もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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なんたる超展開……


腹黒娘の思惑

 白椿の製造と平行して、俺は訓練機が待機状態になれないか研究を始めていた。学園にある訓練機では俺に反応してくれないので、わざわざコアを造って訓練機を一から組み立てなければいけないのが面倒だよな……

 

「一人でも俺に反応してくれる子が居れば楽なんだが……贅沢は言ってられないよな」

 

 

 コアや機体の声が聞こえるだけでも十分捗るのだ。それ以上を望むのは贅沢だよな。

 

「そうと決まれば早速……?」

 

 

 誰かに呼ばれたような気がして、俺は格納庫の奥へと進んでいく。この時間は許可無く寮の外に出る事は禁止されているはずだ。誰か人が居るはずも無い。となると俺を呼んだのはISと言う事になるのだが、何時ものようにはっきりと声が聞こえる訳では無いのだ。

 

「こんな事始めて……いや、須佐乃男を初めて動かした時以来か」

 

 

 あの時もボンヤリとしか声は聞こえなかった。あの時はホント何に話しかけられてるのかが分からなくて若干不気味だったが、今は確実にこれがISの声だと分かるので、それほど不気味ではない。

 

「おかしい……この先には美紀の為にカスタマイズした子しかいないはずなんだが」

 

 

 そしてその子の声ははっきりと聞こえていたのだ。だからこの声がその子のはずが無い。だってあの子は俺に反応しないんだから……

 

「……君なのか?」

 

 

 声がしてきた方にやってきて、確認したがやはりそこには美紀の為にカスタマイズした子しか居なかった。如何やら俺に話しかけてきてたのはこの子のようだ。

 だがそれが分かったところで別の疑問が俺の中に渦巻く。昨日まで普通に聞こえていた声とは別の声が、この子から聞こえてきているのだ。

 

「何か問題でもあるのか?」

 

 

 尋ねるが違うらしい。俺は疑問を抱きながらもその子の装甲に触れる。何時もなら特に何も起こらないのだが、何故か今はISが動き出す……俺に反応してるのか?

 

「でも何で……」

 

 

 少なくとも放課後は反応しなかったはずだ。あの無人機が襲ってきた前に、軽くメンテナンスをしてるから間違い無い。だが今は明らかにこの子は俺に反応を示している。

 

「動かせるんだろうか……」

 

 

 須佐乃男とのリンクは間違いなく残っている。それは俺が一番分かってる事だ。現に今須佐乃男の思考が俺に流れてきているので、これは疑いようが無い。だがそれと同時に目の前ではISが俺に反応を示しているのだ。

 

「如何なってるんだ……」

 

 

 俺は自分て造ったコアを組み込んだISと、須佐乃男しか反応しないはずだったのだ、それが昨日まで……いや、ついさっきまで俺が信じていた事だ。だがこの子は間違いなく俺に反応している。

 

「考えても仕方ない、とりあえず動くのか試すか」

 

 

 まず纏えなければ意味が無いので、俺はこの子を纏えるか試す。とりあえず纏うにはこの子をしゃがませなければ……

 

「ん?」

 

 

 念じただけでこの子はしゃがんでくれた。如何やらこっちの思考も流れているらしい。

 

「考えれば。打鉄に乗るのって初めてかも知れんな」

 

 

 須佐乃男のコアは、元々ラファールだったし、それ以降俺は須佐乃男しかISを動かしてないからな……

 

「(よろしくお願いしますね、一夏さん)」

 

「君は?」

 

「(私はこの機体のコアです。何時も調整していただいてありがとうございます)」

 

「何時もと声が違うんだが?」

 

「(あれは仮の声ですからね。一夏さんが私を動かせるようになったので、本当の声を聞かせることが出来ました)」

 

 

 何時も聞いていたのは、少し幼い感じの声だったのだが、今は大人びた感じの声だ。例えるなら本音が虚に変わったような感じだ……スゲェ違和感があるな。

 

「(この私を使っていただければ、四月一日美紀さんの専用機を造る事が可能です。コアはあくまでも私……政府が言う劣化版のコアですので、コア保有数の問題にも触れませんし)」

 

「いろいろ知ってんのな。コアってのは皆博識なのか……いや、須佐乃男はバカだったな」

 

 

 赤点ギリギリだって自白してたし、俺たちが面倒見てなかったら補習だったろうしな……全部が博識って訳では無いのか。

 

「(あの方は我々訓練機用に造られたコアの憧れ的存在です。ですが一夏さんから見たら私たちはちゃんと別物なんですよね)」

 

「そりゃな。皆個性があるんだから。同じものなど何一つ無い」

 

