無人機を全部倒した一夏君は、無人機のコアを持ってピットに戻ってきた。
「刀奈、これを織斑先生に渡して解析してもらうから、お前は付き合え」
「えっと……何で私?」
正直あまり深く関わりたくないんだけどな……
「何でって、生徒会長だろ」
「分かったわよ……」
「後の四人は解散で構わない。お疲れ様」
一夏君はコアを腕に装着してる武装にしまい、四人に労いの言葉をかける。
「お兄ちゃん、後で私のISもメンテナンスして」
「時間があればな。今はそんな余裕がある訳じゃねぇし」
携帯を取り出してどこかに電話を掛けている一夏君に、マドカちゃんが可愛くおねだり。並の男の子なら一発K.O.だろうけども、一夏君はあっさり流して電話の相手に話しかける。
「駄姉か? 状況は分かってるだろ? 山田先生を連れて最深部まできてくれ。ああ、コアは回収して機体は破壊してある」
誰かに悪用されないようにしてたのだろうか。一夏君は無人機を結構容赦無く破壊していたのだ。
「分かった。それじゃあ後で」
「今の、織斑先生?」
「まぁこの学園で一番ISに詳しいだろうしな。それに、あの人を呼べば同時に山田先生も呼べるから」
一夏君の中で、山田先生は織斑先生とセットなのかな? でも一緒に行動してる事が多いし、ISを解析するならあの二人が一番効率よく出来るだろうしね。
「本当は簪にも手伝ってもらいたいんだが、別件で忙しいからな」
「とりあえず、私たちも解析に立ち会うんだから、私だって何か手伝うわよ?」
「刀奈は見てるだけで大丈夫だ。解析は山田先生がやるだろうし」
あっさりと何もするなと言われてしまったけども、これは決して私が無能だからって訳ではないようだ。
「そういえば一夏君、最深部って?」
「IS学園には、普通の生徒や教師が立ち入る事が出来ない箇所が幾つも存在する。その一つだ」
その場所を何で一夏君が知ってるのかとか、聞きたい事はいっぱいあるけども、今はそんな事をして時間を無駄にする場合では無い。私は一夏君にくっついてその最深部へ向かう事にした。
「何だか暗いわね」
「まぁ最深部と言われるくらいだからな。暗くても仕方ないだろ」
一夏君は暗闇でも道が分かるようですたすたと進んでいくけども、私はちょっと怖いんだけども……一夏君の裾を掴んで漸く進めるくらい前が見えないのだ。
「ここだな」
「えっ? 何も見えないけど……」
眼を凝らしても、目の前には何も無い。だけど一夏君は壁に手を当てて何か集中している。
「なに? この音……」
重低音が辺りに鳴り響き、何処から聞こえるのか耳を澄ませ眼を凝らして探すと、目の前の壁が左右に割れて部屋が現れたのだ。
「此処が最深部……」
「刀奈一人では入れないからな」
如何やらあの壁の仕掛けを解除出来るのは、一夏君を除けば学長と織斑先生と山田先生だけらしい。
「遅かったな一夏」
「一人ならさっさと来たが、刀奈が一緒だからな」
「更識さんは此処に来るの初めてですものね」
「それで、無人機のコアは如何した」
「今出す」
一夏君が武装からコアを取り出し山田先生に手渡した。
「すぐに解析しますね」
「まぁ何となく予想はつきますがね」
「そういえば、データは集まったのか?」
「回収はしたがまだ見て無い。コア回収してたからな」
一夏君は端末を取り出してさっきの戦闘データの整理を始めた。この場所での解析は山田先生が一人でやるようだし、一夏君は時間を有効利用するのだろうな。
「織斑先生、侵入者です!」
「このタイミングで……亡国企業の連中か?」
「いえ、これはアメリカ軍特殊部隊です」
「アメリカ? 何故アメリカの特殊部隊が……」
「……なるほど。遊びすぎだなあのウサギ」
データ整理をしていた一夏君が、端末をしまって面白そうに笑っていた。
