問題児三人をゴミ置き場で生活させるのは、さすがに気が引けるがある意味仕方の無い事だと割り切ろうとしているのだが、どうも気になる。あの駄姉が進んで監視を引き受けたという事が、俺の中でどうも引っかかるのだ。
「一夏さん、考え事ですか?」
「碧か……まだ起きてたんだな」
「私は子供では無いんですけど?」
「別に子供だなんて言ってねぇよ」
現時刻はそろそろ二時を回る、普段なら碧も寝ている時間なのだから聞いたのだが、碧は俺が子供扱いしたと勘違いしたらしい。
「それで、碧も気になる事があるから起きてたんだろ? 皆が寝静まるのを待って何の用だ」
「亡国企業の事で……さっき織斑先生たちが牽制に行ったじゃないですか。あれって効果あるんですかね?」
「さぁ? とりあえず見てるだけよりかは良いんじゃねぇの?」
「しかし……」
「今更気にしても、もうやった事だ。効果があるか如何かはその内分かるだろうよ」
そろそろ修学旅行も控えているので、碧が亡国企業の事を気にするのは分かる。引率で一緒に来る訳でも無いので、学園が襲われた場合は刀奈と碧を中心に撃退するしか無いのだからな。
「さて、俺はやり残した事があるからちょっと出てくる。碧はそろそろ寝たら如何だ? かなり眠そうだぞ」
「ですから、私は子供では……」
抗議の途中で碧は大きく欠伸をした。いくら大人だと言い張っても普段の生活スタイルから考えればそろそろ限界が来てもおかしく無いのだ。
「無理するな。碧にはこれからも期待してるんだからな」
「は、はい……」
尚も起き続けよとした碧を軽く抱きしめ、無理しないように耳元でささやく。何だか誑しみたいだが無茶も無理もされると困るからな。
碧をベッドに寝かしつけ、俺はアリーナの格納庫へと向かう。本当ならもう少しゆっくりと作業したかったのだが、問題児三人の所為で更に戦力ダウンしたからな……エイミィの専用機はさっさと完成させたいのだ。
「……この気配は山田先生? 何してるんだ……」
ゴミ置き場の方から山田先生の気配を感じ、俺は様子を見に行く事にした。まさかと思うがあの駄姉、山田先生に監視を任せて自分は寝てるんじゃねぇだろうな……
「あっ、織斑君」
「お疲れ様です。織斑先生はどちらに?」
「織斑先生は既に部屋に戻りましたけど……」
あの駄姉が……何が自分で監視するだ。結局は山田先生に押し付けてるじゃねぇかよ……
「代わります。山田先生は休んでください」
「え、でも織斑君はやる事があるんじゃ……」
「まぁ修学旅行まではまだ日がありますので……」
最悪授業をサボって完成させれば良いし……
「でも、織斑先生に任されたのは私ですし」
「押し付けられたでしょ?」
「ハイ……」
正直あの人が真面目に監視するなんて思って無かったが、まさか早々に山田先生に押し付けるなんてな……
「そういえば、この辺何か臭いません?」
「えっと……それはその……」
山田先生が何か言い淀んでいる。これはまたあの駄姉が関係してるんだろうな……
「貴女は怒りませんので言ってください」
「織斑先生が三人にトイレの使用すら禁止したので、中の地面を掘ってそこにさせたそうなんです……だからその臭いがまだこの辺りに充満してるのかと……」
「……トイレくらい使わせても問題ねぇだろうに」
恐らく監視する手間を省いたとか何とか言うんだろうが、それは単純に自分が楽したかっただけだろうが……
「まぁ合理的といえばそうなんですが……兎に角此処は代わりますので、山田先生は休んでください。明日も仕事なんですから」
「でも、織斑君も明日も忙しいですよね? その織斑君に代わってもらうのは……」
「お気になさらずに。俺は如何とでも休めますから」
「……分かりました。副担任の権限で織斑君を公休にしますね」
正直専用機の事もあるので、山田先生に頼らなくとも公休という事に出来るのだが、偶にはこの人に先生らしいことをさせてあげよう。
「お願いします。ではこの場は任せてください」
「ありがとうございます。正直凄く眠かったんですよ」
まぁそうだろうな。山田先生が日付が変わるまで起きてるなんて誰も思って無いし、見た目通りの生活習慣なんだろうと思ってたからこの場に来たのだ。