 

 だからそれぞれに別の調整を施しているのだ。個性に合った調整をすれば、訓練機だろうがなんだろうが専用機に近い性能を発揮する事が出来る。あとは操縦者側の問題があるけどな。

 

「(一夏さんは私たちを大切に扱ってくれますからね。あの篠ノ乃箒のような私たちに全ての責任を押し付けるような無責任な操縦者はホント嫌になりますよ)」

 

「お前たちも情報交換はしてるのか? そこら辺は詳しくないんだが」

 

「(してますよ。私たちコアは、コアネットワークと言うので繋がってますし、ある程度の情報は共有しておかないと、使用者がどんな人間か分かりませんからね)」

 

「まぁそうだな」

 

 

 ISにだって意識はある。だから使用者との相性だって当然存在するのだ。この子は美紀と相性が良さそうだったから美紀専用にカスタマイズしたのだし、サラ先輩やエイミィのだって同じだ。

 

「(一夏さんに調整していただけで、我々訓練機一同はもの凄く感謝してるんですよ)」

 

「そうなのか? 業者に頼む方が確実だと思うんだが……」

 

 

 俺は素人だしな。いくらコアの声が聞こえるからといって、本業の人間と比べられたら太刀打ち出来ないと思ってるんだが。

 

「(とんでもない! あの人たちは同じようにしか調整しませんし、私たちの声など一切聞こえませんから)」

 

「普通は聞こえないらしいしな。束さんも聞こえないと言っていた」

 

「(私たちの声が聞こえるのは一夏さんだけです。だから一夏さんは調整の際に私たちの事を気遣ってくれる。業者の人はそんなのお構いなしですからね)」

 

「だって人間だって神経を触られたら痛いだろ。それはISも同じだと思ってるだけだ」

 

「(だから一夏さんに調整されるのが良いんです。そうやって気遣ってくれて、私たちを一つのものでは無く一人として扱ってくれるから)」

 

 

 それは普通では無いのだろうか。個性がある、感情があると知っているのに、ISを者を割り切れる訳が無いのだ。だから俺は調整の時に話しかけながらするのだ。

 

「(恐らくですが、エイミィさんが使っていた訓練機も、一夏さんに反応すると思いますよ)」

 

「マジか……」

 

「(私とあの子は訓練機の中でも特に一夏さんに信頼を寄せてますから。もしかしたら擬人化も出来るかもしれませんよ)」

 

「そうなると修学旅行にも連れて行けるのか……いざという時に助かるかもしれない」

 

「(微力ながらお手伝いしますよ)」

 

「まぁ、その前に擬人化出来ればの話しだがな。それに君は美紀が動かすとしても、エイミィが動かしていた子は、今持ち主不在だぞ?」

 

「(一夏さんのクラスメイトの鷹月静寂さんか日下部香澄さんなら歓迎すると思いますよ。あの二人はちゃんと私たちにお礼を言ってくれますから)」

 

 

 お礼ね……言うのが普通だと思うんだが、いかんせんISを道具だと思ってる節が他の人には見受けられるのだ。IS操縦者である事に誇りを抱いているのに、ISを道具だと割り切っている。それはある意味では正しいのだろうが、ISにだって感情があるのだ。道具だと扱われて嬉しいわけが無い。

 

「(それと小鳥遊碧さんが操縦してる子も、もしかしたら擬人化出来るかもですけどね)」

 

「それだけ擬人化したら大変じゃないか? 一応訓練機という事になってる君たちが学園から離れるのは」

 

「(私たちは所有者のいる訓練機ですからね。抜け道なら一夏さんがいくらでも用意出来ますよね?)」

 

 

 ……知られてるってのも厄介だな。かなりやり難さを感じる。

 

「とりあえず動かしてみて良いか? 須佐乃男以外のISを動かすのは初めてだからな。かなり緊張してるが」

 

「(もちろんですよ! それに、もう少しすれば一夏さんは全てのISを動かせるはずです)」

 

「何でいきなり? 特に変わった事はしてないんだが」

 

「(それは一夏さんが無人機のコアを傷つける事無く救ってくれたからですよ。普通なら機体と同時に傷つけてしまうものですが、一夏さんは十人の仲間を無傷で救ってくれましたから。この人なら私たちも動かしてもらいたいと、今更ながらに強く思ったのです)」

 

「やっぱり警戒されてたんだな。俺が男だから」

 

 

 ISは基本的に女性にしか動かせない。須佐乃男が例外で、他のISは俺に嫌悪感、または警戒心を抱いてるんだと思ってたが、やっぱりそうだったのか。

 

