もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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今回は楯無回です。



私の名前は・・・

簪が一夏と話して数日がたった。

その間、簪は必死に訓練を受け、ついに代表候補生になった。

ようやく肩書きだけは刀奈に追いつけたのである。

 

「一夏のおかげでようやくお姉ちゃんに追いつけた。ありがとう。」

 

 

少し顔を赤らめながらお礼を言う簪。

完全に恋する乙女だ。

簪の変化を一夏も気づいている。

初めて話したときより積極的に自分と話す簪。

初めこそ戸惑ったが、悪い方の変化ではないのでとくには気にしなかった。

 

「俺は何もしていない。簪自身が努力をしたから候補生になれたんだ。おめでとう。」

 

 

一夏の賛辞にさらに顔を赤らめる簪。

 

 

「おお~かんちゃん顔まっかっかだ~。」

 

 

一緒に居た本音にそのことを指摘される。

簪は勢いよく本音の方に向き、

 

「本音!」

 

 

凄い大きな声だった。

発した自分が驚くくらいに大きな声を出した。

自分がこんな大きな声を出せるとは思っていなかった簪は自分自身が少しびっくりしていた。

 

「わぁ~~かんちゃんがおこった~~。おりむ~たすけて~~。」

 

 

どこまで本気か分からない救援要請が一夏に届いた。

 

「自分がちょっかいだして怒られたんだろ本音。自分で蒔いた種だ、自分で何とかしろ。」

 

 

さらりと救援要請を流し簪のほうに向き直る。

簪は若干涙目になりながら本音をにらんでいる。

迫力はあまり無いが、簪本人としては、精一杯にらんでいるつもりなのだろう。

一夏は苦笑いをしながら、

 

「簪、そう怒るな。本音は気を紛らわしたかったんだろう。」

 

 

救援要請を無視したのに、本音をフォローしているようなことを言う一夏。

 

 

「おお~おりむ~がかばってくれた~。」

 

 

一夏の言葉に本音は喜んだような声を出した。

だが、それは本音の早とちりだった。

 

「本音は空気をよむのが苦手なのだろう。いや、勘は鋭いがどうすればいいのか分からないのだろう。少しずれているのは勘弁してやれ。」

 

「ひどいよおりむ~。わたしだって~空気ぐらいよめるよ~。かんちゃんはおりむ~のことが・・むぐぅ。」

 

 

さっきまで涙目で本音のことをにらんでいた簪だが、凄まじいスピードで本音の口を塞いでいた。

まるで瞬間加速(イグニッション・ブースト)でも使ったのではないかと思えるスピードだった。

 

「本音~何を言うつもりだったのかな~。」

 

 

簪が笑顔で本音に声をかける。

しかし、目が笑ってない。

本音はその目を見て震えだした。

 

「か、かんちゃん~ゆるして~。ちょっとしたじょうだんだよ~。」

 

「冗談?本音、言っていい冗談と悪い冗談があるんだよ。知ってた~?」

 

「はわわわわわわわ。たすけて~、おりむ~。」

 

「・・・・頑張れよ本音。」

 

 

目の前で繰り広げられる一連の騒動で一夏は若干引いていた。

そしてあることを心の中で決意していた。

 

「(簪は怒らせないほうがいいな。あれは俺でも手が付けられない。)」

 

 

 

 

 

 

簪の本音にむけてのお仕置きが終わったと同時に一夏は人の気配がこの部屋に近づいてくるのを感じた。

 

「(この気配は・・・虚さん?珍しいな簪の部屋に来るのは。)」

 

 

一夏の言葉で分かるように虚は滅多に簪の部屋に来ない。

刀奈の専属である虚は彼女たちの関係がうまくいってないのを気にしてなるべく簪との接触を避けていた。

簪が気にするのもあるが、刀奈が嫉妬するのだ。

 

「私が話せないに、虚ちゃんは簪ちゃんとお話ししたの?」

 

 

