まあ風呂の話なんですけどね・・・
「何とか食べ終わったわね・・・」
「お腹いっぱ~い。」
「私も・・・」
大量に作った夕飯を食べ終えて、私と本音、簪ちゃんは横になる。
「食べてすぐ横になると胃液が逆流しますよ。」
「食道が炎症しますね。」
「それ以前にみっともないですよ。」
一夏君、碧さん、虚ちゃんの順に私たちに注意をしてきた。
「だって座ってるのも大変なんだも~ん!」
「おりむ~たちだって辛いでしょ~?」
「須佐乃男なんて途中で逃げ出したし・・・」
今この場に居ない須佐乃男は私たちより早めに限界が来たので外で散歩している。
まだ動けるならもう少し食べてほしかった。
「おかずが多いのに、あんなにご飯まで食べるからですよ。」
「茶碗三杯は多いですよね。」
「本音に至っては四杯ですし・・・」
だっておかずだけじゃ寂しいじゃない!
本当はこう反論したかったんだけど、もう話すのも億劫だったので止めた。
「三人も少し休んだら散歩してきたら如何です?」
「そうする・・・」
運動は無理だろうけど、歩くだけでも違うかな?
このままでは寝るのもキツイ気がするので、一夏君に言われた通り散歩する事にした。
「俺も軽く走ってきますね。」
「平気ですか?」
「俺はほとんどおかずしか食べてませんし、肉は一切れだけですからそんなにキツく無いですよ。まあまったく問題無い訳では無いですけど刀奈さんたちよりは平気です。」
「一夏君にお肉を食べてもらおうと思ったのに・・・」
「食べましたよ。」
「一切れじゃ食べてないのと同じだよ~。」
お刺身や味噌汁は食べてくれたけど、やっぱりお肉には手を付けなかった。
最近の一夏君は本当にお肉食べないな・・・
「虚さんさ碧さんも少しは動いた方が良いですよ?さすがにこのままではキツイでしょうし。」
「お嬢様たちが動けるようになったら一緒に行きます。」
「私もそうします。」
私たち抜きで、私たちの予定が組まれている。
「虚ちゃんたちは先に行っても良いのよ?」
「お嬢様から目を離すと、何するか分かりませんからね。」
「信用ないな~。」
日ごろからサボったりしてるからなんだけど、少しは当主を信用してほしいんだけどな~。
簪ちゃんや本音は、私の事を少なからず信用してくれているんだけど、虚ちゃんはほとんど信用してくれて無い。
寂しいけど自業自得よね・・・
「刀奈さんは信用無いんじゃなくて、それ以上に疑われてるだけですよ。」
「それも酷く無いかな~?」
「なら疑われるような行動は慎んだら如何です?」
「・・・善処します。」
一夏君の皮肉に反論したら、正論で返されて私はぐうの音も出なかった。
これからは一夏君や虚ちゃんに頼りっぱなしじゃ無くて自分でも何とかしよう・・・
「じゃあ俺は行きます。」
「いってらっしゃ~い。」
「おりむ~は元気だね~。」
「やっぱり一夏は凄い・・・」
一夏君が庭から塀を飛び越えて外に出て行ったのを見て、私たちはまた横になった。
「一夏君って何処にあんなエネルギーを蓄えてるのかしら?」
「おりむ~の燃料は何だ~!」
「・・・私に聞かれても分からないよ。」
「兎に角燃費が良いですよね、一夏さんって。」
「確かに一夏さんがヘロヘロになった所って見たこと無いですね・・・」
人間離れしている一夏君だが、それでも私たちと同じ人間なのだから、当然疲れたりはするのだろう。
さっきも精神的に疲れたって言ってたけど、それでもヘロヘロとまでは行ってない感じがした。
どうやったら一夏君をヘロヘロに出来るのかしら・・・
「お嬢様?また何か企んでますね。」
「一夏君を如何やったらヘロヘロに出来るのかしら。」
「別にヘロヘロにする必要は無いんじゃ・・・」
簪ちゃんの言う通り、必要は無いのだが・・・
「だって見てみたいじゃない!」
「確かに~!」
「・・・怒られるよ?」
そうなのだ。
普段は寛大な一夏君だが、さすがにやりすぎると本気で怒る。
この前の飲み会の時に怒られていた三人は、かなりへこんでいて可哀想とさえ思えた。
あの一夏君を本気で怒らせたら、普通の人間ならば死んでしまうかもしれない・・・
普段自分を律しているからこそ、その枷が外れた時に加減が出来なくなってしまう可能性が非常に高いのだ。
「怒られないで疲れさせる方法は・・・」
「お嬢様はそこまで一夏さんを疲れさせたいのですか?」
「虚ちゃんだって見たいでしょ?一夏君がヘロヘロで倒れる様を!」
「私は別に・・・」
「そんな悪趣味なのはお姉ちゃんだけだよ。」
「ええ~!」
この部屋には味方は居ないのか!