「じゃあ失礼しますね」
山田先生が寮に歩き出したのを見送って、俺はしまっていた造りかけの武装を取り出す。これくらいならこの場でも作業出来るし、暇つぶしには丁度良いだろう。
「さて、何時まで寝たフリを続けるつもりだ」
ゴミ置き場の中に話しかけ、その気配が驚いたように動く。まさか気付かれないとでも思っていたのだろうか。
「どうして僕が起きてるって気付いたの?」
「息遣いでバレバレだ。篠ノ乃とセシリアは規則正しい息遣いをしてる、これは寝てるからだ。だがお前のは所々息遣いが乱れた。会話の内容を盗み聞きしてた証拠だな」
「そんなのでバレるなんて思わなかったよ……さすが一夏」
「それで、何で会話を聞いてたんだ」
「僕たちに有利になるかもしれないって思ってさ。だってトイレも行かせてもらえないんだよ?」
確かにそれは文句も言いたくなるだろうが、更生させる為にこの場所に閉じ込めてるのに盗み聞きとは……本当にコイツの中身は腐ってるんだろうか……
「トイレは行けるようにしてやるが、それで逃げ出そうなんて考えたらそれこそお前らが出した汚物の中に放り込むからな」
「い、嫌だなぁ一夏、僕がそんな事考えるように見えるの?」
「当然見える。それくらいならやってもおかしく無いからな、貴様は」
他人に罪をなすりつけ、自分だけは助かろうとした女だ、それくらい考えていても驚きはしないさ。
「さて、さっさと寝ないと明日キツイぞ? 何せまたあの負荷だらけのISを使って作業してもらうんだからな、朝から晩まで」
「あのISなんであそこまで重いの?」
「そのように設定したからだ。反省と基礎体力強化を同時に出来るんだから良いだろ」
「あんなので作業してたら余計に反発したくなるって!」
「ほう、ならしてみろ。今度こそ貴様は本国に強制送還、地下牢での生活かデュノア社にこき使われる日々が待ってるだけだからな」
俺の脅しに、シャルの表情が変わった。よほどデュノア社に恐怖してるんだな……
「自分の立場が分かったらさっさと寝ろ。分かってるとは思うが、その掘ってる穴を使って脱出しようものなら同じようになるだけだからな」
「!?」
狡賢いシャルが考えそうな事だが、当然逃げ出せないように手は打ってあるのだ。だがその事を教えないでおけば、いずれ脱出を試みるだろうと思ってたのだが……まさか初日から脱出しようとしてるとはな……
「分かったらさっさと寝ろ。貴様が起きてたらこっちも作業出来ないだろうが」
「それってISの武装だよね? 何に使うのさ」
「お前には関係無い。知りたいなら教えてやるが、その時はお前を始末しなくてはいけなくなるんだが……それでも聞きたいか?」
「ううん! 僕聞きたく無い!」
俺の脅しを本気と受け取ったのか、シャルは大慌てで首を振った。まさか本気で始末されるなんて思ったんじゃねぇだろうな……
その後暫くして、シャルの息遣いも規則正しいものに変わった。どうやら寝付いたらしい。
「やれやれ……問題児が終わったと思えばお前かよ……」
造りかけの武装をしまい、俺は暗闇に視線を向ける。
「悪いが戦力には出来ねぇぞ、この三人は」
「候補生二人に篠ノ乃束の妹でしょ? 使い道はいくらでもあるわ」
「お前らが鍛えてもコイツらは代表レベルの能力にはならねぇよ」
「人間やめさせればいいだけよ。肉体改造でも何でも出来るのよ、私たちは」
亡国企業幹部、俺の過去を知ってると思われるスコールがこのタイミングで現れるとは……夕方の牽制は如何やら意味があったらしいな。
「そんなに構えないで。今はやりあうつもりは無いわ」
「如何だかな。だったらその背後に構えてる銃を下ろせよ」
「あら、これはその南京錠を破壊する為のものであって、一夏を攻撃する為のものでは無いわよ」
「やっぱりそのつもりか……夕方どれだけ暴れまわったんだよこの三人は……」
偵察が主な仕事の相手に、あの駄姉とこの三人はどれだけ被害を与えたんだか……報復されるなんて思って無かったんだろうな……
「私たちの仲間に手を出したんだから、これくらいされても仕方ないと思わない?」
「先に襲ってきたのはお前らだろ……おかげで修繕費をひねり出すのも一苦労なんだが?」
