初めてベッドで寝たのですが、これは癖になりそうですね……もう格納庫で生活は出来そうにありません。
「月乃と花乃はまだ寝てるようですね」
既に日は高くなっていますが、私たちISは使用されない限り寝ているのも同然ですので仕方ないと言えばそれまでなのですが……
「一夏さんは今日専用機製造で忙しいと言ってましたし、私たちは何をすれば良いんでしょうかね……」
自由行動が認められているとはいえ、何をすれば良いのかが分からないのですよね……ここは先輩である須佐乃男さんに相談した方が良さそうですね。
「そうと決まれば早速」
着替えを具現化し寝巻きを片付ける。一夏さんが言うには、具現化したものをしまえば綺麗になるそうなので、基本的に洗濯機というものに触れる機会は無さそうなのです。
でも何故か須佐乃男さんが着ていたものは洗濯してあるんですよね……何故なのでしょうか聞いてみましょう。
「ん……雪乃、もう朝?」
「そろそろお昼ですよ」
「そうなんだ……一日自由にして良いって言われてるんだから、もう少し寝る……」
月乃は一回起きたのにそのまま寝てしまいました。まぁ気持ちは分かりますけどね。ベッド気持ちよすぎです。
「むにゃむにゃ……お兄ちゃん……」
花乃は一夏さんの夢を見ているようで、ベッドに頬ずりしています。ホント花乃は甘えん坊なんですから。
「さて、一人で行きますか」
二人は起きる気配がなかったので、このまま寝かせてあげる事にしました。無理矢理起こしても可哀想でしたし、せっかく自由に動けるんですから、一人で行動してみたかったですしね。
「えっと須佐乃男さんは部屋に居るのかしら?」
今更ながらの疑問だったのですが、須佐乃男さんは一夏さんたちと同じ部屋で生活してる為に、起床時間も早いはずなのですよね。その須佐乃男さんが大人しく部屋に居るとは考え難いんですよ……そうなると何処を探せば良いんでしょうか?
「楯無さんたちが知ってるかも知れませんし、やはり此処は一夏さんたちの部屋を訪ねるのが一番ですかね」
一夏さんのように気配を探れれば良いんでしょうけども、この身体にまだ慣れてない為に上手くセンサーを使えないんですよね……ちょっとずつ慣れて行けば良いと言ってくれましたが、私は早く一夏さんの役に立ちたいんですよ。
「あれ? えっと……雪乃だっけ? 如何かしたの?」
「楯無さん。丁度部屋に行こうと思ってたんですよ」
部屋に向かう途中で、タイミングよく楯無さんと遭遇した。
「そうなの? でも一夏君は部屋に居ないわよ」
「存じています。須佐乃男さんにようがありまして……何処にいらっしゃるか分かりませんかね?」
「須佐乃男? さっき食堂で見かけたからまだ居るんじゃないかな?」
「食堂……ですか?」
我々ISは食事などしなくても生活出来るはずなのに、何故食堂に居るのでしょうか? おしゃべりの為に付き合いで行ってるとか?
「本音や清香ちゃんたちとケーキ食べながらおしゃべりしてたわよ」
「ケーキ?」
「うん。須佐乃男は甘い物大好きだからね」
「ですが、ISに食事など必要無いのですが」
「う~ん……須佐乃男は一夏君と一緒になってからずっと意識があったからね。一夏君が作ったり食べたりしてたのもに興味を持ったらしいのよ。それで人の姿になってから箍が外れちゃったんでしょうね」
「そうなのですか」
須佐乃男さんの食費って、誰が出しているんでしょう? 普通に考えれば須佐乃男さんが自分で出してるんでしょうけども、そのお金の出所は? きっと一夏さんからのお小遣いなんでしょうね。
「それじゃあね、雪乃。私は忙しいから……」
「お嬢様、此処にいらっしゃいましたか」
「う、虚ちゃん……」
「仕事が山積みなんですから、逃げ出さないでくださいとあれほど言ったのですがね……まだ言い足りませんでしたか?」
「だ、大丈夫。十分分かってるから」
「では何故生徒会室では無く此処に居るのでしょうか?」
虚さんのプレッシャーに、楯無さんが冷や汗を掻いている。一夏さんが怒った時のプレッシャーを知ってるからか、虚さんのはあまり怖いとは感じませんね。
「雪乃を案内してたのよ……」
「え? そうでしたっけ?」