などどいったことを言うのだ。

ロシアの代表候補生である刀奈は滅多に屋敷に居ない。

今でこそ少し落ち着いて屋敷に帰ってきているが、訓練や任務で屋敷はおろか日本に居ないことが多かったのだから、彼女の態度がおかしくなるのも仕方ないのかもしれない。が、それに付き合わされる虚はたまったものではないのだ。

その虚がこの部屋に来るのだから、よっぽどのことがおきたのだろう。

一夏はそのようなことを考えていた。

この後に起こることなどまるで想像できるはずも無いのだから無理はない。

 

 

 

「簪お嬢様、虚です。よろしいですか?」

 

 

口調こそいつも通りだが虚はあせっていた。

 

「虚さん?どうぞ入ってください。」

 

 

簪も珍しいと思ったのだろう。

さっきまでの雰囲気とうって変わっていつものおとなしい雰囲気に戻っていた。

簪の返事を受けて、

 

「失礼します。」

 

 

虚さんが部屋に入ってきた。

なにやらあせっていた虚さんだが、部屋でグッタリしている本音を見てなにやら頭を抑えていた。

そして、やや怒りのこもった声音で、

 

「本音・・・・この大変なときに貴女何してるの?」

 

 

そう言った。

簪にやられグッタリしていた本音だったが、姉の怒りを受けて飛び上がったように復活した。

しかし顔色は良くない。

一難さってまた一難、主の次は姉の逆鱗に触れてしまったのだ。

 

「お、おねえちゃ~ん、べつに遊んでたわけじゃないよ~。かんちゃんが代表候補生になったお祝いをしてて、そこにおりむ~を呼んでお話してただけだよ~。かんちゃん、おりむ~、おねえちゃんに何とかいってあげてよ~。」

 

「本音が遊んでいたのはともかく、確かに『途中まで』私のお祝いをしてくれてました。後のほうは少しふざけてましたけども。」

 

 

簪は途中までを強調して本音の言葉を肯定した。

ふざけていた、その一言で本音の私刑が決定した。

 

俺が来るまでは、本当にお祝いだったのだろう。

おかしや飲み物が置いてあるのは、本音が持ち込んだのであろう。

一夏はそう結論付けた・・・。

 

 

 

 

 

 

「ところで虚さん、何か急いでいたのではないのですか?」

 

 

 

本音に対する私刑執行が執り行われる寸前、一夏が本来の目的に興味を示した。

結果的にナイスフォローだった。

本音に対してではなく虚に対して。

 

「確かにそうでした。こんなことをしている場合ではありません。」

 

 

ふとわれに帰ったのだろう、虚は本音に迫っていた足をとめそう言った。

本音はというと、

 

「ありがと~おりむ~たすかったよ~。」

 

 

などと一夏にお礼を言った。

だが・・・

 

「本音・・・、後で話があるからそのつもりで。」

 

「お、おねえちゃ~ん。目が笑ってないよ~」

 

 

本音ご愁傷様である。

 

 

 

 

「簪様、大変です御当主が・・・」

 

 

本音を無視して話を進め始めた虚、しかしその話の内容はとても重かった。

更識の当主楯無が急に倒れたと言うのだ。

そのことを聞いた簪の顔は青ざめていた。

無理もない。つい昨日まで楯無は普通に生活していた。

いや、普通ではないが元気ではあった。

その楯無が倒れたのだ。娘である簪に普通でいろ、と言う方が無理な話なのである。

 

「そんな・・・・お父さんが。」

 

「とにかく簪お嬢様、至急大広間にお集まりください。」

 

 

しかし簪は震えてしまってうまく歩けない。

それを見ていた一夏は、

 

「俺も付き添ってもいいですか?」

 

 

決して簪を気にかけただけの台詞ではないが、簪には一夏が付き添ってくれるといった事実が心に響いた。

現金かもしれないが、彼女も恋する乙女なのだ。

 

「一夏さんなら問題ないでしょう。我々の家のことも知っていますし。」

 

 

虚は一夏の同行を許可し、「急いでください」と告げた。

自分たちが時間を使っていたのを棚に上げて・・・。

 