「それはゴメンなさいね。でも貴方を手に入れるためなら何だってするわよ」
手持ちの武器であの銃を無力化するには、もう少し間合いを詰めたいところだな……完成品ならまだしも、今ある武器はまだ調整中のものだからな……
「そうそう一夏、今度修学旅行があるんだってね」
「……それが如何したって言うんだ」
「別に。ただ戦力が分散してくれるのは私たちにとって嬉しいことだなと思っただけよ」
「チッ」
食えない女だ。俺が何かを狙ってると気付いてこれ以上間合いを詰めてこようとはして来ない……だが同時にあの距離ならアイツも南京錠を狙えないって事か。
「今日はお仲間もいないようね。一夏一人なら何とかなるかしら」
「何を……そういうことかよ」
気配探知の幅を広げると、スコールの背後にかなりの人数が伏せられてるのに気付く。この時間はゲートの監視が緩むからな……堂々と入ってきたのかよ。
「だがオータムは居ないみたいだな。上の人間に感付かれたのか?」
「相変わらず察しが良いのね一夏。でもこの人数相手に如何切り抜けるのかしらね」
「確かに不利だわな。この人数相手に生身じゃ」
「消えた!?」
スコールの一瞬の隙を突いて構えていた銃を奪い羽交い絞めにする。
「見えるか? コイツをやられたくなければ大人しく帰れ。そうすれば解放してやる」
「あら、折角捕らえたのに解放してくれるのかしら?」
「お前を此処で捕虜にしたら、やつらに攻め入る口実をくれてやるだけだからな」
「あら、そこまでお見通しだったのね」
コイツがこんな簡単に捕らえられるなどと、俺も思って無い。コイツはワザと捕まり、亡国企業が攻め入る為の口実になろうとしてたのだ。オータムが居ないのもその所為だろう。
俺の脅しは効果的に亡国企業の連中に効いたらしく、ゾロゾロとゲートに向かっていく。
「そうだ、それで良い」
「これじゃあどっちが悪役か分からないわね」
「ほっとけ。お前も大人しく帰るんだな」
亡国企業の連中が完全にゲートから出て行くのを確認して、俺はスコールを解放した。
「本当に良いのかしら? このまま捕虜にすれば亡国企業の戦力ダウンになるのに」
「こっちはまだ戦力が整ってねぇんだよ。そんな時に攻め込む理由をわざわざくれてやるなんて、こっちが困るだけだ」
「うふ、やっぱり貴方は私たちの仲間にほしいわね」
「フン、嫌味が言えるだけ余裕なんだろ。さっきだって抜け出そうとすればいくらでも俺の拘束から抜け出せたくせに」
実は俺もそれほど強くスコールを拘束してたわけではない。銃を奪っただけで撃つつもりも無かったのだ。
「折角一夏に抱きしめてもらえたのに、逃げ出す女が存在すると思って?」
「相変わらず嫌味だな。これは返しとく」
銃をスコールに投げ渡し、俺はゴミ置き場の見張りに戻る。
「敵に背中を向けて良いのかしら?」
「撃てるものなら撃ってみろ。弾は全て抜いたに決まってるだろ」
「嘘ね。貴方がそんな事する訳無いもの」
「じゃあ撃ってみろよ」
「……止めておくわよ。撃てば貴方に攻撃する口実をあげるだけだものね」
やはり気付いてたか……俺がスコールを解放した理由の大きな一つは、コイツが攻撃するつもりが無かったからだ。もし攻撃してきたのならさっさと捕まえてそのまま亡国企業を一人で潰す事だって出来たのだからな。
「怪我が治ってないんでしょ? 無理はしない事ね」
「お互いにな。お前だってその腕、まだ完治してないんだろ?」
「あら、誰にも気付かれなかったのに」
この前篠ノ乃を勧誘しに来た時に、俺の一撃が掠ったのだろう。それでスコールの腕にはダメージが残ってるのだ。
「じゃあ、お互い万全になったら戦いましょう」
「出来れば戦いたくねぇがな」
正直面倒なのだが、戦わない事にはこの状態は打破出来ないだろうしな……やがてスコールの気配が完全に消えたのと同時に、東から日が昇ってきた……って、もうそんな時間かよ。
「殆ど作業が出来なかったぞ……」
それほど長い時間対峙してたつもりは無かったんだがな……まぁシャルが寝たのが四時くらいだったし、そこから考えればこの時間もしょうがないのかもな……
またしてもマドカちゃんより早く目が覚めた私は、部屋に一夏君が居ない事に気がついた。