急に話を振られて私は首を傾げた。確かに須佐乃男さんの居場所は尋ねましたが、案内してもらったと表現出来るかはかなり微妙です。
「嘘は結構です。ずっと見てたので分かってますよ」
「見てた!? ストーカーなの!?」
「違います! ISのセンサーでお嬢様の存在は掴んでましたので」
「展開しなくてもセンサーを使えるようになったのは、私にとっては厳しい事ね……逃げ場がなくなっちゃうんだから」
「一夏さんのようにIS無しで探し当てる事が出来ませんからね。一夏さんが改良してくれたんですよ」
如何やら楯無さんはサボりの常習らしいですね。それを見かねた一夏さんが虚さんのISセンサーを改良して逃げ出しても分かるようにしてくれたようです。一夏さんの技術力は凄いですね。
「では私は須佐乃男さんのところに行ってみますので、楯無さんはお仕事頑張ってくださいね」
「薄情者~」
「さぁ、お嬢様はこっちです」
虚さんに襟首を掴まれ、楯無さんはそのまま生徒会室まで引き摺られて行きました。実際にあんな光景にお目にかかれるなんて思って無かったですね。
「ほえ? えっと……ユッキーだっけ?」
「ゆ、ユッキー!?」
食堂に到着すると、本音さんが聞いた事も無い呼び名で私を呼びました。
「本音、この美人さんと知り合いなの?」
「えっと、このユッキーは美紀ちゃんが使ってるISだよ~」
「本音さん、須佐乃男さんが此処に居ると聞いてきたのですが」
他の人が驚いて固まっていますが、私の興味は須佐乃男さんですからね。とりあえず気付かないフリを続行します。
「須佐乃男なら、さっきまで居たけど……何処に行ったんだっけ?」
「ちゃんと覚えておいてくださいよ。探すの大変なんですから」
「う~ん……あ! そうだ思いだした~! 部屋に戻るって帰ったんだった」
「そうなんですか」
さっきそのまま部屋に寄ればよかったですね……すれ違わなかったのを考えれば、あの時既に部屋に戻っていたと考えるのが普通ですし。
「それでは部屋に向かってみますね」
「バイバイユッキー」
「……ところでその『ユッキー』とは?」
「ほえ? ユッキーはユッキーだよ~」
会話になって無い感じですが、本音さんはこうなのだろうと改めて理解しました。
「そういえばツッキーとハナハナは?」
「……月乃と花乃はまだ寝てます」
「ほえ!? まだ寝てるの? お寝坊さんだね~」
「私たちISは使用されない限り寝てるのと一緒ですから」
「ほえ~そうなんだ~。私もISになりたいな~」
本音さんはそんなに寝てたいのでしょうか……寝続けるのも楽ではないと思うのですがね。
本音さんと別れ、今度こそ須佐乃男さんが居るはずの場所へ移動します。部屋は確かこっちでしたよね……
「あ、居ました」
「はい? あ、雪乃さんですか。何のようです?」
「いえ、擬人化したISの生活方法を聞こうと思ってたのですが、既にいろいろと聞けました」
「? 生活方法など、普通に生活すれば良いだけですよ?」
「その普通が私たちには分からないですからね」
なにせ昨日まで格納庫で生活していたのですから、人間社会が如何なってるのかなんて分かりようが無いのですよね。
「普通に起きて、普通にご飯を食べ、普通に授業に出る。これが私の普通なのですよ」
「須佐乃男さんは食事を摂らないと駄目なのですか? ISに食事は必要ないはずなのですが」
「大丈夫ですが、一夏様の料理は最高に美味しいですし、女の子は甘い物が大好きなんですよ」
……一夏さんの財布は大丈夫なのでしょうか? とりあえず須佐乃男さんに普通の生活を教えてもらったので、明日から実行してみましょう。
一夏が居ないから、私はゆっくりとゲームをしていた。RPGだから基本一人プレーなので、静かな方が捗るのだ。
「本音が須佐乃男と出かけたから、この部屋は私一人だしね」
お姉ちゃんと虚さんは生徒会の仕事、一夏は専用機製造に勤しみ、マドカは織斑先生と三人を見張りながら身体を動かしてるらしく、ナターシャ先生と碧さんは亡国企業に対する見張りでそれぞれ出払ってるのだ。
「久しぶりに一人だな……何時も誰か居る部屋だからね」
大部屋だから仕方ないけど、一人になるには難しい空間なのだ、この部屋は。