「(声が聞こえるだけでも、一夏さんは私たちに好かれてたんですよ? そして今日、完全に私たちは一夏さんに恋しました。だから動かしてもらいたいと思ったのです)」

 

「恋……ねぇ。そういえばまだ名前を聞いてなかったな」

 

「(私たちには名前などありません。ですので一夏さんが決めてください。私と、あと二機のISの名前を。擬人化したときにその名前を使いますので)」

 

「責任重大だな……」

 

 

 俺にはネーミングセンスが無い。白椿や黒椿だって束さんの紅椿からもらったものだ。さて、如何したものか……

 

「雪乃……」

 

「(雪乃ですか?)」

 

「雪月花ってな。雪乃に月乃に花乃で如何だ?」

 

「(綺麗ですね。雪乃ですか)」

 

 

 如何やら気にいってくれたらしい。これでホントに擬人化したらその名前を名乗るのだろうか……

 俺はそんな事を考えながら美紀の機体……雪乃を操縦してから白椿製造に戻った。まさか俺が須佐乃男以外のISを動かせるとはな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見張りがより厳しくなってしまったので、逃げ出す事は簡単では無くなってしまった。反省しなければ京都にいけないと脅されているので、一応は反省してる風を装っているのだが、僕は何一つ悪い事なんてしてないんだよね。

 

「シャルロットさん、手が止まってますわよ」

 

「お前がサボれば私たちも連帯責任になるんだ。さっさと作業しろ」

 

「分かってるよ」

 

 

 もう夜遅いというのに、僕たちは亡国企業が壊していった花壇の修復作業をしている。監督は織斑先生だ。

 

「もっと気合を入れろ! さもなくば貴様らの晩飯は私一人で食べるからな!」

 

 

 僕たちのご飯は一夏が用意してくれるから、織斑先生はそれを狙っているようなのだ。一夏としたら手抜き料理なんだろうけども、僕たちからすればご馳走だった。ついこの前まで残飯以下の謎の物体を食べさせられていたのだから……

 

「ご苦労だな」

 

「一夏、今日も上手そうな匂いだな」

 

「アンタホント食い意地が張ってるよな……ちゃんと人数分あるんだからそんなによだれ垂らすなよな」

 

「おっと」

 

 

 織斑先生はスーツの袖でよだれを拭こうとした。だけどそれより早く一夏がティッシュで織斑先生の口元を拭いてあげたのだった。

 

「スーツで拭くな! アンタ自分でクリーニングに出せないんだからな」

 

「それくらい出来るさ!」

 

「ならあのゴミ溜めにある洗濯物を洗濯するかクリーニングに出したら如何だ?」

 

「……スマナイ、どっちも出来ない」

 

 

 一夏にあっさりと撃沈させられた織斑先生は、八つ当たり気味に僕たちに鋭い視線を向けてきた。

 

「作業速度が落ちてるぞ! そんなんじゃ一夏の料理は食べさせられないな!」

 

「アンタ一人でこれを食う気か? 太るぞ」

 

「大丈夫だ! 一夏の料理ならいくらでも食べられるし、どれだけ食べても太らないからな」

 

「どんな身体してるんだよ……」

 

 

 一夏は呆れながらも、僕たちの作業から視線を逸らす事は無かった。織斑先生ほどではないけども、一夏も僕たちが逃げ出さないように見張ってる目だった。

 

「来週までには更生出来そうか?」

 

「微妙だな出発の木曜の前日……水曜には判断をしなければいけないからな」

 

「今日が金曜だから……五日か」

 

 

 僕たちの残された時間は後五日。冤罪だけど反省しなければ京都に行けないのならば、僕は何としても織斑先生に反省したと判断させてやる。

 

「明日明後日は一日修復作業に当てられるからな。半分以上終わらせられると思うぞ」

 

「一夏さん!? 二日で半分以上って、どれだけ働かせるつもりですの!?」

 

「そうだぞ一夏! 私たちだって休みたい!」

 

「休みたければ休めば良いだろ。その代わりこの学園に居られなくなる可能性が増えるんだと理解してるのならな」

 

 

 一夏の脅しに、セシリアも箒も肩を震えさせる。正直僕も震えてるんだけども、直接僕が言われたわけじゃないから二人より震えは弱い。

 

「一夏は明日明後日如何するんだ? 更識の屋敷には戻らないにしても仕事があるんだろ?」

 

「明日はちょっと別の事をするが、日曜は白椿製造で一日終わるだろうな」

 

「大変だろうが、一夏次第でIS学園の運命が変わるんだからな」

 