「あれ~? また一夏君が居ないや」
専用機を作らなきゃいけないのも分かるのだけども、もう少し私たちに構ってくれても良いんじゃないのかしらね。
「よし! 着替えて作業中の一夏君を直撃だ!」
そうと決まればさっさと着替えて、一夏君が居るであろう第三アリーナの格納庫に急がなくては。一夏君は気配で気付くでしょうけども、集中してればもしかしたら気付かれないかもしれないしね。
着替えて部屋から出た私は、第三アリーナ目掛けて歩き出したのだが、ふと外を見るとなにやら人影がゾロゾロとゲートから外に出て行くのが見えた。
「何かしらあれ……」
この時間はゲートの警備員さんは居ないし、忍び込もうとすれば普段より簡単に忍び込む事が出来る。もしかしてスパイかしら……
「IS学園生徒会長として、暗部更識家当主として見逃せないわね」
普段仕事してない分、こんな時くらいはしっかりと働かなければね。私は出来るだけ気配を殺し、だが急ぎ足でゲートに向かった。
「もう遅いかもしれないけど……追跡くらいなら出来そうよね」
「何してるんだ?」
「うひゃぁ!」
「……可愛げの無い悲鳴だな」
「い、一夏君? 今ゲートに大量の人影が……」
「亡国企業の連中だろ。俺がお帰り願った」
「へ?」
まさかあれだけの人数を相手に一夏君一人で? いくらなんでも無謀すぎるわよ。
「怪我は!? また無茶したんでしょ!」
「してないって。スコールを人質にとって穏便に退場願ったんだから」
「……穏便?」
人質を取ってる時点で穏便って表現は如何なのよ……てかスコールを捕らえたの!?
「それで、スコールは?」
「帰した」
「何で!?」
折角亡国企業の幹部を捕らえたと言うのに、一夏君はあっさりと帰したって言うの!?
「わざわざ攻め入ってくれと亡国企業に言う必要も無いだろ。それに、こっちも万全じゃねぇんだからよ」
「あっ……」
専用機持ち二人を拘束、一夏君は万全な身体では無い、専用機製造もまだ終わってないと全体を見れば此方側が圧倒的不利の状況だった。それを私は失念していたのだ……
「まぁいずれ攻め込んでくるだろうが、それまでに問題児たちを更生し、俺の身体を万全にして、更に専用機を完成させる事が出来てれば、今回逃がしたスコールも捕まえる事が出来るだろうさ」
そう言って一夏君は慰めるように私の頭を優しく撫でてくれた。
「さて、そろそろ朝食の準備と、あの駄姉の説教をしなくちゃいけねぇな」
「……また何かしたの?」
織斑先生が一夏君を怒らせるのは、そう珍しく無いけども、ここまで怒ってる一夏君は珍しいのだ。
「自分で監視役を引き受けたくせに、さっさと山田先生に押し付けて自分は寝てるんだからな。これはかなりキツイ灸を据えないと分からないようだしな」
「……ほどほどにしないと一夏君にも反動が来るわよ」
「分かってる。ほどほどに殺してやる」
如何やら分かって無いようだ……ほどほどに殺すってどんな表現よ……
「ねぇ一夏君」
「ん?」
「織斑先生への粛清は、直接攻撃よりも間接攻撃の方が効くと思うの」
「……給料を減らすか」
私が提案しようとしてた事よりも効きそうな事を一夏君が思いついたようだ。私はあの三人と一緒に反省させようと提案したかったのだけども、それよりも一夏君の案の方が効果ありそうなのだ。
「一度学長と話し合うか」
「その前に最後通牒くらいしておいたら?」
「そうだな。よし、刀奈も一緒に朝食の準備するか」
「手伝っても邪魔になるだけよ?」
「偶には彼女と一緒に作業したいんだよ、それくらい理解しろ」
そう言って一夏君はかがんで私の唇に一夏君の唇を合わせてきた。
「……一夏君がデレた」
「デレ? 何だそれは」
ちょっと過激ではあるが、一夏君はツンデレの要素を持ち合わせていると薫子ちゃんが力説してたし、確かに若干ツンデレっぽいとは思ってたけど、まさか此処でデレてくるとは……
「手伝いたくないなら良いが」
「ううん! ちゃんと手伝うわよ!」
一気に機嫌が良くなった私は、一夏君と一緒に朝ごはんの準備をするのだが、やっぱり一夏君の手際についていけなかったのだ……でもまぁ、しっかりと洗い物はやったけどね。
真耶は千冬には逆らえませんからね……