そう言えば本音は同意してくれていたはず。
「本音だって見たいよね?・・・本音?」
「すー・・・」
「寝てますね・・・」
うとうとしていたが本当に寝ちゃってる。
起こさなきゃ!
「本音~!起きろ~!!」
「ふえ~?・・・うにゅ~。」
目は覚めたようだが、まだ眠そうだった。
「本音は一夏君のヘロヘロな姿、見たいよね!」
「おりむ~のヘロヘロ~・・・すー。」
「だから寝ちゃ駄目!」
「ふえ~眠いよ~。」
「お腹いっぱいになったら眠くなるけど、今寝たら本音はこの後のイベントに参加出来ないんだから起きなさい!」
「イベント~・・・ハッ!」
一気に目覚めたのか、本音は立ち上がった。
「花火だ~!」
「そのためにも、少し散歩しに行きましょうか。」
「もう動けるもんね・・・」
一夏君を疲れさせる作戦は思いつかなかったけど、一先ず散歩に出かける事にした。
絶対に一夏君を疲れさせるんだから!
「何を企んでるんだか・・・」
出かけたフリをして、気配を殺しながら刀奈さんの計画を探っていたのだが、結局何も無いようだ。
安心出来ないのは何故だろう・・・
「さて、俺も本当に走りに行くか。」
刀奈さんたちまでは行かなくとも、相当食べた事には変わりないのだし、少し腹ごなしをしなくてはいけないのだ。
「まったく、少しは俺を休ませてはくれないものかな・・・そう思わないか、須佐乃男?」
「さすがは一夏様ですね。結構距離を取ってたのですが、お見通しですか。」
「全然気配を殺せてなかったし、あの程度の距離は問題無い。」
精々500mくらいしか離れてないんだ。
これくらいの距離なら、集中しなくとも気配を察知出来る。
「私としては、楯無様のように一夏様の疲れ果てた姿を見たいのですが、その前に私たちが疲れ果てそうなので止めておきます。」
「そうしてくれると俺も助かる。」
疲れ果てる事は無いが。俺だって人並みに疲れるのだ。
特に今日は疲れた。
肉体的にも精神的にも。
「部屋に戻りませんか?お茶くらい淹れますよ?」
「別に要らないが・・・誰も居ないなら部屋で運動しても良いか。」
「一夏様、私は居ますよ?」
「じゃあ庭でするか。」
塀を飛び越え庭に着地する。
俺に続いて須佐乃男も塀を飛び越える。
「一夏様は運動しなくても平気なのでは?」
「俺だって少しくらいは動いておかなきゃいけないだろうな。」
「ほとんど辛そうには見えないのですが・・・」
「顔に出ないだけで相当キツイんだぞ?」
「そうは見えないんですが・・・」
胃に負担の掛かる食べ物はそこまで食べなかったからな。
それでもキツイ事には変わりないんだが。
「よっと!」
バックステップから前方宙返り、そしてバク宙。
胃の中が混ぜかえるが特段気持ち悪くなることは無い。
「さすがは身軽ですね。」
「これくらいは余裕だ。」
更に捻りを入れて宙返りをする。
その場から動かないように飛ぶのは中々難しい。
「ほえ~・・・一夏様は体操選手にでもなれそうですね~。」
「真剣に練習してる訳じゃ無いんだ。それに俺はそんな道を選べるはずはないんだから。」
「そうですね。一夏様は世界で唯一ISを動かせる男性ですし、IS関係の仕事しかさせてもらえないでしょうね。」
「それ以外にも、あの姉が世界中を動き回る仕事をさせる訳ないんだ。IS関係じゃなかったら普通に就職するしか無いだろうな。」
「もったいないですね~。」
そう言いながら再び俺は宙を舞う。
今度はバク宙をしながら身体を回す。
「やっぱりもったいないですね~。」
「これくらいは出来るだろ。それに、本気で体操選手になろうとしてる人は、休み無く練習してるんだ。俺みたいに偶にする程度の人間がなれる職業じゃ無いさ。」
最後に端から端まで宙で回転しながら移動して部屋に戻る。
