もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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今回は祭り編の前編です。


祭りの雰囲気

祭り当日、更識の屋敷では異常なテンションの五人の少女たちが見受けられた。

屋敷に仕えている者たちは微笑ましいといって感じで見守っていたが、この屋敷に居候している少年だけは違った。

その少年とは当然一夏の事だが、一夏には他の五人とは関係ない所で不安要素が幾つかあるのだ。

その一つは場所だ。

篠ノ乃神社、名前から分かるように篠ノ乃箒と関係のある場所だ。

一昨日電話したときに話した雪子とは面識もあるし、どうも一夏と箒をくっつけさせようと言う面が見受けられる。

一夏としては箒と付き合う気など全く無く、最近ようやく友人レベルまで関係が修復されてきた所なのだ。

そこに雪子が介入してきたら、また関係が拗れる可能性が大いにある。

そうすると、一夏が再び頭痛と戦う時間が長くなるのだ。

せっかく臨海学校以降少しはマシになってきた学園生活を壊されるのは非常に困るのだ。

 

「(雪子おばさんとはなるべく会いたくない。)」

 

 

須佐乃男があの場所に興味を持たなければ当然祭りになど行く気など無かった。

しかし須佐乃男が興味を持ち、行きたいと言われれば一夏は断れない。

普段はしっかりとしている須佐乃男だが、一度言い出すと一夏でも覆せないのだ。

それに加え普段から世話になってる須佐乃男に思い出作りをさせるためにも一夏は須佐乃男の提案を拒否することは出来なかった。

 

「(やれやれ・・・最近の俺は甘すぎるな。)」

 

 

自分が変わってきている事を改めて実感して苦笑いをする。

中学時代は親しい友人など片手で数えられるくらいしか居なかったのに、今は片手では足りない。

交友関係が広がった事によって変わったのかも知れない。

一夏はそう思うことにした。

 

「(そういえば須佐乃男は浴衣持ってないよな。また具現化でもするのか?)」

 

 

他の四人は浴衣で行くと言っていたのを思い出し、同時に須佐乃男は如何するのか気になった。

 

「(まあ別に普段着でも問題は無いだろうし、俺も浴衣持ってないしな。)」

 

 

一夏は祭りに普段着で行くつもりだった。

一夏自身、似合ってないと思っているからだ。

何故そう思っているかと言うと、中学時代に一度だけクラスメイトの前で和服を着たことがあった。

その時の反応を見て、似合ってないと思ったのだ。

しかしそれは一夏の勘違いであって、クラスメイトはあまりにも様になっているを見て感動していたのだ。

そして女子たちは普段と違ういでたちの一夏を見て声に出せない衝撃を受けていたのだ。

それくらい一夏の和装は似合っているのだが、本人の勘違いと周りが教えていないこともあってそれ以降一夏は和装をすることは無かった。

 

「(まだ時間もあるし、庭をぶらりと散歩でもするか。)」

 

 

女子と違って自分の支度にはさほど時間は掛からないので、屋敷内を散歩することにしたのだが・・・

 

「おりむ~居る~?」

 

「本音か。何か用か?」

 

 

外に出ようとしたら部屋に気配が近づいてきたので一夏は部屋から出ることはしなかった。

本音の足では一夏と行き違いになるかもしれないし、かといって自分から出向くのも何か違う気がしたからだ。

 

「え~とね~、大広間に来てほしいんだ~。」

 

「大広間?何でまた・・・」

 

「楯無様が呼んでるんだ~。」

 

「刀奈さんが?分かった、すぐ行く。」

 

「お~、早く来てね~。」

 

「ん?一緒に行かないのか?」

 

「え~と・・・5分くらいしてから来て?」

 

「何で疑問系なんだ・・・まあいいか。分かった5分だな。」

 

「うん!じゃあ後でね~。」

 

 

そう言って本音の気配が遠ざかっていく。

 

「(また何か企んでるな。)」

 

 

呼んでおいてすぐには来るなと言うからには準備がまだ出来ていないのだろうな。

一夏は一人苦笑いをし、時間が経つのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして5分後・・・

 

「さて、そろそろ行くか。」

 

 

一夏は読んでいた本を閉じ、大広間に向かう事にした。

 

「今度は何をするのやら。」

 

 

言葉だけ聞けば呆れているようだが、一夏の表情は楽しそうだった。

刀奈が何かを企むのは今に始まった事では無いし、一夏に何か不都合がある訳では無いので、基本的には一夏も楽しんでいる。

 