「ウサギ? これもアイツの仕業だと言うのか?」
「アメリカが世界の警察を名乗ってるのが気に食わなくなったんだろ。それで貴女と俺でアメリカ軍に失態を演じさせてそれを生中継でもするつもりなんだろうよ」
「なるほど……アイツの考えそうな事だな」
「アンタは『暮桜』を守るんだな。どうせその情報もあのウサギから漏れでてるだろうし」
私と山田先生は、二人の会話を完全に理解する事は出来なかった。だってこの二人には色々と私たちと違う情報網があるから……
「刀奈は俺と一緒に歩兵を蹴散らすぞ。山田先生はこのまま解析を続けて下さい。ハッキングは行われてませんよね?」
「大丈夫です」
織斑先生が一夏君を見て一つ頷いてこの部屋から移動していった。
「さてと、生徒を守る為に頑張るか」
「生徒会長と副会長だもんね」
生徒の代表として、学園に侵入してきた愚か者たちにお仕置きをしてあげないとね。
「武装はライフルとマシンガン、後はフルオートか」
「気配察知で武装まで分かるの?」
「結構神経使うがな」
一夏君は最深部から一歩でた場所で敵の情報を探った。それを私にも教えてくれるので、私は気配察知をしなくても済むのよね。
「しかしまた派手に壊してくれたな……誰が修理代ひねり出すと思ってるんだ」
「アメリカ軍に出してもらえば良いじゃないの」
「素直に払う訳無いだろ。捕虜にしても殺されるだろうしな」
一夏君はちょっと私から視線を逸らして、そう言った。一夏君には受け止められても、私にはちょっと受け止められないだろうと思ったんだろうな。実際私は暗部の当主だけど暗殺はした事無い。人の死には普通の女子高生と同じ位の耐性しかないのだ。
「刀奈、怪我だけはするなよ」
「大丈夫よ。この子の特性で拳銃くらいなら防げるから」
水を使ってバリアーを張る事も出来るし、展開しなくてもクリア・パッションは使えるしね。
「さて、それじゃあ俺はアイツらの背後に回るから、対処は任せるぞ」
「普通逆じゃないの? 女の子に危ない方を任せるって……」
「それじゃあ刀奈は、アイツらに気付かれる事なく背後に回れるんだな?」
「……ゴメン、無理だわ」
一夏君は人の悪い笑みを浮かべていて、私はあっさりと降参する事にした。だって人に気付かれないでその人の背後に回るなんて、相当迂回しなくちゃ出来ないもん。それを一夏君は気付かれない速度ですり抜けて背後に回るんだもんな……
「それじゃあタイミングは刀奈に任せる。もう一回言うが怪我だけはするなよ。もし刀奈に傷を負わせたのなら、俺はソイツを殺さないと気がすまなくなるからな」
「彼女としては嬉しいけど、さすがに一夏君の手を血で汚したくないわね」
アメリカ軍特殊部隊の人たちは、独自開発した何かで姿を隠しているのだけども、一夏君がその位置を把握して教えてくれたので、私にも何処に居るのか分かっているのだ。
「おや~? 此処は関係者以外立ち入り禁止なんだけど~?」
ワザと芝居っぽく話しかけ、アメリカ軍特殊部隊の気を私に向ける。その隙に一夏君は特殊部隊の背後に回った。堂々と間を突っ切って。
「貴方たち、この学園は原則男子禁制なの分かってて侵入したのかしら?」
もちろん返事は無い。そんな事して自分の居場所をより鮮明に知られる事を避けてるんだろうな。
「しょうがないわね!」
水の力で特殊な幕を剥いで肉眼で見えるようにする。
「如何かしら、クリア・パッションのお味は?」
「如何する?」
「やっちまえ! 専用機ほしさにロシアにケツを振った尻軽女だ。日本政府もコイツを助ける事はしないだろう」
一斉に銃口を向けられ、さすがに緊張してきた。でも私はロシアにお尻なんて振って無いもん! 尻軽でも無いもん!