これくらい動いておけば明日には響かないだろう。
「お見事でした。」
「お前も少し練習すれば出来るだろ?」
「如何ですかね~?私は一夏様程万能ではないですから、少しとは行かないでしょうね。」
「出来る事は否定しないんだな。」
「そりゃ私はISですから、あれくらいは出来ると思いますよ。」
「普通のISは、まず自分の意思で動けないんだがな。」
須佐乃男と話していると、皆が戻ってきた気配を察知した。
「さて、俺は先に風呂に・・・」
「駄目ですよ?」
「・・・お前もか。」
さっさと入れば良かった・・・
「ただいま~!あっもう一夏君も居る。」
「それじゃあ花火だ~!」
「花火?」
「あっ、そうか。一夏は知らないんだっけ。」
「皆で決めたのよ。戻ったら花火をしようって。」
「そうですか・・・それじゃあ準備しましょうか。」
本音を言えばさっさと風呂に入って寝たいんだが、そんな事を許してくれるはずもないし、抵抗しても疲れるだけなので素直に従っておく。
「おりむ~と花火!」
「俺だけじゃ無いだろ・・・」
「それじゃあまた外に出ようか!」
「簪も楽しそうだな。」
「そうですね~。一夏様も楽しみましょうよ!」
「・・・お前もテンション高いな。」
俺の靴は庭にあるので、俺は庭から外に出る事にする。
「・・・須佐乃男は何処から出るんだ?」
「私は普通に表から出ますよ。」
「靴を履かなくても良いって便利だよね。」
「目に見えない程度浮いてるので必要ないですからね~。」
「それでも普通に外出する時には一応履いてもらってるんですけどね。さすがに事情をよく知らない人たちには、裸足で歩いてるとしか認識されませんし。」
「IS学園内なら問題ないけどね~。」
「須佐乃男は有名だもんね~。」
そうなのだ。
臨海学校から戻ってすぐ、黛先輩が須佐乃男の事を校内新聞で取り上げたので、IS学園内に須佐乃男の事を知らない生徒は居なくなったのだ。
「あのやる気は何処から来てるんでしょうね?」
「薫子ちゃんはジャーナリスト目指してるからね~。」
「・・・何でIS学園に入ったんですか?」
「織斑先生にインタビューしたかったんだって。」
「動機が不純ですね。」
「でも、整備の腕は本物よ?」
確かに、黛先輩は整備科二年の中でトップクラスの腕前だが、入学した理由が千冬姉にインタビューしたかったなんて・・・IS学園に入れなかった人が聞いたら発狂しそうだな。
「おりむ~、花火しようよ~!」
「本音も待てなくなってるようですし、さっさと花火しましょうか。」
「そうね。本音も我慢出来なくなってるしね。」
俺はまたまた塀を飛び越えて外に出る。
別に花火をしたい訳では無いのだが、思い出にはなるだろう。
「いや~本音の線香花火は長かったね~。」
「落ちずに最後まで行ったの見たの初めてかもしれない。」
「意外と動じないのよね、本音って。」
「意外とは失礼な!私だってあれくらい出来るよ~。」
散々ロケット花火やら派手な花火で遊びつくした本音だったが、最後に残った線香花火では、最後まで火が落ちずに燃え尽きたのだ。
「それじゃあお風呂に入りましょ!」
「俺は後で・・・」
「「「「「「駄目(です)(だよ~)!」」」」」」
「・・・またこのパターンか。」
逃げ出そうにも、既に全員に囲まれているので逃げようが無い。
この連携をIS戦闘でも出来れば良いのに・・・
「それじゃあ今日は誰が一夏君の頭と背中を洗うか決めましょう。」
「昨日やった人も当然今日もして良いからね。チャンスは平等にしなきゃ!」
「珍しく簪ちゃんがおおらかだ!」
「でも、チャンスは平等ではなきゃ意味無いですよ?」
「それじゃあお嬢様と碧さんも含めてジャンケンですね。」
俺の意思は無視なんですよね?
俺はその平等の中に居ないんですよね?