「刀奈さん、一夏です。入っても良いですか?」

 

「うん、良いよ~。」

 

「失礼します。」

 

 

入室の許可を取り襖を開ける。

 

「今回はいったい何を・・・企んで・・・」

 

「ど~お?似合ってる?」

 

 

そこに居たのは浴衣姿の五人だった。

 

「・・・」

 

「ん?如何したの~?」

 

 

一夏が何も言わないので不審に思い声をかける。

 

「いえ・・・とてもお似合いです。」

 

「そ、ありがと。でも何ですぐ言ってくれなかったの?」

 

「あまりにも衝撃が大きすぎてフリーズしてました。」

 

「そんなに衝撃を受けるほどかな~?」

 

「ええ・・・まあ・・・人によりますが、五人はとても似合ってますし普通の男子が見たらフリーズするのは当然かと。」

 

「照れるよ~、一夏君ったら。」

 

「嬉しいよ、一夏。」

 

「ありがとうございます、一夏さん。」

 

「おりむ~ありがと~。」

 

「浴衣っていうのも良いものですね一夏様。」

 

「でも一夏君が普通の男子だとは思えないわね~。」

 

「俺だって高校生ですからね。綺麗な女性を見れば見とれる事だってありますよ。」

 

「綺麗///」

 

「?如何しました?何だか皆顔が赤いような?」

 

 

一夏に綺麗と言われて照れている五人。

だが相変わらずこう言った面では鈍い一夏には何故顔を赤らめてるのか理解出来なかった。

 

「じゃあ一夏君も着替えて。」

 

「はい?」

 

 

唐突に着替えろと言われ面食らう一夏。

 

「着替えろって何にですか?」

 

「何って浴衣に決まってるじゃない。」

 

「・・・俺浴衣持ってませんよ。」

 

「大丈夫、家にあるから。」

 

「あるってったって簪、サイズ合うのか?」

 

「だいじょ~ぶだよ。昨日おりむ~のサイズに直したから~。」

 

「直したって本音、俺が持ってたら如何するつもりだったんだ?」

 

「ん~・・・考えてなかった~。」

 

「「はぁ・・・」」

 

 

一夏と虚のため息が重なる。

本音の短絡思考に頭を悩ませる二人だけあって、この本音の発言にはため息を吐きたくなって当然なのだ。

 

「まああるのは良いが、俺は似合わないですよ、和服。」

 

「そうですかね~、似合いそうですけど。」

 

「昔学校行事で着させられたが、クラス中がフリーズした。」

 

「それって似合っているからではないのですか?」

 

「それは無いと思いますよ。気まずくなってすぐに着替えたので確認はしてませんが、どうせ似合ってないに決まってます。」

 

「・・・自己評価が低いのが一夏君の欠点よね。」

 

「そうだね。」

 

「相手の事は良く分かってるのに、自分の事になると一夏様は全くですからね~」

 

「?」

 

 

一夏の発言に楯無、簪、須佐乃男の三人が小声で話している。

 

「とりあえず一夏君。向こうに浴衣があるから着替えてきて。」

 

「分かりましたが、似合って無くてもしりませんよ?」

 

「平気平気、多分似合うから。」

 

 

やれやれといった感じで一夏は大広間から移動する。

 

「あっ、一夏さん。こっちですよ。」

 

「え?・・・スミマセン、場所聞くの忘れてました。」

 

「そこまで着たく無いんですか?」

 

「似合わないと分かってるものは普通着たくないですよ。」

 

 

移動中も頑なに着たくないと言う一夏。

しかし彼女たちが見たいと言っては、一夏に拒否出来る訳がないのだ。

 

「(最近俺、勝てる相手が少なくなってる気がする・・・)」

 

 

刀奈に簪、虚に本音に加えて須佐乃男にも口では勝てなくなっている。

口論では勝てるが、お願いや懇願には勝てないのだ。

 

「(俺も変わったって事なんだろうけど、これは身が持たないぞ。)」

 

「一夏さん、どうかしましたか?」

 

「いえ、大丈夫です。スミマセンね、少し考え事をしていたもので。」

 

「考え事ですか?」

 

「まあ他愛無いことですから、気にしないでください。」

 

「はぁ・・・あっ、一夏さん此処です。」

 

 

一夏の浴衣が置いてある部屋に着き、虚が一夏を部屋に入れ外で待機する。

 

「別に一人で戻れますよ。」

 

「気になさらないでください。」

 

「はぁ・・・まあ良いですけど。」

 

 

そう言って浴衣に着替える一夏。

 