心の中で否定していると、引き金に当ててる指に力が入ってる事に気がつく。ヤバッ、間に合うかな……
「ガッ!?」
「人の彼女を侮辱したな? 覚悟は出来てるんだろうな」
「なっ!? 何時の間に背後に回りやがったんだ!」
「堂々と間を通らせてもらった。何時の間にかはお前らが知る必要の無い事だ!」
「グェ!?」
また一人、一夏君に意識を刈り取られた。完全に混乱した特殊部隊の人たちは銃を持っているのに自分たちが有利に立ってるとは思って無いようで、慌てて引き金を引いて一夏君に攻撃した。
「何処狙ってるんだ?」
「何!? さっきまでそこに……それが何故背後に!?」
「移動したからに決まってるだろ!」
「グフゥ!?」
また一人倒れ、仲間を捨てて逃げ出そうとした人も一夏君に意識を刈り取られあっさりと捕まる。
「さて、コイツらは特別指導室にでも連れて行くか。刀奈も手伝ってくれ」
「良いけど、私はその特別指導室? の場所を知らないわよ」
「案内するから。それにさすがに人間を収納する訳にもいかないだろ?」
そういって一夏君は腕の武装を見せてきた。
「さすがに可哀想よ……」
「この……!」
辛うじて意識の残っていた人が、銃を私目掛けて発砲した。これは避けられないわね……
「良い度胸だ。貴様だけは特別に今此処で指導してやろう」
私目掛けて飛んできた弾丸は、一夏君の蹴りから発生する風であっさりと勢いをなくし途中で止まり床に落ちた。
「本当なら殺してやりたいが、刀奈の前では出来ないからな。精々死なないように耐えるんだな!」
「グエェ!」
腹部に強烈な一撃を決められて、特殊部隊の人は意識を完全に手放したようだ。それでも一夏君は満足してないのか、気絶した人を思いっきり蹴り仲間の傍まで移動させた。
「さっさと運ぶぞ。刀奈はその小さい男一人で構わない」
「えっ、でも後六人居るんだけど?」
「纏めて運べば問題ないだろ。こうやって折りたためば……」
「むごいよ、一夏君! せめて縛っておいて少しずつ運ぼうよ」
「面倒だ。纏めて運ぶ」
そういって一夏君は大の大人六人を纏めて持ち上げた……相変わらず規格外の力ね……
一夏の読み通り、暮桜を狙った阿呆が私の前に現れた。
「ISを纏って有利になったつもりか?」
「生身でISに敵う訳無いでしょ。それが例え貴女でもね、ブリュンヒルデ!」
相手はアメリカ開発の第二世代ISを纏っている。対する私は真剣を数本持っているだけだ。普通に見たら圧倒的不利なのは私だろう。だが私も一夏と同じく色々と規格外なのだ。
「面白い、少し遊んでやる。ほら、さっさとかかってこい」
安っぽい挑発で相手を小馬鹿にして冷静な判断をさせないようにする。これは一夏がオータムに使った手と同じだ。
「貴女を倒して篠ノ乃束が組み上げたISを頂く!」
「やはりそれが狙いか。本命過ぎて面白くないぞ」
どうせあのマッドサイエンティストはどこかでこの場面も撮影してるんだろう。だからあえて私は相手の目的を相手の口から言わせたのだ。
「それさえあれば、アメリカは更に力を増すだろうからな!」
「ISを軍事使用するつもりなんだろうが、基本的ISは災害支援活動にのみ軍事使用が認められてる。貴様らアメリカはISを使って占領でもするつもりか!」
「それの何が悪い! 力がある者が力無いものを使うのは普通でしょうが」
「フン! それが貴様らアメリカの本音か」
「私たち下っ端でもそれくらい分かるわよ。大体アメリカは世界の警察なのよ。そのアメリカが力をつけて何が悪いの」
開き直りもここまで来るとすがすがしいとさえ思えるな。だが決してそれを許す訳にはいかないが。
「なら、貴様にはアメリカを失墜させる為に役立ってもらうとするか」
「何を言ってるのかしら? 圧倒的不利なのは貴女なのよブリュンヒルデ」
「それは如何かな? 油断してるとあっさりと捕まるぞ? コイツらのように」
一夏から送られてきた映像を見せる。如何やら一夏は特別指導室に侵入者を閉じ込めたらしいな。
「なっ! 普通の人間には存在すら分からないはずなのに……」
「悪いな。私の弟は色々と普通じゃ無いんでな」
「弟……まさか、織斑一夏!?」
「正解。それとアンタ隙だらけだよ」
一瞬でISに細工をして、相手からISを奪った一夏。何処を如何弄ればISが使い物にならないかを理解してるからこそ出来る芸当だ。
「な……如何やってISを止めた!? 貴方私に何をしたの!」
「別に貴女には何もしてませんよ。ただその子に少しお願いしただけです」
「その子? 誰よ」
一夏は訓練機の声なら機体でもコアでも両方聞こえるのだ。だからコイツが纏ってたISの声も当然聞こえている。
「そのISだよ。大人しくしてれば君には危害を加えないと交換条件を出したらあっさり了承してくれた。もうその子は貴女の指示では動きませんよ」
「さて、これでお前は丸腰同然な訳だが、当然覚悟は出来てるんだろうな?」
腰につけた武装から真剣を抜き取り構える。さっきまで優位に立っていると錯覚してた女は、何とかしてISを動かそうとしてるが、既に一夏に惚れてるISは一夏の言う事を優先するに決まってるだろう。
「それからもう一つ良い事を教えてやろう。今のこの状況は、篠ノ乃束が全世界に同時生中継してるからな。さっきの貴様の発言は全世界に知れ渡ってる事だろうよ」
「何ですって!? ……私たちははめられたと言うの?」
「勝手に自爆しただけだろ。私は一切強要してないからな」
峰打ちで意識を刈り取り、一夏がISに頼んで女を放り出してもらった。
「さて、これでコイツも捕虜に出来るな」
「もう使い道無いだろうがな」
一夏はISに仕掛けられていた自爆装置を解除し、証拠品としてISを回収していった。訓練機を動かす事が出来ない一夏は、ISをそのまま運んでいくのだが、重くないのだろうか?