 

 

 

 

 

大広間に着いた簪たちは、大人たちが何かを話しているのに気が付いた。

そのそばで姉の刀奈が何かを悟った風の顔で座っていた。

一夏はその顔を見て思った。

 

「(楯無さんは、もう……。)」

 

 

彼を引き取ってくれた恩人、更識楯無はもう自分に話しかけることは無いだろうと。

そして、あそこで話し合っているのは次期当主を刀奈にするといった内容なのだろうと。

そんな中、簪は・・・、

 

「お姉ちゃん。お父さんは?」

 

 

父のことが心配なのだろう。

普段は自分から話しかけない姉に言い寄っていた。

しかし、刀奈は首を横に振っただけで何も言わない。

彼女もまた、自分の父に起きた事を信じられないのだ。

大人びているようだが、彼女もまだ13,4歳の少女なのだ。

 

 

 

 

大人たちの話し合いが終わった。

そして・・・・・

 

「ただいまをもって更識家は更識刀奈を十七代目当主楯無に任命します。」

 

 

その言葉を聴いた刀奈はゆっくりと立ち上がり上座に移動した。

まるでそのことを予感していたかのように無駄のない動きだった。

 

「十七代目楯無を襲名した更識刀奈です。至らないこともあるかと思いますが、皆様よろしくおねがいします。」

 

 

あまりにも無駄のない行動に一夏は不安になっていた。

彼女は、刀奈は泣いてないのではないか。

本当なら簪と一緒に泣きたいのではないか。

しかし、彼女は当主に任命されてしまった。

おいそれと人前で泣ける立場ではなくなってしまったのだ。

一夏は刀奈の心を心配していた。

 

 

 

 

 

楯無襲名から一月がたち、刀奈はロシアの代表に上り詰めた。

これで更識楯無の名前は世界的に有名になったのだ。

専用機もグストーイ・トゥマン・モスクヴェ(モスクワの深い霧)から、ミステリアス・レイディ(霧纏の淑女)に変わった。

しかし彼女の顔色は明るくない。

表向きは笑顔でいるが、一夏は彼女が無理をしているのを見抜いていた。

 

「(このままではまずいな。)」

 

 

一夏は、楯無の、刀奈の心を心配した。

このまま無理をすればいずれ彼女は壊れる。

彼女のために何が出来るか。

一夏は考え、そして行動に移すことを決めた。

 

 

 

 

「刀奈さん・・・。」

 

 

夜遅くに庭先にいた楯無に話しかけた。

楯無は、少しビクッと肩を震わしてからこちらを向いた。

まさか声をかけられるとは思ってなかったのだろう。

 

「一夏君、私はもう更識楯無なの。刀奈じゃないんだぞ。」

 

 

明らかに無理をしている。

一夏は確信を持った。

 

「(この人は泣いている、それを表には出せていない。)」

 

 

そのことは、近くにいる人間には分かっていた。

当然一夏も気が付いていた。

しかし、どのように彼女を慰めればいいのか、周りの人間にはどうすることも出来なかったのである。

楯無本人がそのように行動していたのだから無理はない。

しかし一夏はそれを良しとはしなかった。

 

「俺の中では楯無さんは先代であって貴女は刀奈さんですよ。」

 

 

一夏は自分の気持ちを彼女に伝えた。

しかし、楯無は首を振りながら・・・

 

「一夏君の中ではそうなのかも知れないけど、私はもう刀奈じゃないんだよ。」

 

 

憂いを帯びた顔で言う楯無を一夏は抱きしめた。

好意からではなく、ただ壊れそうな彼女を何とかして助けたかったのだ。

 

「無理しないでください。貴女は泣いても良いんですよ。」

 

 

一夏の一言に楯無の我慢は限界を迎えた。

胸に熱いものを一夏は感じた。涙である。

気丈に振舞っていた楯無がついに泣いたのだ。

そのことを一夏は受け止め、優しい言葉をかけた。

 