「(一夏さんはああ言ってますけど、恐らく一夏さんは浴衣がお似合いのはず。何時も楯無様や簪お嬢様がこう言った一夏さんの付き添いをしてますけど、私だってしたいんですよ。)」

 

 

普段なら此処まで強気に出ない虚だが、あの酒盛り以降少しは強気になろうと決心したのだ。

 

「(一夏さんは楯無様や簪お嬢様、本音にはとても優しいですし、須佐乃男さんは一夏さんの着替えを何時でも見られる立場ですし。私だって一夏さんに気軽に甘えたいんですよ?分かってるんですか、一夏さん。)」

 

 

虚も十分一夏に甘えているが、他と比べると確かに少ない。

だから虚が思っている事も正しいのだが、一夏にしてみたら虚くらいが丁度良いのであって他の四人が甘え過ぎなのだ。

しかし認識の仕方は立場によって異なる事が多い。

今回も甘える側と甘えられる側で認識が違っているので、虚の積極的な行動に一夏は少し疑問に思っているのだった。

 

「終わりました。似合って無くても笑わないでくださいよ?」

 

「勿論ですよ。笑ったりはしません。」

 

「じゃあ出ますね。」

 

 

そう言って襖を開ける一夏。

その瞬間、虚が息をのみ驚いた。

 

「やっぱ似合ってませんよね。着替えます。」

 

 

何を勘違いしたのか部屋に戻ろうとする一夏。

 

「ち、違います一夏さん!」

 

「何が違うんですか?」

 

 

慌てて呼び止める虚に、一夏は首だけ振り返って聞く。

 

「似合ってないんじゃなくて、とても似合っていて驚いたんです!」

 

「お世辞はいいですよ・・・」

 

「お世辞じゃありません!お嬢様たちに見てもらったら分かると思いますので、早く大広間に行きましょう!」

 

「あまり恥を晒したくは無いのですが・・・」

 

「大丈夫です!織斑先生の弟と言った時点で十分恥ですよ!」

 

「・・・それはそれで酷いですね。」

 

「はっ!スミマセン。つい興奮してしまって・・・」

 

「別に良いですよ。俺もそれは思ってますし。」

 

 

つい本音が出てしまった虚に対して一夏は苦笑いをしながら謝罪は無用だと言った。

 

「ですが・・・」

 

「あれは生き恥を晒しながら生きてるようなものですからね。表面上しか知らない相手が聞いたら怒るかもしれないですけど、あれの本性を知ってる人が聞いたら誰もが納得します。だから虚さんが気に病む必要は無いです。」

 

「スミマセン・・・」

 

「ほら、また謝ってますよ。」

 

「すみま・・・あっ!」

 

「お約束ですね。」

 

 

この展開は一種の決まりごとのようだ。

謝らなくていいと言われ謝ってしまう。

そしてそれを指摘されまた謝ってしまう。

 

「うう~!」

 

「そこまで恥ずかしがらなくても・・・」

 

「ですが・・・」

 

「可愛らしいですよ。」

 

「へ!?今なんて言いました!?」

 

「可愛らしいと。」

 

「///」

 

「さあ、行くなら早く行きましょう。さっさと着替えたいですからね。」

 

 

虚を真っ赤にさせておいて一夏は涼しい顔して大広間に向かう。

実は口でも十分一夏が勝っているのだが、基本的にズレている一夏は自分が勝っている事に気付いていないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻りました。」

 

「まってたよ~、どうぞ~。」

 

「失礼します。」

 

 

襖越しに戻ってきた事を告げ、入室する一夏と虚。

 

「遅かったね~、何を・・・してた・・・の」

 

「普通に着替えてただけですよ。そんなに時間は掛かっては無いはずですけど・・・如何しました?」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

「やっぱ似合ってませんね。着替えてきます。」

 

 

またもや早とちりをして着替えに戻ろうとする一夏。

 

「違う違う違う!」

 

「3回も言わなくても分かりますよ。それで何が違うんですか?」

 

「凄く似合ってるよ、一夏。」

 

「うんうん、おりむ~浴衣すっごく似合うね~。」

 

「一夏様、普段から和装にしたら如何ですか?」

 

「嫌だ面倒くさい。しかしそこまで似合ってますかね?自分では良く分からないんですけど・・・」

 

「むしろ何で似合ってないと思うのかが分からないよ。一夏君すっごく似合っててカッコいいよ。」

 

 

楯無の言葉に同調して頷く四人。

 

「はぁ・・・そうですか。」

 

