学園に回収される。だから専用機持ちが閉じ込められても逃げ出す心配はして無いんだよ。まぁ、そもそもこの場所が作られてから今まで使われた事が無かったらしいんだけどね。僕はもう三回目だから慣れたけど、セシリアと箒はこれからこの空間の恐怖に苛まれるんだね、可哀想に」
この空間の恐怖、それは徐々に時間感覚が麻痺していき、昼夜も分からなくなり、そして自分が何日閉じ込められているのかも分からなくなっていく状態なのだ。僕だって二回目の時は何ヶ月も閉じ込められたと思ってたんだから。
「大体、原因はシャルロットさんですわよね? 何故私たちまで閉じ込められなければいけないんですの?」
「文句は一夏に言いなよ。恐らく此処に閉じ込めるって決めたのは一夏だろうしさ」
「何故一夏にそれほどの権限がある? アイツだって私たちと同じ一年だろうが」
「一夏は生徒会副会長だし、学長からもある程度の実権を任されてるって噂だもん。これくらいは出来るよ」
そもそも織斑先生よりも強いんだから、あの生徒会長さんよりも強いんだろうな。だから実質的な生徒会長も一夏って事になるんだろうな。
「それで、この空間から出るには如何すればいいんだ? お前は二度入って二度出たんだろ?何か裏技とか知らないのか」
「そんなのがあれば、僕だって長く閉じ込められたり何かしないってば! そもそもこの扉は一度閉まると、中からは絶対に開けられないんだから」
織斑先生の蹴りや体当たりでも壊れないほど頑丈だし、鍵は絶対に壊れないように強化されてるし……大人しく過ごすしか方法は無いんだよ。
「それじゃあ僕はもう寝るよ。どうせ何もする事無いんだし」
「シャワーは何処ですの? 私、汗を流したいのですが」
「だから言ったでしょ。この部屋からは出られない。少なくとも内側からは絶対に開かない扉の内側に居るんだから、シャワーなんて浴びれるわけないよ」
特別指導室入り口すぐ傍にシャワー室はあるんだけど、そこも鍵が必要だしそもそも利用したくとも出られないのだから教える意味も無いだろうしね。
「食事はどうなるんだ? まさかクサイ飯が出てくるんじゃないだろうな」
「何それ? ご飯なんて監禁した人の気まぐれであったりなかったりだよ。今回は一夏も何も置いていってくれて無いところを見ると、少なくとも今日の晩御飯は抜きだろうね」
毎回の如く水分だけは置いてあるけど。これは生きていく為に必要なのは食料では無く水分だと言う事なんだろうけども、どうせなら食べ物もほしかったな……
「それじゃお休み」
する事も無いし、出来る事も無いので、僕は体力を無駄にしない為に寝る事にする。他の二人はまだ何か言ってるようだけども、そもそも僕は何も悪く無いと思うんだよな……だって解説の一夏と織斑先生が言った事をそのまま二人に言っただけなのに……
片付けを終え部屋に戻ると、弾と数馬からメールが着てるのに気がついた。如何やらテストの手応えはバッチリのようで、赤点回避は確定的だそうだ。
「(何ともレベルの低い事を……)」
赤点回避で喜んでるようでは、期末で同じ目にあるのだろうが、もう俺は知ったことではないので放っておこう。これ以上は自己責任で何とかするべきだと思うのだ。
「あっ、おりむ~お帰り~! 祝勝会やるけど、おりむ~は参加する~?」
「悪いがパス。騒がしいのは得意じゃない」
「でも、一組が優勝出来たのは、目玉競技以外で一夏様が点数を稼いだからですよね」
「だからって参加しなきゃいけない理由にはならないだろ。それに疲れた」
「姉さん以外にも粛清してたんだね」
「あの駄姉は少し経てば勝手に回復するから良いが、あの馬鹿三人は俺が運ばないと謹慎場所に連れて行けないからな」
まさかまた「特別指導室」に誰かを閉じ込める事になるとは思って無かった……そもそもあそこは生徒会長の刀奈ですら知らない場所なんだがな……
「それじゃあ一夏は私たちとゲームしよ」
「何だ、ナターシャも帰ってたのか」
「いけない? 私だって今日は大変だったんだからね」
「それじゃあ少しくらいは付き合うとするか」
祝勝会のように騒がしくも無いし、どうせあと少ししたら夕飯のしたくをしなくてはいけないんだから部屋で出来るほうが楽だ。
「それじゃあお兄ちゃんは不参加って言っとくね」
「残念ですが、一夏様は一夏様の楽しみ方があるんですよね」
「おりむ~、お土産期待しててね~」
お土産? たかが祝勝会でお土産などあるのだろうか?