「それに、一夏が居ると休憩を挟めって言われるからね」
一夏の言ってる事は正しいのだけども、良い所で休憩など挟めるわけ無く、結局際限なくやってしまうのだ。
「だからあまりRPGはやらなかったんだけどね……」
アニメを見るかゲームをするかしか趣味が無かった私にとって、休憩を挟めという一夏は無理難題を言っているようにしか聞こえなかった。だけど今は休憩を挟めという一夏の意図がはっきりと分かるようになった。確かに目は疲れるし興奮して散らかしまくった時は結構本気で怒られたのだ。
「何でだろう……一人でやってても面白くないな」
ちょっと前までなら一人でゲーム出来るなんて最高だと思ってたのに、今はそれほど楽しくない……これは一夏たちと一緒にゲームしたり出かけたりしたからかな。
「セーブして出かけよう」
今日は一夏の手伝いは出来ないけど、お姉ちゃんたちの手伝いくらいなら出来るだろうしね。ちょっと前に生徒会の仕事を手伝ったし、お姉ちゃんと同じくらいの速度なら私でも出来るもんね。
「よし、生徒会室に行こう」
本音たちと食堂でケーキ食べるのも良いけど、今月は修学旅行があるから無駄遣いは控えないとね。
「あれ、簪様。お出かけですか?」
「須佐乃男。食堂に行ってたんじゃないの?」
「私はもう食べ終わりましたし、おしゃべりの内容が私には分からないものでしたので先に帰らせてもらいました」
「そうなの? 今から生徒会室に行くから留守番頼める?」
「生徒会室ですか? 一夏様は居ませんよ」
「知ってるよ。だから手伝いに行くの」
一夏が居ないと生徒会の仕事はなかなか終わらないからね……一夏の処理速度は人間のレベルでは無いってお姉ちゃんが言ってたし……
「それでは私もお手伝いしましょう。部屋は鍵を掛けておけば問題ないですし」
「そうだね。須佐乃男も手伝ってくれればより早く終わるし」
須佐乃男も前に手伝ったから生徒会の仕事の内容も知ってるしね。お姉ちゃんの事だからきっと終わらなくて困ってるだろうし。
「失礼します」
「あれ? 簪ちゃんに須佐乃男、どうかしたの?」
「暇だったのでお手伝いを」
「ホント!? よかった! 終わらなくて困ってたんだよ~」
ほらね。お姉ちゃんは普段から一夏や虚さんに仕事を任せっぱなしだから、いざ自分でやらなければいけなくなるとこうなってしまうのだ。
「とりあえず手伝うけど、お姉ちゃんもちゃんと仕事しなきゃ駄目なんだからね」
「分かってるわよ~。でも簪ちゃんと須佐乃男が手伝ってくれるおかげで、終わりが見えそうなのよ」
「お嬢様、二人には手伝ってもらいますが、お嬢様の仕事量が減るわけでは無いですからね」
「……分かってます」
お姉ちゃんは生徒会長だから、最終チェックなどの仕事がある。だからどれだけ私たちが手伝おうとお姉ちゃんの仕事は減らないのだ。
じゃあ何故普段はサボってても生徒会の仕事が終わってるのかというと、一夏が代理で処理しているからだ。お姉ちゃんより確実だしね、一夏の方が。
「む! 簪ちゃん、今失礼な事考えて無かった?」
「別に。ただ一夏の方が生徒会長らしいなって思っただけだよ」
「……否定出来ないのが悲しいわね」
だってお姉ちゃんは生徒会業務を放り出して遊んでるし、IS学園の生徒会長は最強の称号のはず。それならとっくに一夏に代わっていてもおかしく無いのだ。
「一夏さんは会長職を固辞してますからね……ですから暫定的にお嬢様が会長になっているのですよ」
「一夏様は面倒事、嫌いですからね」
「でもちゃんと生徒会の仕事はしてくれるのよね~。だから助かっちゃってるのよ~」
「お姉ちゃん、当主の仕事も一夏や虚さんに代わってもらってるんだから、少しくらいはちゃんとしなよ」
「……簪ちゃんに言われると堪えるわね」
「だって今のままじゃお姉ちゃん、本音とさほど変わらないよ」
私の言葉に、お姉ちゃんはかなりのダメージを負ったようだ。何時も見たくふざける事も無く、本気でへこんでいるのだから……
「あ、あれ?」
「簪お嬢様、今のはさすがにお嬢様でも堪えますよ」
「本音様と同列に見られてたとは……」