「いままで大変だったでしょう。その苦労は俺にはわかりません。ですが貴女は何時もつらそうだった。無理をして自分をだまして、そんな感じがしていました。だから俺は貴女を楯無とは呼べなかった。あなた自身がその名前を拒否しているような感じがして。」

 

 

一夏の言葉は楯無の心に響いた。

楯無の名を自分は拒否していたのだ。

そのことを彼女自身心の中で無意識に行っていた。

 

「(ああ、私はまだ楯無になれてなかったのか・・・。)」

 

 

心の内でつぶやき、彼女は泣き続けた。

もはや我慢など出来るはずもなかった。

一度決壊した涙腺は、止めることなど出来ないのだから。

 

「私の名前は、更識刀奈。更識楯無じゃあない。それはお父さんの名前。私はまだ楯無じゃないんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

泣きつかれたのか刀奈はスヤスヤと寝息をたてていた・・・・・一夏に抱かれたまま。

 

「(さて、どうしたものか・・・。)」

 

 

このままの状態でいるのはよろしくない。

そのことを考え一夏は虚に連絡をとった。

 

「はい、一夏さんこんな時間にどうしました?」

 

 

現時刻はまもなく12時を迎える。

確かにこんな時間に電話してきたら疑問に思うだろう。

しかし、虚は疑問に感じながらも一夏の用件を聞いた。

彼女も年相応では無いほどの経験を積んでいるのだ。

 

「すみません、虚さん。少し困った状況でして。助けてもらえませんかね?」

 

 

一夏の言葉に更なる疑問を感じたが、

 

「わかりました。今どこですか?」

 

「庭です。刀奈さんも一緒です。」

 

 

一夏が電話をしてすぐ虚は庭に来ていた。

そこには一夏に抱かれたまま寝ている楯無がいた。

 

「いったいこれはどういった状況なのですか。」

 

 

虚の疑問に一夏は苦笑いをしながら、

 

「泣き疲れたんでしょう。相当無理をしていたみたいですから。」

 

 

その一言で虚は納得がいった。

彼女もまた無理をしている楯無を何とかしたかったのだ。

 

「ありがとうございます、一夏さん。お嬢様のこと、本来なら私が何とかしなくてはいけないのに。」

 

 

お礼と共に謝罪をする虚、だが一夏は、

 

「貴女だけの責任ではないでしょ。この家に住む人間ならだれもが背負わなきゃいけなかったことです。」

 

 

一夏の優しさに虚は頭を下げた。

楯無だけではなく自分のことも気にかけてくれていたのだ。

その優しさに虚の心はときめいた。

 

「(何でしょう。なにか心が落ち着かないような・・・。)」

 

 

そんなことを考えながら一夏と共に楯無を部屋まで運んだ。

 

 

 

 

 

翌朝、元気よく一夏の元に現れた楯無。

その顔は最高にまぶしい笑顔だった。

 

「おっはよ~、一夏君。」

 

「おはようございます楯無さん。」

 

 

一夏が楯無と呼ぶと、

 

「一夏君と二人だけのときは刀奈って呼んで。君の前では本当の自分に戻れるから。」

 

「分かりました。刀奈さん、もう大丈夫ですね。」

 

「あったりまえよ。おねーさんにまっかせなさ~い。」

 

 

彼女はもう大丈夫だ。

そう一夏は結論付けた。

それを見ていた虚が少し寂しそうな感じなのが気になりながら・・・。

 

 

 

 




はい二人目おちた~。
一夏めうらやま・・・・・ゲフンゲフン。なんでもないですよ。
楯無襲名を自分なりに想像して話を作りました。
普通の女の子ならこうかな~なんてかなり妄想がひどい。

原作までもう少しかな。
虚の揺れる乙女心、彼女の気持ちは一夏に届くのか?
次回は虚を中心に話を書きたいと思います。
ではまた~。

p.s.
何かあればコメントください。
その場で考えているので無理があるのは百も承知ですが、なるべく無理の無いようにしているつもりです。
ですが不振な点があるかもしれないのでよろしくお願いします。
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