「それじゃあ一人足りないから美紀でも呼ぼうか。お姉ちゃんと虚さんはまだ仕事中だし」
「何だ、まだ終わってないのか?」
「何でも国際問題に発展しないようにするのが大変だとか何とか……何があったの?」
「まぁこれは秘密なんだが、簪とナターシャになら言っても問題ないだろ」
俺は決勝の合間に起こった出来事と、それが原因で阿呆二人の専用機を学園が預かってる事を話した。
「何だか凄い事が起こってたんだね……それで準備が遅れてたんだ」
「あれは単純に山田先生が焦りすぎて失敗しただけなんだがな」
まさかのレベル1設定では決勝の意味が無くなるって慌ててたな……どうしてあの人は肝心なところで力を発揮出来ないんだろうか……実力だけで言えば代表になっててもおかしくは無いだろうに……
「そうだ一夏君、データ集めに付き合えって言われてるでしょ? 明日辺り手伝えそうよ」
「そうか。ならサラ先輩と模擬戦をしてくれ。エイミィのデータはある程度揃ってるし、エイミィが使ってる子からも情報は得られた。だがサラ先輩のデータがイマイチ集まらないんだよな……」
「一夏も大変だね」
「しょうがないだろ。学園が敵に囲まれてる状態で楽したいから断るなんて言えないしな」
「データを集めて訓練機に反映させるなんて、一夏君は高校生レベルの整備師じゃないね」
本当は専用機に反映させるのだが、簪もナターシャも専用機の件は知らないはずなので話を誤魔化しておく事にした。
「それじゃあゲームするんだろ? 美紀は来れるって?」
「もうすぐ来ると思うよ。何せ美紀は一夏の事を……」
「何言おうとしてるのよ!」
「随分と早いな」
気配を探ってなかったからかもしれないが、美紀が部屋に来たのに気付かなかった。だがなかなかの気配遮断だな……改めて集中して気配を感じても、ナターシャや簪の気配よりもやはり美紀の気配の方が捉えにくくなっている。無意識に気配遮断が出来るようになったのは成長してる証だな。
「それで、美紀が俺を何だって? 何か言いかけただろ」
「何でもありません! ところで一夏様、ゲームをすると言われて呼ばれたのですが」
「ああそうだな。だからそろそろ簪を離してやれ、死にそうになってるから」
「はい? ……あ、簪ちゃんゴメン」
「お花畑と川が見えた……」
如何やらかなり危ない状態だったようだな……それだけ美紀が言われたく無い事を簪が知ってるという事なんだろうな。
「さて、何のゲームやるんだ?」
「この前出た新作格闘ゲームをやろう」
「それってこの間買ってたやつか?」
「うんそう。でもなかなか機会が無くてまだやってなかったんだよね」
この前弾と数馬と出かけた時にゲーム屋で簪にあったのだが、その時に買ったゲーム、まだやってなかったのか……
「四人だからチーム戦?」
「トーナメントでもいいけど、まずは慣れる為に個人戦で」
「俺はあまり長くやらないからな。飯のしたくがあるから」
「さすが主夫で。一夏君はホントに優秀な主夫よね」
ナターシャが感心したようにコメントしたが、俺だって好きで主夫やってた訳でも無いんだがな……如何しようも無い駄姉と、その友人でこれまた如何しようも無い駄ウサギの面倒を見てるうちに勝手に家事スキルが上がっていっただけなのだから……
「まずは私と美紀の対戦だね」
「簪ちゃんにゲームで勝てる訳ないよ」
「やる前から諦めるの?」
「まさか! やるからには無様には負けないよ」
さすが付き合いが長い二人、相手の事はお見通しのようだな。
「ねぇねぇ一夏君、簪ちゃんと美紀ちゃんって幼馴染なんだっけ?」
「そうですね。正確には遠縁の間柄なんだが、あまり親戚って感じでは無いよな」
「仲のいいお友達って感じだよね。簪ちゃんと本音ちゃんとはまた違ったさ」
「あそこは本来主従関係なんだがな……まぁ簪も気にして無いから良いんだろうが」
布仏家というのは、更識家に仕えている家であり、その家の娘である本音は、本来なら今のような付き合い方が許されるはずの無い立場なのだが、刀奈も簪も気にして無いし、虚も諦めたようで最早誰も本音の事を指摘する人は居なくなったのだ。
「やっぱり美紀は強い。そしておもしろい!」
「簪ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいけど、正直私には余裕は無いわよ!」
かなり白熱したバトルになっており、俺は楽しそうにしてる二人を見て少し考える。
「(四月一日家への粛清は、何時行うのが良いんだろうか……そして亡国企業との関係を聞き出すのは如何すれば有効だろうか……)」
更識家から亡国企業への資金の横流しの証拠は掴んだが、まだ責める時では無いと俺は踏んでいる。今の証拠でも確実に相手を追い詰める事は可能だが、どうせなら両方にダメージを与えたい……
「一夏、次は一夏とナターシャ先生の番だよ」
「分かった」
簪からコントローラーを受け取りながら、俺は美紀の実家の事を考えていたのだった。
気付けば二月、一年間連続投稿まで、あと何日だ?