「十六歳に言うセリフじゃねぇだろ」

 

 

 そう言い残して一夏はまたどこかに行ってしまった……自由に動けるって羨ましいな。

 

「よし小娘共、一旦休憩にして飯にするぞ」

 

 

 織斑先生の合図で、僕たちは作業の手を止める。漸く休めるんだ……

 

「さっき一夏が言ったように、お前らの最終判断は来週の水曜に下す。それまでしっかりと反省するように。反省したと私が判断すれば、京都には連れて行ってやる。だが反省してないと判断した場合、貴様らはこの学園から追い出されると覚悟しておけ」

 

「それってつまり……」

 

「そうだ。オルコットとデュノアは本国に強制送還。篠ノ乃はアイツの実験材料になるか篠ノ乃神社の跡を継ぐか選ぶんだな」

 

 

 織斑先生の言った事に、僕たちは顔を青ざめさせた。セシリアはイギリスに戻れば貴族としての地位も危うくなるし、落ちこぼれの烙印を押されるだろう。

 そして箒は篠ノ乃博士に全身弄られるか、神社の跡取りとして修行し、見ず知らずの相手と結婚させられるのだろう。

 だけど僕はその二人よりも酷い仕打ちが待っているのが確実だ。本国に僕の居場所などなく、デュノア社で良いように扱き使われ、最悪裏取引の道具として気持ち悪いオヤジ共に抱かれるかもしれないのだ。

 

「お前らが反省したか否かの判断は私だけで行う訳では無いが、最終判断を下すのは私だ。誤魔化そうとか考えているのなら無駄なことはするなと忠告しておいてやろう」

 

 

 やっぱりこの人と一夏の目を誤魔化すのは難しそうだ。山田先生なら簡単に誤魔化せる自信があるんだけども、一夏も織斑先生も相手の心を見透かすような技術を持ってるからな……

 

「織斑先生、私たちが反省したと判断されるには、この作業に真摯に向き合えば良いんですか?」

 

「それだけでは判断出来ないが、好印象を抱かせるには十分だろうな」

 

「それじゃあ僕たちは溜まってる作業を終わらせれば京都に行ける訳じゃないんですか?」

 

「そうだな……特にデュノアは腹に一つも二つも何かを抱えてる感じがするからな。それが払拭されない限り解放は難しいだろ」   

 

 

 やっぱり見透かされてるのか……それじゃあこの人を始末して……って、もっと無理だよね。何せこの人は腐ってても元世界王者、ブリュンヒルデの称号を持つ人なのだから。

 

「一夏が貴様らに反省のチャンスをくれたんだ。その温情を踏みにじるようならば私は一切の容赦をしないからな」

 

「一夏さんは私たちを助けたいのですか?」

 

「お前らは一応候補生だからな。何かあった時の戦力に考えているのだろう」

 

 

 確かに今IS学園は亡国企業に狙われている。だから僕たち専用機持ちは戦力として計算されているんだろう。だけど箒は候補生はおろか、一夏にIS操縦者に相応しく無いとまで思われてるのに……何で反省の機会をもらってるんだろう。

 

「食べ終わったらさっさと作業を再開しろ! 今日中にその花壇の修繕が終わらないと明日明後日の作業がキツクなるだけだぞ!」

 

 

 織斑先生に無茶を言われながらも、僕たちは逆らう術などなく花壇の修繕活動に戻る。大体これを壊したのって亡国企業だよね。何で僕たちが直さなきゃいけないんだよ……

 

「予算が無いんだ! 貴様らに修繕させる事によって学園の懐は助かり、貴様らは反省する事が出来る。どちらも助かるからだ」

 

「ですが、僕たちが壊した訳じゃ無いんですよ?」

 

「だったら貴様一人で亡国企業の連中を捕まえてきて修繕作業をやらせるんだな。私たちは一切手を貸さない」

 

 

 そんな事が出来るのならとっくにやっているとでも言いたそうに、織斑先生は腰に手を当てていた。あのポーズをしてるという事は、結構機嫌が悪いんだろうな……

 

「シャルロットさん、余計な事を言って織斑先生を怒らせないでくださいまし!」

 

「そうだぞ! 千冬さんを怒らせて私たちにまでとばっちりが来るのは遠慮したいぞ」

 

 

 セシリアと箒は何でもかんでも僕の所為にするけども、大体セシリアや箒だって悪いんだからね。その事を理解してるんだろうか……

 僕は二人にそんな疑問を抱きながらも、背後から鋭い視線を向けられているので仕方なく作業をする事にした。解放されたら絶対に復讐してやるんだからね。




シャルロットは悪い子です……
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