虚さんも須佐乃男も、若干お姉ちゃんに同情気味だ。私、そんな酷い事言った自覚無いんだけどな……
「簪ちゃんに考えを改めてもらう為にも、私頑張る!」
復活したお姉ちゃんは、今までふざけていた人と同一人物かと疑いたくなるような気迫を見せ生徒会業務を遂行していく。
でもまぁ、気迫を出しても作業速度が著しく上がる訳も無く、何時も通りの速度なんだけどね。
「やる気があるだけマシですよ」
「そうだね。それじゃあ私たちも手伝い始めるね」
お姉ちゃんが処理くれる為に、私たちは他の作業が出来る。一夏に頼り切った生徒会だと言われているけども、お姉ちゃんだってやれば出来るのだ。ただやらないだけで……
それに虚さんだってしっかりと仕事してるのに、何故かその事は評価されないのだ。恐らく黛先輩を従えるところを見た人たちが、怖がっているんだろうと一夏が言っていたけども、真相は分からない。
「そういえばさっき須佐乃男を雪乃が捜してたけど、ちゃんと会えた?」
「ええ。何でも普段は何をすれば良いのか分からないそうで」
「そっか……あの三人は昨日までISの姿だったんだもんね。何をすれば良いかなんて分からないのか」
「一夏さんに聞ければ一番だったんでしょうけども、生憎今日も忙しそうですからね」
一夏は私が起きる前から整備室で白椿製造に勤しんでいるはずだ。だから訪ねようにも憚られたんだろうな。だから須佐乃男を頼ったってところかな。
「それで、今雪乃たちは何してるの?」
「さぁ? とりあえず平日のスケジュールは教えましたけども、私と違ってあの三人は学生では無いですからね」
「生徒会権限で生徒扱いも出来るけども、それだと修学旅行に自由が無くなっちゃうものね」
「あくまでも修学旅行ですからね。普通の旅行気分では困るのですが」
虚さんはため息を吐いたけども、普通の旅行気分でも良いと私は思っている。だって滅多にいけない場所なんだから、学校行事とかそう言った堅苦しい事は一旦忘れても良いじゃないのよ。
「一夏様が言うには、あの三人はあくまでも緊急時にのみ働いてもらうのであって、今回は世間を知ってもらう目的があると」
「まぁ確かに、学園内だけじゃ限界はあるだろうしね」
「そもそも男性が一夏さんだけですからね……世間を知るには人間が限られすぎてます」
「でも虚さん、世間の男性は一夏ほど強くないですよ?」
「それが現代の男性の大半ですからね……嘆かわしい事に」
虚さんも今の世の中を憂いている一人なのだが、虚さんは女性だけじゃなく男性も悪いと思っているのだ。この考えは一夏と同じ。一夏も今の世の中に甘んじている男性を情けないと言っていたような気がするし。
「兎に角、修学旅行にはあの三人の同行を認めますが、あくまでも学園行事としてですからね」
「虚ちゃん細かいわね~。そんなに細かい事言ってると皺が出来ちゃうわよ?」
「……誰の所為で苦労が絶えないと思ってるですか? お嬢様が普段仕事してくれないからですよね?」
「ちょっと? 私はそんな事言ってないんだけど……」
「関係ありません! 普段からお嬢様が仕事をしてくれれば、私だって皺の心配をしなくて済むんですから!」
もしかしてお姉ちゃん、地雷踏んだ?
虚さんの怒りが爆発しかかった時、生徒会室の外に誰かの気配を須佐乃男が感じ取った。
「誰でしょう?」
須佐乃男が生徒会室の扉を開けると、そこに居たのは一夏だった。ちょっと疲れ気味のようだけど、ちゃんと寝てるようで隈は見られない。
「如何したの?」
「いや、須佐乃男から流れてくる情報で、虚が怒ってるのを知ってな。一応慰めに」
「それじゃあお願い。私や須佐乃男じゃ今の虚さんは止められない」
既にお姉ちゃんは抵抗を諦めてるし、このまま怒らせたらまた虚さんの心配事が……
「一夏様も大変ですね」
「なら人に情報を流してくるなよな、白々しい」
如何やら一夏を呼んだのは須佐乃男の作戦だったらしい。その作戦が功を奏し、虚さんの怒りは鎮まったのだが、暫く一夏に甘えまくった所為で、今度はお姉ちゃんの機嫌が悪くなったのだった……二人とも、一夏だって忙しいんだからさ。もう少し我慢しようよ……私だってしてるんだからさ。
盛大に地雷を踏んでしまってます。