「ん? 電話か」
携帯から着信を告げるメロディーが流れてきたので、私は相手を確認せずに電話に出た。
『もすもすちーちゃん? おかげで世界は大混乱になってるよ~』
「やはりお前の企みか」
『これでアメリカの保有するコアは激減、最悪ゼロになるかもね~。ざまーみろってんだよね~』
「何がしたかったんだお前は」
アメリカに個人的恨みでも出来たのだろうか……だが束が些細な事でこれほどの事をするとも思えないのだが……
『束さんの子供を戦争の道具にしようとしてるって情報を掴んだからね。そんな事企んでる国なんて滅んでしまえば良いんだ! って事だよ~』
「随分と遠まわしに攻撃したな。お前なら直接攻撃出来るだろうが」
『束さんが動くと色々と問題になるんだよ~。だから始末はいっくんとちーちゃんに任せて、束さんは情報を世界中に教えてあげたのだよ~!』
ブイブイと、テレビ電話でも無いのにピースしてる姿が私にははっきり見えた。
「捕えた連中は如何する? まだ使えるのか?」
『ん~? クーちゃんにお届けものを頼んだから、もうそのゴミは始末しても良いよ~』
「届け物? 何だそれは」
『もうじき着くと思うし、いっくんやちーちゃんなら有効活用出来るはずだよ! あっ、無人機のコアは返してくれると嬉しいな~』
「そうだった。貴様が無人機を送り込んできた理由を聞かなくてはな」
一夏は何となく分かってるようだったが、私は問い詰めないと気が済まないからな。
『それはいっくんの為だよ~。戦闘データが不足してるぽかったから、無人機君たちを送り込んでデータを取ってもらってたんだよ~。それが分かってるからいっくんは無人機君たちのコアを壊さなかったんだよ~』
「今回は許してやるが、次やる時は先に私に連絡を入れろ。一々処理するのが面倒だ!」
『あはは~処理なんていっくんに押し付けるくせに~』
束に図星を突かれ、私は少し慌てる。まさか束にまでバレるとはな……
「それじゃあ無人機のコアはその遣いのものに渡せば良いのか?」
『どうせ解析してるんでしょ~? それなら後でいっくんに持ってきてもらうから』
「一夏が了承すると思ってるのか?」
『大丈夫だよ。了承しなかったら無人機君たちを送り込んだ報酬を強請るから』
コイツ、一夏が聞いたら本気で怒りそうな事を平然と……如何なっても知らないからな。
『それじゃあちーちゃん、近い内に会おうね~、バイビー!』
意味深な事を言って束は通信を切った。近い内に会おう?
「如何いう意味だ?」
あの女は基本的自分のラボから出ない。つまり私があのラボを訪ねる可能性があるとでも言うのだろうか……
「織斑千冬様ですね」
「お前が束の遣いか?」
「クロエ・クロニクルと申します。お見知りおきを」
「それで、束から預かったものとは?」
「此方です」
手渡されたのはUSBメモリーだ。如何やら束が入手したデータがこれに入ってるようだな。
「それでは私はこれで」
「クロエさん?」
「ッ! 一夏様」
「お久しぶりです。瓦礫掃除以来ですね」
「あの節は大変助かりました」
如何やら一夏とこの女は知り合いのようで、しかも少し一夏に気がありそうだな。これ以上警戒対象が増えると大変だからな。此処で消すのも一つの手かもしれん。
「余計な事考えてないで、アンタはそのデータを確認してるんだな」
「お前は如何するんだ?」
「わざわざ面倒に足を突っ込みたく無いからな。俺はクロエさんに料理の指導でもしてる」
何だ、コイツは一夏の弟子なのか。なら消さなくても……いや、こいつは確実に一夏に気があるな。今度束に確認しておくか。
私は今回は見逃す事にしたが、クロエ・クロニクルをブラックノートに載せる事にした。
千冬も十分人外ですからね。