「何か問題でもあるの?」

 

 

褒めてるのに何処か困ったような顔をしている一夏を見て簪が聞く。

 

「いや別に問題は無いが、どうにも慣れなくてな。歩きにくい。」

 

「そこは我慢してもらわなきゃね。私たちだって歩きにくいんだから。」

 

「それは・・・そうですけど。元々着るつもりなんて無かったので、草履も無いので如何したものかと・・・」

 

「ちゃんとそれも用意してあるよ。」

 

「じゃあお祭りに出発~。」

 

「まだ早いですよ?」

 

「駄目だよ一夏君。お祭りは始まる前の雰囲気から楽しむものだよ~。」

 

「・・・そう言うものなんですか?」

 

 

首をかしげ尋ねた一夏に対して五人が大きく頷いた。

 

「須佐乃男・・・お前は祭りなんて行った事無いだろうが。」

 

「私自身は無いですけど、パソコンや雑誌で情報は入手してます!」

 

「・・・そうか。」

 

 

須佐乃男の発言にため息を吐く一夏。

好奇心を抑えようとしない須佐乃男に、何時何を言われてもおかしくないこの状況は一夏にとって好ましい物ではないのだ。

 

「じゃあ行くわよ~!」

 

「刀奈さん、場所知ってるんですか?」

 

「え?・・・一夏君、何処でやってるの?」

 

「・・・知らなかったんですね。」

 

 

先陣を切って出かけようとしていた楯無が、場所を知らないと知り周りが躓いた。

 

「お姉ちゃん、それくらいは知っててよ。てっきり知ってると思ってたから安心してたのに・・・」

 

「ゴメン簪ちゃん・・・」

 

「はぁ・・・行きますよ。」

 

 

結局一番乗り気じゃない一夏が先頭で篠ノ乃神社に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処です。」

 

 

篠ノ乃神社に着き一夏がぶっきら棒に言う。

 

「此処か~!」

 

「楯無様~早く行きましょうよ~!」

 

「私も一緒に行きますよ~!」

 

「「「はぁ・・・」」」

 

 

はしゃぐ楯無、本音、須佐乃男を見てため息を吐く簪、虚、一夏。

 

「おや、一夏君じゃないかい。久しぶりね。」

 

「・・・どうも、ご無沙汰してます。」

 

「一夏、この人は?」

 

 

簪が一夏に尋ねる。

虚も似たような感じだ。

 

「この人は篠ノ乃雪子さん。箒の親戚だ。」

 

「どうも~。」

 

「はぁ・・・」

 

 

一夏が最も会いたくなかった雪子にばったりと会ってしまった。

 

「そうそう一夏君。今年は箒ちゃんが担当だから、楽しみにしててね。」

 

「?何がですか?」

 

「何って巫女舞に決まってるでしょ。今からすっごく楽しみね~。」

 

「あれを篠ノ乃が?何時練習したんだ?」

 

「覚えが早いからそんなに時間は要らなかったのよ。」

 

「そうですか・・・」

 

 

雪子と別れ、一夏はため息を吐く。

 

「一夏さん、巫女舞って何ですか?」

 

 

虚が首を傾げながら一夏に尋ねる。

簪も同様に気になっているようだ。

 

「巫女舞って言うのはこの祭りの目玉の一つで、毎年誰かが巫女の格好をして舞台で舞うんですよ。しかし篠ノ乃が・・・覚えが早いって、俺がいくら言っても全く理解しなかったのに・・・こう言った事は早いのか?」

 

「確かに一学期の篠ノ乃さんは酷かったもんね。」

 

「まあ最後の一週間はマシになってたが。」

 

「それで一夏さん。もう一つのは何ですか?」

 

 

一夏が目玉の一つと言ったのを聡く捕らえていた虚が他の目玉を尋ねる。

 

「花火ですよ。巫女舞が終わったら大量の打ち上げ花火が上がるんです。それを見て祭りから帰る客が大半ですかね?」

 

「花火か~。楽しみだね、一夏。」

 

「お~い!そんな所に居ないで三人もコッチおいでよ~!」

 

 

先に行っていた楯無が戻ってきて三人を呼ぶ。

 

「行きますか。夜になったらゆっくりと見て回れるか怪しいですからね。」

 

 

そう言って二人と手をつなぎ楯無の方に移動する。

当然だが、この後先に行っていた三人がそのことを指摘し、全員と交換で手を繋ぐことになったのだ。




次回で終わるかな?
終わらなかったら中編と後編に分けますのでご理解ください。
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