俺の事なのに、何故か他人事のように感じている俺を無視して、六人は盛り上がっている。
「「「「「「じゃ~んけ~ん・・・」」」」」」
明日は帰る日だな~。
俺は現実逃避気味に明日の事を考えていた。
屋敷に戻ったら溜まった書類を整理して、部屋の掃除でもするか・・・
訓練もしておかなければ鈍った身体を戻しておかなければ千冬姉に呼ばれた合同訓練についていけ得ないかもしれないしな。
しかし、何処と合同で訓練するんだ?
「お~い一夏く~ん!」
「ん?何ですか、刀奈さん。」
「何って、決まったからお風呂入ろ?」
「決まった?・・・ああ。」
完全に意識の中から追いやっていた事を思い出し、俺はため息を吐いた。
「それじゃあ一夏君も服脱いで?」
「一夏君も?・・・!?」
意識してなかったが、既に俺以外は全裸だった。
何で恥ずかしく無いんだ?
「ほらほら~おりむ~も脱がなきゃお風呂入れないよ~?」
「自分で脱ぐ!」
間違っても脱がしてもらうなんて御免だ!
俺は速攻で服を脱ぎタオルで前を隠した。
「も~う、昨日も見たんだから今更隠さなくたって!」
「そうだよ一夏。私たちだって隠してないよ?」
「隠せよ!何で普通なんだよ!!少しは恥らえよ!!!」
「おお~!おりむ~の三段ツッコミ!!」
「昨日見せた事により、恥ずかしく無くなりました。」
「・・・何で一日で慣れるんですか。」
一気に疲労感が増した。
兎に角風呂に入ろう・・・
思考がまともに纏まらないので、俺は考える事を一先ず止めた。
「一夏君、行きましょ!」
「刀奈さん!?」
「ほらほら一夏、行くよ?」
「簪まで!?」
二人に腕を取られ、胸に押し付けられる。
か、感触が・・・
「帰りは私と碧さんだよ~!」
「ゆっくりエスコートするね!」
「・・・出来れば勘弁願いたいんだが。」
「決まった事なので、諦めてください。」
「私と虚様が一夏様を洗いますので!」
「・・・そうか。」
もう何も考えられない。
刀奈さんと簪の胸の感触で既にノックアウト状態なのだ。
これ以上の刺激に耐えられるのか甚だ不安なのだが・・・
「一夏君?」
「一夏?」
「・・・ああ。」
無我の境地を目指すべく、俺はすべての感覚を放棄した。
「反応薄いですね~。」
「もっと押し付けちゃえ!」
「私も!」
「!?」
俺も修行が足りないな。
さらに柔らかい感触で動揺してしまった。
「あは!反応してくれた!」
「一夏、気持ち良い?」
「勘弁してくれ・・・」
理性を保つので精一杯だ。
「では一夏さん、洗いますね?」
「一夏様の背中、流させて頂きます!」
「・・・何で気合が入ってるんだよ。」
「昨日の刀奈様までとは行きませんが、私も胸で洗わせて頂きますね。」
「・・・勘弁してくれ。」
既に限界を超えているのだ。
もう反応するのも億劫だ。
「えい!」
「虚さんまで!?」
虚さんが頭に胸を押し付けてきた。
さすがにそれじゃあ洗えませんよ!
「さっすがおりむ~!」
「これでも反応無しか・・・」
「何処見てるんですか!」
下半身に視線を向けている刀奈さんと本音にツッコミを入れる。
「まだまだ平気みたいですね~。」
「違う!」
「えい!えい!!」
「虚さんも止めてください!」
こうして二日目の風呂も騒がしかった。
「それじゃあおりむ~、部屋に戻ろう~!」
「しっかり掴まってくださいね?」
「・・・既に捕まってますよ。」
当然帰りも逃げられなかった。
本音と碧さんに腕を掴まれ、胸に押し付けられる。
「一夏君って反応しないの?」
「何の話ですか!」
「何って・・・」
「言わなくて良いです!」
これ以上ツッコミをする気力も無いし、刀奈さんから聞きたくない単語が発せられる前に止める。
「そう?分かってるなら良いけど。」
「分かりたく無いですけどね・・・」
俺だってそれくらいの知識はある。
鋼の精神で堪えているが、既に限界に近いのだ。
「つまんな~い!」
「でも、それが一夏さんですよ。」
「そうだけどさ~。」
部屋まで我慢が持ってくれたのは奇跡だ。
俺は自分を褒めたい気持ちになったのは初めてかもしれない。
「それじゃあ一夏君の隣は誰が寝る?」
・・・試練はまだ続くようだった。
次回、旅行編終了予定。